バブールレーン   作:ペニーボイス

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戦争のママたち

 

 

 

 

往往にしてある事だが、自由世界の新聞は、紙面の論調を右往左往させる事がよくある。

 

いつの時代にもある事だが、メディアは大衆の好奇心を掻き立てる為に事実を誇張したり、捻じ曲げたり、捏造する。

そして、頻繁に自らの立ち位置を変えていく。

 

 

私があのアホタレ・ローレンスに狙撃される少し前、ロイヤルの大手新聞社が、東煌の内戦について『ファシストと共産主義者の戦い』などという、この世の終わりみたいな書き方をしていた。

 

それが今や統一政府の肩を持ち、『理性ある政府と発狂者の戦い』などと書いている。

 

私は今、飛行機の座席でその新聞を読んでいて、少しばかり深いため息をついていた。

 

 

 

「面白くない記事でもあったのかい?いつだかのように誹謗中傷記事を書かれたとか?」

 

 

真横に座る、物理的従兄弟のトム・ク●ーズがそんな事を言った。

私はこの世界に来てからトム・ハ●クス似の外見を手に入れたわけだから、世界線によっては今頃ゴシップ紙の記者に写真を撮られまくっている事だろう。

更に言えば、後ろの座席には我らがマッマ達が勢揃いしているのだ。

殊更良いネタになりそうだ。

『有名俳優がハーレム旅行』とかそんな感じで。

 

 

「あの時は災難だったろ、ブロ。一つ言っておくと、俺も災難だった。ピッピ叔母さんから収拾を頼まれた時は本当に…」

 

ありがとう、ありがとう、我が兄弟。

でもその話は鉄血の空港を出発してからもう14回も聞かされてる。

そろそろ別の話をしようじゃないか。

 

「それもそうだな。コィバの施設はKANSENの解体施設で間違いない。でも、興味深いことに、レクタスキーが求めているKANSENはあと1人だけだそうだ。」

 

1人だけ?…なら、何でわざわざコィバくんだりまで行ってあんな施設作ろうとしたんだ?

 

「たぶん、保険だったんだろう。北連のKANSENじゃダメだってなった時のな。その時は何がなんでもユニオンのKANSENを拉致し続ける算段だったんだろうよ。」

 

第三次世界大戦を招きかねないぞ、それ。

 

「確かに。でも、スタルノフがそこまで追い込まれてる証拠でもある。北連では奴の腹心が水面下でグループを形成しつつあるらしい。」

 

プーシロフだろ?あの…何というか…無理矢理トウモロコシ畑作って塩害招きそうな人。

 

「………例えはよく分からんが、そいつのグループの存在にスタルノフは薄々勘付いてて、それが奴を焦らせてる一つの要因でもあるだろうな。」

 

独裁者も楽じゃないな。

いつ寝首をかかれるか分からん状況の真っ只中にいるわけだから。

で、兄弟。あんたのとこの情報源って、そのグループの内の1人だったりするのか?

 

「ビンゴ!その通り!そいつが一昨日、スタルノフが"ミーシャ"なる工作員を東煌に送り込んだって情報を寄越してきたわけだ。」

 

誰なんだ、ミーシャって。

熊でも送ったのか?

 

「まだ分からない。これから探っていくしかないな。」

 

 

 

 

 

何もハーレム旅行をする為に、私は飛行機に乗っているわけではない。

 

物理的従兄弟が一昨日、N長官に合同ミッションの話を持ちかけた。

"ミーシャ"なる工作員が、重桜KANSENを拉致する為に東煌に送り込まれたという情報を掴んだというのだ。

 

 

N長官は検討の結果、私に行ってこいと命じたわけだ。

「いや、何で私?」と少しばかり思ったが、確かにこの案件は私の担当になるので行くしかない。

 

私は急いで仕度をするので精一杯だったが、敏腕という言葉が過小評価に思えるほど優秀なマッマ達は、東煌で使う偽装身分まで用意してくれた。

 

 

何故東煌で偽装身分が必要になってくるのか?

 

統一政府は今では旧レッドアクシズ陣営のみならず、アズールレーン陣営の国々からも支援を受けている。

にも関わらず、自分の身分を偽るのには理由がある。

N長官も、物理的従兄弟も、アイリスの2人組も、そして私自身も、まだレクタスキーのトンデモ企画をほかの誰かさんに喋る気ではないからだ。

 

東煌はまだ内戦中であり、統一政府に北東煌のスパイが潜り込んでいても不思議ではない。

もし私が、MI5の対外諜報顧問ですぅとか言って大手を振るようであれば、それが北東煌に伝わり、"ミーシャ"は雲隠れしてしまう。

 

"ミーシャ"はトンデモ企画において拉致を担当する中心人物のようだった。

奴を逃せば動向を掴むのがまた難しくなるし、物理的従兄弟の情報源が危うい立場に置かれる事になるだろう。

猜疑心の強いスタルノフなら、工作員が到着早々トンボ帰りするハメになった原因を、まず内部の裏切りに求める筈だ。

 

