バブールレーン   作:ペニーボイス

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自然保護Ⅶ/良き隣人

 

 

 

 

 

あぁ、くそ、頭が痛む。

 

ここはどこだ?

 

薄暗い部屋の中で響く金属音、誰かが暴れ、悲鳴をあげ、誰かが宥めるようにしかし強制力を持って何かをしている。

 

 

そうだ、そうだった、確か私は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧勝ッ!!!

まごう事なき圧勝ッ!!!

圧倒的じゃないか我が軍はッ!!!!

ケーニスヒグレーツか!?

それともアウステルリッツか!?

 

もうね、なんつーかね、圧勝。

ウィンスロップ家子爵殿との演習は、我がマッマ連合艦隊の圧勝で幕を閉じた。

 

理由は簡単。

こちらがご丁寧にロイヤル式暗号無線機でロイヤル式無線通信を垂れ流したのをいいことに、あのアホタレはドヤ顔で我々の偽集結地点に前衛を前進させた。

 

勿論、こちらの本当の指示はユニオン式暗号無線機によってドイツ語で通達されており、罠にかかったアホタレの艦隊はピッピの380mm砲SHS弾によって砕かれたのである。

 

 

まあね、こっちの誤算がなかったわけじゃない。

 

何の前触れもなくドイツ語なんて使ったもんだから、ピッピを狼狽させてしまった。

 

 

『えっ?えっ?坊や、鉄血語できるの?えっ?じゃあ、姉さんの店でした会話も丸聞こえだったわけ?えっ?えっ?』

 

 

そんな狼狽せんでもええから。

艦隊全体を停止させるような事じゃないから。

「えっ?」を連発しながら頭抱えて困惑するのは後にして、今はおびき出した敵艦隊を叩くのに集中して?

ね?ほら、本当の移動地点に行って?

 

 

ピッピ達は見事な仕事ぶりを発揮してくれて、アホタレの前衛は機能不全に陥る。

2名が脱落し、残る1名も這々の体という感じだ。

ただ、これで流石にアホタレも…いや、アホタレは気づかなくてもアヴローラなら勘づいたろうから、欺瞞通信作戦、通称『もっとひそひそ作戦』はもう使えない。

 

 

 

おい、今、汚い西●流とか言ったヤツ、聞こえたぞ?

聞こえたから何か出来るってわけじゃないけど、心の中で"人権団体式の報復行為"を行う事にするからな?

 

具体的には抗議の声や市民の怒りを手紙に書いていっぱい送る。

あと、来ないとは分かっててオランダのハーグに召還する。

その後、ハーグの街路でマッマ達と一緒になって、来なかった貴方に向けて散々シュプレヒコールを挙げ、ヘタクソな字で書いた看板をアピールし、根拠の怪しいある事ない事を言いふらして批判し、帰りにレストランで食事して、お風呂に入って、寝る……8時くらいに。

これぞ人権団体式の報復行為。

はるか遠く離れた安全な場所で一通り騒いでどこかの独裁者が考えを改めてくれるのを祈りながらただひたすらに待つのである!

 

 

 

冗談は傍に置いといて、『ひそひそ作戦』の他に手がないかと言えばそうでもない。

現代戦は情報戦に左右されると言うが、まさにその通り。

 

今回はCIUの協力が得られたおかげで更に楽勝だった。

 

ダンケルクが作ってくれたエクレアを頬張っている時に、無線機の前に座るノーカロさんがわざとらしい咳払いをした。

 

 

「おほん、実を言うとですね、指揮官。私達、北方連合の暗号パターン、常に解読出来ちゃってます。」

 

え?ノーカロさん、マジで?

 

「はい。さっきから敵の通信が丸聞こえです。」

 

Wow,ノーカロさん、wow.

なんて素晴らしいんだ。

で、何て言ってんの?

 

「ええっとぉ、ウィンスロップ子爵鎮守府は崩壊寸前です。ローレンスと赤城の怒鳴り声が傍受できました。なになに……"高雄もやられた、もう我慢ならない、この無能覚えてろ……ただの駒のくせになんだその口の利き方は、これが終わったら左手の指を全て切り」

 

 

ダンケママ?

何故に突然私の耳を塞いだのかな?

その、「これ以上は教育に悪い」的な顔は何?

金曜ロードショーでアンアンやってるシーン流れた時に母親がまだ5歳の子供の目を手で隠す的な反応は何?

 

大丈夫だから。

何たって、指以前に頭にソリコミ入れられたおっさんなんだからさ私は。

 

 

まあ何はともあれもう一押しだね。

敵の集結地点は傍受できる?

 

「もちろんです、指揮官。」

 

 

 

敵の後衛艦隊の位置は丸分かりだった。

通信傍受を差し引いたとしても、この位置どりは悪すぎる。

 

こちらも敵の欺瞞通信を警戒し、グラーフ・ツェッペリンのハルトマン機を偵察に出すと言う贅沢までしたわけだが、実際には傍受した通信は欺瞞でも何でもないことが確認された。

そればかりではなく、ハルトマン機は極めて迅速に敵艦隊を発見した。

 

あのアホタレは傷ついた艦隊を、何らの遮蔽物もない極めて開けた大海原のど真ん中に集結させたのだ。

 

普通は有り得ない。

たしかに巨大な艤装を隠せるような遮蔽物を海に求めるのは難しいが、このアーサー・ウィンスロップ記念演習場には巨大な岩や小さな島が集中している箇所がわざわざ用意されていた。

 

演習場にその名を冠する彼の父親は、ここを訪れる指揮官にきっとこれらの遮蔽物の使用を考えて欲しいと願ったのだろうが、残念な事に息子は理解しなかったようだ。

 

 

 

