バブールレーン   作:ペニーボイス

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ガチの・ロワイヤル

 

 

 

 

 

この日は、MI5長官であるNと言う人物から小言を言われるという、あまりありがたくない1日だった。

 

まあ、小言だけ言われたのではなく、お褒めのお言葉もいただいたわけだが。

あの白髪混じりの年配女性から、まるでダニエル・クレ●グを咎めるかのような口調でお小言も言われたわけだから、あまり良い気はしない。

あれじゃまるで私がマダガスカルでアフリカのどっかの国の大使館吹き飛ばしたみたいな言い方じゃないか。

 

 

 

 

 

鉄血公国から戻ったあと、私は"我らが友"…例のアイリス百合工作員2名と物理的従兄弟、そして私からなる少数のレクタスキー対策グループ…の要請に基づき、KANSEN拉致・分解の一件を長官に報告することになった。

 

もちろん、まだ従兄弟の情報源は新たな情報を入手できていなかったが、本格的にレクタスキーの試みを阻害するとなると、私達の分限ではどうにもならない部分が出てくるという結論に至ったのだ。

よって、百合工作員2名はアイリス情報機関の長に、私はMI5長官にこの件を知らせる事になった。

従兄弟は自分自身が鉄血情報部のトップゆえ、鉄血の情報アセット(ここでは、情報機関が活動に使用できる資材、人員等を指す。稀に非諜報機関員の協力者の事も指す)を好き放題使用できた。

 

私達4人の中の誰もが、"知る必要の原則"を重々承知していた。

つまり、こういった作戦は、知る必要のある人間以外には気取られる事さえあってはならないということ。

そうでなければ、その作戦は諜報活動とは呼べなくなる。

 

だから、アイリスの百合工作員2名と私は、ボスに直接この件を伝えなければならなかった。

幸い、3人とも自分達の直属のボスは、自身の組織のボスだった。

私の場合、肩書きは対外諜報顧問で、恒常業務から見た場合はただの連絡役だが、対外諜報活動に関する物事についてMI5長官に直接ご報告できる権利も添えられていたのだ。

 

 

私はミルバン11番地に戻ると、長官秘書に電話してアポイントメントを取り、約束の時間まで自分のオフィスで仕事して…実際は仕事してるノーカロマッマにあやされて…過ごした。

 

約束の時間の五分前には長官オフィスの入口に致し、幸い、長官に急な予定が入る事もなかった。

私は長官のオフィスに会い、白髪混じりの年配女性に例の件を報告した…もちろん、ダニエル・クレ●グがやるような砕けた感じではなしに。

 

 

「…そう。コィバの件といい、良くやってくれたわ。貴方の管轄かどうかは怪しいけれど。」

 

 

手渡した資料を見ながら、Nはそう言った。

皮肉なしに物事を言う習慣を忘れてしまったのだろうか?

官僚組織はいたずらに管轄や分限にこだわりたがる。

それが悪い事もあれば、良い事もあるのだが。

 

 

「失礼。最近、コントロールできない若い部下がいてね。つい棘のある言葉になってしまうの。気分を悪くしたのなら、ごめんなさい。」

 

 

ぜってえダニエル・クレ●グだ、間違いねえ。

 

 

「この件はそれとなく知っていたわ。二日前にアイリスの情報長官から秘密電話があって、北連の工作員にKANSENが拉致された可能性があると。まだ表向きにはできるような件じゃないから、どうするか手をこまねいてのだけれど、貴方が動いてくれていたとはね。」

 

出来得る事をしたまでです。

 

「そう…"彼"も貴方のように謙虚なら良いのだけれど」

 

 

ぜってえダニエル・クレ●グの事だ、間違いねえ。

 

 

「分かった、この件は貴方に任せるわ。直接連絡を取れる秘密回線も用意する。我が国のKANSENを北連の不躾な連中から守ってあげて。でも、くれぐれも慎重にやってちょうだいね。」

 

イエス、マム。では私はこの辺で

 

「レディの話は最後まで聞きなさい。実は貴方に言っておきたいことがあったの。」

 

………………………な、なんでしょうか。

 

「貴方の秘書がユニオン女であろうと、貴方がCIU打撃チームの管理をしていても…本来なら審問会を開きたいところだけど、黙殺してあげる。」

 

は、はあ………

 

「でも、一日中…その……何というか……良い歳して若いユニオン女にうつつを抜かしているのは考えものよ。」

 

 

ま、まさかっ。

まさか、私のオフィス、監視されてる??

