バブールレーン   作:ペニーボイス

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「タイトルのヒトラーに●は必要だと思わない(ポロロン)」


----------以下略


ウィリントン・チェイブル /ヒ●ラーから世界を救った男

 

 

 

 

1919年に世界で最初の大戦が終わると、うん百万の犠牲を払った欧州の国々は植民地における戦い以外には熱心にならなくなっていった。

 

それはことイギリスにおいても例外ではなく、時のチェンバレン首相はヒトラーやムッソリーニといったファシスト達の台頭を見ても、軍事力による解決を極度に避け続けていた。

 

オーストリアとのアンシュルス、ズデーテン地方の併合、更にはヒトラー自身が『人生最大級の賭け』と呼んだラインラント進駐においても、イギリス、そして同盟国フランスの反応は事実上の黙認だったのだ。

 

やがてシュタールヘルムの兵隊がポーランドとの国境を超えた時、イギリス人とフランス人は代償を支払うことになる。

 

 

 

ところで、この頃のイギリスには、1人の男がいた。

まあ、政界では嫌われ者だった。

 

古い時代の大英帝国を夢見ていて、この巨大な帝国の維持に並々ならぬ執念を燃やしていた。

前の大戦ではトリポリにおいて『死に体のオスマン帝国』相手に敗北を喫していたし、そのくせファシズムの台頭に武力を持って立ち向かうという主張を曲げることがない。

 

"頑固者"、"戦争屋"などと散々に呼ばれていたが、やがてヨーロッパにいる40万のイギリス人とフランス人がドーバー海峡を背にする一地域に追い詰められるようになると、彼の主張はようやっと理解された。

 

イギリス人達はようやく間違いに気づき、その男を国のトップに据えた。

彼のファシズムに対する姿勢は、あまりにも有名な一言に収縮されている。

 

"決して、降伏しない"

 

 

かくも名門貴族出身の、名門貴族出身らしい立ち振る舞いと行動を起こした男が近現代史にいただろうか?

 

いるにせよ、それは指で数えられるほどにしかいないだろう。

 

彼はフランスが破れ、欧州でただ1人になっても屈することはなかった。

アメリカ人を説得し続け、武器供給の支援を取り付けた。

"悪魔とでも手を組む"…彼は有言実行の男で、かのジョージア人とも手を組んだ。

 

ハインケルやドルニエの爆撃機が飛んでいった後も、何事も無かったかのように外へ出かけ、瓦礫を片付ける市民に声をかけて回った。

 

ポスターにはブロディヘルメットを被ったブルドックが書かれ、そのブルドックは彼自身に似せられていた。

ブルドックは鉤十字の腕章をつけた男に、屈しそうもなかった。

 

 

彼の名前が新型重戦車に冠せられる頃には、痺れを切らしたシュタールヘルムと"悪魔共"がスターリングラードで揉めあっていたし、シュタールヘルムの同盟国に"事実上の"奇襲攻撃を受けたアメリカ人が彼らの側で参戦した。

 

翌年にはシュタールヘルムは第6軍を失い、日本人は虎の子空母艦隊をすでに喪失していた。

枢軸国の勢力圏は縮んでいき、形成は彼に有利となっていく。

 

そして1945年、イギリスは2度目の世界大戦にも勝利した。

この戦争で多くの植民地に穴が穿かれたとしても、生き延びたのだ。

そして戦後は常任理事国の一国、あるいはイギリス連邦・コモンウェルスの盟主として多少なりとも影響を与え続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィンストン・チャーチルは私の憧れた人物の1人だった。

ナポレオンやフリードリヒ大王のような派手さはないにしても、堅実さと狡猾さを兼ね備え、イギリスを最盛期のナチスドイツから守った男である。

 

一般にイメージされるのは、白黒写真に残る猫背で少々肥満な男なのだろうし、私もチャーチルと言われればそのイメージを持つ。

 

だが、この猫背の男こそが、歴史を変えたのだ。

 

 

 

その歴史を変えた男が、今、目の前にいた。

 

正確には、ご本人ではなかったが…そっくりさんというわけでもない。

 

言うなれば、別世界でのウィンストン・チャーチル。

 

 

 

"ウィリントン・チェイブル"首相は、私の執務室でトレードマークの葉巻を噛みながら窓の外を見つめていた。

 

葉巻を噛む事は多かったが吸うことは少なかったと言われるが、まさにその通り。

先程から火をつける様子は全くない。

 

ついさっきベルがマッチを持って行こうとした時も、首相自身が止めた。

 

「君のような女性の前で吸えというのかね?」

 

もう、やべえ、痺れる!

