バブールレーン   作:ペニーボイス

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重東開戦 後編

 

 

 

「何故引っ張ってでも保護しなかったのです!?あの時なら、対象を無事に確保できたハズです!」

 

「無茶言うな!俺も死にかけてたんだぞ!?

第一、あんたがマッマ達を変なところに配置したからこんな事になったんだ!」

 

 

天城さんと、はやくも釈放された従兄弟の言い争いが、灯油と間違えてガソリンを入れたストーブのように燃え盛っていた。

例えて言うなれば………スプレー缶100本処分しようとして爆発させちゃった感じ?

2人とも落ち着きという物を失っていたし、口論はヒートアップしていくばかりだ。

 

時刻は既に夕方6時を回り、あたりは暗くなっている。

統一政府警察が綾波を捜索しているが、今まで何の成果も得られていない。

 

私自身はこんな状況ですら、あやしを欠かそうとしないピッピとルイスに抱き抱えられていた。

マッマェ…ちょっと空気読んでェ……

 

ビス叔母さんとヒッパーは従兄弟を落ち着かせようとオロオロしてるし、ブルー●・リーも天城さんがいつ咳き込むかとオロオロしている。

 

 

私が意見を言うべきだろうか?

怖いなぁ。

怒りの矛先がこっち向いてきそうで怖い。

ヒートアップしまくった、アッツアツの矛先で刺されかねないと思う。

しかもそれが2本あるのだ。

 

 

残念ながら、いや、当然の事ながら、まず天城さんの怒りの矛先が押し黙っている私の方へ向けられる。

 

 

「あなたもあなたです!発砲で警察が来て、連中の追跡が不可能になってしまった!」

 

 

まさか従兄弟を助けるための発砲が責められるとは思っていなかった。

頭に血が昇るのを感じたが、私は必死に抑える事にした。

彼女は今、かなり感情的になっていたが、本来は頭脳明晰な女史である。

 

ラインハルトも更に怒り狂おうかとしていた。

当然だろう。

38口径弾がなければ、彼は間違いなく死んでいた。

それを否定するのは、彼に死ねと言っているようなものだ。

 

だから、私は従兄弟に向かって手を上下に動かした。

"落ち着いて、頼むから"

従兄弟はどうにか自分を落ち着け、手近の椅子に座る。

真っ赤な彼の顔をビス叔母さんが優しく包み込み、じゅ〜という音を立てながら、その赤みを取り払っていった。

ヒッパーは血涙、いつも通り。

 

 

「連れ去られた彼女がどうなると!?強姦され、暴行され、生きたまま解体されるのです!」

 

そこまで非道な事を?

 

「ええ!そう!少なくとも、解体されるとは知っていたハズ!知らなかったとは言わせません!」

 

落ち着いてください、天城さん。

 

「これが落ち着ける物ですか!だいたい…」

 

あなたが北連の工作員なら、どの経路で離脱しますか?

 

「あな…た……………ええと。」

 

 

天城さんは私の期待通りに落ち着きを取り戻していく。

興奮が落ち着けば、次にやって来るのは疲労感。

だが、彼女なら思考能力を鈍らせる事はないだろう。

 

 

「陸路はダメですね…この街は統一政府の支配下にある。検問を警戒しますね」

 

 

物理的従兄弟ラインハルトは、もう既に統一政府軍に検問を実施させていた。

範囲は街全体から、その周囲に至る道路まで幅広くカヴァーされている。

アヴローラなら必ずこの街の軍・警察の規模を計画に入れているハズだし、リスクを冒すような真似をする女でもない。

 

 

「陸路はダメ。空路は…」

 

空路は勿論、論外ですよね?

制空権も統一政府の手中にある。

飛行場がないわけじゃないが、国境越えできるような輸送機はそれだけ目立つ。

 

「となると……海路!!海路しかない!!今すぐ統一政府海軍に」

 

落ち着いて、天城さん。

あなたがアヴローラなら、海路はただリスクが一番低いだけという事も分かるでしょう。

統一政府軍は重桜と共に北東煌海軍を押し出しつつある。

そこから脱出するなら、どういう船を選びますか?

