『おう、そろそろ電話がある頃だと思ってたんだよ、ブロ。良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?』
悪い知らせから。
『一昨日の夜襲撃された。連中、家にバズーカ砲を打ち込もうとしたんだぜ?でもビスマッマが片手で受け止めて握りつぶしてくれた!家にビスママがいなきゃ、俺は今頃…』
おや、電話機が壊れたようだ。
なあ兄弟、バズーカ砲弾を片手で受け止めたって言ったか?
言ってないよな、そんなわけはない。
で、良い知らせは?
『ふははっ、この野郎。まず、俺はこの通り生きてる。それから、拉致されていたアイリスのKANSENを救出した!』
うぉお!!よくやったなあ、兄弟よ!!
淑女達は喜んでたろ!?
『アイリスの2人も一昨日襲撃されたらしいが、鬱から躁になったみたいだったよ。…お前だけ襲撃されなかったのか?なんか不公平だな。』
おいおい、私も危うく蜂の巣にされかけたんだぞ。
プリンツ・オイゲンがくれた車のおかげで、なんとかなったけどね。
『オイゲンがいるのか?今度ウチのヒッパーに会わせてみよう。』
やめろ、やめとけ。
もし、会わせるなら、そっちの家でやる。
…それはともかく、厄介だな。
『ああ、ブロ、厄介だ。こっちは2件ともウクラニアのギャング団だった。そっちは?』
ギャングなんてもんじゃない。
DRA(ダブーロ共和軍)。
『うわ、最悪だ。ウクラニア人は遠い国境で防げるが、そっちは間近だし、北ダブーロから入ってこれる。それも折り紙つきのテロリストが。』
今回の襲撃者は全員暗黒街に住んでるギャングのメンバーだったが、数週間前には北ダブーロに入ってた事が分かってる。
三角関係だよ。
北方連合がDRAに資金を供給し、DRAがギャングを訓練し、訓練されたギャングの一部が北方連合の仕事をこなす。
おかげで証拠が掴めやしない。
『DRAには気をつけろよ。おそらく欧州いちよく訓練されたテロ組織だ。北方連合もギャングが使えないとなりゃ、金をもう少し積んでDRAの隊員を送り込んでくる。』
分かってるよ。
こっちにも優秀な警護員達がいる。
『あのな、ブロ。俺もただこの椅子に座ってたわけじゃない。DRAはその辺のギャングとはわけが違う、一種の軍隊だ。いくら優秀なMI5の警護要員でも…』
ピッピママ。
『ごめん、大丈夫だわ。』
ともかく、お互い気をつけよう。
この調子じゃ命が幾つあっても足りない。
『そうだな、まるでボクシングだ。ワンツー、ワンツー。自らを守りながらジャブを繰り出す。』
私達にあのグロ写真をもたらしてくれた、そっちの"ジャブ"はそろそろ効いてきそうかな?
『おいおい、相手は全盛期のモハ●ド・アリなんだぜ?俺の"ジャブ"なんかじゃよろけてもくれやしない。根気よく続けるしかないな。お前も早くDRAとの場外乱闘を終わらせて、パイプ椅子でも持ってきてくれ。』
あーあー、わかったわかった。
モ●バーグの12ゲージでも持ってくよ。
『はははははっ、っと、そろそろお互いの仕事に戻らなきゃな。それじゃ、良い一日を。』
そちらこそ、平穏な一日を。
電話は笑い声を最後にプツリと切れ、私は受話器を元に戻す。
デスクから目を上げると、N長官とスーツ姿のマッマ達がそこにいた。
「準備はいいかしら?」
あのぉ、長官。
本当に私が行かなきゃダメなんですか?
「いい加減に諦めなさい。これは国防省から要請でもあるの。」
ふぁぁぁぁぁぁ………
「我々と北ダブーロは切っても切り離せない関係にある。1920年代のダブーロ内戦以来、この地域の安定化は我が国の重要課題の一つなのよ。北方連合がDRAと本格的に組み始めれば、私たちもレクタスキーへの対策に集中できないわ。」
「坊や、本当は私も嫌なの…あなたを危険な目に合わせたくはない。でも、前門の狼に加えて、後門の虎がやって来つつある。」
「本当に辛い決断だったけど、Mon chouの安全の為でもあるし。」
「いつまでも落ち着いてられないのは、あなたも嫌でしょ?指揮官くん?」
「ご主人様。このベルファストの…いえ、この祖国のためにも、どうかご覚悟を決めてください。」
うんうん、仕方ない、分かった。
それじゃあ行こうか。
大丈夫だよね?
私さっきの電話で死亡フラグとか、立ててないよね?
