苦手な方は観閲回避推奨です或いは正月の楽しい気分が抜けてからご覧ください。
ロイヤル・ボービンド戦車博物館。
私は転生するまで、戦車という物に少なからずの興味があった。
幼い頃に空挺部隊のテレビドラマを父と見た時、私は初めてティーガー戦車を目にし、そして衝撃を受けたのだ。
力強く走り、クロムウェル戦車の砲撃をもろともせず、88mm砲でシャーマン戦車を屠る。
テレビドラマの中のアメリカ兵達は、「ティーガー」というワードを口にする度に恐怖や戸惑いを顔に滲ませていた。
元となった本人達は、航空支援の得られない状況下でこの戦車に出くわせばどうなるか知っていたからだろう。
はじめてのプラモデルはティーガーだった。
勿論、ティーガー以外もやった。
ヤークトパンター、三突、またティーガー。
2両目のティーガーをやった後にKV戦車と出会ってしまった。
KV2重戦車はまだ小学生だった私をソ連戦車沼に容赦なく引き摺り込み、そこからT34、KV、JS戦車を次から次に組み立てる狂気のソビエト・ローテーションが始まったのだ!
まあ、幼少期の趣味はさておき、今日は趣味でこのロイヤルいちの戦車博物館に来ているわけではない。
ある人物に会うためだ。
その人物はMI5から十二分にマークされている人物でもあり、おいそれと入国するわけにはいかんらしい。
しかし、今回は急を要する極めて重要な案件を持ってくるようだ。
そうでなければ偽装身分を使って入国などするわけがない。
今、このボービンド戦車博物館には鉄血公国製の重戦車が運び込まれている。
ホルタ会談の後、鉄血公国の国民はロイヤル・ユニオン曰く『理性を取り戻し』、当時の鉄血公国指導者曰く『発狂して』、民主主義を再選択した。
中学校の歴史の教科書の170ページ目くらいに大抵その顔写真が載っているその人物は追い出され、より穏便な人物が国の新たなる指導者に選ばれたわけだ。
新たな指導者はホルタ会談に誠意を示すという意味で、鉄血の最新鋭戦車をロイヤルに寄贈する事にしたらしい。
注目すべきは、この戦車がロイヤルのみならずユニオンや重桜にも送られ、更にはロイヤル・ユニオン・重桜の最新鋭兵器も鉄血に送られた事だろう。
今や北方連合の脅威はホルタ会談側をそこまで団結させていたのだ。
いくら同盟国相手でも、自国の最新鋭兵器をおいそれと融通するわけにはいかない。
いつ銃口がこちらを向いてもおかしくないからだ。
ただ、その辺は考えたようで、中枢部品はブラックボックス化されているようだが。
話は少々脱線したが、ロイヤルに寄贈された重戦車を博物館に送り込む為に、今ロイヤルには相当数の鉄血公国技術者が入国していた。
問題の人物はその技術者の内の一人に"化けて"やってくる。
某黒人主役のホラー映画のように脳みそを入れ替えてやってくるわけではない。
アカの他人のパスポートと身分でやってくる、というだけの話。
私はその人物と会うために、今鉄血公国から運ばれたばかりの重戦車・ケーニヒスティーゲルの前にいる。
傍らには秘書役兼護衛役が2人。
即ち、ピッピとプリンツェフがスーツ姿で付き添ってくれていた。
実を言うと、件の人物との接触はMI5を通して行われたものではない。
彼に対するMI5の反応…彼はMI5の要注意人物リストに入れられている…から考えれば当然かもしれないが、それは考えられないだろう。
実際には、ピッピを通じて行われたのだ。
まず、件の人物がビスマルクお姉様に私とのコンタクトの段取りを頼み、ベルリンの『ビスマルク総合カンパニー』からロンドンの『マッマ&ママ総合商会』に連絡が来て、あくまで民間取引という偽装の下コンタクトが取られたのだ。
え?何?会社の名前?
もういつも通りじゃないか、一々突っ込むことないじゃん?
実際、マッマのマッマによるマッマのための総合商会なんだから、そのまんまじゃん?
「少し違うわよ、坊や。私達の為じゃなくて、あなたの為よ。」
あのね、ピッピママ。
勝手に人の頭の中読むのやめてくれない?
いや、ピンチの時にすっごく助かるのは助かるんだけど、逆の時はこっちが窮地に陥る可能性微レ存だからさ。
まあ、とにかく、私はピッピから直にそのことを伝えられ、件の人物と直に接触する事にしたのだ。
約束の時間丁度に、後ろから声をかけられた。
「こんにちは、良い日ですね。こんな良い日には良い朝食を食べないと。今朝は何を食べました?」
ああ、それなら加賀マm
(坊や!合言葉よ、合言葉!サラミソーセージとベーコンサテー!!)
