「アイン、ツヴァイ、ドライ…」
アイン、ツヴァイ、ドライ…
「フィーア、フィンフ、ゼクス…」
フィーア、フィンフ、ゼクス…
ふっかつのじゅもん。
では、ない。
私は今ピッピに抱えられ、絵本を見ながら楽しくドイツ語をお勉強しているところだ。
まあ、昨日の暴走が貧血由来の行動であると証明されたのはいい事で、さらにプリンツェフのお薬のおかげで早くも上半身が起こせるようになったのもいい事に違いない。
でもまあ、それでもご覧の有様である。
いい歳こいたおっさんが、魅惑の銀髪巨乳長身美女に抱えられながら、絵本を朗読しているのである。
この世とはなんと奇妙なものか。
…今更ながら。
「坊やの鉄血語、とっても上手ね!」
「ティルピッツ!あと21分32秒53には私と交代よ!アイリス語のお稽古するからっ!」
「私はあと81分28秒33後に指揮官くんと英語のレッスンね。」
「ご主人様には正統なクイーンズも学んでいただく必要がございます。あと、141分25秒26」
怖えよ!
秒単位どころかその下の位まで完全掌握かよっ!
頭の中に電波時計でも入ってんのか!?
つーかそんな単位まで奪い合ってんのあんたら!?
まさに衝撃と畏怖だわっ!!!
目を覚ましてから2日目。
今日は午後から物理的従兄弟ラインハルトとの面会が待っている。
彼には感謝してもしきれない。
もし、彼が私の異変に気づいていなかったら、私はきっと出血多量で死んでいたのだから。
だから彼もまた、私の命の恩人に違いないのだ。
今日はたっぷりとお礼を言わないと。
それまでの午前中はマッマとの『良い子のほのぼの各国語教室』で終わりそうだったし、実際そうなった。
ダンケからフランス語を学び、ルイスとカントリー●ードを歌って、ベルとトップ●アを見た。
いくらスキル『語学力』があると言っても、マッマとの授業はふつうに楽しめたし、やっぱり色々と勉強にもなったが、問題がなかったわけではない。
ルイスとベルが発音の違いから揉め出して、
「第一、その鼻にかかったような発音は何なの?変な発音!」
「変な発音とは何ですか!貴女方ユニオンの田舎発音の方が聞き取り辛くてなりません!やはり、ご主人様にはクイーンズこそ習っていただくべきですね!」
「指揮官くんには世界一のスーパーパワーたるユニオンの発音を覚えてもらうの!異論は認めないわ!」
「寝言は寝てから言いなさい!世界に冠する我らが大ロイヤル帝国の栄光が絶えることなどないのですから!」
「いつまでも過去の栄光にすがりつくなんて、さすがロイヤル人ね!」
「か、過去ぉぉぉおおお!?今のは聞き捨てなりませんね!」
とか言いいながら艤装付けて撃ちあいするまでの大ゲンカに発展してたし、ピッピとダンケは、
「…坊やにはアイリス語こそ教えるべき?何を、世迷言を。」
「よく言うでしょ?アイリス語は花を数える言葉、鉄血語は豚を追う言葉って。」
「へぇ。鉄血陸軍相手に三ヶ月持たなかった弱小国が吹くじゃない。」
「なっ、それは関係ないでしょ!鉄血だってロイヤルの空軍に叩きのめされたくせに!」
「それは空軍の問題!陸軍と海軍は欧州一なのよ!」
「鉄血海軍が欧州一なら、貴女はフィヨルドで何をしてたのかしら、ティルピッツ?」
「チィィッ、アイリスの死に損ないがッ!」
「ただの引きこもりがッ!」
とか言って、こちらもこちらで艤装での撃ち合いに発展していた。
あのね、マッマ達。
忘れてるかもしれないけど、ここ、一応病院だからね?
そんな大砲ボンボンぶっ放して良いもんじゃないし、あんたら同じ屋根の下で私をあやすとか言ってなかったっけ?
言ってない?
うん、そっか。
もう、どうにもならん、もう止まらん。
出来ることはした。
あとは自然に任す。
マッマ達がパイレーツオ●カリビアンしてる間に、私は早くも回復した両腕を使って食事をとる。
今まで入院した事がないわけではなく、それどころか何回もある私だが、こんなに美味しい病院食は初めてかもしれない。
グヤーシュと呼ばれるハンガリー風の…トマトベースの煮込み料理に、ザウアークラウト、そしてブレートヘン。
デザートにはお手製と思わしきカイザーシュマーレンが付いている。
病院食に、こんな糖質の鬼みたいなデザートが付いて良いのかなとも思いつつ、そのドイツ色丸出しのメニューを見て、ああそうだまだヴィーナーベルグにいるんだなと思い出す。
従兄弟の部下達はヴァルギンの方は取り逃がしたものの、アルフレートとかいう資産家を確保したハズだ。
どんな尋問をするか、あるいは拷問に至るかもしれないが、従兄弟ならあの資産家から情報を引きづり出せる。
その話も、面会の時に
「よぉ!ブロ!無事でなによぶへぁッ!!」
従兄弟ラインハルトの訪問が、予定より早かったとしても、落ち度は完全にこちらのマッマにある。
静粛であるべき病院で、日本海海戦をやっていたのだから、それは当然のことだ。
哀れラインハルトは顔面にルイスの直撃弾を受けてしまう。
まあ、不思議な事に、従兄弟の顔面はドッジボールが当たった的な軽傷で済んでいたが。
KANSENの砲弾ってどうなってんの?