チェイブルかっけええええ!

ザ・紳士!まさに、ザ・紳士!!!

 

いかんいかん、興奮を抑えねばならん。

 

オーストリアのヨーゼフ2世はリスペクトしていたフリードリヒ大王から「一歩目を踏み出す前に二歩目を踏み出す」というあまり有難くない評価をいただいていた。

直で言われてたなら、きっと寝込んでいただろう。

私はまだ寝こみたくない。

 

しかしなから、チェイブル首相は先程から窓を見て葉巻を噛み続けている。

既に20分もその状態を維持していた。

放った言葉はさっきの一言だけ。

「君のような女性の前で吸えというのかね?」

かっけええええ!!痺れるゥゥゥゥゥ!!

だが、それ以外には一言を発せられていない。

 

 

 

私は今朝、鳴り響く空襲警報に叩き起こされた。

ピッピとダンケの上から飛び起きて窓の外を見上げるが、ハインケルやドルニエの類はない。

 

おいおい誤報かこのやろうと思ったら、ベルが飛び込んできてこう言った。

 

「首相がいらっしゃいます!!30分後!!」

 

ええっ!?うえっ!?嘘やんっ!?

 

そっからはもう、ノンストップ。

マッマズ・フルアシストで着替えて、ピッピに髭剃ってもらいながらルイスのサンドウィッチ食べてダンケに顔を洗ってもらう。

 

あれ、私何もしてなくない?

 

 

そっからベルと2人でお出迎えに行った。

 

史実のチャーチル首相マジリスペクトなんですけど、この時代のこの時点で鉄血艦見たら何言い出すから分からないだろうからピッピとダンケには申し訳ないけど隠れていてもらった。

埋め合わせは2時間あやし放題っつったら喜んで隠れてくれた。

埋め合わせになるのかこれは?

 

 

そんなこんなで首相はこちらにいらっしゃり、私の執務室で葉巻を噛み始めて早20分が現在の状況である。

 

正直、キツい。

首相が無言で窓までいって、そのまま何も言わないもんだから背後で気をつけして突っ立んのすらキツい。

 

圧がね、圧が凄いのよ。

何しに来たかも、何で来たのかも、全くわかんないまま立ち尽くすってもう嫌になんのよ。

首相閣下、私はどうしたらいいんでしょうか?

聞けないけどね。

 

 

「………なるほど。ん?何を突っ立ってる、わしの命令がないと椅子に座る事もできんのか。」

 

あ、はい、いえ、すいません、では、失礼します。

 

チェイブル首相はようやっと応接用のソファに座り、私は向かい合うソファに座る。

まあ、何つーかすっげえジロジロ見られて冷汗が止まらない。

 

 

あ、あのぉぅ、お一つお伺いしてもよろしいでしょうか?

 

「なんだ?」

 

こ、こちらへいらっしゃった目的は…

 

「気になるかね?」

 

 

うーん、やっぱり、コミュ障だ、私。

まず、こういう時はようこそいらっしゃいました長旅おつかれ様でしたただ今お茶を用意させますのでとかそんな気の利いた言葉ぐらい出すべきだよね、すんませんね、本当に。

 

 

「何の事はない、ただの視察だ。」

 

(ふぅ…)

 

「というのは、表向きの理由」

 

(ヒェッ!)