 

「も、勿論、高速船。哨戒艇あたりかしら…武装は殆ど取り払うわね。そういった船を今すぐ捜索すれば…ダメね……私なら、日の落ちる前に出航する。…………綾波…なんて、可哀想なっ」

 

 

天城さんの両目には涙が溢れている。

自身の後輩を守れなかった悔しさか、それとも綾波が受ける仕打ちに泣いているのか。

私にはその両方に思えた。

 

しかし、私は可哀想と思う事もなければ、涙など到底浮かびそうにない。

 

え?なに?この冷血人間!だって?

 

いいや、違うんだ。

これにはちゃんとした理由がある。

 

さてと。

私には天城さんにも、従兄弟のラインハルトにも言ってない事があるんだが…

 

そろそろ話さなきゃいかんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヴローラはこの時になってようやく自分が負けた事に気がついた。

 

 

 

ここまで、彼女は完璧に計画を遂行していったハズだった。

統一政府内の金に釣られたクズ共から情報を集め、目標を慎重に選定し、準備した。

 

邪魔な"観光客"も入りそうだったから暗殺要員も派遣したし、邪魔者の排除には失敗して街では北東煌の役立たずを1人失ったものの、拉致自体は成功したのだ。

後は闇夜に紛れて脱出するだけ。

海路は完璧な選択肢ではなかったが、他の選択肢よりは格段にマシだったハズ。

 

 

どうしてこうなった?

どこが間違っていたのだろう?

 

彼女は拉致した綾波を北連まで移送できそうにない。

闇夜の中にも関わらず、彼女の乗る改造哨戒艇はエンジンを撃ち抜かれて停止していた。

 

 

 

轟音を挙げながら空を飛ぶメッサーシュミット戦闘機が、彼女の作戦をパァにした張本人だった。

そのクソったれ戦闘機は搭載された7.92mm機関銃で、この暗い暗い夜に、正確に船のエンジン部だけを射撃した。

 

おかげで彼女は今、進むことも退くこともできずに漂流する船に取り残された、可哀想な乗客に成れ果てている。

 

 

 

やがて、水平線上に幾つもの光が現れて、彼女は同行する北東煌工作員6名と共に戦闘準備に入る。

今回の獲物をタダで引き渡すつもりはない。

例え捕まり、或いは殺されても、相応の対価を払わせる覚悟がある。

 

だが、その覚悟は、光が近づいて来るに連れ音を立てて崩れていく。

 

もう、綾波を人質に立てこもるとか、そういう考えさえ思いつかない。

フル艤装の重巡2隻、正規空母2隻に出くわせば、誰でもそう思うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

綾波はどこかで聞いた事のある声に起こされました。

 

 

「おい、大丈夫か?生きてるか?」

 

 

この声…確か……食堂のおばちゃんなのです!

あの、綾波の相談に乗ってくれた食堂のおばちゃん!

 

綾波は思い出しました。

確か、自主練に役立つ本を買いに行って…その後、変な男の人に捕まえられて、振り払ったあと、何かへんな薬物を嗅がされたのです。

 

ゆっくりと目を開けると…眩しくて本当にゆっくりとしか目を開けられませんでした…そこには女の人、いやKANSENがいたのです。

 

 

あ、あなたは!

 

加賀さんなのです!?

 

 

「ああ、そうだ、私が加賀だ。赤城お姉様!バッチリ生きてます!」

 

「あらぁ、それは良かったわねえ!」

 

「高雄ちゃ〜ん、ちゃんと全員括ったぁ?」

 

「安心しろ、愛宕。全員抜かりない。」

 

 

え、え?、え!?

 

ひょっとして、助けに来てくれたのですか!?

でも、訳がわからないのです!?

何故食堂のおばちゃんが加賀さんなのですか!?