「うっ、うっ、ひぐっ、ビスマッマぁ」
「あああああ〜、よ〜ちよちよち、可哀想なラインハルト〜、痛かったでちゅねぇ〜。」
また始まったよ。
ほら、ルイス、いや、ルイスだけじゃなくてマッマ達全員、ラインハルトに謝って?
いや、当てたのはルイスとかそんなのじゃなくて、病院なんていう公共の場で公共の福祉全力で阻害してたんだからさ。
ごめんよ、ラインハルト。
私が2回も死にかけたもんだから、マッマ達ちょっと暴走気味なんだ。
「う、ひぐっ、そうか、こちらこそ見苦しい物を見せてしまったな。」
いいや、こちらこそ見苦しい物を見せてしまった。
ところで、兄弟。
お前さんには感謝してもしきれないよ。
「気にすんなよ。当然の事をしたまでさ。俺たちはコミニストでも、ローマ帝国の皇太子でもない。助け合うべき理由はあっても、争う理由はないだろう?」
やっぱトム・●ルーズがかっこいい事言うとサマになるなぁ。
私とか、たぶんサマになる台詞って言ったら橋の上で撃たれた後の『一生懸命に、生きろ』ぐらいしかないんじゃないか?
最後にマット・●イモンがお墓に向かって問いかけてくれる、あの台詞ぐらいじゃないかな?
アレもアレで素敵だけども。
「ところで…ブロ。良い知らせと悪い知らせがある。」
悪い知らせから。
「…そう言うと思った。アルフレートは密輸業界の大物でもあったようだ。彼がヴァルギンなる人民委員部将校から受けた依頼は…C47輸送機の転売。」
つまり、DC3の事だね?
ユニオン製の輸送機だが、今では欧州中で飛び回ってる。
「そう。もう引き渡しは済んでいて、あの会合は料金の受け取りだった。連中がそれを何に使うにしろ、跡を追うのは難しい。もう二つばかし、悪い知らせがある。」
え、あと二つも?
「情報源と連絡が取れた、これ自体は良い知らせだ。だが…その情報源は例の実験から隔離された立場にある。"あの写真"も第三者から入手したらしい。」
じゃあ、兄弟。
そちらの情報源からでは決定的な物的証拠は得られないという事か。
「そうなる。最後の一つだが…その情報源の話では、現在、内部人民委員部にヴァルギンという将校はいない。」
………………………………………………………………………………………えええ〜〜〜!!!???
「おそらく、俺たちが見つけたのは、ヴァルギンに化けた誰かさんだ。ヴァルギン本人は
ホルタ会談直後に亡くなっている。ウラル山中での核実験失敗の際に死んだらしい。」
うん?それって…ひょっとして…あれだよね。
死因が核爆発とか内部被曝とかじゃないやつだよね?
たぶん、ぶっ壊れた巨大兵器の上で戦ってたらユニオンのスパイに殺されたやつだよね?
「おおっ!なぜ分かるんだ!やっぱお前はすげえ奴だよ、ブロ。…アヴローラだって、本当のところは知らなかったようだから…俺の思うに、ヴァルギンに化けたのは…」
………レクタスキーか。
「うん、俺もそう思う。あいつが一人で何から何までやってやがるんだろうな。…さて、良い知らせだ、ブロ。」
レクタスキー捕まえたとか?
「残念だが、そうじゃない。…ブロ、少し寂しくなるな。」
従兄弟はそう言って、私に一通の手紙を渡す。
封筒を開き、中の用紙を取り出して読む。
『MI5長官の権限に基づき、対外諜報顧問ロブ・マッコールの辞職を認める。当人は重度の負傷をしており、任務遂行に多大な影響を及ぼす事が認められる為である。通常の措置では恩給の支給は認められないが、当人の絶大な貢献を考慮し(以下略)』
ん?ん?ん?ん?
え?え?え?え?
いつ辞めるとか言ったよ、おい。
「進捗をお前に伝えたのは…まあ、よしみってヤツさ。くれぐれも他言はしないようにな。」
ラインハルトは困惑する私を置いて、病院から爽やかぁに出て行く。
ビス叔母さんとヒッパーがそれに続き、部屋には私とマッマ達だけが残された。
ね、ねねねねねねねね、ねえ、マッマ達。
いないとは思うけど、この中で勝手に私の辞職届出した人とか、いたりする?
怒らないから正直に手を挙げてくれるかい?
マッマ達は誰も手を挙げなかったが、誰が辞職届を勝手に提出したのかはすぐに分かった。
ダンケマッマ。
目を逸らしたのは、君だけなんだ。