 

よって、物理的従兄弟とそっちのマッマ達は鉄血政府の外交官、私はマッマ&ママ総合商社の代表として東煌へ赴く事になった。

 

統一政府は内戦中にも関わらず外資系企業を誘致しており、高いリスクを背負ってでも約7億人の市場を獲得しようとする企業は少なくなかったのだ。

 

 

私のマッマ達も、今回はマッマ&ママ総合商社の社員として同行している。

ピッピは秘書、ダンケは広報、ルイスはマネジメント、ベルは営業。

まあ、私以外はそれぞれ本来の仕事のようなものだから、別に訓練とか必要なかったし、私自身には秘書ピッピが四六時中付き回るわけだから、怪しまれるような言動をする事もないだろう。たぶん。

 

 

 

え?何?なんだって?

民間企業体が諜報活動とかお前トム・●ランシーのジャッ●・●イアンシリーズ読みすぎだろすぐ小説に影響されるバカワロタwだって?

……………マッマぁ!この人ぼくちんの悪口言ってくるぅ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、長い長いフライトもようやく終わり、私は久し振りに地上に降り立った。

 

たぶん、真っ当な投資家なら、空港に降り立った途端投資を取りやめるね。

私が何十時間ぶりに外に出て、ようやく伸びをしたその瞬間に、空港の敷地内にある芝生に迫撃砲弾が着弾した。

もう、帰りたい。すでに、帰りたい。

 

シュタールヘルムにモーゼル銃持った統一政府軍兵士が「ゲリラだぁ!ゲリラの攻撃だあ!」とか何とか言いながら大型トラックに飛び乗ってどっか行ってるし。

 

四六時中ゲリラの脅威に晒される国際空港って何なの?

重要防護施設に違いないんだからさ、周辺の防備固めようよ?

つーか他の空港ないの?

何でこんなところ国際空港にしたの?

1980年の『戦争の●たち』の序盤シーンじゃないんだからさぁ。

 

 

「ようこそ!新たな東煌へ!」

 

 

鉄血式軍服に身を包んだ統一政府軍士官が私を出迎えてくれた。

ただ、今回はこういった人達にも諜報活動の事を話したりはしない。

拉致対策の問題で接触するのは統一政府の人間ではなく、重桜の工作員だった。

 

しかし、私は一応、マッマ&ママ社の代表として来ているわけで、目の前の士官の歓迎を受けなければならない。

 

 

「ご覧の通り、今はこの空港でもこのような感じですが…」

 

 

MG34機関銃のやかましい射撃音が聴こえてきて、士官の言葉を遮る。

士官も士官で、自分の言葉がちゃんと伝わるようにより大きな声を出す。

 

「近いうちに!我が統一政府軍が!北東煌の共産主義者を!北部へ追いやる!大規模な作戦を!」

 

 

私はもう士官を見ていなかった。

士官の後方で幌を掛けた大型トラックが停止する。

 

「我が軍はご覧の通り!順調に勝利を重ねており!負傷者の数も減少する一方ですので!」

 

 

大型トラックの降板が下げられ、とんでもない数の負傷者が吐き出される。

頭や腕に血塗れの包帯を巻いているし、殆どの者は自分の力で歩けない。

負傷者の数が…何だって?

 

「どうかご安心して!くつろいでいただきたい!」

 

 

安心できねえええよ!!!

貴方のすぐ後ろで、貴方の発言が毎度毎度否定されてるんですけどおおおお!!??

明らかに大苦戦してんじゃん!!!

明らかに戦闘の都度負傷者増えてるよね、これ!!??

これで負傷者減ってるって言っちゃう!?

ねえ!?言っちゃうの!?ねえ!?

 

私絶対に嫌だよ、この空港の近くのホテルとか絶対嫌だよ!?

本当にくつろげるとこにして!?

せめてMG34の銃声の聞こえないとこにしてえええええ!?

 

 

 

 

 

 

幸運な事にと言うべきか、私も従兄弟もマッマ達もその後車で長時間移動して、より統一政府の勢力が確固たる治安を維持している都市まで連れていかれた。

 

いやあ、焦ったぁ。

最前線に泊まるとかじゃなくて良かったぁ。

 

 

ホテルにチェックインすると、どうやら従兄弟達と私達は別々の部屋に泊まる事になると言うことがわかった。

 

重桜KANSENとの接触は明後日で、それまでに時差ボケを直すらしい。

 

ふあ〜あ。

確かに疲れたし、シャワー浴びて寝るかな。

 

部屋は清潔で、シャワーから泥水が出てくるなんて事もない。

快適に過ごせそうで、私はシャワーから出て眠ろうとベッドへ向かう。

ところがそこにはトランプを両手に待っているマッマ達がいた。

 

 

「坊や?お泊まり会って言ったら、やっぱりこれでしょ?」

 

ピッピ…………お泊まり会って………………

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