サラミソーセージとベーコンサテーを食べました。
「…お会いしたかった、Mr.マッコール。私がラインハルト・レルゲンです。」
ふぅ、危なかったぁ。合言葉間違うとこだったよ。
それにしても、画面の前の皆様、今日大変めでたいことに私とピッピママの間でテレパシーによる意思疎通が確立されました。
元KANSENは人間の脳内に直接話しかける事が出来ることが証明されたわけです。
ノーベル賞受賞できそうですね、論文書いたら。
(坊や、それは違うわ。KANSENだからじゃない。私があなたのマッマで、あなたが私の坊や)
(わかった、それ以上はいいから、マッマ。)
脳内会話をしつつも、私はレルゲン氏と握手を交わす。
私と同じくらいの年齢だが、私よりよっぽど背が高く、男前だ。
黒いコートにハンティングハットが良く似合う。
これぞ、諜報員って感じだね。
(そんな事ないわ!坊やだって充分素敵)
(マッマ!ちょっとレルゲンさんとのお話に集中させてくれないかな?)
それで、お話ってなんでしょうレルゲンさん。
「ご存知でしょうが、こう見えて私は鉄血公国情報部のトップです。自慢ではありませんが、ホルタ会談が始まる前から北方連合に情報源を作っていました。」
ええ、存じ上げております。
大変優れた諜報技術をお持ちのようですね。
MI5がホルタ会談の後も要注意人物に指定しているくらいですから。
「ははは、有名過ぎるのも我々の世界では困りものです。さて。私の情報源が、ある情報をもたらしてくれたのですが…申し訳ない、少し不愉快な気分になるかもしれません。」
レルゲンはそう言って、私に一枚の写真を見せる。
ハガキくらいの標準的なサイズの写真だが、写っている物は標準なんてものではなかった。
なんだ、これは。
「私もそう思いました。これが撮られたのは、北方連合屈指の軍病院内です。」
何が写っていたか。
外科手術のような事をされている、恐らくはKANSENの写真だ。
しかし、外科手術のようには見えない。
私は医者ではないが、あくまで患者を助ける気であるのであれば、こんな開き方はしないハズじゃないか?
首から性器にかけて、まるで魚の一夜干しのようにがっぱり開かれている。
白衣の人物が1人傍らに立って、何やら図版を持って書き込んでいた。
とても人命を救助しているようには見えない。
この写真は…何なのですか?
「鉄血の専門家達は、恐らくメンタルキューブの再回収を試みているのだろう、と。」
は、はあ!?
「驚くのも無理はありません。メンタルキューブの外科的回収など、どこの国も考えつきさえしなかったのですから。」
とんでもないKANSEN協定…国際法違反ですよ、これ。
「ええ、その通り。我々の仮説はこうです。
北方連合は五カ年計画により、KANSENを大量建造できる程度に重工業を発展させた。しかし、肝心のメンタルキューブが不足している。」
メンタルキューブの事ならある程度はわかる。
アレがないとKANSENの建造ができない。
この世界に来る前、期間限定建造があると財布の中身を持っていかれた頃が懐かしい。
何枚のiTun●sカードを使い捨てたことか。
しかし、まあ、それを建造したKANSENから外科的に取り出そうとは…何てこったパンナコッタ。
「現在、北方連合のKANSENは、駆逐艦が過多に多く、主力を担うべき巡洋艦・戦艦が絶対的に不足しているようです。恐らくは多すぎる駆逐艦をこのように解剖しているのでしょう。」
どうにか止められませんか?
「この写真を拡散しても無意味です。北方連合はシラを切り通すでしょうし、情報源は非常に危うい立場に置かれる。まだ詳しい情報が必要です。」
では、なぜ私に見せたのですか?
「実を言うと、あなただけではないんです。
重桜、アイリスの極限られた関係者に見せています。まだ国際的問題にするには早過ぎるが、認知してもらわねばならない。何故なら…」
ひょっとして………北方連合が他の国のKANSENを拉致してる…とか……
ははは、まさかそんな…え?マジ?
「駆逐艦での成果が乏しく、北連の研究者達は他国の大型KANSENを拉致して解剖する計画を立てている公算が高い。それとなく、注意を喚起してもらいたい。」
んんんんん!?ちょ、ちょっとどころか頗る難しいですぞそれは。
「分かっています!ですが、しばらくはこうするしかない。より詳しい情報が入れば直ぐにでも公開できます!そうすればいくら北方連合がシラを切っても、ホルタ側は警戒を強めるでしょう。決定的証拠があれば、調査隊も派遣できるのです!確証を得るまでは、情報源を保護しておきたい!」
わ、わかりました、頑張ります。
「本当に申し訳ありません。ご協力に感謝します。叔母さんもどうかお元気で、マッマも『よろしく言っておいてちょうだい』と。では、私はこれで。」
んんんんんん〜〜〜〜。
レルゲンさんの言いたい事は何となくわかるが、これで本当に拉致が起きたら大変な事になるぞ。
しかしできる限り内密にしないと、調査隊を送るために必要な証拠が入手困難になる…。
つーか、ちょっと待て。
"叔母さんもどうかお元気で"って何?
マッマから伝言されたって、何?
「ああ、坊やは知らなかったわね。ラインハルトも元指揮官で、昔の負傷で、ビスマルク姉さんから輸血を受けたのよ。あの子も良い子だから仲良くしてあげてちょうだい?」
つまり、今のは…従兄弟?
「そう言うこと。私達は家族よ?」
皆さま、家族がどんどん増えているようです、知らぬ間に。