バブールレーン   作:ペニーボイス

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マッマが愛した数式

 

 

 

 

暗い暗い部屋の中で、私は物理的従兄弟と共にテレビを見ていた。

 

目の前の小テーブルにはピザとビールが2人分。

それぞれソファにもたれかかり、ダルそうにぼんやりテレビに映るクソも面白くない番組を見ているその様は、アメリカかどこかの駄目人間友達に見える事だろう。

 

3本目のビールを空けてから、もう随分時間が経っていて、一本500円程のそこそこ良いマイスタービールは完全にその美味しさを損ねていた。

 

 

私は隣にいる物理的な従兄弟を見やる。

到底私には似つかないハンサムな顔が、ヤクでもやってんじゃねえかというほどに呆けていたし、私と同じように眠りとの境を彷徨っている事がうかがい知れた。

 

こんな状況で話すものではないが、私はマイスタービールを一口飲んで、この間コィバで手に入れた参考図面の事を聞いてみた。

 

 

「あぁ、あの参考図面?うん、うん、今解析中だよ、ブロ(兄弟)。どうにもクサいよ、あれは。たぶん、KANSEN解体用の実験施設さ。結果が出次第、駐ロイヤル大使を通じて連絡が来ると思うよ。ジークフリート大使にはあった?」

 

うん、褐色肌の人でしょ?

『バル●ンク』とかいうクソでっかい大剣で豚ロースを切り刻んでた。

 

 

 

2人ともソファにもたれかかったまま、熱気のない笑いを漏らす。

あの真面目の塊みたいな筋骨隆々の大使が、真剣な顔してソーセージを作っている様を思い浮かべたのだ。

 

私は、この物理的従兄弟と、今では完全に打ち解けあっていた。

ボービンドの戦車博物館では初対面だったので敬語でのやり取りだったが、ピッピが鉄血へ帰省するとの事でビスマルクお姉様の家にお泊まりする事になったこの日、我々は再開し、お互いを従兄弟として認識し、そして呑んだくれているのである。

 

まあ、最初にお邪魔した時は驚いた。

このハンサム男が下着姿のビスマルクお姉様の上で寝ながらあやされてたのだから。

本人曰く、最近になってようやく慣れたらしい。

 

 

「こら!坊や達!テレビを見る時は部屋を明るくしなさい!」

 

 

あまりの自堕落っぷりが見るに耐えなかったのか、お風呂から上がったばかりだと見えるビスマルクお姉様が部屋の電気をつけながら入ってきて、そう言ってくる。

 

 

「あっ、ああ、ごめん、ビスマッマ!気をつけるよ。」

 

「ビールも程々になさい。ロブくんもよ?」

 

はい、わかりました、ビスマルクお姉様。

 

「フルネームはやめて。ビス姐でもビス叔母さんでもいいわ。2人とも早く寝なさい。」

 

 

ビス叔母さんがそう言って部屋を出て行き、

私達は顔を見合わせた。

 

「"フルネーム"?…俺も知らないな。」

 

2人ともまた笑って、それで今晩はお開きということにした。

明日は朝からアイリスの工作員と会う。

私自身はその為に鉄血公国に来たし、ピッピは帰省の日程を合わせてくれたのだ。

幸い、私は鉄血の要注意人物リストには載っていない。

MI5もようやく私の物理的従兄弟をリストから外そうとしていた。

 

 

 

 

 

マイスタービールは、ビール純粋令に基づいて麦芽とホップのみで作られたものだった。

 

私の個人的な個人的な個人的な感覚でしかないが、私はコーンスターチとか米とか色々副産物の入ったビールを飲むと悪酔いする。

 

ビールの質のおかげかどうか実際のところは分からないが、今朝は頭痛も悪酔いした後の後遺症も何もなく、快調に起きる事ができた。

 

物理的従兄弟もそうであったようで、私達は朝それぞれのマッマに作ってもらった朝食を食べて、それぞれのマッマに髭を剃ってもらい、それぞれのマッマに弁当を持たされて、出発する事ができたのだ。

