バブールレーン   作:ペニーボイス

62 / 172
じゅっこんぼぉ!

 

 

 

 

白髪混じりの年配女性はかなりとはいかないまでも、そこそこの満足感は得ていたに違いない。

彼女の経験の中でも、ここまでスムーズに進捗してきた作戦は数少ないのだろう。

既に得られている戦果さえ、彼女のキャリアを彩るのには役立つハズだ。

 

20年来のライバル・DRAは完膚なきまでに叩き潰され、重桜相手に貸しを作り、その上北連のスパイまで転向させた。

 

自身の就任期間の間に、これだけの事をやってのけた長官はそうそういない。

 

 

 

ここからは中々そう上手くはいかないだろう、それは彼女にも分かっている。

訴訟でも言える事だが、証拠には裏付けがなければならない。

北連の蛮行を非難するためには、アヴローラからもたらされる情報に物的証拠が加わらなければならないのだ。

 

 

つまり、それは、もうMI5単独でできる行動の範疇を超えている事を意味している。

いや、そもそも、鉄血情報部のトップとMI5の連絡役が奇妙極まりない血縁関係で結ばれていなければ、ここまでの成果さえ得られるか怪しかっただろう。

だから彼女はこの2人の安全を確保するために、彼らの警護には特別の気を使っていた。

 

 

特例を認めて彼らの母親だと言い張っている元KANSEN達を臨時要員にしてみたり、持ち得るコネを使い回して援護したり。

 

たしかに骨の折れる作業だったが、それだけのリターンは常に伴った。

 

 

だから、これから敵の懐に向かうことになるかもしれない連絡役とその従兄弟の為に、長官は特別の配慮を更に示すことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うことで、私の目の前には『9』というコードネームで呼ばれるMI5の技術者が、新型装備の脇に立っている。

 

指紋認証システム付きのPPKだとか、機関銃を装備してるロー●ス・ロイスだとか開発してそうなその技術者は、私たちの護衛を務めるマッマ達の為の装備も開発していて、本日はそのテストというわけだ。

 

 

 

アヴローラ、いやアヴマッマは、言うなれば『二本の足を生やした宝島の地図』だった。

 

レクタスキーを補助する為の拉致作戦の全貌が概ね明らかになったし、マッドサイエンティストが今どれだけの成果を得ているかも明瞭に分かる。

 

北連のサイコ医師は目標達成まであと一歩というところで、まもなく前代未聞のクソ実験は完成しつつあるのだ。

 

 

クソ実験を止める為には、もう、国際的な問題にして圧をかけるしかない。

しかし、それにはアヴマッマの証言だけでは不十分なのだ。

いくら彼女が声を枯らして証言しても、北連の連中はバックれようとする公算があまりにも高い。

そして、証言の裏付けとなるような証拠は、北連の勢力圏下でしか得られないだろう。

 

 

そうなると、我々は敵の懐に飛び込まざるを得なくなるかもしれない。

N長官はその可能性を鑑みて、9なる技術者に装備の開発を命じたわけだ。

 

 

 

 

 

 

開発された装備は、現地から緊急脱出する際に、ヘリなどの支援を受けられない場合の措置として用意された。

 

2組の機材から構成され、それを装着すると空を自在に飛べるらしい。

 

燃料は必要なく、人間を一人運んでもかなりの距離を移動できる魔法の道具。

 

 

「では、ご覧ください!名付けて『ママライカーユニット』!」

 

 

…………………はぁぁぁ。

 

何か言うべきか、私は?

この、明らかに、何番煎じか分からないようなネタに。

あるいはどこから突っ込むべきか全くもって検討もつかないようなこのネタに。

 

私は何か一言でもコメントを述べるべきなのだろうか?