 

 

「私生活の乱れは仕事の乱れに繋がるわ。いい加減、"ひとり立ち"なさい。今貴方を追い出さないのは、四六時中ユニオン女にあやされててもやるべき事はしっかりやっているし、それどころかコィバの件のような活躍もしてくれるから。でも、ユニオン女のせいでミスを犯すようになったら…そうね、彼女は裸足で真冬のロンドンへ放り出されるわよ。」

 

ひぃぃぃぃ!

 

「分かったら気をつけなさい。これでもだいぶ貴方を依怙贔屓してるのよ。」

 

 

 

 

 

ま、まあ、まあまあ。

Nが言いたい事はとても良くわかるんだよなぁ。

そうだよなぁ。30代のおっさんが仕事ほっぽり出して若い女性に丸投げしてあやされてたら示しが付かんもんなぁ。

 

 

自分のオフィスに帰ると、ノーカロマッマが早速自分の膝を手でパンパン叩いて出迎えた。

「さあ、ロブロブ。座ってください。」の意だが、私はゆっくり首を横に振り、部屋の四隅を見渡す。

ノーカロマッマはもう察したようで、顔を真っ赤にして謝ってきた。

 

いいや、謝るのはこっちなんだ、ごめんよ。

その後はノーカロマッマと一緒に普通にお仕事して、現在に至る。

 

 

 

時刻はもう夕方の6時過ぎで、私は車で30分の距離にある自宅に帰るために駐車場を歩いていた。

冬だけあって外は真っ暗。

プリンツェフがクリスマスにくれた車を、今は通勤に使っていて、私はその車まで歩いていく。

いやあ、本当に良い車だ。

流線状のフォルムと、ツヤがかった黒い塗装に赤いラインが、何となくプリンツェフを彷彿とさせる。

 

 

私はコートを脱いでから車に乗り込み、ドアを閉める。

そして、コートを助手席に乗せてエンジンをかけた時、私は異変に気づいた。

 

 

 

車の前方に、2人の男が立っていた。

2人ともガッチリした体型で、背が高く、そしてあご髭を蓄えている。

やがてサイドウィンドウの側にも1人現れて、私の方をずっと見ていた。

 

おい、そこを退いてくれ。

そう言おうとしてサイドウィンドウを開こうとする。

しかし、何故かサイドウィンドウは開かない。

仕方なく、ウィンドウ越しに怒鳴ったが、男達は表情一つ変えなかった。

 

 

暗がりの中で、サイドウィンドウの男が右手を懐の中に入れるのが見える。

なんだろう?

そう思って私はその男の行動に見入る。

だが、次の瞬間、男は目にも留まらぬ速さで

拳銃を取り出した。

サプレッサ付きのナガンリボルバー!

次いで前を見ると、目の前の2人がPPSサブマシンガンをこちらに向けていた!

 

 

 

終わった、私はそう思った。

この近距離で貫通力の高い弾薬を用いる拳銃と短機関銃で狙われれば、まず生きてはいられない。

男達はパニクる私をよそに落ち着きを払って私を狙い、ためらう事なく引金をひく。

 

閃光が走り、私は意識を失った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いう事はなく。

 

だが、十二分に驚いた。

 

何とプリンツェフ寄贈のセダンのフロントウィンドウとサイドウィンドウは、貫通力の高い7.62mmを物ともせずに弾いたのである。

 

サブマシンガンと拳銃の全弾が打ち尽くされた後、そこに残ったのは無傷のセダンと目を丸く見張る4人の男達。

内一人は車の中で、スピーカーから流れる電子音声を聞いた。

 

 

『良い夜ね、指揮官。気分はどう?』

 

こ、これはプリンツェフの声!

おい、プリンツェフ!サプライズか何かか!?

タチが悪すぎるぞ!!

 

『残念ながら、これはサプライズなんかじゃない。あんたは今、敵から攻撃を受けている。もう一つ加えると、私はプリンツェフじゃない。この車に搭載された人工知能…プリンって呼んでちょうだい。』

 

 

プリンツェフの甘ったるい音声でAIが自己紹介している間に、目の前の男達が大急ぎで弾倉を交換している。

 

 

わ、わ、わ、私は何をすればいいんだ、プリン!?