 

 

出発の間際に、ビス叔母さんが従兄弟を抱きしめた。

 

「私の大切なラインハルト、今日も無事に帰ってくるのよ?」

 

「マッマ、心配しなくてもちゃんと帰って来るから。」

 

「忘れ物はない?横断歩道渡る時は手をあげるのよ?知らない人に声をかけられても」

 

「分かった!分かったから、マッマ!もう行かないと」

 

 

それを見て対抗心が燃えたのかどうか知らないが、ピッピも私を抱きしめる。

 

 

「坊や、私の大切な坊や。今日も無事に帰って来るのよ?」

 

分かってるから、もう大丈夫だから。

 

「忘れ物はない?横断歩道渡る時は手をあげるのよ?知らない人に声を」

 

ええい!大丈夫だから!!!

 

 

 

 

結局、マッマ達による別れの儀式に10分程取られ、私達はようやく出発する事になった。

従兄弟も私も、もうそろそろ勘弁していただきたいと思うところは同じようで、苦笑しながら歩き出す。

待ち合わせの場所はビス叔母さんの家から徒歩圏内にあり、私達はそこへ向かう。

その間にも、色々と話をした。

 

 

「コィバは上手くやったみたいじゃないか。ウチの情報部じゃ話題で持ちきりだよ。」

 

まだ、結果が出てない。来月になるまで上手くいったかは分からんよ。

 

「そう謙遜すんなって。ウチのマッマもそろそろ飲食業に参入しようと考えてたみたいだし、喜んでたよ。」

 

いや、ビス叔母さんには悪い事したよ。

国際価格に連動させればもっと儲けられるのに。

 

「南米の政治不安でここのところコーヒーは値上がりしてるし、あと5年はゴタゴタしてそうだから。それはそうと…例の施設、何故コィバに作ろうとしたと思う?」

 

蟹工船と同じさ。

"水揚げ"して、そのまま加工できる場所が欲しかったんだろう。

ユニオンで拉致したKANSENを大西洋と欧州越えで北連まで運んで解体するより、コィバでやる方が簡単でリスクがないからね。

 

「俺もそう思う。流石だな、ブロ。」

 

 

 

 

そんなバカ話をしてるうちに、アイリス工作員との待ち合わせ場所であるビルに到着。

そのビルの四階にある、防諜設備の整った一室には既に2人のアイリス工作員がいて、私達を待っていた。

ちょっと、おい…お前ら…マジかよ…

 

 

「アイリス諜報部からやって来ました、シャルロッテ・デュノアです。どうぞよろしくね♪」

 

「同じく、ジャンヌです。貴方達、五分の遅刻ですよ!」

 

 

あのさぁ、君達さぁ。

どんだけ多方向な方面から来るの?

いや、その内の一つはもう見たんだけどさぁ。

庭で豚ロース切り刻んでるの見たんだけどさぁ。

増やす必要ないじゃん?

このSSの元ネタ何か分からなくなるぐらい、グチャグチャになるじゃん?

 

 

「ああ、これは失礼、Fräulein(お嬢さん)。私は鉄血情報部のラインハルト・レルゲンです。こちらはロイヤルMI5対外諜報顧問のロブ・マッコール。」

 

 

気の利く従兄弟が私を紹介してくれ、私は2人のお嬢さんと握手した。

 

シャルロッテは原作と同じく、明るい感じの金髪美少女だった。

今にも「●夏のエッチぃ」とか言い出しそうなくらい、そのまんま。

 

聖女も聖女そのままで、トリファスで着ていた制服姿だった。

多分、高速鉄道と同じ速さで走れる脚力はある。

その聖女と握手した時、こんな一言が漏れていたのを、私は聞き逃したかったが聞き逃せなかった。

 

「弟にしたい………」

 

 

おい、やめろ。

私はマスターじゃねえ。

これ以上人の家系図に色々付け加えるのはやめてもらえます?

