バブールレーン   作:ペニーボイス

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マッマの休日

 

 

 

 

DRAを叩き潰した翌日、私は長官から休日を与えられていた。

理由はここ最近の戦闘によるストレスうんたらかんたらで、今後の業務に支障が出ないようにうんたらかんたらという物だ。

 

だからこの日は朝になってもゆっくり寝ていたし、久々にピッピとのランニングをサボってしまったわけだが、当のピッピもぐっすりと寝ていた事もあり罪悪感は湧いてこない。

 

 

問題は昨日、ミルバン11番地の駐車場から家に帰る途中の車の中で記憶が途切れていて、気づいたら下着のピッピの上で爆睡こいてた事だった。

 

いつもなら…こう言うのもおかしいけど、ピッピの他にダンケ、ルイス、ベルがいて、5人で眠ってる。

それが今日はピッピと2人きりで寝ていたし、私が少し動く度に「ん♡」とか言う物だから血の気が引いていくのを感じた。

 

 

やっちまったか…ひょっとして………

 

やがてピッピが目を覚ます。

 

 

「…あら、坊や。おはよう。昨夜の坊やは格別に素敵だったわよ?」

 

 

やっちまったじゃねえかよ、バカ野郎!!

別の方向でビーストにならないように、あれだけ注意しててこのザマかよ!!

うわあああああどおおおおおしよおおお。

マッマのビースト(赤ん坊)でいるつもりだったのにぃ!

気づいたら別のビースト(獣)になっちゃったよおおおおお。

 

「何言ってるの、坊や?私は昨日の貴方のあやされっぷりが素敵だって言ってるのよ?心配なら、"見てみる?"」

 

 

ピッピがパンティを脱ごうとしていたので、慌てて止めて、ピッピではなくベットの方へ頭を預けた。

 

ふぅ、ビックリした。寿命が確実に縮んだよ、これ。

よく見ればこっちはちゃんとパジャマ着てるし、なんか妙にスッキリしたとかそういう事もないね。

 

でも、他のマッマは?

 

 

「昨日は貴方が車の中で寝込んじゃって、帰ってからは皆んなで一緒に寝たの。ルイスは今朝ちょっとした仕事があるって言ってたし、ダンケはフォルバンとお菓子を作るって言ってたわ。あと、ベルはヘレナと牛さんのお世話。」

 

な、なるほど。

 

朝っぱらからえらい高血圧になった事は間違いないが、おかげで二度寝しようという考えが浮かばなくなった。

私はベットから起き上がると、まずシャワーを浴びる事にする。

しかし、ピッピが先に入りたがっていたようなので、紳士たる私は譲り、まず、朝の挨拶をして回ろうと思った。

 

 

 

 

「あら、おはよう、Mon chou。今朝はお寝坊さんなのね。」

 

「よほど疲れが溜まってたんですね。今日はゆっくりしたほうがいいですよ。」

 

 

キッチンでダンケとフォルバンが、一緒にお菓子を作っていた。

 

お菓子を作るっていうと、何を思い浮かべるだろうか?

エプロンを着てニコニコ笑う女の子が、ボールに入った柔らかな小麦粉を捏ねたりだとか、スポンジ生地の上に生クリームをのせたりだとか?

机の上にチョコレートやお砂糖が並んでいて、オーブンが余熱されてたり、使い終わった道具が流し台に並べられている光景?

 

 

残念ながら、我が家ではそういったお菓子作りを見る事は出来ない。

 

ダンケは重々しい臼を汗だくになりながら回していたし、フォルバンは真剣な表情で見るからに固そうな生地を捏ねまわしたり頭上に持ち上げてピザのように回したりしている。

 

彼女達の背後では、オーブンの代わりに窯が轟々と燃える火を蓄えていたし、机の上にはチョコレートではなく、カカオや牛乳や蜂蜜やバターが並んでいた。

そして使い終わった道具はシンクではなく、どこかの井戸で汲み上げてきたらしい水に満たされた桶に入れられている。

更に言えば、2人ともエプロンはつけず、代わりに修道服を着ていた。

 

 

なんなんだ、この溢れ出る16世紀感は。

 

あのさ、復活祭に捧げる特別なお菓子か何かでも作ってるわけ?

もうちょっと…現代に適応してもいいんじゃないかな?

ほら、ダンケも鎮守府じゃオーブンとか使ってたじゃん?