そもそも、綾波は加賀さん相手に相談しちゃってたのですか!?

 

 

「あら、加賀。この子に随分と好かれてるみたいねぇ。」

 

「う、うるさい、姉様!それより、我が子に報告だ!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで、綾波ちゃん無事みたいです。

 

 

ここまで言った瞬間に、天城さんに抱きつかれた。

着物でよく分からなかったけど、天城さんってピッピと同クラスあるんだね何がとは言わないけど。

 

ピッピ?ピッピ?P38しまって?お願い、ピッピ。

 

従兄弟のラインハルトがふぅーと長い息を吐き出した後、私の肩を小突く。

 

 

「しっかしまあ。俺たちに教えてくれても良かったろ、ブロ。」

 

それもそうなんだけどね。

北東煌に情報を流している統一政府の人間が必ずいるハズだから、誰からも隠しておきたかったんだ。

悪く思ってはいるが…"知る必要の原則"だ、兄弟。

『敵を騙すにはまず味方から』って言うだろ?

 

「ちょっと使い方が違う気がするが…それより、どうやって彼女達を入国させてたんだ?」

 

N長官の手を借りて、停泊地のスタッフとして潜伏しさせてたんだよ。

 

 

 

 

ロイヤルを発つ前に、兼ねてより「我が子ぉぉぉおおお!我々も参加させろぉぉぉおおお!そしてあやさせろぉぉぉおおお!」と何度も言ってた重桜マッマズを、停泊地に送り込むのにはさほどの手間はかからなかった。

 

N長官はちょっと渋い顔をしたが、DRAの件もあるからと手を打ってくれた。

それも何から何まで全部。

 

重桜マッマズはMI5のコネを使い回して無事に停泊地に潜り込めたし、艤装の方も難なく持ち込めた。

 

まあ、元々は緊急脱出が必要になった時の、ちょっとばかし大袈裟な手段にするつもりだったんだけどね。

 

 

彼女達との連絡は、後方支援で残ったダンケとベルを通じて行った。

綾波が連れ去られた時、私はもう追跡自体は困難だし、海上で待ち伏せたほうが良いと思い、ベルに電話を繋いでもらってすぐに準備させたのだ。

 

グラツェンさんのパイロット、ハルトマンを同行させたのは、JU52輸送機を加賀マッマに載せて脱出用にしていた為だったけど、気の利く加賀マッマがメッサーシュミットもグラツェンから借りていた。

 

だから、重桜マッマズの使い道が『緊急脱出』から『緊急捜索』に変更された時も柔軟に対応できたのだ。

 

そして、元我が艦隊のスーパーエースは迅速に不審な高速哨戒艇を見つけ出し、闇夜の中停止させたわけ。

本当に人外だね、あのヒヨコ。

あ、人外か。

 

 

 

 

「本当に、何と言って良いかわかりませんわ。先ほどのご無礼、どうかお許しになって?」

 

いいんです、いいんです。

それより綾波が無事で良かった。

 

「今度重桜にいらした時は…天城マッマが待ってゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ」

 

あー、一気にきちゃったかぁ、今までの分が。

 

ところで…今マッマって言った?

気のせいだよね、ね?だよね?

 

 

「アチョ!アチャ!ホアタァー!」

 

ええっと、あぁ、それじゃあ、よろしく頼むよブルー●・リー。

介抱して…帰るまで付き添ってあげて。

 

「ホアチャ!」

 

 

出会って数日で咳とアチャの内、アチャの方とは普通に会話出来てしまっている。

人間の適応能力の高さって凄いんだね、感動しちゃう。

 

 

「指揮官くん!」

 

おお、どうしたのルイスマッマ。

そんな嬉しそうな顔をして。

 

「例の高速哨戒艇に載ってたアヴローラも確保したそうよ!」

 

 

ほぉぉぉ。

そいつは素敵だ、大好きだ!

 

楽しい面談といこうじゃないか。

…ロイヤルに帰ってからね。

 

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