バブールレーン   作:ペニーボイス

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真実の扉

 

 

 

 

ロイヤル

ボービンド戦車博物館

 

 

 

 

 

もう、物理的従兄弟ラインハルトはMI5のブラックリストには載っていない。

だから自由にロイヤルに入国できるし、ケーニヒス・ティーゲルの技術者というクソややこしい偽装身分を使う必要もなかった。

 

だが、私があの時のようにこの戦車博物館に従兄弟を呼んだのには理由がある。

 

ここは本当に人目につかないし、何か後ろ暗い話をするにはもってこいなのだ。

人通りは滅多にないし、たまに通りかかるスタッフや清掃員のおばちゃんに注意していればいい。

まさに秘密の会合場所。

 

 

前回ここで話し合った時と違う箇所があるとすれば、それはお互いボディガードをつけていない事、そして、やってきた物理的従兄弟がフランクになっている事だろう。

 

 

 

「よぉ、ブロ!良い知らせと悪い知らせがある!」

 

………良い知らせから。

 

「ほほう、なるほどなるほど、今日はいつもと違うカンジで行くのか。スタルノフは死んだ。」

 

お前が殺した。

 

「いいや、アヴローラだ。彼女はお前のためだと言ってたが、実際は復讐が8割強ってとこだろう。彼女がプーシロフを奮起させ、スタルノフの頭に3発撃ち込んで、カタをつけてくれたよ。その分だと、彼女の過去も知ってるな?」

 

まぁね、MI5も捨てたもんじゃない。

 

「そうか。さて、悪い知らせだが…ブロ、お前には死んでもらうしかない。」

 

 

 

ラインハルトがサプレッサ付きのHscを素早く取り出したが、私は別に驚きもしなかった。

これしきの予想はついている。

怖くないわけではないが、今の私はこの自動拳銃が"そんな物"と呼べるほどには、真実への探求心に満ち溢れている。

 

 

「とうとう気づいちまったんだな、ブロ。本当に残念だよ。…俺たちなら、ずっと上手くやっていけるハズだったのに。」

 

そうだな。私も残念だ。

 

「そうか…そうかよ…。いつからだ?いつから勘付いた?」

 

直感が働いたのはお前がレクタスキーを撃ち殺した時。

 

「どことなく、勘付いたのは?」

 

………コィバの設計図。

 

 

 

従兄弟の両目が、一瞬遠くを見るような目になった。

まったく予想もしてなかったようなところから答えが出てきたのだろう。

それもそうか。

ラインハルトにとっては、"コィバは完璧"だったのだから。

 

 

「コィバ?…はは、おい、コィバの設計図は」

 

コピーを取ってないとでも思ってたのか?

私が他の専門家に解析を頼んでいなかったとでも?

それは虫が良すぎるんじゃないのか、兄弟?

ウチの専門家達は口を揃えてこう言ったよ。

『あんな施設じゃKANSENの解体なんてできはしない』とね。

 

「……………」

 

ガストロにも電話した。

彼が会ったのは…長身黒髪のハンサムな男と、同じくらい長身の金髪美女だそうだ。

アヴローラとは似ても似つかんが、ガストロには分からなくても当然だ。

なんたって、彼は"アヴローラ"を見るまでKANSENを見た事がなかったんだから。

 

「相変わらず…周到な奴だな、お前は。」

 

なあ、全て話してくれないか?

その後、そのご立派な拳銃で私を殺すなりすれば良い。

 

「お前の目的は、一体なんなんだ?」

 

真実を知りたい、お前の口からな。

 

「それでなんになるって言うんだよ?」

 

何にもならん…とは言い切れんかもしれん。

 

「ははっ、ブロ、なあ、ブロ。俺はそこまで馬鹿じゃない。そんな簡単な嘘に」

 

嘘かどうかはお前が一番分かってるハズだぞ?

もういい加減1人で背負いこむのはやめろよ?

私は、お前が何をしたのか、何故そうしたか、"そもそもどこから来たのか"も知っている。

 

「…………」

 

話せば楽になるって言葉は、案外本当だぞ?