 

「あんなのじゃ本当のパティシエールとは言えない…Mon chou、私達は原点に戻るべきなの!」

 

 

私は一体何を見ているのだろう。

原点とは一体何なのだろう。

まあ、私がとやかく口出しできる事じゃないし、後は2人に任せよう。

好きなようにやってもらうべきだなのだろう。

うん、きっと、それが一番大事な事だ。

 

 

 

ダンケに挨拶したついでに、私はパジャマの上からコートを着て、コーヒー片手に庭に出てみた。

案の定、ヘレナとベルが牛さんを散歩させている。

 

 

「あっ、指揮官!おはよう!」

 

「ご主人様、おはようございます。」

 

おはよう、2人とも。

牛さんは調子良い?

 

「ええ、すごく元気よ?この子、大人しい子だし、人懐っこいみたい。指揮官も触ってみる?」

 

 

…マッマ……ヘレナマッマ…いかんいかん。

溢れ出るバブみに飲み込まれるところだった。

ヘレナも勧めてくれる事だし撫でてみよう。

よしよし、元気になってくれて何よりだ。

 

 

「もおおおおおおおおおッ」

 

うへ、ぐへ、舐めるな、舐めるんじゃない

 

「懐いてる証拠だわ。この子も指揮官の事が大好きみたい。」

 

 

牛さんのザラザラした舌による愛情表現を受けながら、私はシャワー浴びた後に庭に出なくて良かったなとも思っていた。

うん、まあ、可愛い。

もう牛タン食えないよ。

毎回牛タン見るたびにこの牛さん思い出しそうだもん、食えないよ。

 

 

 

庭にはもう1人、ちょっとおかしな娘がいた。

クラシカルな服に身を包み、日傘を広げて、「うふふふ、あははは」とからやってる。

その娘とその周りだけ、明らかに作画…いや、情景が違う。

京●アニメーションが手掛けた、みたいな雰囲気になってる。

 

「愛してる………ええ、私も愛しています、少佐殿」

 

かける言葉が見つからない。

もう、そっとしておこう。

何故こうなってしまったんだ、エンタープライズ。

きっと私が「お客様がお望みなら何処へでも駆けつけますって言ってみて」とかクソみたいなお願いしたからこうなったのだろう。

すまん、すまない、エンタープライズ。

どうか幸せでいてくれ。

 

 

 

もうそろそろシャワーを浴びようかと玄関に向かった時、表の通りからグラーフ・ツェッペリンとヒヨコパイロット2名がやってきた。

 

「主は我らを導きたもう…あぁ、なんと甘美な…」

 

とても穏やかな微笑みを浮かべるグラツェンは、両脇を同じように微笑むパイロット2名に挟まれながら、聖書をしっかりと抱えてこちらへ向かってくる。

 

「信仰はいつも貴女に寄り添い、心を鎮め、助けてくださるでしょう。」

 

「グラーフ、日曜日のミサにも必ず参加しましょうね。」

 

3人とも穏やかな雰囲気のまま、家の中へ入っていった。

グラーフ・ツェッペリン?

君この間まで「もし神がいるのであれば云々」言ってなかったっけ?

 

 

 

さて、そろそろピッピもお風呂出たかな?

家に戻った私は、コートを脱いでお風呂へ向かう。

牛さんの愛情表現はありがたかったけどベタベタするし、たぶん昨日の夜はお風呂に入ってない。

身体を清めて、この休日を有効に使おう。

 

お風呂場へ向かい、その扉を開いた時、私はおそらく今入浴を終えたばかりのピッピママに出くわした。

まだ髪が濡れていて、バスタオル一枚でその豊満な身体を包んでいる。

 

 

「きゃっ!…坊や?………もぅ、坊やのエッチぃ」

 

………ベタだなぁ。

ごめんよ、ピッピ。外で待ってる。

 

「私こそごめんなさい。長風呂し過ぎたわ。良いお湯だから、ちゃんと肩まで浸かって温まるのよ?」

 

うん、ありがとう。でもシャワー浴びるだけで良いかな。

 

「ちゃんと肩まで浸かって温まるのよ?」

 

うん、でも、シャワー

 

「ちゃんと、肩まで浸かって、温まるのよ」

 

はい、わかりました。

 

 

ピッピが出た後、私はお風呂に入り、シャワーで頭と身体を洗って、湯船に入る。

ふぅー、温まるぅ。

乳白色のお湯は本当に良い湯加減で、たぶん温泉の素か何かでも入れたのかな、すごく心地よかった。

…ピッピが引き戸を開けるまでは。

 

 

「お湯加減はどう?」

 

おうっしょおおおおおおお!?

