バブールレーン   作:ペニーボイス

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咳、咳、咳に、アチャが効く

 

 

 

トランプは単純なババ抜きで、それはすぐに終わるハズだった。

ところが、ルイスの馬鹿野郎が「東煌にいる間の指揮官くんをあやす時間を賭けましょう。点一あやし。」とか訳の分からない事言ったせいで話がとんでもなくややこしくなってしまった。

 

そもそもね、一あやしって何?

つーかそれって麻雀の単位じゃないの?

ねぇ、ルイスマッマ。

そんな事言うからこの楽しいはずのトランプが『いかに私を早く上がらせて、その後始まる"本当の"勝負に打ち勝つか』みたいなドロドロしたものになってんじゃん。

 

 

もちろん、イカサマが横行する。

 

私がババを引きかけるとカードに指紋が焼印みたく残るほどの力を加えて阻止するし。

ピッピがカードに極小カメラ付けてみたり、ダンケが心理戦始めたり、ルイスがいつのまにかイカサマ用カード持ってたり、ベルが負けかけて全員に襲い掛かって勝負を有耶無耶にしてみたり。

 

 

そんなこんなやってれば、当然時間も食う訳で、結局午前3時にようやっと寝た。

最終的には『皆んなでワイワイ楽しくあやす』って、もはや何なのだろうか。

そもそも、あやすって何なのだろうか。

沼でしかない哲学に入り込みかけたが、どうにか入る前に私は眠りにつけた。

 

翌日はホテルでダラダラ過ごし、ルイスが「新しい東煌ドレス買ってくる」とか言って出て行って、2秒後に「ほら、見て?私にあやされたいと思ってる人には見えない東煌ドレス!」つって下着で帰ってくるという支離滅裂な思考・発言を披露した以外はマッマに囲まれて寝てました。

 

 

 

 

そして、私はこの日の午前9時、物理的従兄弟と共にあるカフェテリアで重桜の工作員を待っていた。

 

従兄弟は外交官に化けているので、民間企業の代表に化けてる私といて不自然じゃないかといえば、そういう事はない。

鉄血政府は統一政府と親しい間柄にあり、他国の企業の誘致さえ協力している。

だから、ロンドンに本社のあるマッマ&ママ社の代表とカフェテリアにいても何ら不思議はないのだ。

 

 

約束の時間の5分前に、彼女は現れた。

まさか重桜の工作員がKANSENだとは思わなかったが、それよりも驚いたのは彼女の付添人の方だ。

 

ブルー●・リーかよこの野郎。

 

 

「ゲェッホ、ゲェッホ、ゲホゲホゲホ…ゲェッホ、ゲェッホ、オエェッ、カーーーッ、ペッ!!」

 

 

重桜工作員、天城さんの第一印象は見ての通り最悪である。

 

 

「ホアチャ!?アチャ!アチャ!ホォォォオオオ!!!アチャッ!?」

 

 

天城が咳き込むのを見て、心配そうに介抱する上裸の付添人の第一印象も、同じく最悪である。

 

ひょっとして、私達は人間の言葉の通じない場所に来てしまったんじゃないだろうか?

初対面の挨拶が咳とアチャによってなされてしまった。

いやぁ、これは大変な事になるぞ。

 

 

「ゴホゴホ、これは失礼致しました。天城といいます、どうぞよろしくお願いします。彼は護衛兼秘書のブルー●・リー」

 

「ホアチャ!」

 

 

捻りなしかぁぁぁぁぁ。

全く捻らずにストレートに来たかぁぁぁぁぁ。

困るんだよなぁぁぁ。

いちいち●付けるの大変なんだよなぁぁぁ。

つーか、ブルー●・リーのファンに怒られるぅぅぅ。

 

 

「どどどどどうも、こちらこそ、はじめまして、えと、あの、えと、て鉄血情報部の…えと、ラインハルト・レルゲンです。」

 

どどどどどうも、えと、あの、MI5のマッコールです。

 

 

いきなりぶち当たった文化の壁(?)に、従兄弟も私も動揺を隠せない。

なんというかね。

朝起きて、口の中がカラカラしてて、水差しの水飲んだら中身全部レッド●ルだったみたいな衝撃だよね。

生えるのは翼じゃなくて草だけど。

 

 

「ゲェッホ、ゲェッホ!!」

 

「アチャ!?アチャアチャ!?」

 

 

ブルー●・リー、もうやめてくれ、本当に。

天城さんが咳込むたびにアチャアチャ言いながらただただオロオロするんじゃない。

あなたは介抱したいのか、慌ててるのかどっちなんだ、教えてくれ。

 

絶対に●ってはいけない24時みたいな状況が続き、最初の10分はまるで話もできなかったが、見かねたラインハルトが咳止めを渡してようやく話ができるようになった。

 

 

