あ、実際に開戦するわけじゃないですぅ。
ト●・ク●ンシーと同じノリですぅ。
ーーーーーーーーーーーー
綾波は寂しいのです。
指揮官のいる鎮守府から遠く離れ、新しい仲間と1週間を過ごしても、まだ慣れることができないのです。
不幸にも触雷して本土帰りになった駆逐艦の代わりに綾波は派遣されましたが、ここの皆んなはとても強くて、今の綾波にはついていけません。
確かに、良いところです。
食堂のご飯はとても美味しくて、泊まるホテルの従業員さん達も綾波に優しいのです。
でも、綾波はまだ友達を作れずにいます…
今日も1人で夕ご飯を食べていると、食堂のおばさんに話しかけられました。
「どうした?いつも1人で食べているようだが…」
「…………綾波には友達がいないのです。」
「そうか…」
「先週派遣されてから、まだ誰とも仲良くなれてないのです。皆んな強くて、綾波には…」
「確かに弱き者は敗れる。そして、編成するKANSENが1人でも離脱すれば、戦力は大幅にダウンしてしまう。」
「うぅ…」
「だが、問題はそれ自体じゃない。その時助けてくれる仲間がいるかどうかも、大切じゃないか?」
「…………」
「どうやらお前は自身の弱さを恥じている。"良い事"だ。お前にはそれを恥じる気持ちがあるのだから。なら、人一倍頑張って、強くなれば良い。頑張るお前を見れば、皆んな評価してくれるさ。」
おばさんはそう言って仕事に戻りました。
頑張る…うん、綾波は頑張ります!
見ていてください、指揮官!
明日は外出して、自主練に必要な物を買ってくるのです!
ーーーーーーーーーーーー
どうにか北東煌の連中を避け、私達は目的地の駅に到着した。
天城さんの心配は必要なさそうだ。
ルイスと一緒に死体を隠した後、ちょうど二等客室のあたりから2人の男達が「ホアチャアアア!!」という掛け声と共に投げ出されるのが見えた。
願わくば私の他に誰も見ていない事を祈りつつ、私達は席に着き、そしてどうやら他に誰も見ていないようだった。
駅で警官隊に迎えられる事もなく、私達は天城さんと合流してこれから使うホテルへ向かう。
そこはKANSEN達の宿泊地からそう離れてはいないが、程よく距離の取れたホテルで、私たちの活動にはもってこいの場所だった。
チェックインして早々、皆荷物をそれぞれの部屋に置いてホテルのカフェテリアに再集合する。
いや、どんだけカフェテリア好きやねんと思いつつ、私も隅にある大テーブルの一席に座った。
「ここでは慎重に動きましょう。特に、マッコール。貴方は彼らに素性が知られているはずですし、アヴローラは貴方をつけ回すでしょう。」
うん、それはそうだろう。
何たって列車の工作員は明らかに私を狙っていた。
彼らが私を知らないなんて、まず有り得ない話でしかない。
「アァッ!アチャッ!ホアチャッ!」
「ええ、そうですね。私たちも同じように知られているでしょう。ですから、ここで自由に動けるのは、ラインハルトさんとそれぞれの工作員の方という事になりますわね。」
「あ、あの、天城さん。自分でこういうのもなんですが、私は鉄血情報部のトップです。かなり有名人ですよ?」
「その点はあまり心配していません。鉄血政府と統一政府の親密さを考えれば、貴方がここにいるのは不自然ではない。きっと、軍事指導の一環と考えるでしょう。」
「ホアチャッ!ホアチャ、ホアチャッ!」
「ブルー●の言う通り、貴方は明らかに狙われていなかった…もし、アヴローラが貴方の本当の目的に気づいていたなら、列車に乗る北東煌工作員はあと2人増えていますわ。」
いや、「言う通り」って言われても何言ってるかこちらには見当もつかないんだけどさぁ…。
つまり、従兄弟は直接行動を指揮できるけど、私と天城さんはあくまで監視に専念する役割に当たった方が良いって事ですね?
「その通りですわ。」
「なるほど、よく分かりました。それはそうとして、天城さん。狙われるKANSENとは誰なんですか?」
「………先週、北東煌海軍が敷設した機雷に、重桜の駆逐艦が触雷しました。そのKANSENは重傷で、代わりのKANSENが別の鎮守府から派遣されています。」
ということは、まだこちらの重桜KANSENとも馴染めていない可能性が高い。
「その通り。お友達かいないなら、北東煌の工作員達は狙いやすいでしょうね。1人が指揮し、4人が監視し、2人が拉致し、残る1人は運転手。8名のチームという編成は、北連の諜報機関ではよく見られますわ。」
な、なるほどぉ。
「さて、明日は1日中活動します。今日は早めに休みましょう。」
翌日、私はあるビルの一室で双眼鏡を構えていた。
勿論、やましい物を見ているのではなく、停泊地から1人で外出するKANSENを探していたのだ。
そのKANSENは綾波という名前で、特徴的な耳を持つらしい。
いた。
あれが…綾波かな?