 

『んん〜、そうねぇ〜。今あんたに出来るのは、シートベルトをする事ね。安全な地域に出るまで、ちょっと荒っぽい運転になるわ。シートベルトをしないと、死・ぬ・わ・よ?』

 

え、運転って…

 

『私が運転するわ。今のあんたじゃアクセルさえ踏めやしないでしょうから。シートベルトはした?それじゃ、行くわよ。』

 

 

車がいきなり前に発進して、弾倉交換中の男達を轢き殺す。

次いで急にバックしながら前輪を横に振って、拳銃の男も轢き殺した。

 

 

『脅威は去っていないわ。後ろから高速で接近中の2両を感知。敵の増援ね。それじゃ、しっかりつかまってなさい。』

 

 

車はまた急発進して、夜の道路へ走り出す。

プリンの言う通り、後ろからは2両のセダンが高速で追いかけてきた。

 

唐突に車のギミックが発動し、私のセダンから撒菱がばら撒かれる。

追ってきた2両の内、1両が前輪をパンクさせ、派手に横転した。

 

 

車は片側3車線の幹線道路に出て、追っ手のセダンとカーチェイスを始める。

幸い、いつもなら帰宅ラッシュのハズなのだが、今日は通行する車が少なく、プリンは80kmという高速で走行していた。

 

 

残りは後1両か!?

 

『いえ、もっといると思う。次は向こうが撃ってくると思うわ。でも、伏せなくていいし、リラックスしてて?』

 

出来るかッ!!

リラックスとか出来るかッ!!

後ろからDP機関銃特有の射撃音が聞こえてて、バックウィンドウ越しにその弾弾いとる様子がしっかり見えるのに、リラックス出来るかッ!!

弾いとるからって、安心できるかッ!!

 

『じゃあ、脅威を排除するわね。』

 

 

セダンのトランクが自動的に開いて、何か細長い形状の物が現れる。

それは砲身で、それも折り畳まれたFLAK 30機関砲の物だった。

いや、マジかよ。

 

 

『ロケットパ〜ンチ♪』

 

ドン、ドン、ドン、ドン、ドン

 

追っ手のセダンは粉々になり、こっちが可哀想な気分になってきた。

もう、見るも無残。

 

 

『…しつこいわね。更なる追っ手を確認!1km後方に武装したバイク三両…ちょっと待って。500m先で味方と合流するわ。左方に注意!』

 

 

プリンの言う通りに、左側を見やった時、私は信じられない物を見た。

ダンケルクだ。

ダンケマッマが、すっげえ速度でママチャリ乗りこなしながら接近してくる。

おいおい、この車80km以上出てんだけど。

ママチャリで追いついちゃう?

 

おそらくプリンが、自動的に左側のサイドウィンドウを開く。

 

 

「Mon chou〜、怪我はない〜?大丈夫〜?」

 

 

ママチャリで80km以上出しながら、ダンケマッマがそう聞いてきた。

いや、どうなってんのよ、ダンケの脚力。

ママチャリで高速走行中のセダンに追いつくって、どうなってんのよ。

 

追っ手のバイクのうちの1両が早くも距離を詰めて来たようで、後方からサブマシンガンの発砲音が聞こえた。

 

 

「ちょっと!Mon chouに何するのよ!」

 

 

ダンケママは驚くべき事に、ママチャリを80km以上で走行させながら、腰のホルスターからブラウニング・ハイパワーを取り出して追っ手のバイカーに射撃を加え、命中させる。

バイカーはもんどりうって倒れ、横転したバイクから投げ出された直後に大型トラックに轢かれて死んだ。

あーあー。

 

やがて助手席ドアから買い物袋片手にダンケが乗り込んで来て、ドアを閉めた。

 

 

「大変だったわね〜Mon chou〜、ほらほらぁ〜いい子いい子〜。」

 

あ、あの、ダンケマッマ、まだ追っ手が…

 

「心配しなくてもすぐに片付くわ。ほら、見てて?」

 

 

ダンケマッマが乗り捨てたママチャリはまだ慣性でまっすぐ走っていたが、速度は落ちていた。

残りの追ってバイカー2人がママチャリに近づき、やがて追いつく。

その瞬間、ママチャリは大爆発を起こし、2両のバイク諸共巻き込んだ。

 

 

『脅威の完全排除を確認。これで安心して家に帰れるわね。』

 

安心とはいったい。

 

「まあ、まあ、Mon chou。運転はAIに任せて、後は私に甘えなさい♪」

 

ううううう、うん、ありがとう。

それにしても凄え車だな、この車。

 

『この車にもちゃんと名前があるのよ?』

 

へぇ〜、なんていう名前?

 

『鉄血28号』

 

……………ネーミングセンス。

 

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