「…んんっ、本当に申し訳ありません…見ての通り健康に少し問題がありまして。」

 

 

問題どころの騒ぎじゃないような気がしないでもないんだが。

 

 

「さて、本題に入りましょう。例の北連工作員、通称"ミーシャ"はすでに北東煌政府に合流していますわ。」

 

「狙いはやはり、重桜KANSENですか?」

 

「ええ、間違いないでしょう。既に北東煌政府の工作員が、KANSEN達の停泊地近辺で目撃されています。」

 

そりゃ大変だ。今すぐにこちらも向かわないと…

 

「いいえ、その必要はありません。私の考えでは、まだ彼らは到着したばかりですし、単独行動を好むKANSENを目標に選定するのには時間がかかるでしょう。ですが、明日には発った方がいいでしょうね。」

 

「なるほど…しかしまあ、よくそんなに早く感知出来ましたね。」

 

「あら。私だって北東煌に情報源の一つや二つ持っていますわ。こうやって貴方達と話しているのも、そういった技量の結果ですもの。」

 

相当な技量をお持ちなんですね。

 

「あなたほどじゃありません。エクレア食べてただけで、ロイヤルの英雄になれるんですから。」

 

 

おおっとぉ、モロバレしてるぞぉ。

しかも公式には絶対に表沙汰となっていない事まで把握してるとは。

となりの従兄弟は既に知ってたからアレだけど、あんまり口外しないでいただけると嬉しいのだが…。

天城さんが私の顔を見て、笑みをこぼす。

 

 

「そのお顔を見ると…ふふ、私の情報は正しかったのですね♪『能く上智を以て問者と為し、三軍の恃みて動く所なり』。策を練るにも、情報は何よりの要ですわ。」

 

あなたの手腕はよくわかりました…それ程の実力がお有りなら、恐らくターゲットにされるであろう重桜KANSENも目星がついているのですね?

 

「ええ、もちろん。そして彼らの行動時期も、彼らの人数も分かります。彼らは…ゲェッホ!ゲェッホ!ゲェッホ!ゲホゲホゲホ、カーーーッ、ペッ!!!」

 

 

あらまあ、咳止めが切れたようだ。

 

 

「アチャァァァアアア!?ホォ、ホアチャ!アチャチャチャチャチャチャ!!」

 

「ゲェッホ、ゲホゲホゲホ!!」

 

「ア、アチャチャ!」

 

「と、言うわけで私達は一度部屋に帰って休みますわ。ごめんなさい、続きは明日の列車の中で…」

 

 

え?ひょっとして、今ので会話成立してた?

咳とアチャだけで意思疎通図っちゃった?

咳とかアチャってそんな暗号文みたいに使えるもんなの?

 

従兄弟のラインハルトが天城さんの背中に声をかける。

 

「あ、明日は今日と同じ時間でここで会いましょう。その後出発です。」

 

「ゲェェェッホ!」

 

「ホアチャ!」

 

 

いやぁ、最後の返事まで咳とアチャかよ。

優秀な諜報員なのは間違いないんだろうけどさぁ。

 

 

「………しっかしまあ、大丈夫かなぁ、あの人達。」

 

た、たぶん大丈夫じゃねえの?

 

「咳とアチャを諜報技術に使うとは…なぁ、ブロ。俺たちだってきっと」

 

出来ない。出来ないから。

あのな、兄弟よ。

マッマ達の前で咳の一つでもしてみろ?

殺菌剤バラ撒かれた上に抗生物質漬けにされて、挙句放射線除去そうchへぐぅ!?

 

 

そこまで言ったところで、後ろから何者かに錠剤を飲まされる。

白いすべすべ肌の手が私の口元を押さえ、錠剤を飲み込むまで許してはくれそうにない。

 

 

「安心して坊や。ただの抗生物質よ?坊やが風邪ひいちゃったら、私安心できないわ。」

 

「あのぉ、ピッピ叔母さん…そう言うのって風邪ひいてkへぐぅ!?」

 

 

いつのまにか、ビス叔母さんが従兄弟の口に錠剤を押し込んでいる。

暴れようとするラインハルトを押さえつけながら薬を飲ますその様は、彼女たちがひっそりと配置されていた警護要員だとは思えない絵面を周囲に提供していた。

警察呼ばれそう。

 

「あなたもよ、ラインハルト。ちゃんと風邪予防なさいっ!」

 

 

 

 

 

 

その後、我々はホテルへ連行され、それぞれのマッマにあやされながら昼飯まで寝かされた。

午後になってからようやく作戦の準備を許されたものの、夕飯食った後はまた即座に寝かしつけられた。

 

「坊や…健やかに…健やかに育ってね…」

 

あのぉ、ピッピ?

"健やかに育ちすぎて"ランニング始める事になったんだよ?

覚えてない?

 




ブルー●・リーと天城マッマのファンの皆様、大変申し訳ありません…
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