私は海上でもエロティックアピールを欠かさないイラストリアスと、ルーデル閣下を要するグラーフ・ツェッペリンに航空攻撃を指示、前衛隊には最後の掃討に備えさせる事にした。

 

おびただしい数のフルマーとスツーカが飛び立ち、スピットファイアとメッサーシュミットがそれを援護する。

 

 

ふぅ、もう勝ったべそれにしても歯ごたえもない演習でしたわほんまに皆んなアリガタウアリガタウオイシイオコメヲアリガタウ、とかそんな事を考えてた時に、それは起こったのだ。

 

 

ルーデル閣下のスツーカが、どうやら加賀か誰かに命中弾を与えたようだった。

 

直後にアナウンスが流れ、私の勝利を伝える。

"ウィンスロップ子爵鎮守府旗艦行動不能、よってマッコール鎮守府の勝利。"

だからよぉ、おめえよぉ、ガー●ズ&パンツァーかってよぉ。

 

 

 

その直後、とんでもない咆哮が聞こえた。

とてもこの世の物とは思えないような、暗い暗い闇の底から轟いてくるような咆哮が。

 

 

そこからはあまり覚えていない。

 

サイレンが流れ、ダンケママとノーカロさんが私達のいた作戦室から「外の様子をみてくるわ」なんて言って出て行った。

 

1人ぼっちになった私は、ひょっとして予想より早く最悪の事態が起こってしまったんじゃ

なかろうかと震える。

 

 

造反。

 

あれだけこき使われたKANSEN達が、ローレンスの無様な敗北を見て何もしないわけがない。

 

一刻も早く脱出を…

 

 

「おぬしも家族だ!」

 

後ろから声がして、振り返った瞬間にストレートパンチを食らった。

たぶん、高雄だったかと思う。

酷い傷を負っていたが、ファミパンで意識が朦朧とし始めていた私をおぶり、その後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかんヤツやん。

 

 

ようやく意識がハッキリとして、私はその部屋の様子を改めて確認できた。

 

暗い暗い部屋の中で、私は大きなテーブルを前に座っている。

 

対面にはローレンス。

椅子に縛り付けられ、猿轡を嵌められている。

 

テーブルは、おそらくローレンス鎮守府のKANSEN達によって囲まれていた。

 

私の右手に比叡、左手に加賀。

翔鶴の姿も見える。

皆、席について、目の前のテーブルの上にある黒々しいナニカを貪っていた。

 

 

「指揮官様、好き嫌いはいけませんよぉ〜」

 

赤城が入室して来て、ナニカを一つ摘み上げる。

おおっと、どっかで見たぞこれ。

 

「はい、あ〜ん♡」

 

赤城はローレンスの元へ向かうと、猿轡を外し、暴れるローレンスを押さえつけてナニカを無理やり口の中へ押し込んだ。

 

「やめっ、ふぐっ、ぐぐっ、ぐえええっ!」

 

「吐きやがった!!こいつっ、吐きやがったよ!!せっかく作ってやったのに!!」

 

「黙りなさい加賀ァッ!!」

 

「ふざけんじゃないよ、まったくッ!!」

 

 

加賀さん、退場。

 

「…加賀が怒ってしまったではありませんか。お仕置きが必要ですねぇ。」

 

 

赤城はそう言うと、卓上のナイフを一本持ち上げて、ローレンスの口元へ運ぶ。

そしてそのまま…

いやっ、赤城さん、粘菌なしでそれはキツいっすよ。

絵面的にもキツ過ぎるっすよ。

たしかにこのアホタレには腹たったでしょうけど、そこまでやって委員会うわうわうわうっわうっわ

 

 

「さて、マッコール様、あなたなら…大丈夫ですよね?」

 

 

え?

 

え?

 

私も?

 

私もやんの?

私も食うの?

 

よく見れば私も椅子に拘束されている。

赤城がナニカをまた一つ摘み上げ、こちらへと持ってきた。

よく見れば酢めし的なサムシングの上に黒っぽいナニカが載っている。

あのプルプルっとした感じ、完全に"アレ"。

 

おいやめろよ『50代 女性 肥満体』の寿司とか食いたくねえよやめてホント助けて私君達に何か酷い事致しましたでしょうかやめてやめてやめて無理無理無理無理無理無理

 

 

………くちゃり

 

 

…………………うっ!…………うっま。

 

 

 

これどこかで食ったぞ。

確か豊洲に移転する前の築地だったかなぁ。

 

ん〜、あっ、そうだ、アレだ!

『タコの桜煮』

 

いや、普通に美味しい。

酢飯もいい感じの温度が保たれてるし、桜煮は本当によく煮込まれてる。

且つタコの食感を損なっていないのがもはや職人芸。

 

 

「どうですか、マッコール様?」

 

うまい、マジでうまい。

ひっさびさのトラディショナルジャパニーズフードだったから涙まで出てきちゃったよ。

 

「それは嬉しいです。加賀もきっと喜びますわ。さて、拘束は解いて差し上げます。お好きなだけお召し上がりください。」

 

 

よく見れば、テーブルの上に並べられていたのは寿司だった。

桜煮だけじゃなく、中トロ、サーモン、ヒラメ、アナゴ、うなぎ、いくら等色々ある。

 

ひゃっほおおお!さあ、食べよう食べよう!

 

 

「や、やめろ!タコなんて食えるかぁ!ぎゃあああああ!!!」

 

 

ローレンスの悲鳴を聴きながら、私は食事に没頭した。

欧米人ってやっぱりタコ禁忌な人多いのかなとか考えながら寿司を食う。

 

 

 

親愛なるマッマ。

今頃血眼で探してくれてるだろうけど、そんなに慌てなくても大丈夫です。

貴女方の息子は、今日も元気です。

 

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