バブールレーン   作:ペニーボイス

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今回は相当な胸糞成分が含まれておりますので、苦手と思う方は☆☆☆マークから読み始めていただけると幸いです。


II章 悪役はこうでないと
えっ!?私のマッマ多過ぎ!?


 

 

 

 

 

レクタスキーは、「あんたの使い走りはガキの使いもできないのか」と内部人民委員長に怒鳴りつけてやろうかと思っていた。

 

アイリスで拉致したはずのKANSENは、レクタスキーが直接拉致を指揮し、アイリス国内から連れ去るまでは順調だったのだ。

 

後は内部人民委員のスパイどもに移送を任せ、彼自身は"施術"の準備をする。

あの使い走りのバカ共にも、移送ぐらいできるだろう。

そう思い込んで先に帰国したのが間違いだった。

 

バカ共は国境を越えて鉄血公国に入国した途端、鉄血公国情報部員にまんまと捕まり、彼の"記念すべき第2回の外国産素体"はアイリスへ戻ってしまったのだ。

 

 

 

同志スタルノフが、レクタスキー自身にこの大失態の責任を取らされるというような事はないだろう。

 

この国の体制では、同志スタルノフが犯罪者だと言えば誰もが犯罪者になる。

実際に罪を犯しても、或いはそうでなくとも。

この失態の責任者もまもなく犯罪者になるだろうが、それがレクタスキーになるという事はまずあり得ない。

何故ならば、同志スタルノフにとってレクタスキーは必要不可欠な人物だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

北方連合海軍は、主力となる戦艦・巡洋艦級KANSENの圧倒的不足からして、ホルタ会談側の海軍に大きく溝を開けられていた。

セイレーンが跋扈するこのご時世、どの国も海軍を重点的に強化しており、それはシーパワーこそが世界の趨勢を決めてしまうほどの物になっている。

我らが北方連合がホルタ会談側に脅威を与える為には、まず北方連合の艦隊がバルト海・地中海に閉じ込められているこの現状をどうにかしなければならない。

つまりそれは、制海権を確保するという事なのだ。

 

 

ところが、北方連合海軍には、駆逐艦級KANSENばかりいて、主力を担えるKANSENが少ない。

メンタルキューブの入手量も決して多くなく、建造の度に担当者達は深い深いため息を吐いている。

 

同志スタルノフは最初、建造の担当者達を何人も処刑したり強制労働所にブチこむ事で解決を試みた。

この方法は大失敗だった。

何も変わらなかったし、建造の質はただただ低下した。

つまり、小型艦しかドロップしなくなった。

 

メンタルキューブの在庫は不足し始め、大型建造に必要なキューブにすら事欠く始末。

このままではバルト海から出るどころか、内陸まで押し込められてしまう。

 

窮した同志スタルノフは、まずはメンタルキューブの在庫を取り戻せないか考えた。

方法は何でもいい。

銅とスズから金を作り出そうとするような錬金術のようにも思えたが、何か打開策が求められたのだ。

そこで、猟奇的なマッドサイエンティスト、ハンニノフ・レクタスキーにスポットライトが当てられた。

 

 

彼のプランは、同志スタルノフを大いに感心させた。

外科的摘発によりメンタルキューブを再回収するという試みは、何らの医学的根拠のないものであったにも関わらず、同志スタルノフの全面的支持を得て推し進められる事になった。

彼には専用の設備が与えられ、過剰ドロップ気味の駆逐艦級KANSENが素体として送り込まれたのだ。

 

 

何らの科学的根拠を持たなかったにもかかわらず、彼の研究は一定の成果を示し始めていた。

 

 

当初は何の意味もなく駆逐艦を生きたままズタズタに切り裂いてみたり、セイレーンとの戦闘で死んだKANSENの遺体を結合させてみたりした。

無論メンタルキューブにつながるような成果は出ず、同志スタルノフは彼を叱責した。

いくら過剰にドロップしているとはいえ、貴重なKANSENを意味もなく殺されてはかなわない。

 