 

 

 

私は従兄弟と顔を見合わせて、やれやれというボディランゲージだけで意思を疎通させた。

どうやら彼も同じ感想を抱いたようだ。

 

反対に、マッマ達は物凄く興味をそそられたかのような反応を示している。

え?何これ!?すっごおおおい!!的な。

 

 

「かなり小型化されてるわね!何を動力にするのかしら!」

 

 

ピッピがかなり興奮した様子で9に尋ねる。

MI5お抱えの技術者は、自身の渾身の一作がウケたのがとても嬉しそうだった。

 

 

「このママライカーユニットは、三ツ藤理論を元に開発されています。」

 

 

誰だよ。

三ツ藤って、誰だよ。

 

 

「それにより、ガソリンなどの燃料を必要とせず、装着者の母性によりエネルギーを発生させる事が出来るのです。」

 

「ぼ…母性……?」

 

「ええ、そうです。勿論、母性の度合いによって性能は左右します。ですが、使用によって母性自体が消費されるわけではないので、その点はご安心を。」

 

「な、なるほど。これは人類の宝ね、Mon chou。」

 

「指揮官くんを抱きしめたまま、マンハッタンの夜空を遊覧飛行…濡れてきちゃう」

 

ルイス、やめろ、それ以上いけない。

 

「ご主人様、これがあればわたし達が側にいるだけで安全な離脱が可能になります!是非テストさせてください!」

 

「ベルファスト!最初にテストするのは私よ!指揮官くんを抱きしめながr」

 

「まだテストなのに、そんなのさせられないわ、ルイス!だから、Mon chouは私の勇姿を見て」

 

「皆様!大人げありませんよ!それにこれは大きな危険をもたらしかねないということもお忘れなく!ここはこのベルファストが」

 

「オン!オン!誰が何と言おうと、最初にこの機材を最初に使うのは私よ!坊やもそう思うでしょ!?」

 

「ちょっと待ちなさい、あなた達!確かに作ったのはロイヤルの技術者かもしれないけど、私たちもあなた達の作戦に協力してるのよ!ここは私が」

 

「ヒッパー!自重しなさい!ここは鉄血屈指の大戦艦に任せなさい!つまり、わ・た・し☆」

 

 

 

マッマ達が追い詰められたドイツ軍参謀本部みたくなってきたので、従兄弟が前に進み出て提案をした。

 

何か一つのものを多人数で奪い合う時、皆平等にチャンスがあるその方法は、非常によく使われることだろう。

 

そう、ジャンケンである。

 

 

 

 

 

「公正なジャンケンの結果、私がこの機材を使う最初のマッマになったわ!」

 

 

ヒッパーが凄まじく嬉々として9にそう伝える。

他のマッマ達はたかがジャンケンで負けただけで相当に落ち込んでおり、周囲はまるでソ連軍の迫る総統地下壕のようになっていた。

 

 

「Mon chouに良いとこ見せたかったのに…」

 

「ラッキールーたる私が破れるなんて、信じられない!」

 

「ご主人様、すごく残念です」

 

「オン!オン!」

 

「ティルピッツが壊れたわ…私もいっそ壊れようかしら…うふふ」

 

 

あまりに見るに耐えなかったので、私は嬉々としているヒッパーに目線を戻す。

よくもまあ寸分も怖がらずにやれるもんだなぁ。

ヒッパーは今では9から説明を受け終え、ママライカーユニットとという商標登記を著しく損ねかねない名前の機材を両足につけている。

9がセッティングを終えればすぐにでも旅立てる事だろう。

 

………大空か、あるいは、あの世へ。

 

 

 

「無茶するなよ、ヒッパー!」

 

「ラインハルト!ヒッパママって呼びなさいって言ってるでしょ!大丈夫、こんなの楽勝よ!」

 

「セッティング完了!いつでも飛べます!」

 

「了解!それじゃあラインハルト!ママが飛ぶところ、ちゃんと見てなさいよね!!」

 

 

 

航空管制の無線が聞こえてきて、ヒッパーに上空に他の飛行機がいない事を伝える。

つまり、いつでも飛んで良えですよと許可を出した。

ヒッパーは少しの間目を瞑り、神経を集中させる。

そして一気に見開くと、高らかな声で宣言した。

 

 

「ヒッパー零号機、発進!!!」

 

 

ヒッパー自身の容姿も相まって、私にはどうしても絵版下痢音にしか見えなかったが、彼女はちゃんと浮かび上がり、そして上空へと駆け上がっていく。

 

あの9とかいう技術者は発想に少し問題はあるものの、腕は確かなようだ。

 

上空に駆け上がったヒッパー零号機は、そのままテストフライトを順調に続ける。

そして、最後の項目を終えると、9から降りてくるように連絡された。

 

 

「ちょっと待ってもらって良い?」

 

 

だがヒッパーはそのまま着陸場へとは赴かず、私の物理的従兄弟のラインハルトの下へ向かう。

 

地面スレスレでママライカーユニットをホバリングさせると、唖然とする従兄弟を抱きしめた。

 

 

「さて、ラインハルト。心の準備は良い?」

 

「え?え?何の準備?何する気?え?」

 

「もう!察しなさいよね!」

 

「ん?え?ちょ?おわあああ!!!」

 

 

従兄弟は悲鳴を上げながら、ヒッパーと共に空へ飛び立っていく。

ボンボヤージュ、ラインハルト。

どうか良い旅を!