大丈夫だよね?
「ええ、大丈夫よ。仮に立てちゃったとしても…私の身体を隅々まで使ってでも、坊やを守り通すわ。」
ダブーロとは、史実の世界でいうところのアイルランドの事だ。
一説には第二次世界大戦中、IRA(アイルランド共和軍)はナチスドイツからの援助を求めたという。
この世界にナチスドイツは存在しないが、ここでのIRAに相当するDRAも外からの援助を求めているはずで、その相手が北方連合であっても全くおかしくない。
むしろ順当な考え方だ。
私は今回、囮作戦に使われる事となった。
MI5は、北方連合が私の殺害をDRAに依頼したという情報を掴んだ。
それも前回のようなギャングではなく、高度な訓練を受けた隊員を派遣する可能性が高いという。
普通ならそこで私は守られるハズだと思うのだが、N長官は頭がキレる女なのか、あるいは単純にイカレているのか、私をエサにDRAの暗殺者を誘い出して撃退するという大胆不敵な作戦を実行する事にしたのだ。
いや、イカレてるでしょ、これはもう。
十中八九撃たれそうな気しかしない。
『心配なんでしょうけど、今回はウチで一番腕の立つエージェントが作戦に参加してる。コントロールに困ることはあるけど、任務は絶対にこなすわ。』
どうせダニエル・クレ●グだろうがッ!!
しかも大抵0●7が守ろうとした重要人物って死んでなかっっけ!?
頼むよ!?
マジで頼むよ!?クレ●グさん!?
さて、今私は予定されていた地点をピッピとダンケの2人と共に歩いていた。
ベルは300m後方で車を運転し、助手席に乗るルイスはM1D小銃を携行している。
この地点は、いわゆるダウンタウンで、車1台と通行人多数が通れるだけの道路があり、その両端にはアパートメントが連なっている。
窓という窓からこちらを見る事ができるし、遠くの方には教会の塔が見えていた。
いや、これ、地点の選定悪過ぎでしょ。
狙い放題やん。
今回の作戦はわざと私を敵に撃たせるようなものだが、その為にピッピとダンケがすぐ側にいる事になっている。
彼女達はスーツの下に特別製の防弾チョッキをつけていて、それはスーツの外見上には何の変化ももたらさないくせに7.62mmライフル弾を防ぐことができるという代物だ。
でもなぁ、頭撃たれたら元も子もないんだよなあ。
嫌だよ?私、絶対に嫌だよ?
私だけじゃなく、ピッピとダンケの頭吹っ飛んじゃうとか、絶対に嫌だからね?
「大丈夫よ、坊や。ルイスの腕なら、敵が2弾目を放つ事はないわ。」
また頭の中読みやがって…いや、そういう問題じゃなくてね。
ピッピ危ないじゃんかぁ。
「ああ、坊や。私の坊や。優しいのね、生きて帰ったらたっっっぷりあやしてあげる。でもね、坊や。母親は自分の赤ちゃんを守ろうとする物よ…例え、命に代えてでも。」
フラグ立てんなあああああ!!!!
それは死亡フラグ以外何物でもないだろうがああああああ!!!!!!
やめろぉぉぉおおおお!!!!!
もう二度とすんなあああああ!!!!!
「静かにして、2人とも。10時の方向に怪しい男。」
道路が緩やかで大きな左カーブを描く場所に差し掛かった時、ダンケが喚く私を止めて、こちらから見て左前方にいる郵便配達員に注意を促す。
いや、ダンケ?別に怪しいところとか見受けられないけど?
「Mon chou。私の調べだと、いつもならこの時間帯にこの地区で配達をしている郵便配達員はいない。でも、彼はそこにいる。一応の警戒は…」
「伏せてッ!!!」
ピッピが何か勘づいたのか、彼女は私とダンケにタックルし、3人は手近の物陰に飛び込む形となる。
直後、先程まで私が居た場所にフルサイズのライフル弾が着弾し、その後銃声が聞こえた。
他の通行人がパニックを起こして逃げ惑う中、ピッピは物陰…道路脇にあるアパートメントの階段の大きなステップ…から頭を最小限に出して前方を見た。
「教会の塔にスナイパー!700m以上の長距離射撃よ!」
言わんこっちゃなかろうが!
ぜってえあの塔ジャク●ン二等兵がこもってるって思ったもん!
ぜってえ聖書の言葉を唱えながらスプリングフィールドしてくると思ったもん!
自走砲もってこい、自走砲!!