ピッピママ!?

な、なんちゅうことしよんねん!?

大丈夫だからっ!

湯加減も丁度いいし、お風呂で溺れて死んだりもしないから!

 

「いいえ、そうじゃなくて、貴方がちゃんと温まれているか見に来たの。」

 

ああ、そういうこと?

うん、すっごく温くて心地いいよ?

ところで、温泉の素とか入れた?

お湯が乳白色だし、なんだか疲れが取れる…

 

「……………(すうぅぅぅ)」

 

ピッピ?ピッピ?

何入れたの、ねえ、ピッピ?

ピッピ?戻ってきて?

戻ってきてお風呂に何入れたのか教えて?

ピッピ?ピッピ?ピッピ?ピッピ!?

 

「これよ、これ。我が社の新商品!『マッマといっしょ!シリーズ 入浴剤』!気持ちいいでしょう?」

 

ああ、そうだったのか。

うん、すっごく気持ちいいね。

………………………ピッピ?

これ、『フォレスト・グリーン』って書いてあるんだけど、絶対乳白色にはならないよね?

ピッピ?

いや、「ちゃんと温まって出なさいね」じゃなくてさ、お風呂に何入れたの?

ピッピ?ピッピィィィイ!?

 

 

 

 

 

結局、乳白色の湯船の正体は分からず仕舞いだったが、私はちゃんと温まってからお風呂を出た。

しっかりと身体を拭いて普段着に着替える。

そして髭をそり、顔を洗ってからリビングという名のホールへと向かう。

 

 

なんだか賑やかだなぁと思ったらルイスマッマが帰ってきてて、おまけにチーム・ユニオンの面子が我らがホールのソファでくつろいでいた。

 

 

「おお、大将!お邪魔してるぜ!」

 

ワシントン…今日は皆んなしてどうしたのかな?

 

「なぁに、ちょっと様子を見にきただけさ、ロブ坊。」

 

「それとも、私達がいたら迷惑でしたか?」

 

いんやだ、そんな訳ないじゃない。

せっかく来てくれたんだし、コーヒーでも飲んでかないか?

 

「ありがたくいただくとしよう、ロブちゃん」

 

コロラド、ちゃん付けやめれ…それはともかく、今日はお休み?

 

「まあ、そんなとこですね。あと、私達皆んなロブロブの事が気になって…ダウンタウンで囮作戦に使われたとか。」

 

うん、まあ、上手くいったよ。

 

「ツレねえぞ、大将。アタシ達を頼ってくれても良かったろ?」

 

ワシントン、君らが来たらダウンタウンがなくなっちまうだろうが。

 

「あははははっ、ちげえねえ!今回はロブ坊の判断が正しい。」

 

おいおい、メリーランド…それはそれで困るんだが…

で、"本題"は?

 

「さすがロブロブ、勘がいいですね。私達で考えたのですが…私達とロブロブの間は、ティルピッツさんやダンケルクさんほどまでは近しいものじゃありません。」

 

そうかなぁ。

まあ、確かに、ピッピもダンケも鎮守府時代からの付き合いだからね。

 

「そこで考えたんです。ロブロブ!」

 

はい、なんでしょう、ノーカロさん。

 

「今から、ロブロブをあやしまくります!」

 

………………………は?

 

「ティルピッツさんやダンケルクさん、ルイスにベルファストさんも皆ロブロブを四六時中あやしてる…きっとこれこそが親密な関係の秘訣!だからあやします!拒否権ナッシンです!」

 

え、ちょい待ち、お前ら、落ち着け、それ考え違いだから、親密の度合いはあやしてどうにかなるもんでもねえから、おい、囲むな、おい、おい、おい、ちょ、ちょおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム・ユニオンの面々は、ベルファストが昼のカレー料理を持ってくるまで私をあやし続けた。

 

そして、昼食の後、今度は4大マッマが「あやし直す」とかいってあやし始めた。

 

さらば、私の休日。

さらば、私のゴルフ。

 

 

 

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