 

 

「クッソォ!何であんなツルペタに初めての抱き上げラブ☆ラブ飛行まで取らなきゃいけないの!」

 

「人類史上初めての抱き上げ飛行は、私と指揮官くんで行われるハズだったのに!」

 

「許せません…ナポレオン以来の屈辱です」

 

「怨!怨!」

 

「小娘がぁ…何を飲ませおええけええええ!!」

 

 

ヒッパーは念のため、ビス叔母さんに下剤でも飲ませてたらしい。

たぶん、ビス叔母さんなら金に物言わせかねないと思ったんだろうね。

カオ●シみたくなったビス叔母さんは、存分にオボエエしてる。

 

次々に呪いの声を上げるマッマ達を見て、9が恐る恐る声をかけた。

 

 

 

「実を言いますと、もう一点、試験したい機材があるんですが…」

 

「!?何!?それは、何!?」

 

「こ、こちらのジェット・ママライカーです」

 

 

おい、こら、お前。

お前、それ、EMT激おこ案件のやつだろうが。

それはアカン。

それはアカンヤツやで。なぁ。

 

 

「「「「サイッショはグゥゥゥウウウ!!!」」」」

 

 

心配する私を他所に、オボエエしてるビス叔母さんを除くマッマ達は早速勝負を始めている。

 

その時のマッマの表情は………やめとこう、今思い出しても恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッピが勝利の雄叫びをあげると共に、ジェット・ママライカーに飛び乗った。

 

9を急かしに急かしまくりながら操作の説明を受け、管制に向かって早く飛ばさせろと血気迫る怒号を上げている。

 

さすがに、ここまで母性爆発(?)してるピッピを見るのは初めてかも。

 

 

ヒッパーがようやく着陸場へ降りて、航空管制からは離陸許可が出た。

 

 

「坊や!まずは私が安全を確かめるわ!そしたら、音速越えの抱き上げ飛行…いいえ、世界初のあやしんぐ飛行へ連れて行ってあげる!」

 

あ、あのピッピママ?

無理だけはしn

 

「ラックショウッ!!!ラックショウよこのくらい!!!それじゃあ、ママが飛ぶところ見ててね!!!」

 

 

9がセッティングを終えた瞬間、ピッピはまた怒鳴った。

 

 

「セッティング終わり?じゃあ退けええええええええ!!!ママンゲリオン初号機、発進!!!!!」

 

 

ドゴゴゴゴゴォォォオオオオオオ!!!!

 

 

 

ピッピが宣言した瞬間に、彼女のママンゲリオン初号機はアルマゲ●ンのような感動的シーンを提供した。

 

ド派手な白煙を吐き上げて、月を目指さんとばかりに飛び上がる。

 

そしてまるでアポロ計画かお前は、と言いたくなるような速度で上昇していき、ピッピはアッという間に見えなくなってしまった。

 

 

 

「9、長官からお電話です。」

 

 

助手から電話機を受け取ったMI5技術者は真っ青な顔でそれを耳に持っていく。

 

 

「はい、お電話代わりました。ええ、長官、違います、ICBMを発射したわけではありません。…例の新型機材の……ええ、はい。設計に間違いはなかったのですが、何せ彼女の母性エネルギーがあまりにも多量で………『何を言ってるかわからない』?そうおっしゃられましても…」

 

 

技術者が長官に弁明している間、私は他のマッマ達と共に空の彼方へ飛び立ってしまったママライカーユニットを見上げていた。

 

 

 

 

♪マ〜マ〜と〜いた夏は〜

とおい〜ゆ〜め〜のなか〜あ

 

そ〜ら〜に〜、消えてえったあ〜

打ち上げピィ〜イイ〜ピィィ〜

 

 

10コンボくらいは、いったんじゃないかな?

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。