私が喚いている間にも、ピッピが短銃身MG42を取り出して教会の塔に射撃を加え、ダンケがMI5への連絡を行なっていた。
「"マッマ"から"グランマ"へ!狙撃による攻撃を受けています!座標は………」
「私が制圧している間に、坊やを安全な場所きゃあッ!」
突然、サブマシンガンの銃声が聞こえて、ピッピがこちら側に倒れてくる。
見れば先程の郵便配達員が、STENを撃ちながら、こちらへ接近しつつあった。
私がピッピを今利用している遮蔽物の方へ手繰り寄せている間に、ダンケがMP40を使って郵便配達員を始末した。
ピッピ!?大丈夫!?ピッピ!?
「………だ、大丈夫よ、坊や。ちゃんとチョッキが機能したみたいね。」
ピッピの出血がないことを確認し、ふぅと一息をついた時、M1D小銃の銃声が聞こえた。
「敵のスナイパーを排除!指揮官くん!カヴァーするから、こっちまで下がってきて!」
ルイスが小銃を構えたまま、先日のSFSによる訓練で習った通りに私を後方に下げようとしていた。
彼女は丁度、脇の小道に身を隠しており、遮蔽物から通り全体を見渡せる。
だが、それでも、私の正面にあったアパートメントから水冷ジャケット付きの長い銃身が伸びてくるのを、発見する事は出来なかった。
ヴィッカース重機関銃独特の銃声が鳴り響き、密集するアパートメントに反射して凄まじい音が通りを支配する。
7.7mmライフル弾が、最初はルイスが隠れるコンクリートを削り、次いでベルの乗る車のフロントグリルに穴を開け、最後に私達の隠れるステップに突き刺さった。
「大丈夫!?指揮官くん!?」
うん!なんとか!そっちは!?ベルは!?
「2人とも無事です、ご主人様!」
「指揮官くん!敵車両よ!」
何だとこん畜生!ダンケ、鏡持ってない!?
「ええ、あるけど…」
貸してくれ!!
私はダンケから借りた手鏡を、コンクリート製のステップから少しだけ出して通りの様子を伺う。
なんてこった、パンナコッタ。
通りの前方からは雑な装甲化を施されたジープが来ていて、その後ろからは10人ほどの男達がSMLEを手に続いていた。
ジープの運転手は極めて慎重に運転していて、徒歩兵が遮蔽物として利用できるようにゆっくり進んでいたが、着実にこちらとの距離を詰めている。
なんてこった!!回り込まれるぞ!!
唐突に背後からトンプソンの射撃音が聞こえた。
ベルがルイスと同じ小道にいて、後方を撃っている。
その方向からはDRA隊員と思しき男達が、前方の連中と同じくSMLEを持って接近しつつあった。
「ご主人様!退路を断たれました!」
畜生っ!MI5は何してる!?援護は!?
「今連絡をとってるわ、Mon chou!だけどまだ…」
無線機を貸して!
私はダンケに手鏡を返し、代わりに無線機を受け取った。
長官!!挟まれてます!!クソDRAが前と背後から迫ってきてます!!援護はまだですか!?
『どうにか耐えて!今チームがそちらへ向かってるわ!』
アンタお抱えの腕っこきはどこ行ったんだ!
『連絡が途絶した!どうにか耐えて!それしか生き残る道はない!』
無茶言わんでください!あぁ、こん畜生!
だから言ったんだ、0●7が守ろうとした人物って大抵死んで
♪テテッテレ〜テレレ〜
どこかで聞いたBGMと共に、オートバイのけたたましいエンジン音が聞こえてくる。
それは前方から聞こえてきて、私はまたダンケから手鏡を借り、前方の様子を伺った。
金髪碧眼のその人物は、片手に50発マガジンを装着したM1928短機関銃と、反対の手にライフルグレネードを取り付けたM1小銃を持っていた。
前方のDRAの背後からやってきたその人物は、まず、前面しか装甲化されていないジープの背後まで回り込むと、M1928を片手で撃って、ジープの乗組員と後続徒歩兵を掃射する。
ジープの乗員3名と後続歩兵は突然の奇襲になすすべもない。
全員が45口径弾の餌食になってその場に倒れこむと、金髪碧眼はM1928を投げ捨ててM1小銃を後ろ向きに構え、そしてライフルグレネードを放つ。
ライフルグレネードは見事に命中し、ヴィッカース重機関銃のある小部屋を粉砕した。
金髪碧眼はそのままオートバイでこちらへ向かってきて、私のいるステップの手前で乗り物を乗り捨ててこちらへスライディングしてくる。
その間にもM1小銃を再装填し、私の傍に来た瞬間に2発速射して私から見て背後にいたDRA隊員2名を倒した。
あんた、誰?(分かりきってるけど。)
「ポンド…ジェイムス・ポンド」
ジェイムス・ポンドはそのまま射撃を続け、残りのDRA隊員を釘付けにする。
それにまずピッピのMG42が加わり、次いで他のマッマ達による射撃が加わると、DRA隊員達との形勢が完全に逆転した。
生き残った最後のDRA隊員が射殺されたころ、ようやくロンドン市警とMI5の救援チームがやってきた。
おっせえよ、本当にもう。
いやあ、危なかった、けど助かった、貴方にはなんとお礼を言っていいか…アレ?