しかし、彼の研究は、何の成果も挙げる事が出来なかったわけではない。

 

 

 

 

ある時、ある若い海軍士官が国家反逆罪で内部人民委員部に逮捕された。

その男は実際に国家転覆を試みたわけではなく、ロイヤル出身の軽巡級KANSENとケッコンした際に、その幸福感で気が緩んでいたのか、同志スタルノフへの小さな不満を零してしまっただけだった。

だが、その小さな不満は結婚式に来ていた同期の海軍軍人の耳にも入ってしまったのだ。

 

同期は内部人民委員部の、海軍における"お目付役"でもあり、彼は同期である海軍士官をアッサリと裏切った。

若い海軍士官は執務中に逮捕され、極寒の極地へと送られた。

そして、残された若妻はレクタスキー博士の研究所に"招待"されたのだ。

 

 

レクタスキーは、既に海軍士官との間に愛の結晶を育んでいたそのKANSENを一切の躊躇なしに切り裂き、血塗れの身体の中からようやく長い間欲していたものを見つけ出した。

妊娠中のKANSENは、その神聖な胎内に子供の他に、メンタルキューブの断片とでも言うべき物を宿していたのだ。

レクタスキーはその断片から、"代用"メンタルキューブとも言える物を精製し、そしてそれは実際の建造に役立つ事が証明された。

 

 

早速レクタスキーの元に、新たな被験体となるKANSENが送られた。

不幸なその駆逐艦は、12時間に渡って欲求不満の内部人民委員達に凌辱され、その後麻酔も待てないマッドサイエンティストの手によって生きたまま切り裂かれた。

しかし、これはまたしても失敗だった。

レクタスキーは駆逐艦の胎内からメンタルキューブを見つけ出す事が出来ず、不幸なKANSENを一人無意味に陵辱して殺しただけだったのだ。

 

もう一人、先例と同じような、"外国産の"被験体が必要だった。

外国産のKANSENと"国産"KANSENを解剖・比較し、その違いが補える程度のものであるならば、代用メンタルキューブの量産も夢ではない。

そこでわざわざアイリスまで赴いて、1人で外出中のKANSENをターゲットに拉致を敢行。

拉致は成功したものの、役立たずの工作員達のせいで現在ご覧のザマである。

 

 

 

何も知らない内部人民委員長のベニヤは、セイレーン艦の遺体をサルベージして精製は出来ないのかといった質問を投げつけてきた。

新婚のKANSENからメンタルキューブを回収出来たのは、そのKANSENを生きているまま切り裂いた結果でもあるとレクタスキーは考えている。

今まで遺体では上手くいかなかったし、そもそもセイレーン艦を一々サルベージしていたのではコストがかかり過ぎて量産なぞ出来はしない。

 

内部人民委員長殿は尻込みをしているに違いない。

今まで国内の、何の罪もない国民達を何千人も極寒の極地へ送り込んできたくせに、相手が可愛らしいKANSENになった途端、あの木材に夢中の変質者は良心の呵責などというものを覚えたらしかった。

 

 

何が「暴露されれば国際問題になる」だ。

同志スタルノフの気分一つで、私もお前も極寒の極地へと送られるんだぞ、そっちの方がよほど恐ろしい。

いいから、自分の仕事に集中しろ。

あと1人、1人だけでいい。

連中のスパイは既に勘づいていて、勘のいいスパイの暗殺さえお前はしくじったんだ!

もし、"その時"が来れば、お前は私よりも早く強制労働所に送られる。

唯一の挽回のチャンスは、すぐにでも新しい素体を私の研究室に運び込む事だけだ。

分かったらさっさといってこい!

こんなくだらない話をしている時間さえ、今の私には惜しいんだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

えっ!?私の被襲撃率高すぎっ!?

