----------アイリス戦艦 ジャン・パール
プライベート・ボウヤン
寒空の下、私は銀髪長身美巨乳お姉さんの1メートル後ろを走っていた。
お姉さんは私が3歩かかる距離を一歩で進んでしまうほど颯爽と走っていたが、私は到底そんなに速く走れそうにもない。
長年の運動不足は見事に仇となり、私は呼吸が苦しくて仕方がないのだ。
「ほら、坊や!ラスト500mよっ!少しペースを上げましょう!」
ぜえはぁ、ぜえはぁ、は、はいぃぃぃ!
「あと少し!あと少し!……300、いいわよ、坊や!その調子!……200、ほらほら落とさないっ!……100…そうよ、坊やならできるわ!あと少しっ!………はい、よく頑張りましたっ!」
ゴールを迎えた瞬間に、ピッピママの汗ばんだ巨大な双丘に迎えられる。
「辛かったでしょう…本当に良く頑張ったわ、坊や。」
ふごごごご、ふごご、ふご。
(走り終わった直後に呼吸止められる方が辛いから、お願い、ちょっと離して、マッマ。)
「あらごめんなさい!しっかりと呼吸を整えてね…さあ、シャワーを浴びに行きましょうか。」
ピッピからゲー●レードを渡されて、私はそれを飲みながら我が家へと向かう。
時刻は朝の7時。
おうおう、どうした急にそんなD.C.郊外に住む高級官僚みたいなこと始めてお前変な病気にでもなったんじゃないか?と思うかも知れないが、これにはちゃんと理由がある。
変な病気になったわけではないが、変な病気へまっしぐらだと宣告されたのだ。
MI5への異動後、私を待ち受けた最初の障壁。
その名は、『健康診断』。
MI5の一員として働く上で、まずは健康状態に問題がないか検査されたのだ。
いやあああ、こっちの世界来る前からアンヘルシーな生活しかしてなかったのに、こっちに来たらドンドン運動する機会を失っていったもんね。
鎮守府勤務の最後の方とか、歩いてすらねえし。
ベビーカーで移動してたし。
そらアンヘルシーだわ。24時間フルアシストで過ごしてみろよ。そらアンヘルシーだわ。
マッマ達の手料理も美味すぎるもんだから食手が止まらない上に、ピッピママお手製のバウムクーヘン、ダンケママが小麦を挽くところから始めたクイニーアマン、加賀さん特製おはぎ、愛宕お母さんの栗羊羹まで揃ったらもうアウトよ、アウト。
この鎮守府時代の自堕落☆MAXな生活がもたらしたのは、「糖尿病まっしぐら」という診断結果。
ノーカロさんと一緒に、今では開業医として働くヴェスタルさんのところへ行って、そう言われた時はショックだった。
まあ、それ以上に、診断された瞬間にマッマ達が天井からゴロゴロ落ちてきた時の方がショックだったけど。
いや、何しとん。
あんたらもあんたらで仕事あるんちゃうんか?
KANSENをやめた以上、彼女達は別の方法で収入源を探さねばならなかった。
チェイブル首相は私の転職を暗に促してくれたわけだが、彼女達全員分の仕事まで用意してくれたわけではない。
と、言うわけで、マッマ達は戦うマッマから働くマッマになったのである。
具体的には、起業した。
まず、ピッピマッマがハンドクリームを開発して売り始めた。
その名も『PIVEA』。おいこら。
元々は、これから寒い冬を迎えるにあたり、お肌がしょっちゅうひび割れる私の為にわざわざ作ってくれた物だったのだが、もう、なんつーか、二●アと同じようなしっとり感で且つひび割れにはオリジンより効果的。
あまりの効果に「これ売ったら儲かんじゃね?」と私が不用意に発言してしまったのが始まり始まり。
ピッピはビスマルクお姉さんから受けた融資で小さな会社を立てて生産体制を確立、PIVEAは飛ぶように売れ、返ってピッピが財産と会社の管理に困るまでになった。
たぶん、PIVEAがそこまで売れたのはおそらく効能だけではない。
パッケージがね。
パッケージに使用された写真……乳白色の湯船に浸かるピッピママが、左腕で双丘の頂点を隠しながら、反対の手でPIVEAクリームを差し出すというプレイ●ーイばりの写真が、PIVEAの効能以前に客を引きつけた理由だろう。
ただ、被写体が被写体のせいかポルノ写真っぽさはなく、むしろ上品なパッケージに仕上がっているのは、もう、なんなんだろうか。
さて、頭を悩ませるピッピを見て、実はアイビーリーグ出身というまさかの経歴を持っていたルイスマッマがマネジメント担当として加わって、ピッピの会社を管理した。
ルイスはPIVEAクリームの利益を元手に、余剰資金で事業の多角化を提案、今度はダンケとベルも乗っかって、飲食店を始めた。
カフェ・チェーン店『Dunkirk』とメイド喫茶『ベル's キッチン』も大成功。
『Dunkirk』はちょっと高いけどそこそこ美味しい質の高いケーキセットで着実に業績を伸ばしており、ベルファスト5人が接客をする『ベル's キッチン』は予約4年待ちである。
オリンピックかよ。
『Dunkirk』と『ベル'sキッチン』で味を占めたルイスマッマは、今度は重桜KANSENをも巻き込もうとしていた。
次は高級料亭を作って加賀さんの料理を売り出すらしい。
もうそれだけでボロ儲けできそうな感じはする。
今では、マッマ達のコングロマリットはロイヤル有数の資産を持つ大企業への道を歩み始めていた。
で、私がその筆頭株主。
元々そんな金私にはなかったんだけど、ピッピのお姉さんが"くれた"。
うん、くれた。
「妹が幸せそうなら、それで十分よ」とか言って、株式を、くれた。
勘弁してくれよ、賄賂だと思われんじゃん。
MI5から鉄血に買収されてるって思われんじゃん。
まあ、MI5が不思議なくらい首突っ込んで来ないもんだから受け取っちゃったけどさあ。
何かほかの方面からMI5に圧力かかってたのかな、知らんぷりしよう。
やあ、レパちゃん、おはよう。
話は随分と脱線してしまったが、ヴェスタルさん病院の天井から落下してきたマッマ達は、私が不健康の塊である事に愕然としたようだった。
「坊やが病気に!?そ、そんな…」
「なにかの間違いじゃないの!?」
「指揮官くんにはもう、私たちのお菓子を食べさせられないってこと?」
「そんなの嫌です、ご主人様!」
マッマ達がすっごいオロオロしてる。
何かすげえ申し訳ない。
そうだよね、ちゃんと私が運動しとけば
「よし!決めたわ!私が坊やと一緒に運動する!!」
ピッピがいきなり立ち上がって、そう宣言したので、私は椅子から転げ落ちるところだった。
あのさ、そんなにダァンッと立ってバァンッと机叩きながら大声出さなくてもいいじゃん?