ジェイムス・ポンドは早くもその場から居なくなっていた。
まあ、なんとまあ、忙しい男だ、まったくもう。
「DRAのロンドン支部は位置がばれ、ウチの襲撃を受けて壊滅した。テロリストに情報を漏らしていた不届き者も捕まった。全て貴方のおかげよ、マッコール。」
N長官は満面の笑みだったが、私の方は色々と溜め込むことになった不平不満を口に出そうか出さまいか迷っていた。
危うくマッマ達も私も死ぬところだったのだから。
「DRAはMI5にとって宿敵であり、長年の脅威だった。貴方の暗殺計画を掴んだ時、全てを同時に阻止する方法が思い浮かんだの。…北連の要請に応えれば、DRAは本当にスポンサーを手に入れられる。だから全力を尽くすはず。MI5に潜り込んだネズミも使うし、支部の動きは否応なく目立ってくる。でも、貴方を犠牲にするところだった。本当にごめんなさいね。」
ま、まあ…まあまあ。
ただ、次回はもうないですよ?
マッ…いや、彼女達もカンカンになる。
今回は助かったし、彼女達もMI5に参加する対価だと感じたようですが…
「そうね。安心して、次はないわ。…でも、こうも思わないかしら?DRAはロンドンでの活動拠点を失い、北連はまたしても橋頭堡をひとつ失った。ギャングとの繋がりはまだあるでしょうけど、DRAに比べれば彼らはアマチュアよ。」
私は…いえ、我々は、自身に迫る脅威を取り除き、その上でこの冷戦でまたしても小さな勝利を獲得した。
これの示すところは…つまり…
「ええ、そう。貴方は背後を気にせず、レクタスキーに集中できる。ようやっとね。」
そうですね…今日は散々な目にあった。
彼にも散々な目に遭ってもらいましょう。
私が駐車場に降り立った時、車の側にはコートを着込んだピッピがいた。
彼女は作戦中の被弾箇所を病院で検査してもらっていたため、他のマッマと一緒には帰らなかったのだ。
「お疲れ様、坊や。今日は酷い一日だったわね。」
うん、まあ。身体は大丈夫?
「ええ、異常なしよ。ピンピンしてる。」
そうか、それは良かった。
………本当にごめんよ、ピッピ。
「坊やが謝る事なんて何一つないじゃない。貴方のせいなんかじゃないわ。それより、車に乗りましょう。」
私は運転席に乗ろうとしたが、ピッピがそれを止めて、後部座席に座らされた。
ピッピは私からカギを取り上げると、エンジンをかけ、そのまま運転席には座らずに、後部座席乗り込んでくる。
「本当のこと言うと、坊やにはこの仕事を辞めて欲しい。貴方には私の会社の株式があるし、働かなくても暮らしていけるハズ。」
ピッピ、それはそうだけど…
「分かってる。貴方は優しい子だもの。」
いや、違うんだ、ピッピ。
ただなんか、ずっとプータローしてたら本当にただのビースト(赤ん坊)になりそうで怖いんだよ。
あ、いっけね。ピッピ、私の頭の中読めんじゃんかよ。
「安心して、坊や。今は読まないでおくわ。…プリン、家までの運転を任せても良いかしら?」
『仕方ないわねえ』
「できれば遠回りでお願い」
『…………はぁぁぁ。分かった。安全速度で運行するけど、急ブレーキがないとは保障しないわよ?』
「それで十分。さて、坊や。私は有言実行の女よ?」
ピッピはそう言って、着込んでいたコートをはだけさせる。
お〜い、下着やないか〜い。
まるでどっかの変態やないか〜い。
「今日襲撃を受ける前、私がなんて言ったか、覚えてるでしょ?」
うん、覚えてるけどまだビースト(赤ん坊)になれる時間じゃな
「は〜い、坊や〜、マッマでちゅよお?」
マッマ大ちゅきでーちゅ!
「私のこと、どれだけ好きか教えて?」
いっぱいちゅき、でちゅ。
『………最近見たホラー作品より、後部座席の方がよっぽどホラーね。』