 

「冗談で言ってるんじゃないの、坊や」

 

「そうよ、Mon chou。」

 

「皆んな心配してるのよ?」

 

「ご主人様が死んでしまっだら…ぐすっ、KANSENをやめだ意味もッ、えぐっ、私たちのいぎるいみもっ」

 

 

分かった、ごめんよ…ベル、泣かないで。

大丈夫だから、心配ないから。

ほら、見て?

現に君たちの前でピンピンしてるじゃないか、ね?

 

 

「いつまでもそうだとは限らない…敵が本気なら、坊やは四六時中狙われる事になる。だから、私たちの提案を受け入れて。」

 

 

ピッピは今、電話の受話器を片手に、反対の手で私の頭を双丘の谷間に挟みながら、説得という名の『今からこれやるから納得してね』宣言を行っていた。

 

つまり、私の同意があろうとなかろうと、それをするつもりなのだ。

 

 

いや、あの、マッマ、申し訳ないけど…。

MI5長官に咎められたばかりだし…

 

「Mon chouの安全に関わる問題なのよ!そのババアが聞き入れないなら、私ッ、また『夏のスゥクレ』来て引きこもるからッ!」

 

そ、それは脅し………なのかな?

で、でも流石にマッマ達もマッマ達でお仕事あるだろうし……

 

「そんな事なんかより、指揮官くんが第一に決まってるじゃないっ!息子が常に危険に晒されてたら、気が気じゃなくて仕事にもならないっ!」

 

う、うん、ありがとう、でもMI5って諜報機関だよ?

民間人がおいそれと出入りするわけには…

 

「私のコネというコネを使い回じまずっ!ご主人様ッ!ひっぐッ!ベルファストは『おはよう』から『おやすみ』までせっだいにお側を離れまぜんッ!ご主人様が何と言おうと、離れまぜんッ!!」

 

 

もう、私にはどうにもできそうにない。

今出来る事は、ピッピの谷間で安心できる香りを嗅ぎながら待つ事だけだろう。

ここまで来たらただの変態じゃん、私←知ってた。

 

 

「もしもし?『マッマ&ママ総合商社』のティルピッツという者です。長官にご用件が…いえ、そちらのご都合のよろしい時間を教えていただければ改めてかけ直させていただきますが…………え?ああ、すいません。お気遣い感謝します。」

 

 

んん?

少なくとも、私の知っているN長官はいち民間企業からの電話に時間を取られる事を嫌がるはずだ。

だから、私はピッピが怒鳴りだすものだと思ってビクついていた。

「大事な要件なんです!…いいから早く出せッ!!!」とかなるものだと思っていた。

 

 

「長官、初めまして。突然のお電話しつれい……………………え?……よろしいのですか?…いえ、私どもはてっきり反対されるかと…あ、ありがとうございますっ!はいっ、感謝してもしきれませんっ!」

 

 

もしかしてだけどぉ〜もしかしてだけどぉ〜長官始めからこういう事予測してたんじゃないのぉ〜?

そういう事なのっ?

 

 

「はい、坊や。長官が坊やと直接話したいって言ってるわ。」

 

うげっ、マジか。

嫌な予感しかない。

 

 

ピッピは私を谷間から解放して受話器を渡すと、とっても喜んだ様子でほかのマッマの所へ駆け寄っていった。

私は非常に気まずい気持ちになりながら、恐る恐る受話器に耳を近づける。

 

 

ど、どうも、長官…こんな夜半にすいません…

 

『……………』

 

あ、あのぉ、申し訳ありません、昼にあんなに忠告受けていたのにも関わらず………

 

『……1年間』

 

はい?

