ホテルで起きたのは朝の7時。
ピッピが髭を剃ってくれた後に顔を洗うまではいつも通りだったのだが、今日はPIVEA for MENというクリームを顔に塗りたくられた。
東煌の風は予想以上に乾燥していて、ピッピはそれによるカサカサ肌まで心配してくれたのだ。マッマぁ。
その後、ベルとルイスが買ってきてくれた朝食を食べながら、今日からの行動について再確認する。
昨日はピッピに温められながら寝てたが、そればかりしてたわけではなく、今後の予定も決めていた。
東煌で、私達は必要以上に目立ち過ぎる。
私は見た目がトム・ハ●クスだし、マッマ達も全員コーカソイドだ。
従って、目立たずに活動するということが難しい。
できるだけ目立たなくする為にも、実際に重桜KANSEN停泊地まで移動する人数は少ない方が良かったし、通信その他の後方支援を統一政府軍に頼むわけにもいかなかった。
後方支援機材はロイヤル大使館、武装は鉄血大使館がそれぞれ用意をしてくれていたが、作戦機密上、それを操作するのはこちら側の人物でなくてはならない。
そこで、ダンケとベルにはこちらに残ってもらい、ロイヤル大使館から機材を受け取って設営、そして後方支援にあたってもらう。
私と同行するのはピッピとルイスで、二人とも鉄血大使館から既に武装を受け取っていた。
大使館は私の武装を用意してくれなかった。
武装の用意を担当した私の従兄弟は、申請を忘れたのか、或いは必要ないと思ったらしい。
実際、私も必要だとは思わなかったが、ピッピは半狂乱だった。
「どうやって坊やに身を守らせる気なのよおおおお!?」
幸運な事に、ルイスが小型の38口径リボルバーを持ち込んでいた。
よくもまあ、空港の手荷物検査で引っかからなかったよなぁ。
いや、「ラッキー、ルー♪」じゃなくてさ。
本来ならそのリボルバーはルイスのレッグホルスターに納めていたのだが、私の護身用拳銃は用意されていないと知ると、東煌ドレスのスリットから覗けるそのエッロい脚に手を伸ばして、ホカホカしたリボルバーを私に譲ってくれた。
漂ってくるすっごく濃いルイス臭が何とも言えないが、お礼を言ってピッピが持っていた予備のホルスターに納めて腰に巻く。
「うふふ♪私に触れると幸運が訪れるのよ♪きっと、そのリボルバーも幸運を招いてくれるわ♪」
う、うん、ありがとうルイス。
「よし、これで坊やの最終手段も手に入った事だし!さあ、駅へ向かいましょう!」
落ち着いたピッピやルイスと共に私は昨日のカフェテリアに向かう。
既に物理的従兄弟とビス叔母さん、そしてアドミラル・ヒッパーが我々を待っていた。
「ちょっと!あなた遅いんじゃないの!?」
「………は?別に。時間には間に合ってるでしょ?」
「ひっ!」
ピッピ、眼力で押さえつけるのやめたげて。
「だってぇ〜。坊やを非難するなんて許せな〜い。」
モンスターペアレントデビューしなくてもいいから。
「おい、ヒッパー。ブロはちゃんと時間を守ってる。」
「わ、悪かったわね!」
こちらこそ、待てせてすまない。結構待った?
「いいや、ブロ。こっちも今到着したとこだ。例のFräulein(お嬢さん)はまだ来てないのかな?」
しばらくしている内に、天城さんとブルー●・リーがやってきた。
どうやら二人とも、薬局が開くのを待ってから大量の薬を買い込んで来たようで、少し遅れての到着となる。
昨日も昨日で買ったらしいが、補充されているであろう今日も朝一番に行ってまた買ったらしい。
いっちゃん迷惑なパティーンじゃね?
やがて全員駅のホームへ向かい、列車に乗り込む。
統一政府は"沿岸部でのインフラ状況を見に行くロイヤル実業家と付き添いの鉄血外交官達"の為に列車の一等客室を用意してくれていて、私たちは広くて乗り心地の良い客車にマッマ達と座った。
ただ、流石に一等客室とはいえ使用する線路は同じで、また客車は内装以外他の客車と同じものだったので、騒音だけはどうにもならない。
一等客室は思わぬ効果ももたらしてくれた。
他の乗客はユニオンや鉄血から来た本物の実業家達で、私たちはその集団に上手く溶け込む事ができたのだ。
座席に座った瞬間、東煌に到着したその時から暴走気味だったルイスが、私の頭を後ろから双丘の谷間に挟み込む。
「騒音から聴覚を保護したいの」じゃないでしょうが。
せっかく溶け込めると思ったのに秒で浮いてどうすんのよ。
「こら!ルイス!」
ピッピが結構怖い顔でルイスを睨む。
おお、ピッピ、さすが!