 

「…ポーカーで勝ったことないだろ?何考えとるかすぐに分かるぞ?」

 

はい、ないです。すいません。

 

「何を謝る?不必要な謝罪はすべきではない。…さて、本題に入ろうか。君の鎮守府には鉄血やヴィシアのKANSENがいるそうだな?」

 

グフホッ…は、はい、いましゅ。

 

「いや、別に責めているのではない。責めてはいないが…君のKANSENはやり過ぎている。」

 

 

う〜ん、やっぱり言われますよねえ。

そうですよねえ。やり過ぎですよねえ。

 

 

「特に鉄道、アレはまずかった。鉄愛戦争(多分、1870年ぐらいの鉄血とアイリスの戦争の事)の再来かと下院も上院も関係なく皆恐れておるのだ。」

 

し、しかし、閣下、私はたかが一鎮守府の長であります。

罷り間違っても国家の主権を脅かすなど…

 

「問題はそこではないっ!ロイヤル国内で、以前から北連の忌まわしい悪魔どもや身勝手な兄弟の手下が活動しているのは知っていた!だが、我々は共倒れを狙って黙殺していたのだ!ところが君が来て事情が変わった!」

 

事情が?

 

「その通り!MI5もフル稼働しておるが、鉄道の敷設までされたとなると我々も黙っておれんのだ!…いいかね、わしはロイヤルを戦場にする気はない。いや、もしもの事があればわしの美しい庭園に対戦車陣地でも築いてやるつもりだが、わしの言う戦場とは、諜報におけるそれなのだ。」

 

な、なるほど。

つまり、私のマッ…いや、KANSEN達が好き勝手にやるせいでロイヤルの面子は丸潰れ。

それを見たCIUや北連がどういう反応をするかは簡単に想像ができる。

より多くの工作員を送り込み、同じように好き勝手し始める。

首相は抑止するためにも、私に何らかの制限を与えたい。

 

「飲み込みが早くて助かる。個人的な話しになるが、私は君を嫌ってなどはいない。君はあの厄介なローレンスを打ち倒し、ロイヤルに巣食う北連のガン細胞にメスを入れる突破口を作ってくれた。ローレンスの死と昨日の君への襲撃事件はMI5に多くの証拠をもたらしてくれたからな。」

 

 

こういった評価をいただけるのはもちろん喜ぶべき事なのだが、手放しで喜べはしない。

 

「君が悪いとは思わん。迫り来る脅威に当然の防備策を用意しただけだ。だが、これからロイヤルが置かれる状況を鑑みてもらいたい。我々は君を特別扱いするわけにもいかんのだ。」

 

 

セイレーンの脅威が薄くなった事で、新しい火種が燻り始めている。

 

なりふり構わず永年の悲願を追い求める北方連合、対抗して手を結ぶ鉄血と重桜、両者とも脅威とみなしているユニオン。

第二次世界大戦と冷戦が一緒にやってくる今なら最初から核兵器もついてくるアンハッピーセットが既に出来上がっている。

前哨戦は既に始まっていて、実際、私VSローレンスという構図は、まさにミニチュアサイズの代理戦争だったのだ。

 

 

「いいかね、これは君のためでもある。そして、わしは君を評価している。少なくとも、二つに一つの内、より正しい物を選んでくれると信じている。選択肢はこの二つ、期限は明後日。では、よろしく頼む。」

 

 

首相はそういって、大きな封筒を2つ置いて立ち上がった。

またトレードマークの葉巻を噛みながら、確かな足取りで玄関先に向かっていった。

 

帰り際、首相が暗い表情をしたベルに気がついた。

 

「気に止む事はない、お嬢さん。誰にも…愛する者への気持ちは止められん。」

 

 

「すいません、ウチの場合は"あやする者"なんです」とかいう氷点下のギャグは閉まっておいて、私はベルと共に首相を見送った。

 

 

 

 

部屋に帰って、2つの封筒を開けてみた。

 

1つには書類が入っている。

 

"辞職届"

 

おっふ。

 

これが悪い方だと思いながら、もう一つの封筒を開ける。

 

 

装填されていないMKⅥリボルバー。

 

 

 

おっふ。

マジかよ、めっさ厳しい。

 

 

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