 

『1年間…ロイヤルの情報機関が、鉄血のティルピッツの所在を知るまでに、1年間かかったわ。その後更に2年費やして、攻撃を何度も試みた。結果は惨敗。』

 

は、はあ……………

 

『ティルピッツのおかげで、私達の艦隊は戦力を温存せざるを得なかった。3年もね。ところが、それが今は30代の冴えない男のところにいて、"坊や"だとか言ってる』

 

うぅ……………

 

『…貴方を責めたい気持ちがないわけじゃないけど、その気持ちの十倍以上、貴方を心配している。ロンドン市警は襲撃者達の身元を確認した。全員暗黒街のクズ共よ。』

 

待ってください。

暗黒街から狙われるような事は何一つ

 

『分かってるわ。私の思うに、雇い主は他にいる。………貴方はローレンス・ウィンスロップ子爵を倒し、北連の諜報的橋頭堡を撃破した。でも、連中はその後も諦めていなかった。別の橋頭堡を作ったのよ。それも、厄介な場所にね。"連中は愚か者だけど、経験から学ぶ術を持っている"』

 

 

"賢者は歴史に学び、愚者は経験から学ぶ"

北連諜報部はマフィアと手を結んだんだ!

なんてこった!これはたしかに厄介だぞ!

 

 

『前に…チーム・ユニオンが取り逃がした男がいたわよね?監視カメラの映像で、その男がマフィアの幹部と接触していた事が確認された。もう一つ、貴方の知らない情報を教えてあげましょうか?』

 

ええ、お願いします。

 

『貴方の従兄弟も今夜鉄血国内で襲撃された。アイリスでは工作員2名が襲われた。

幸い、3人とも無事よ。』

 

襲撃者はやはり…犯罪組織の者ですか?

 

『ええ、その通り。犯罪組織相手となると、貴方は大変な危機に瀕していることになる。何と言っても、奴らは北連の工作員より周囲に溶け込めるし、いつでも貴方を狙えるわけだから。…………だから………あぁ!もう!今回は特別よ!貴方、いったいどれだけ私に肩を持たせるつもりなの!』

 

も、申し訳ない…

 

『ティルピッツ…孤高の女王、文句なしの戦闘力の持ち主。ダンケルク…ネルソン級に引けを取らない戦闘艦。セントルイス…防空の女神、幸運のKANSEN。ベルファスト…言わずと知れた我がロイヤルの優秀な戦闘メイド。』

 

………

 

『彼女達は、これから短期間、臨時のMI5要員になるわ。任務は貴方の護衛っ!認めたくないけど、どのMI5の警護要員よりも遥かに彼女達の方が優秀よ!』

 

あ、あの、何とお礼を言っていいか

 

『お礼はいいっ!その代わり、北連のロクデナシ共の計画を必ず叩きのめしなさいっ!話は終わりっ!!』

 

 

電話は乱暴に切られたが、全くもって悪い気はしなかった。

この判断は彼女のキャリアを危険に晒すのに充分な物だろう。

だが、それでも長官は私のために折れてくれた…必ず期待に沿おう。

 

 

 

「アタシ達も忘れてもらっちゃ困るぜ、ボウズ。いや、今は大将だったな。」

 

おお、ワシントン。

 

「ロブロブ、コロラドがあの男をロケット砲で吹き飛ばそうとした理由、分かったんじゃないですか?」

 

うんうん、ノーカロさん。

ロケット砲じゃなくても良かった気しかしないけど、街中で大暴れした理由は分かった。

君たちも君たちなりに考えて行動してたわけだ。

やり方に問題がありすぎる気しかしないけれど…。

 

「安心しな、ロブ坊。そっちのマッマ達にあたしらが着けば怖いもんなんてねえよ。」

 

「メリーランドの言う通りだ。ロイヤルではロブちゃんが我らの指揮官。何なりと使ってくれ。」

 

「同じく」

 

 

メリーランド、コロラド、ウェストヴァージニアもありがとう。

ありがとう、ありがとう。

でも使う場面はよぉうく考えさせてもらうわ、ごめんね。

君たちの出番はきっと…本当になにかを吹っ飛ばさなきゃいけない時になるだろう。

 

 

 

 

さて、4代マッマとチーム・ユニオンという心強すぎる"お守り"が私についた。

カーチェイスのお礼参りは、そう遠くないだろうね。

 

 

 

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