バブールレーン   作:ペニーボイス

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ママドル@マスター

 

 

 

 

 

「こいつはヴァルギン大尉、内部人民委員部将校。こっちはアルフレート・フォン・シュレヴィリッヒ=ホーツザクセン、鉄血公国の実業家。この2人が明後日、鉄血公国・ヴィーナーベルグの国立劇場で落ち合います。」

 

「アヴローラ、それは確かな情報なんだろうな?」

 

「…………………」

 

「おい、聞いてるのか!?」

 

「……これ以上の情報は…ミーシャ以外には話しません」

 

「………………うっ、えぐっ、ひぐっ、ビスマッマぁ!」

 

「あ〜よちよちぃ、可哀想なラインハルト。チョコレート?ヴェル●ーズ・オリジナル?それとも、わ・た・し?」

 

「…………(無言の血涙)」

 

「ねえ皆、どうする?これ以上指揮官くんをあやさせても図に乗るだけじゃないかしら?」

 

「私も、ただMon chouをあやしたくてデタラメ言ってるようにしか見えない。」

 

「しかし、これまでご主人様と引き換えに聞き出せた情報は全て正しいものでした。残念ながら、これまでの彼女の情報の質は、どの情報源をも凌駕しています。」

 

「そうですねぇ…ロブロブには申し訳ありませんが…」

 

「…………坊や、本当にごめんなさい。あと少しでいいから…」

 

いや、別に嫌がるわけじゃな

 

「指揮官くん!?」

 

「信じてたのに!」

 

「目を覚ましてくださいっ!」

 

「ロブロブ!?正気を保って!?」

 

「坊や?坊や?坊やああああ!?」

 

 

あのよぉ。

なんでアヴローラに抱き抱えられるだけでこんな騒ぎ起こせんのよ。

 

ちょっとばかし冷静に行こうぜ?

私は今からアヴローラの所へ行って、はいはいよちよちあ〜良い子でちゅね〜的な事言われるだけなんだぜ?

 

それだけでホルタ会談側の全ての情報組織の成果TOP5入り間違いなしの高品質情報を垂れ流してくれるわけよ、アヴマッマは。

 

 

そこまで抵抗する必要がある??

 

「「「「「ある!!!」」」」」

 

こういう時だけ全会一致なのねお前ら。

 

 

 

 

「びえええええええ!!!!!」

 

今度は何の騒ぎよ?

 

「マッマァ!マッマァ!ビスマッマァ!!なんでアヴローラはぼぐぢんには何も話してくれないノォ!?」

 

「あぁ〜あぁ〜。可愛そうなラインハルト。ほらぁ、ヴェル●ーズでちゅよぉ。よく舐めてくだちゃいねぇ?よちよち、よちよち。」

 

「……………(無言の血涙)」

 

 

 

最近、アヴマッマが従兄弟ラインハルトに意地悪するせいで、彼のメンタルゲージがすり減っていってる気がする。

 

見た目トム・●ルーズの彼はもはやなりふり構わず泣き叫んでいるし、ビスマッマは相変わらず従兄弟を双丘で慰める。

それを傍から見ているだけのヒッパーちゃんの足元にはビクトリア湖みたいな血だまりができつつあった。

 

 

やめたげて、アヴマッマ。

ラインハルトのメンタルライフはもうゼロよ?

あと、ヒッパーちゃんに至ってはそろそろリアルライフも危ないよ?