 

 

 

従兄弟の目が充血し、涙が頬を伝う。

思ってた通りだ。

コイツは"全てを抱え込んでしまっている"。

 

物理的だろうがなんだろうが、従兄弟は従兄弟。

共に共通の敵を打ち倒した仲なら尚更だ。

その重荷を降ろさせてやるのが、私の役目だろう。

 

さあ、重荷を降ろせ、兄弟。

私は裏切ったKANSENを許せるくらいには寛容なんだ。

頼むから話してくれ。

 

 

 

「そうか…わかった、全て話すよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を覚ますと、そこは鎮守府だった。

 

まあ、聞こえは良いな。

あら指揮官様御機嫌よう新しいL2D衣装着てみましたのどうです似合いますかあらそう嬉しいですわうふふふふ的なサムシングを想像することだろう。

 

 

でも実際その場にいれば大混乱だぜ?

しかも目の前には大陸版でも未実装のビスマルクと来たもんだ。

良い夢と言うべきか、悪い夢と言うべきか。

残念と言うべきか、幸運な事にと言うべきか。

 

 

これは夢なんかじゃなかった。

 

 

鎮守府での生活は楽しかったさ。

なんたって、大好きなKANSEN達と過ごせるんだ。

謎の美女ビスマルク、ツンデレ乙女ヒッパー…そして、俺の中のミス・ジャーマン。

アドミラル・グラーフ・シュペー。

 

感情の起伏はたしかに読み取りづらかったが、あのクールな感じと無垢な笑顔には何度も癒された。

ビスやヒッパーには悪いけど、俺にとってシュペーは殊更に格別な存在だった。

今でも彼女の笑顔を思い出す。

あの、無垢な、可愛らしい…

 

 

 

戦況は日に日に悪化していた。

北方連合がアズールレーンに加入してからは特に。

物資が欠乏し始め、しかしKANSEN達の出撃率は急増。

KANSEN達は勿論、俺自身色々と削られた。

精神も、体力も。

このままでは長く持たない。

だから、司令部と交渉して3泊4日の短期休暇をどうにか取り付けたのだ。

行き先はヴィシア・アイリスの港町シェルブール。

楽しい休暇……になるハズだった。

 

 

 

アイリス全体で、アズールレーンの支援を受けたレジスタンスの攻撃が激化していた。

シェルブールもその例外ではなかったんだ。

俺とシュペー、ビスとヒッパーを乗せた車両は、党の高官の車と勘違いされて待ち伏せ攻撃を受けた。そして、

 

 

シュペーが、死んだ。

 

 

そう、死んでしまった。

彼女は助手席にいて、俺は運転席。

パンツァー・ファウストを持ったレジスタンスは右手から出てきて、助手席めがけて成形炸薬弾を撃ち込んだ。

シュペーは俺を庇うようにして死んだらしい。

 

 

 

 

ビスとヒッパーの輸血を受けて意識を取り戻した後、俺を支配したのは復讐への執念でもなく、レジスタンスへの怒りでもなかった。

 

ただ、呆然と、考えてたんだ。

 

1日中ベッドの上で寝ながら、この世界の事を考えていた。

 

 

シュペーは死んだ。

レジスタンスの攻撃で、死んだ。

アズールレーンはレジスタンスを支援し、鉄血公国は東西から挟まれている。

 

シュペーは死んだ。

偶然なんかじゃない、死ぬべくして死んだ。戦争という悲しい歴史の中で、その犠牲になって死んだ。

 

シュペーは死んだ。

でも俺は生きている。

ビスとヒッパーは奇跡的に無傷だった。

でもこのままじゃ彼女達さえ危ない。

 

シュペーは死んだ。

もうこれ以上、彼女達を失いたくない。

誰だって失うものか。

歴史を捻じ曲げてでも、彼女達を守り通さないと!!!

 

 

 

 

 

 

そう、それが始まりだったんだ。

 

俺は怪我を理由に海軍をやめて、情報局へと転身した。

幸いな事に、『語学力』というスキルが転生の際に与えられていて、これが本当に役に立ったんだ。

最初の頃の任務は…不愉快な仕事だった。

シオニエル人達を追い立てて、収容所へ送らなければならなかったのだから。

 

でも黙々とこなした。

そうしてるうちに、自然と昇進していった。

気づけば情報局副長官。

ビスマッマの援護もあったおかげだろう。

 

 

さて、俺が副長官になった頃、北方連合では初代書記長のレルニンが病床に着いていた。

一方、スタルノフなる人物が、レルニンと対立してイタレリに潜伏していた。

 

 

俺は思いついたんだ。

 

敗戦が濃厚になった1945年、ナチス・ドイツは米英に「共に共産国と戦おう」という提案をして物の見事に蹴られたらしい。

まあ、死にかけの第三帝国なら虫が良すぎる話だったんだろう。

 

でも、今はどうだろうか?

