バブールレーン   作:ペニーボイス

43 / 172


「ひとりぼっちの赤ん坊って、それじゃあ育児放棄だぞ」


----------------ジャン・パール


べイビー・アローン

 

 

 

 

多神教にしたって限度があるだろう。

 

正月と結納で神道信者、お盆と葬式に仏教徒、クリスマスと結婚式にはキリスト教徒、宴会を断る為にイスラム教徒になるような、変幻自在な宗教観は、私のかつての祖国のどこから湧き出てきたのか想像もつかない。

 

確かに、日本古来の神道というものは八百万の神様の存在から構成されるという概念がある。

 

お米の一粒一粒から日本列島そのものに至るものまで神様がいて、地上に済む私達を見守ってくださるのだ。

 

カール・マルクスなら、「特権階級による労働者階級への監視・抑圧」とか言い出しそうなんだが、日本でそんなこと言う人間は共産党員でも少数派だろう。

このドイツ人の考えはロシア人に伝わって、1917年にはその後約一世紀に渡る壮大な社会実験をもたらしたわけだが、結果どうなったかは皆さんご存知の通り。

 

 

 

 

まあまあ、何が言いたいのかと言いますと、私はかつて日本の少々複雑な宗教観に困らされた人間の1人であった。

 

主に2月と12月。

 

私はマルクス主義者ではないし、神道の価値観を不信心だと否定するつもりは毛頭ないのだが、大体12月の月末近くに手を繋いで歩く若い男女を見かける度に、こう思っていたものだ。

 

『爆発しちまえ』

 

 

 

 

 

 

時間と場所が大幅に変わった今、私はかつての感覚とは違う感覚で12月を迎えていた。

 

去年の私が今年の私を見つけたのなら、まず間違いなく私が内側から爆ぜてくたばるように呪うに違いない。

 

幸い、私は内側から爆ぜてくたばるような状況にはいなかった。

過去の私は現在の私を知らないからだ。

 

ただ、どうにも…別の問題がある。

 

内側から爆ぜる事は無くとも、外側から圧迫されて死にそうなのだ。

 

 

 

 

「メリークリスマス!坊や!」

 

ピッピママ。

貴女はもう少し自覚を持つべきだと思うんだ。

その豊かな双丘は、確かに私を癒してはくれるが、反面、力加減によっては私を殺しかねない凶器だと言うことを。

そんないきなり全力で圧迫されたら、窒息する。

 

「ああ、ごめんなさい、坊や。坊やと聖なる夜を過ごせるのがとても嬉しくてつい…坊やと会うまでは、ずっと一人だったから…」

 

重い。ピッピ、ごめん、重い。

急にすっごい重い話になってる。

ごめんね、ピッピ。辛い事思い出させてごめんね。

 

「いいのよ、気にしないで。それよりこの衣装はどう?」

 

 

ピッピはそう言いながら、私の前でターンをしてみせた。

 

彼女は今、サンタクロースをモチーフにしたと思われる少々アダルトな衣装を着ていた。

いや、失礼。

衣装単体ならアダルトではなかったはずだ。

その衣装を作ったデザイナーは、きっとピッピほど容姿には恵まれていない人間を前提に寸法を決めたに違いない。

上半身がコルセットのような、外側から圧迫するような衣装になっているのはその為だろう。

 

ただ、この衣装をピッピが着た場合、豊かなアルプスの偉大なる自然は狭苦しいコルセットに収まりきらず、若干上方向へ逃れようとする。

つまり、豊かな双丘がコルセットから盛り上がってしまうのだ。

 

画面の前の皆さん。

ドイツ/フランス合作版『美女と●獣』を見る機会があったら、是非見てください。

ストーリーとか正直どうでもいいです。

眼福ですよ、あれは。

ドレスからはみ出る白い山脈がプルンプr(担当者はゲシュタポにより始末されました)

 

今のピッピはあの映画に出てくるヒロインみたいな状態で、故にアダルトチックになっているのだ。

 

 

いや、どう?って聞かれてもさあ。

何て答えればいい?