 

 

 

 

 

アヴマッマは私にはかなり協力的だったが、ほかの面子にはまるで別人のように接していた。

 

今朝だってノーカロさんに尋問されてて、

 

「あ、思い出しました!確か明後日…いえ、なんでもないです」

 

「何があるんですか!喋りなさい!!」

 

「…はぁ〜あ、忘れてしまいましたぁ〜」

 

「このッ!」

 

「ミーシャをあやせば、何か思い出すかもしれませんねぇ〜。」

 

 

とかいう、私はアルコールか何かか?みたいな会話をしていた。

何なの、あやせば思い出すって。

そんな日常生活の友みたいな扱いされても困るんだけど。

 

 

一旦私をあやしたアヴマッマはその後、明後日の件をリークした。

だがその後従兄弟と入れ替わってみたらご覧の通りである。

正直面倒くさい。

 

 

 

 

 

さて、私を抱き抱えたアヴマッマは、2つの写真を私に示す。

 

全身からビリビリ電気出せそうな既視感ある筋骨隆々なおっさんと、でっぷり肥えた絵に描いたような富豪のおっさん。

 

社会主義国家の保安要員が、資本主義の象徴みたいな富豪を頼るってのも面白おかしい話だが、この2人が何のために会うのかは私には到底分からない。

少なくとも、デートをしたいわけじゃなさそうだが。

 

まあ、最近の傾向で言えばレクタスキー博士のワクワク大実験がらみしか思い浮かばんし、たぶんそれ以外はないでしょう。

 

 

「私自身目的の方は知らされていませんでしたし、明後日の会合自体はそれとなく聞いていた程度です。ヴィーナーベルグの国立劇場なら多人数が集まりますし、会合もやりやすいのでしょう。」

 

 

木を隠すなら森の中。

確かに、会合を秘匿する一手ではあるだろう。

 

 

「北連情報部はミーシャ達が思っているよりもずっと焦っています。何せ、相手はあのスタルノフなんですから。先週だけでも、レクタスキー絡みで粛清された工作員が何人いる事やら。」

 

たまらんなあ、北連の政治システムってやつは。

しかし…会合の件を君が知っているとは…それも、"それとなく聞かされた"とは…北連情報部は確かに焦っているようだね。

 

「"君"じゃなくて、マッマ!」

 

はい、マッマ。

 

「北連情報部が焦っている証拠でもあります。窮すれば貧す。よく言うでしょう?」

 

ハイ、ソーデスネ、マッマ。

ところで、この二人組がなんでまた鉄血国内なんかでデートしようなんていう気になったのかは…心当たりとかないかな?

 

「ヴァルギンはレクタスキー実験の資金係です。アルフレートに接触する理由は資金洗浄ではないかと思いますよ。東煌の作戦は思いのほか外貨を消費しましたから、金融の街・ヴィーナーベルグの投資家に会って追加の北連通貨の洗浄と外貨変換を行うというのは辻褄が合います。」

 

資金を追えば…レクタスキーのワクワク大実験の物的証拠に辿り着くかも?

 

「その通りです、ミーシャ!流石私の息子!」

 

「ちょっと!あなたMon chouに輸血したわけじゃないでしょ!」

 

「指揮官くんを我が子扱いするには100世紀早いわ!」

 

「オン!オン!」

 

「ご主人様からも何か一言言ってください!」

 

あのさ、何かあるたびに総統地下壕になるのそろそろやめて?

 

 

それはさておき。

アヴローラの言う通り、資金の流れを追えば怪しいサムシングに辿り着くハズだ。

その資金係と資金洗浄を受け持つ資産家を締め上げるのが一番手っ取り早いだろう。

 

それじゃあ、ヴィーナーベルグへ向かうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の計画で最も重要なポイントは、やはり監視という事になる。

鉄血公国を代表するヴィーナーベルグ国立劇場の広大な建物内を監視し、目標となる2人を探し出さねばならない。

 

従兄弟のおかげで鉄血公国情報部の要員も動員できるが、それでも十分に監視が行き渡るとは言い難いのだ。

 

さまざまな方向から検証した結果、全体を広く見渡せるステージに要員を置いておきたいという従兄弟の主張が望ましいように思える。

劇場の構造からしても…客席はほぼ全てが何らかの形でステージと向き合っている…ステージに監視要員がいれば都合が良い。

 

 

問題は誰がステージから監視するかである。

 