こんなのやってたら目立っちゃうでしょ的なサムシングを言ってやってくれ!
「…1時間交代よ?」
違う、そうじゃない。
こんな事してたら従兄弟のラインハルトからガチ軽蔑されんじゃん!
斜め後ろの席に座ってる物理的従兄弟に、ガチ軽蔑されんじゃん!
私は恐る恐る後ろを盗み見る。
そこには、何とも悲しい格差社会の現実が広がっていた。
ビス叔母さんが従兄弟ラインハルトを、ルイスが私にやっているように谷間に挟んでいる。
だが向かい合って座るヒッパーは、目の前の豊満ワガママボデーを物欲しげに見ながら。
(いやぁ、ちょっとやめてほしいかな)とか考えてそうな従兄弟の様子を見ながら。
ひたすらに自分のまな板に両手を当てて、無言のままに涙していた。
それも血涙。
こっわ。
目の前で繰り広げられる格差社会のドキュメンタルストーリーを見ていると、廊下の方から天城さんがこちらに手招きをしているのが見えた。
何だろうか?
昨日の話の続きなら、列車を待っている間に説明してもらった。
敵の人数は8名、直接の行動開始時期は明後日の夕方だろうというのが彼女の予測だった。
今更なんの話だろう?
私はそう思いつつも、残念がるルイスの谷間から離脱し、血涙を流すヒッパーを出来るだけ見ないようにして、天城さんに合流した。
どうしたんですか?
「4名」
はい?
「4名います。」
いや、何が4名なんでしょう?
「北東煌の工作員…この列車の中に4名」
……………え。
天城さんが咳止めの薬瓶から錠剤をひとやま手のひらに乗せ、そのまま口に入れてバリボリと食べ始める。
あのぉ、ロベル●さんでしょうか?
南米からやって来たスゴ腕化け物殺し屋メイドさんでしょうか?
しかしまあ、北東煌の工作員がいるとなぜわかるんです?
「東煌北部は遊牧民の侵略を何度も受け、支配された期間も短くありません。彼らの言葉には特有の訛りがあるのです。」
は、はあ………
「2名は列車を待っている時、他の2名はこの客車に乗った時に嗅ぎ分けられました。」
何かの偶然という事はありえませんか?
感知から行動まで早すぎる。
「諜報活動で偶然を信じるのは愚の骨頂ですわ。その"ミーシャ"とかいう工作員、おそらくあなたを知っています。心当たりがあるのではないですか?」
うーん………あ。
「ええ、その通り。貴方がロイヤルで煮え湯を飲ませた相手です。」
アヴローラか!
「そうですね。私の調べでは、彼女はスタルノフのお気に入りでもあります。KANSEN拉致作戦の中心にいてもおかしくありません。」
なる………しかし、どうします?
北東煌の工作員が我々を尾行しているとすれば、非常に厄介ですよ?
「厄介どころか大問題ですわ。北東煌の工作員は人前での殺人もためらわない。列車の中で対処してしまいましょう。」
ええ、それが良さそうです。
「北東煌工作員の内2名は二等客室にいます。私達のいる客車と同じ客車に。ブルー●に対処させます。残りの2名は車掌と乗務員の男女で、一等客室を頻繁に出入りしていますわ。そちらは貴方にお願いします。」
わかりました。幸運を。
「『ラッキールー♪』…貴方の幸運は…私から祈らなくても大丈夫そうですね。」
車掌に化けていた北東煌工作員は、自らの運の良さは全人民に訪れた幸運であると思わずにはいられなかった。
実はこの工作員はロイヤル実業家としてノコノコやってきたMI5の豚を始末するように命じられていたのだが、任務遂行を人目につく客車内でするか、或いは上手く乗務員室に誘い込んでやるか決めかねていたのである。
内心を言えば、人目につかない方がいい。
その方がキチンと任務を遂行しても、逃げられる可能性が高いからだ。
ところが、ターゲットは列車に乗るなり付添人の豊満な身体に固定されてしまったようで、誘い込むのは難しいと判断せざるを得なかった。
人目につく客車内で銃をぶっ放せば、いくらサプレッサ付きの拳銃とはいえ周囲の客に通報されてしまうだろう。
そうなれば生還の可能性はぐんと下がる。
しかし、任務を放棄するという選択肢はない。