ここ一応病院よ?頼むよホント。
かくして、私は毎朝ピッピマッマと一緒に6km走る事になったのである。
まあ、キツいす。
運動不足がモロに露呈して、キツいす。
ただし、何というか、自分が健康的になっていくのを感じると言いますか。
汗と一緒に悪い物も出て行ってる気がして、以前に比べて身体も軽く感じる。
何より、マッマの手料理がより美味しく感じられるようになった。
走る間もピッピという、長身美巨乳お姉さんがすぐ隣にいるおかげでそんなに苦痛で退屈なわけでもない。
むしろ揺れる双丘を間近で見れるわけである。眼福眼福。
さらに言えば、何故か筋肉痛というものがなかった。
いや、おかしい。
普通あれだけ運動してなかったのに、毎朝走るような習慣が急に加われば、筋肉痛になるもんだろう。
今朝のランニングが終わった後に、私はシャワーを浴びて、スーツを着ながら何故筋肉痛に襲われずに済んでいるかを訝しんでいた。
「あら、指揮官くん。今日も運動してきたみたいね、えらいえらい。…そんな顔して、何か悩みでもあるの?」
おはよう、ルイス。実は筋肉痛が全く来なくて、おじちゃん何でだろうって思ってたとこなんだ。
「ああ!きっとセイレーンの効果よ!」
ん?え?なんて?
「えっとね、指揮官くん。実を言うと、前々から、あなたの肉体強化の為に、自己修復能力の高いセイレーンの欠片を料理に混ぜ混ぜしていたの。」
あわわわわわわわわわ。
「驚くことないわ。ハーバー●大学でも、セイレーンによる肉体強化の効果は認められているし、摂取して副作用が出るものでもないわ。」
………じゃあ、今までハンバーグとかスパゲティに入ってたあのカリカリしたやつって。。。
おい、ルイス、なんだそのドヤ顔は。
プロテインかよ。
セイレーン=プロテインかよ。
つーか、何で私にそんな自己修復能力持たせようとしてんのよ。
衝撃の事実だわ。
ただ、もう、筋肉痛に悩まされる事はないと分かったので、この際不問としたい。
傷ついた筋肉がオートマティックに修復されていくと言うのなら、今のままでもいいや。
ん?待てよ?
って事はいくら筋トレやらやっても、翌日とか全く影響ないって事かな?
ひょっとすると、凄く速いペースでムキムキマン目指したりできるって事じゃないかな?
よし…やろう、やってやろう。
フュー●ーのブラッ●・ピットみたいにムキムキマンになろう。
戦車を題材とした戦争映画なのに、全く必要ないサービスシーンを提供するくらいの、マッチョになろう!
私は、それからピッピマッマとのトレーニングに打ち込み、二週間が経った。
摂取したセイレーンのおかげか、それともマッマのトレーニングがかなり効果的だったのか。
恐らく、その両方が有効だったのだろう。
トレーニングの成果は、もう形を成していた。
ただし、現実の厳しさも思い知らされた。
私が夢見たのは、ブラッ●・ピットとかドウェ●ン・ジョンソンとかあんな感じのマッチョマン。
だが、今、鏡に映っているのは…
あのね、たしかにマッチョマンかもしれないけどさ。
確かに筋肉量は増えたし、パワーはあるんだろうけどさ。
ちょっと、こう、方向性がズレたよね。
何で、トム・ハ●クスなの?
何で、プライベート・●イアンのトム・ハ●クスなの?
何で、こう、私が夢見ていた機動性溢れる感じのボディビルダーチックな筋肉マンじゃなくて、あの長年の経験に裏打ちされた内側のインナーマッスルが物凄い感じの方向へ走ってしまったんだ、私の体は。
「素敵よ、坊や。凄く素敵。」
ピッピが後ろからそっと抱擁してくれる。
別に外からの見た目はあんまり変わってないと言いますか。
トム・ハ●クスと化した私を、ピッピはドヤ顔で見ているが、肝心の本人は少しばかり凹んでいた。
いや、好きな俳優ベストテンには入ってんだけどさ。
これじゃあ、二等兵探しに行かなきゃいけないじゃん。