第一それは、その台詞はルルハワ行った時限定でしょうが。

あの水着衣装着た時限定でしょうが。

これアズールレーンのSSなんだからさ、無理やりそっちに引っ張ってもらわないでいいすか?ねえ?

 

 

お互いの紹介が終わった所で、従兄弟ラインハルトは短刀直入に本題に入る。

彼はいくつか図面と資料を取り出し、北方連合の恐るべき計画…メンタルキューブをKANSENから外科的に摘発するというトンデモ企画…について分かっていることを話し始めた。

 

 

「さて、これはマッコール氏がコィバで入手した資料です。北連はコィバに接近し、この施設を建設しようとしていました。まだ詳しい所は解析中ですが…恐らく北連はユニオンからKANSENを拉致し、コィバで"加工"する算段だったと思われます。」

 

「なるほど…確かに見た目は病院ですが、普通の物には見えませんね。」

 

 

ジャンヌが資料に目を凝らし、私を方を向く。

 

 

「この資料に関して、ほかに情報は?」

 

私がコィバに来る三日前に、北連の工作員が2名ガストロに会ったそうです。

1人は工作員のアヴローラ。

 

「悪名高い北連の工作員だね…」

 

そしてもう1人はレクタスキーという技術者だそうです。

 

「レクタスキー!?ハンニノフ・レクタスキー!?」

 

 

突然、シャルロッテが驚きの声を上げて立ち上がる。

おうおう、どうしたどうした。

 

 

「あっ、ごめん、つい。ハンニノフ・レクタスキー…北方連合のマッドサイエンティストだよ。」

 

シャルロッテの言葉を、ジャンヌが引き継ぐ。

 

「先週、レクタスキーはアイリスに入国していたことが分かっています。そして、同じ時期に駆逐艦KANSENが1人行方不明に。私達は防げませんでした…」

 

「何てこった。じゃあ、このトンデモ企画の中心にいるのは、そのレクタスキーなる人物のようですね。」

 

「アイリスのみならず、コィバでも名前が挙がるという事はほぼ確実ですね。」

 

 

大きな前進と言える。

従兄弟ラインハルトがもたらした情報は本物であることは、まず疑いがないだろう。

そして、北連内部で充分な成果が上がらない事から、連中はその活動を"外へ"広げている。

中心にいるのはレクタスキーで、先週の内にアイリスとコィバで名前が挙がっていた。

外堀は段々と埋まりつつある。

 

 

「肝心なのは内部の情報だね。それがない内は…私達に出来る事はKANSEN達を拉致から守る事…」

 

 

シャルロッテがそう言い、従兄弟も同意する。

 

「そうですね。こちらの情報源に探りを入れさせ続けていますが、ご存知の通り北連は極度に閉鎖的な社会です。新たな情報があるまでは守勢に回る事になるでしょう。」

 

「では、どうやってKANSEN達を守るか…それも各国首脳にはまだ知らせずに、どうやるかを話し合いましょう。」

 

 

ジャンヌの提案で始まったこの試みは、レクタスキーが何者か割り出す事よりも難しい物だった。

結局あまり良い案は出ず、本日は解散となった。

 

 

外に出ると、もう日が沈んでいて、えらく腹が減ったと思っていたら昼食もとらずに夕方まで議論に集中していたのだ。

そらぁ、お腹もペコちゃんになるわ。

 

 

 

 

ビス叔母さんの家に帰ると、私達はそれぞれのマッマに迎えられ、抱きしめられ、あやされて、あやされたまま夕食を取った。

 

そして「今晩は昨日みたいな不健全なのはダーメ」とか言われて、2人ともお風呂上がったらベッドに寝かせられ、ピッピのソロオペラをビス叔母さんのピアノ付きで聞いて、寝た。

 

過保護×過保護=超絶過保護

 

この公式は永久に消えない、保証しよう。

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