そんなことをすれば、家族は全員飢えた犬に生きたまま食い殺されるのだ。
だから例え自らを犠牲にしてでも、やるべき事をやらなければならない。
だから、幸運な事にMI5の畜生がこちらへやってきて、「この列車が通る線路から沿岸部がどう見えるのか知りたい」と言ってきた時は思わず神への感謝の言葉を漏らした。
工作員は北東煌政府の駒になる際に無神論者になっていたハズだったが、あまりの幸運のために、誰にも気づかれないような小さな声で「神様、感謝します」と言ってしまったのだ。
小さな感嘆詞はMI5の豚には聞こえなかったようで、笑顔で応じる工作員に手招きされた畜生は嬉しそうについてくる。
幸運に幸運が重なって、畜生の背後には仲間の女性工作員が饅頭満載の台車を押していた。
工作員2人は前後から畜生を挟んで乗務員へと向かう事ができた。
2人とも降って湧いた幸運に喜んでいて、当人の自覚がないうちに少し気が緩んでいた。
だから、女性工作員が通り過ぎた後、東煌ドレスを着た青い髪の長身美巨乳美女が立ち上がった事に全く気づいていなかった。
「お、おい、どういうつもりだ!?」
乗務員室に到着した途端、女性工作員はカーテンを閉め切る。
その部屋の入り口自体少々入り組んだところにあり、客室の方から覗く事などできはしなかったが、いくら幸運に気を緩めていても、女性工作員はそれほどの手順を抜くほど間抜けでもなかった。
例の畜生は、恐らく沿岸部の景色云々ぬかしながら事前の情報を得ておくつもりだったのだろう。
だから、背後からサプレッサ付きのナガン拳銃を突きつけられるとは思ってもいなかったろうし、先導する車掌が同じ物を突きつけるとも思わなかったハズだ。
そして、その狼狽具合がその証拠だった。
車掌は乗務員に頷いた。
これで、無事に任務は達成されるし、この畜生の死体は駅に到着してだいぶ経ってから発見され、彼らは悠々と逃げおおせられる。
二等客室の仲間のターゲットは病人だったし、自分達ほど苦戦するはずもない。
女性工作員の方がハンマーを起き上がらせ、ナガン拳銃のシリンダーがゆっくりと回転する。
後は引き金を引くだけで7.62mm弾を発射できるし、カードリッジが前進してガス漏れを防ぐこのリボルバーの消音性は高く、このガタゴトとやかましい列車の中では誰も聞きとることはできないハズだ。
ヴス、ヴスッという、くぐもった音が乗務員室を満たす。
だがそれは、北東煌工作員2名が持つナガンリボルバーから奏でられたものではない。
まず車掌が、胸と頭に45口径弾を受けて倒れる。
女性工作員は目の前の車掌が倒れるというまったく予想外の光景を見て、無意識のうちに、ターゲットをこのまま撃ち抜くべきか背後を振り返って脅威を排除すべきか一瞬迷ってしまった。
結局、彼女は目の前のターゲットを優先する事にしたが、この一瞬の内に長いサプレッサをつけたM1911A1自動拳銃が彼女の後頭部へと正確に向けられ、45口径弾をもう1発撃ち出した。
弾丸は、女性工作員がナガン拳銃の引き金に力を込める前に彼女の後頭部に達し、彼女の脳を著しく破壊する。
結局、彼女のナガン拳銃からも弾薬が飛び出す事はなく、頭の後ろ半分を失った彼女はその場に倒れこんだ。
「指揮官くん!大丈夫!?怪我はない!?」
ルイスがM1911を、着ている東煌ドレスの下に隠すホルスターに納めながらこちらへ向かってきて、私をその豊満なボデーに迎え入れた。
まさか自分で自分を囮に使う事になるとは思っていなくて、私は緊張のあまり深呼吸をしたくて仕方ない。
だから、ルイスに抱き抱えられた状態で深呼吸せざるを得なかった。
鼻と口から、ルイスの甘い香りが流れ込んでくる。
ふああ〜死ぬかと思ったあ〜ルイスすっげえ良い匂い〜、って私ただの変態じゃん←知ってた
ルイスは3分ほど私を抱き抱えてから解放し、解放された私の鼻腔内はすぐに硝煙と血の匂いに取って代わられる。
いやはや、死体を隠さないと。
他の乗客に見つかったら大変だ。
仕方なく、私はルイスと共に死体を乗務員室の物置に隠す事にした。
は〜あ、グロいよぉ…