もちろん、ステージにスーツの男達が登って目を光らせることはできない。

監視対象に警告を与えるようなものだ。

だから、ステージで歌うなり演奏するなりしているような人間でなければならない。

 

熱中する必要はないにしても、国立劇場に立っていて不自然でない且つ監視できる超人となると中々いないハズだが、幸運な事に、私達の元にはそういう人物が一人いる。

 

 

ピッピマッマ。

 

 

彼女のソプラノなら、由緒ある国立劇場でもたぶん通じるはずだ。

だからピッピには、今回歌いながら監視もしてもらうという難しい任務に当たってもらう。

 

それでもピッピは二つ返事で引き受ける当たり、もうマジでマッマ。マジマッマ。

 

これで、後は当日を迎えるだけ………のはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった?

ん?

ステージに上がるのはピッピだけで、プッチーニかシューベルトでもやれば良かったんだ。

それがどうしてこうなる?

 

 

私は今、国立劇場の楽屋で頭を抱えている。

 

もう例の会合の当日で、ターゲットが客席に入っていてもおかしくはない。

鉄血情報部の要員は未だターゲットを発見できていないことから、ピッピには大きな期待がかけられている。

 

なのに…どうしてこうなるんだよおぉ。

 

 

 

「見ててね、プロデューサー!」

 

「指揮官くんをあやしたい…」

 

「…この気持ち、きっとファンの皆様に届けます!」

 

「だから、私達を見ていて、Mon chou!」

 

 

 

誰がプロデューサーやねんっ!!

つーかそのA●B風の衣装はなんやねんっ!!

お前らは一体何がしたいねぇぇぇんッ!!

 

 

はっ倒すぞ、この野郎!

誰がライブ成功させろとか言ったんだよ!?

ビリビリ工作員とクソ資産家見つけて来い言うたのに、何がどう間違ったらアイ●ル@●スター突っ走るんだよ!?

 

マジでプロデューサーってなんなんだよ!?

確かにプロデュースしたけどさぁ!!

プロデュースしたものと真逆の方向走っちゃてんじゃん!?

 

 

「まぁまぁ、ロブロブ。彼女達も激しいレッスンを重ねてここにいるのですよ?」

 

「ホント、よく着いて来たぜ…良い娘達じゃねえか、大将」

 

 

ノーカロさん、お願いした事とは随分違うことレッスンしてません?

私は大人数の中から特定の顔を見つけ出す訓練をお願いしたハズなんですよぉ。

で、なんでこうなるんです?

となりのワシントンとか、もはやなんなんですか?

絶対ダンス的なサムシングレッスンしましたよね?

絶対私の言った通りにはしてませんでしたよね?ねえ?

 

 

「本番5分前で〜す!」

 

おい、ラインハルトてめぇ。

何ノリノリでスタッフやってんのよ。

何でこの作戦の核となるべき立場の人間が事も無げにメガホンもってスタッフしてんのよ。

 

「そろそろ行かないと…。坊やプロデューサー!それじゃ、行ってくるね!」

 

 

ピッピはそう言ってステージへ向かい、ダンケ、ルイス、ベルがそれに続く。

 

おい、行くな。行くんじゃない!

そのライブぜってぇ成功しねえから!

 

たぶんお前らアニソン感丸出しのキャッチーな曲やる気でしょ?

ここ何処だかちゃんと分かってる?

 

ヴィーナーベルグの国立劇場だよ?

由緒正しいオペラハウスなんだぜ?

分かってる?

ねえ、分かってる?

観客は皆んな厳しい面したおっさん、おばさん、おばあさんなんだよ?

皆んな上流階級感丸出しなんだよ?

なのにキャッチーな曲しちゃうの?

やめて、頼むからやめて。

そんな事したら流石にターゲット気づいちゃうから、やめて?

 

 

待て待て待て待て待て待て

行くな行くな行くな行くな

聞いてた?

今の話ちゃんと聞いてた?

ねえ、ちょっと!?

待ちやがれええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客の殆どはタキシードとドレスだったし、マッマ達の前にヴェルディを歌った容姿端麗なオペラ歌手の美しい歌声にさえ不満を隠そうともしないほど、採点は厳しそうな人々だった。

 

流石にブーイングとまではいかないが、オペラ歌手には一つの拍手も送られず、観客は厳しい顔を少しも変えようとはしない。

 

私はその様子を二階の監視位置から観察していたが、もはやそこから逃げ出したくて仕方がなかった。

怖えもん。

空気が怖えもん。

 

たぶん、この観客達ならマッマ達が現れた瞬間には帰り出す事だろう。

そうなれば、人の動きが激しくなり、ターゲットを見つけ出せる確率はぐんと低下する。

 

ただ、作戦失敗も恐ろしいが、マッマ達が登場した瞬間の空気の方が恐ろしく感じる。

このピリピリした空気がどう転ぶか容易に想像さえ着いてしまうからだ。

 

私は自身がステージに立つわけではないのにも関わらず、脂汗が止まらなかった。

 

マッマぁ、頼むから、キャッチーと見せかけて正統派でおなしゃす!

 

 

 

マッマぁ!?

そのまんまキャッチーで来やがったよ!?

捻りでも何でもなかったよ!?

 

「皆んな〜!今日は来てくれてありがとう〜!」じゃねええええよ!!

それヴェルディの直後にやる事じゃねえだろうがよ!!

ライブって、ライブの意味が違うから!!

そういうライブじゃねえから!!

 

よくそんなフレンドリーにいけんね!?

こんな上流階級の壁を押し立ててくるような人々相手によくそんなフレンドリーにいけんね!?

 

 

 

私は目を閉じた。

もうダメだ、終わりだ。

観客達はブーイングはともかく、たぶん帰る。

「なんだこのふざけた茶番劇は」とか「最近の若者は教養もない」とか言いながら、帰る。

 

マッマ達も傷ついちゃうだろうし、何よりターゲットは捕捉できない。

 

ふぁぁぁぁ、もうちょっと作戦をよく練っておくべきだったか。

 

もう、遅いんだけどね!

 

 

 

 

遅いことはなかった。

 

マッマ達のキャッチーな歌声が聞こえてきて、私が目を開けた瞬間に、劇場内で巻き起こるとんでもない光景を見ることが出来たのだ。

 

 

タキシードやドレスに身を包んだ、実業家に、投資家に、たぶんリアル貴族の皆様方が。

 

プロのヴェルディにさえ不満を隠そうともしなかった皆様方が。

 

「あらご機嫌〜」「あらご機嫌麗しゅう〜」とかやってそうな皆様方が。

 

 

 

 

サイリウム両手にオタ芸してたのだから。

 

 

 

 

もう、本当に帰りたい。

ノリが良いとかそんな問題じゃない。

 

あのね、「あら意外と面白いじゃない」程度ならともかく、「そ〜れそれそれ↑↑」とかもうこっちの理解が追いつきません。

 

どうなってんの?

もう、どうなってんのよ、これ。

 

この価値観の格差は、何?

私でも初見のアイドル相手にそこまでノリノリになれねえよ、たぶん。

あんたらどうして初見のアイドル(?)相手に一糸乱れぬオタ芸披露出来んのよ。

つーかそれタキシードとかドレスでやって良いものなの、ねえ?

 

 

 

 

 

呆れるというか、まさに空いた口が塞がらない状況だったが、その光景のお陰で、私はターゲットを見つけ出すことができた。

 

殆どというより、その2人を除いた観客全員がサイリウム両手にオタ芸披露しているおかげで、かなり容易に発見できた。

 

ターゲットの2人は交渉に夢中らしく、周りで起きている普通ならあり得ない光景に寸分の注意も払っていないらしい。

 

 

 

なんつーか、アレだね。

マジマッマ。

 

 

 

 

 

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