バブールレーン   作:ペニーボイス

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キョウハン

 

 

 

 

心配しなくても、ピッピママはちゃんと帰ってきた。

ただ、北極圏にまで飛んで行ってたようだ。

相当寒かったのか、或いは単純に疲れ切ったのか。

まったくの無表情で帰ってきて、

 

「…モノを食べる時はね、(坊やと一緒に)誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃ」

 

とか言ってたので、一緒に外食する事にした。

 

まあ、あんな寒いとこまで行っちゃったらお腹もペコちゃんになるよね。

 

何か食べたいものはないかい、ピッピ?

ドワナクロ〜ズマイア〜イズしてきたんだから君には好きな物を食べるくらいの権利はある。

最果ての地まで飛ばされて、ロイヤル空軍に救助されて、帰ってきた瞬間に「ドワナフォ〜ルアスリ〜プ(意訳:寝る前にまずご飯)」つってるぐらいだから今日は私の奢りで好きな物を食べるといい。

 

 

 

 

 

 

転生者ってのは、往々にして何かしらのスキルを与えられてるのが通例だと思う。

勇者の場合は生まれつきの勇者だったり、魔法使いだと化け物級の魔力を持ってたり。

 

他にもモテモテスキルだとか巨万の富だとかそういったものが王道ではなかろうか?

 

 

私は最近になって、自身に2つのスキルが付与されている事に気がついた。

 

 

一つは、KANSENをママ堕ちさせるスキル。

なんかね、もうあんまり、これについては書きたくない。

このページから読み始めた方がいれば、お時間が許すなら是非過去に遡ってみて欲しい。

もう、私が説明しなくても大体分かるだろうから。

大抵バブバブしてるだけで問題が解決してるから。

 

 

さて、もう一つのスキルの話をしよう。

私に付与されたもう一つのスキル…それは

 

『語学力』だ。

 

 

これね、最初から気づくべきだったんだけどっつーか薄々気づいてたんだけど、並々ならぬ語学力が付与されてるわ、私。

 

義務教育で習うような、典型的なアメリカ英語を話すセントルイスならまだスキルなしでもどうにかなったりならなかったり、たぶんならなかったりすると思う。

 

ベルファストは馴染みのないクイーンズ英語話すし、ティルピッツやダンケルクやアヴローラの英語は訛りがひっどい。

これ文面だから伝わらないけど、ピッピに至っては60年代の戦争映画に出てくるドイツ兵みたいなドイツ語訛りしてるわけよ。

 

それを今の今まで難なく聞き取れて、意思疎通をこなせてるって事は、これはもう間違いなく天より受けし恩恵であります。

 

地味に思えるけど、よくよく考えたら凄え助けられてる。

 

まず、裏路地でキング●メンやってたビス叔母さんとピッピの会話盗み聞けたし、アホタレ倒した時はドイツ語を使えたし、そもそもMI5の連絡役になるってなった時も何もしてないのに他国との情報交換をこなせた。

 

嬉しい事に、世界各国版ジー●アスかってくらい幅広く多言語をカバーしてくれてる。

あ、流石に咳とアチャは載ってなかったけど。

 

 

 

 

 

2つ目のスキルのおかげで、ピッピとイタレリ(史実におけるイタリア)料理店に着いた時、ロンドンで開業してるくせに祖国の言葉でしか書かれていないメニューを解読する事が出来た。

 

ピッピはイタレリ語を読む事は出来なかったので、私にメニューに乗る写真が何の料理であるかを尋ねてくる。

 

あれ?

今夜は…何というか、いつもとは違うピッピに見えた。

マッマっぽさが陰を潜めて、今は上品な…気品ある女性としての面が強く出ている気がする。

 

今日はピッピと二人きりのディナーだ。

他のマッマ達はジェット・ママライカーによる離陸にかなりの衝撃を受けたらしく、ピッピと二人きりのデート(?)を許してくれた。

 

まあ、実際アレ見ちゃったら自重しちゃうよね…

マジモンのアルマ●ンだったからね…

 

しばらく悩んだ挙句、ピッピが先に注文を決めた。

 

「私はこれ…子牛のコトレッタ・ミラノ風で。」

 

 

おぉ〜、ピッピはコトレッタを選んだか。

どれどれ、他にはどんなメニューがあるんだ〜?

へぇ〜、フィレンツェ風ビステッカってのもあるのか。

これは何だろう?

よく分からないけど、美味しそうな予感がするぞぉ。

 

 

すいません!

 

私は北欧雑貨の販売店に勤めるサラリーマンのようにウェイトレスを呼び止めた。

そして、同じようにピッピのコトレッタと私のビステッカを注文する。

 

 

「うぃっす、了解!ところでアンタ、前にイタレリにいた事があるんじゃないか?ファシスト派と王党派、どっちが好きだ?」

 

 

ガル●ンのペパ●二にしか見えないウェイトレスにそう聞かれたが、どちらかと言えば南部訛りのあるイタレリ語より後者の質問の返答に困る。

 

率直に申し上げると、いや知らんがな。

 

ただ、何故か唐突に、このそこそこ高度に政治的な問題をにこやかに聞いてきたウェイトレスを無下にもできないので、私は当たり障りのない答えを探した。

 

よく考えれば、イタレリはファシスト発祥の地であり、この移民がわざわざロンドンまで来て働く理由は数少ない。

 

 

ん〜、私は王党派かな。

 

「おめぇ通だねぇ〜!!サービスにジェラートを付けとくよ!」

 

 

何の通なのだろうか?