今では遥か昔に思える鎮守府時代、私の鎮守府には彼女はいなかったが、それでもその特徴的な外見はすぐに見分けがつく。
私は無線機を手に取って天城さんに連絡する。
"トレジャーハンター"、こちら"アイズ"、対象と思わしきKANSENを発見。
『こちらトレジャーハンター、了解。これより対象を"ラビット"と命名する。引き続き監視を継続せよ。』
アイズ、了解。アウト
"ラビット"かぁ。
確かに、彼女の頭から伸びる耳のような物が、兎を連想させる。
兎さんは停泊地の検問で外出証を提示すると、そのまま徒歩で外に出る。
するとすぐに地図を取り出して、何か悩み始めた様子が見て取れた。
初めての港湾都市で何をしようとしてるのかはわからないが、地理的知識がなく、地図に頼らざるを得ないのだろう。
東煌文明が発祥した河の下流にあるこの港湾都市は、古の時代から通商の要として機能してきた。
町には雑然とした商店が並んでいるし、行き交う人々も様々だ。
西から来た者、北から来た者、南から来た者。
もちろん、東は海なのでそちらから陸路で来る者はいないが、今では飛行機に乗ってやって来る。
そしてそう多くはないが、内戦中にも関わらず、白人の観光客や投資家もいた。
従兄弟もそういった人々にうまく溶け込んでいるはずだ。
この港湾都市とその周辺の海域の為に、統一政府軍は最善を尽くしている。
だが、それは北東煌海軍も同じで、統一政府は重桜の支援を必要としていた。
おかげでこの海域の制海権を徐々に握りつつあるのだ。
そして、その為に活動しているKANSENの内の1人は、ようやく地図から顔を上げ、決然とした表情で西へ向かって歩み出す。
その方向には商店が建ち並び、私は危うく彼女を見落とすところだった。
トレジャーハンター、こちらアイズ。まもなくラビットがこちらの監視範囲を出る。
『了解。監視は"イア"が引き継いで。』
『こちらイア、了解。』
私は交信を終え、従兄弟がその役目を引き継いだ。
彼は観光客に偽装していて、徒歩で対象を尾行・監視する。
そして彼が対象を見失う万が一の可能性に備え、私も移動しなければならない。
顔に長い布を巻く。
何故、こんな事をして不審がられないのかといえば、北西から来る…史実の世界で言うところの…イスラム系商人がこういった格好をして出歩いているからだ。
ただ、おかげでターバンも巻かねばならず、手間もかかるし、頭がクソ蒸し暑いのだが。
ようやく準備が完了し、移動のために階段へ向かって時、従兄弟の焦った声が雑音混じりに無線機から聞こえた。
『おいおいおい、マズイぞ、マズイぞ。』
『イア、何かあったのですか?』
『トレジャーハンター、こちらイア。ラビットは入り組んだ小道に迷い込みつつある!至急増援を!』
『了解、"キーパー"はイアを補佐して!』
キーパーは個人ではなく、マッマ達による直接行動チームを指していた。
ピッピ、ルイス、ビス、ヒッパーも観光客に偽装していたが、恐らく全員が小道に向かうだろう。
今や万が一ではなく、それが現実になりつつある。
私は急いで階段を駆け下りた。
ーーーーーーーーーーーー
綾波は驚いたのです。
外出早々道に迷っていたら、男の人に声をかけられたのです。
「君は危険だ、今すぐにここから離脱しないと。」
「え?ちょ、ちょっと!意味が分からないのです、綾波は買い物があるのです!」
「よぉ、お嬢ちゃん!本はいかがかなぁ〜」
あ、本屋さんがあったのです!
よかった、見つけられました!
「海軍戦術研究の書物はあるのですか?」
「…お、おお、随分とヘヴィな本を読むんだね。そういった本はちょいと奥にあるんだ。着いてきな。」
「助かるのです!」
「おい、おい、君は危険なんだぞ、だめだ、着いて行くな、そいつは怪しい!」
「本当になんなのですか!?あなたの方が怪しいのです!綾波は邪魔して欲しくないのです!」
綾波は男の人を振り払って、商人のおじさんを追いかけることにしました。
でも、後ろで「うっ!」っていう声がして、振り向いたらさっきの男の人が首を絞められていたのです!
綾波は意味が分からなくて、ボゥっとしてたら後ろから刺激臭のする布巾を鼻と口に押し当てられました。
意識が段々と遠のいて…………し、きかん…
ーーーーーーーーーーーー
私は止むを得ず、ルイスから貰ったリボルバーを撃った。
たしかにSFSから射撃訓練を受けたが、それでも私の腕は確かとは言えない。
しかし、リボルバーにはルイスの幸運が付いていたのか、私の放った38口径弾は従兄弟を襲う暴漢に命中した。
暴漢はもんどりうって倒れ、従兄弟が苦しそうに咳を吐き出す。
「ゲッホゲホ…ありがとう、助かったよ、ブロ」
ああ、それよりラビットは?
「その本屋の奥に連れられていった!マッマ達は!?」
通行人が多過ぎて移動に時間がかかってる。
その時、甲高いサイレンの音が聞こえた。
地元警察か!?
対応が早過ぎないか、おい。
「警察は鉄血政府が訓練してるんだ、世界有数の練度を持ってるさ。それより、銃をくれ。」
何する気だ?
「俺は鉄血の情報部長だ。捕まってもすぐ釈放される。お前がラビットを追うんだ、行け!早く!」
既に制服警官達がパトカーから飛び出していた。
C96自動拳銃片手に、悲鳴をあげながら逃げる通行人達を跳ね除けて進んでくる。
時間がない。
私は従兄弟にリボルバーを渡し、本屋の方へ走り出す。
武器は手放してしまったが、今私にできるのはそれぐらいだ。
本屋は奥の方まで通路が続いていたが、並べなれる本は段々と少なくなり、そして無くなった。
奥の奥まで走って行くと、大きな壁に突き当たる。
そこは暗かったが、辛うじてドアの輪郭を捉えることが出来た。
私がドアを蹴破るようにして開けると、ちょうど目の前の道路で黒いセダンが走り出した。
セダンは猛スピードで走り出し、土埃をあげながら去って行く。
バックウィンドウにはあの特徴的な耳が見えていた。
こん畜生!取り逃がした!!!