まあ、似合ってるよ、うん。

 

あとイラストリアスよりはマシ。

あいつ、真冬の日に赤いV字型のスリングビキニという暴挙に出やがった。

仕事から帰ってきた私を出迎えた時の格好がそれ。

本来は喜ぶところなんだが、イラストリアスのこういうのは見慣れてしまって喜べない。

つーかもはや泣きたくなったよ。

 

 

 

「ああ!ティルピッツ!また抜け駆けしてる!Mon chouの独占は禁止よ!」

 

 

ドン●・ホーテで売ってそうなサンタ衣装に身を包むダンケルクが憤然とした様子でやってきた。

うん、ふつうに可愛い。

 

 

「それもそんな破廉恥な衣装で指揮官くんに迫るなんて!」

 

 

お前が言うかルイスマッマ。

赤ビキニ・赤Tバックで来たお前が言うのか。

何なんだこの圧倒的お前が言うな感は。

気のせいかもしれないけど、最近イラストリアス方面に走ってないかお前。

 

「ご主人様の教育に悪い事はやめてください、ティルピッツ、セントルイス。」

 

 

誰?

トナカイが出てきたんだけど?

トナカイが喋ってんだけど?

あ、ああ、着ぐるみ?ひょっとしてベルかい?

どこでそんな剥製みたいなリアルな着ぐるみ売ってたの?

ひょっとして皮剥いで作った?

テキ●ス・チェーンソーよろしくレザー●ェイス並みのレザークラフトしちゃった?

軽くサイコだよそれ。

 

リアルなトナカイの着ぐるみの口の奥からベルの顔が現れる。

 

こっわ。

 

 

「さて、これでクリスマス☆パーリーの準備はいいわね。ロングアイランド!そっちも準備はいい?」

 

 

ピッピがロングアイランドに向かって声をかける。

ビスマルクお姉様寄贈のこの家はあまりに広大で、リビングがもうリビングとは言えない。

ホールだよ、これは。

 

そんなホールから一段上がったステージの上で、明らかにDJと化しているロングアイランドがグッドサインを出す。

 

まあ、十中八九テクニカルサウンドをふんだんに取り入れたクリスマスソングでも流すつもりだろう。

そしてそれは実際に流れた。

 

 

 

ピッピが言うところのクリスマス☆パーリーは私の想像していたものとは少し違った。

 

テクニカルサウンド垂れ流すぐらいなんだから、きっとイビサ島みたいな事になるんだろうかと思っていたのだが。

実際には皆席に着き、ルイスママが聖書を手にとって神様に感謝をするところから始まった。

ルイスママが聖書を読み上げるところから始まったのだ…Tバック姿で。

 

 

「…………を、主に感謝します。エイメン。」

 

「「「「「エイメン」」」」」

 

 

何というかキリスト教にはそれほど縁はなかったので、こうした本格的なお祈りを捧げた経験はあまりない。

 

だから港と同じように手を合わせて黙しながらルイスママの言葉に耳を傾けていた。

 

 

ルイスママのお祈りが終わると、皆食事を始める。

 

ホールの真ん中に設置されたゴッ●ファーザー並みの大きなテーブルの上には4大マッマや重桜マッマ達が作ってくれた料理が所狭しと並んでいて、誰もがそれを楽しんでいた。

 

 

さて、私も食べようかな。

あ!あの七面鳥美味しそうだな、ちょっと食べて

 

 

「はい、指揮官くん、あ〜ん♪」

 

ありがとうルイス。

私は何も言ってないはずなんだけどもありがとうルイス。

 

おっ!あそこにあるのはパントーネ?あれも美味しそ

 

「Mon chou〜♪はい、どーぞ♪」

 

ありがとうダンケ。

またしても私は何も言葉を発してないはずなんだけれどもありがとう。

 

食べ物もいいけど、そろそろ飲み

 

「ご主人様、カル●スです。」

 

ありがとうベル。

もう何が飲みたいとか思ってすらいなかったんだけどありがとう。

てか何故カル●スだと分かったのかな、もはや。

 

おや、あ

 

「坊や、実を言うとこのアイスバインは私の自信作なの。はい、あ〜ん」

 

ありがとうピッピ。

もはや思ってすらないんだけどありがとう。

 

いや食べたくなかったとかそんなんじゃなくてね、脳の神経系がアイスバインを認知して食べたいという欲求を中枢神経に伝えるまでの間にピッピママは私の欲求を察知した事になるんだよね。

 

そう考えるとちょっっっぴり怖いかな。

 

 

 

食事会は楽しく終わり、プレゼント交換の時間になる。

 

いやあ、出費がこたえたよ今回は流石に。

MI5のボーナスが消えて無くなってしまった…

ただ勿論、後悔なぞしていない。

 

 

 

「「「「パパァ〜!メリークリスマス!」」」」

 

誤解を生む表記。

 

ミニマッマ達が手作りのお菓子を私にプレゼントしてくれた。

おお!ありがとう!