 

そもそも、雰囲気的に、今ファシスト派つってたら店から蹴り出されてた気がする。

こっわ。

何なの、この魔女狩り的審問タイムは。

パスタはスパゲティ派?ピザ派?感覚で政治的思想を審問しようとしてたよね、彼女。

こっわ。

 

 

「………………」

 

 

気がつくと、目の前のピッピがすっごいジト目でこちらを見ている。

 

 

ど、どうしたの、ピッピ?

 

「あの子との付き合いは認めないわよ、坊や」

 

いや、いつ付き合うとか言ったんだよ。

あのね、まずもってね、なんでそんな「あんな相手との婚姻なんて認めないわ」的な姑チックなサムシング漂わせたの?

 

気づいてないかもしれないけど、今ウェイトレスに政治的思想の審問をされたんだよピッピ?

それがどうなったら可憐な少女とおっさんのお付き合いに見えるわけ?

アレがナンパか何かにでも見えたのかい?

だとしたら、もうそれは…病気だよ?

 

「そう…なら安心ね…。ねえ。少し昔の話をしてもいいかしら?」

 

 

 

本当に今日のピッピは何か違う。

 

さっき一瞬だけママみが出たけど、今はまたこの料理店に着いた時のような雰囲気に戻っている。

 

マッマではなく、一人の気品ある女性。

 

私の目には、今の彼女はそう映っていた。

 

 

「フィヨルドで会った時…あなたが私を連れ出してくれた時…」

 

ああ、懐かしいね。

 

「………ねえ、もしあなたが成長して…私がママとしての務めを果たせなくなったら…それでもあなたは側にいてくれるかしら?」

 

うぅんと、もうママから卒業してもおかしくないくらいには成長してるハズなんだけど………うそ、ピッピ、ごめん、取り消す。

 

でも、もしそういう時が来ても、ピッピとは長く付き合っていきたいと思ってるよ。

 

「その時の私とあなたの様子が、どうしても想像できないの。私、ジェット・ママライカーで飛んだ時に変な走馬灯のような物を見たわ。」

 

 

そりゃあ、あんなもんに乗ってりゃあ走馬灯の一つや二つ見るわなぁ。

 

 

「あなたと私が出会った時…自殺を止めた時…あやした時…銃撃から守った時…あやした時…あやした時…一緒にお酒を飲んだ時…あやした時…あやした時…あやした時…あやした時あやした時あやした時あやした時」

 

あやした率半端ねえ。

ほぼほぼあやした事しか浮かんでなくない?

 

「でも、思ったの。いつまで、あなたをあやせるんだろうって。」

 

どんだけあやし足りねえのよ。

走馬灯で見た7割方の記憶があやした記憶なのに、どんだけあやし足りねえのよ。

 

「坊や、私の坊や。大切な大切な坊や。さっきのあなたの返事を聞いて、私少し安心したわ。例えあやせなくなってしまったとしても、あなたは側にいてくれる…本当にありがとう」

 

 

ピッピはそう言って、少し目を閉じる。

 

そういうことか。

きっと、走馬灯を見て、この先の将来に不安が芽生えたんだろう。

私が彼女達から離れて、どこかKANSEN以外の女性と結婚でもしていなくなってしまうのではないか。

 

だからさっきのウェイトレスとの会話にも過剰反応したし、雰囲気がいつもと違うのは、マッマというだけではなく、一人の女性としても見て欲しかったのだろう。

 

 

うん、ピッピ。

約束する。

私がピッピ達から離れる事はないよ。

 

「そう、嬉しい…とっても嬉しいわ。ずっと一緒にいましょうね?」

 

うん、うん、そうしよう。

 

「…定期的に褒めてくれれば、私も長持ちするわ。髪が綺麗とか。」

 

うん、うん、髪が綺麗だね。

 

「小さな変化にも気づいてね?ちゃんと見ていて?」

 

うん、うん、ちゃんと見てるよ。

 

「でも、シワが増えたとか、そんな余計な事は言わなくても良いから。」

 

うん、うん、言うわけないじゃんか。

 

「もしも、少し年老いてきて、目移りする時は」

 

うん、う………ピッピ?

 

「2人が初めて出会った…フィヨルドの事を思い出してね?」

 

ピッピ?

 

「これからもどうかよろしくね。」

 

ピッピ?

 

「こんなマッマだけど、笑って許し」

 

スタァァァァプ!!!

スタァァァァプ!!!

スタァァァァプ、ピッピ、スタァァァァプ!!!

 

私は許すけどソ●ー・エンターテ●メントあたりが許さないから、それ以上はスタァァァァプ!!!

 

途中から勘付いたけど、ここまで大冒険されるとは思ってなかった。

 

つーかピッピもピッピで「チィッ!あと少しだったのに!」的な顔をするのはやめなさい。

確信犯かよ。

 

 

 

こんなおふざけをやっている間にも、ウェイトレスが2人分の料理を持ってやってきていた。

 

サービス精神の塊みたいなシェフが気を利かせてくれたのか、2人の料理の脇には赤々としたワインが注がれている。

 

 

「さて、坊や。私の坊や。乾杯の音頭を取ってもらえるかしら?」

 

 

ピッピにそう頼まれても、気の利いた言葉が浮かんできそうにもなかった。

うん、もうこういう時はアレだよね。

毒を食らわば皿までって言うしね。

 

 

 

…それじゃあ、ピッピ。

 

君の瞳に乾杯!

 

 

 

 

 

 

 

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