それじゃあおじちゃんからもプレゼントをあげよう。

 

彼女達には前々から欲しがっていたオモチャをプレゼントする。

喜んでくれたのが、すごく嬉しかったけど、その後昔のマクド●ルドのハッピーセットのCMに出てくるトチ狂った子供達みたいな反応で歓喜してたからちょっと心配にはなった。

首とか頭とか取れるんじゃないかってぐらい振ってるけど大丈夫かい本当に。

 

「ぐへへへへへ!ちびっ子達〜!わたしから最高のプレゼントがあるんだ!ほら!こんなにたくさぶへあっ!!!!」

 

 

ミニマッマ達に突撃した変質者が1人いてピッピに吹っ飛ばされたけど、何も見なかった事にする。

 

 

その後も皆んなとそれぞれにプレゼントを交換した。

なんというか、それぞれにお国柄が出てて面白いよね。

プリンツオイゲンなんて車くれた。

うん、新しい車。

鉄血公国のB●Wのセダンくれた。

何か、スイッチとか押すとマシンガンとか撒菱とか出てくるやつ。

もうビックリよ。

こっちのプレゼントなんて腕時計だったからさ、喜んでくれたのは嬉しいんだけど…まあ、あんまり深くは考えないようにしよう。

ありがとう!プリンツェフ!

 

ああ、あと、イラストリアスは安定してた。

自分の写真集くれた。

もうこれ以上詳しく書きたくない。

 

 

殆どの娘とはプレゼント交換が済み、残すは4大マッマのみ。

 

まずは私の番。

 

「まあ!坊やからブレスレッドをもらえるなんて!」

 

「このネックレス、大切にするわね!Mon chou!」

 

「最新型のタブレットじゃない!え?非売品のガバメント(政府、行政機関)向け?指揮官くんだーい好き!!」

 

「ヤッホオオオオオオ!!首輪↑↑首輪↑↑首輪↑↑首輪↑↑首輪あああああ!!!」

 

 

ベルファストのキャラ崩壊がもはやメルトダウンだけど、やっぱり予め何が欲しいのかやりげなく聞いておいて良かったなとは思った。

つーか、ベルマッマは何故首輪でキャラを臨界されるほどに喜ぶのだろうか。

苦しかろう外してしまいなさいやって言ったことあるけど、凄い形相で拒否されたもんね。

 

まあ、謎は謎のままにしておいて、今度は私が4大マッマからプレゼントをいただく番だった。

 

 

「さて、坊や。私達からのプレゼントよ?」

 

「喜んでくれると嬉しいわ、Mon chou」

 

「指揮官くん、どうぞ受け取って」

 

「ご主人様のご期待に添えられる物だと思います。」

 

 

・・・・・

 

 

マッマ達に動きはない。

何か箱を渡されるとか、そういった仕草も雰囲気もない。

私はもう察した。

 

 

 

つまり、プレゼントって、あんたら自身ね?

 

で、既にプレゼント交換終わったはずの娘達が「実はもう一つプレゼントがあるのおおおおお!!!」とかこっちへ突撃してくるのは、つまり、そういう事ね。

 

うん、分かった。もう諦める。

 

 

全てを諦めた時、私は前方からマッマ達に、後方からは突撃部隊に挟まれて、その波の中へ巻き込まれた。

ものすごい熱気とエネルギーが感じられる以外、もはや私は何も感じられない。

この呼吸困難の窮地から抜け出すには更なる時間が求められるだろう。

 

だから、皆さんにはまずこう言っておきたい。

 

 

 

メリークリスマス!

まだ一週間以上先だけどな!!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。