 

鉄血公国は苦戦しているとはいえまだ健在。

ロイヤルのチェイブルは反共的で、ユニオンの大統領と対立していた。

 

もしここで…北連に狂気の独裁者が登場したら?

 

チェイブルは金切り声を上げて脅威を叫ぶだろう。

ユニオンの大統領はアテにならないし、ならいっそのことレッドアクシズとの同盟すら考える可能性は充分に高い。

 

たしかに、賭けにはなる。

だが何もしなければ、ビスもヒッパーもシュペーのようにいずれは死んでしまう。

 

なら、もう選択肢はひとつだけだろ?

 

やるしかなかったんだ。

 

 

それに…

ああ、そうだ、認めよう。

実のところを言えば、好奇心に動かされる部分がなかったわけではない。

 

でももし、あんたが大切な誰かを失うかもしれないとなれば、何だってするだろう?

 

俺もそうだったんだ。

少なくとも、基本的には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタルノフはまんまと書記長に就任した。

 

俺たちが奴の帰国を秘密裏に援護してやった。

その時、俺と連絡を取りあってたのがベニヤだ。

有能な奴で、アイツは助言という形でスタルノフをコントロールしていた。

いや、していると思い込んでいた。

実際そんな事はなかったんだけどな。

スタルノフは恩義というものをクソ紙か何かとしか思ってないらしいことが後に分かった。

 

 

俺の方は、この作戦でとうとう情報局のトップに登りつめた。

後は匙加減を見つつバランスを取ってやればいい。

本気でそう思ってたんだ、不器用なくせに。

 

 

スタルノフはさっそく国内の大粛清と少数民族への圧迫を始めたが、チェイブルの反応は鈍ったらしいモンだった。

これじゃあスタルノフをトップに据えてやった意味がない。

アズールレーンの内部で対立を巻き起こすこと、それこそが俺の計画のミソだったからだ。

 

 

そこで、ベニヤを通してロイヤルの内部の腐れ貴族・ウィンスロップを利用する事にしたんだ。

あのアホッタレは二つ返事で引き受けたよ。

ただどうにも使えない奴で、あっという間に自滅しちまった。

せいぜい、奴の鎮守府の地下にKANSEN解体目的と思わせる施設を拵えるのが精一杯だったし、ロイヤルの連中はまるで気づきもしなかった。

 

 

 

 

そうこうしているうちに、スタルノフが暴走し始める。

 

たしかに、俺は確かにメンタルキューブの外科的摘発を入れ知恵した。

ただそれは何らの科学的根拠のない、本当にただの『思わせぶり』の一つに過ぎなかったハズなんだ。

北連が非人道的な実験に手を出しているとアピールできればそれで良かったのに!

レクタスキーとかいうイカれ医師が、ベニヤからそれとなく聞いた"アイデア"を実行に移してしまったんだ!

 

 

 

スタルノフやレクタスキーが本当にそれを始めちまったのを知ったのは、ベニヤの写真が届いてからだった。

 

もはや、スタルノフはコントロール不能の暴走車両。

 

国境沿いの戦車師団は増強され、KANSENを次から次へと解体している。

スタルノフは傀儡なんかじゃなかったんだ。

便利なお人形から安全保障上の重大な脅威になりつつある。

俺が甘かったんだ、あんな奴が俺の思う通りに動くわけがなかったのに!

 

"歴史"を知っているから。

それこそ80年先まで知っているから、油断していた。

いや、それどころか『好奇心で歴史を動かしてしまっていた』。

とんだ勘違い!

歴史は生き物なんだ。

変に弄ればどっちに転がるかなんてわかりゃしないのに。

俺はコントロールできると思い込んじまったんだよ!!

 

 

 

 

終わりだ。

 

俺はそう思った。

 

だが、希望が降って湧いた。

 

ユニオンの大統領が死んで、反共的な新大統領が就任すると状況は一気に好転した。

 

ホルタ会談が始まり、少なくとも、ビスやヒッパーが戦場に駆り出されるような事はなくなっていったんだ。

 

 

俺はホッと一息を吐けた。

だが、やるべき事がなくなったわけではない。

スタルノフを排除し、俺自身が招いてしまったこのクソを終わらせねばならない。

 

 

 

 

俺はレジスタンスの攻撃を受けた後ビスマッマから輸血を受けたが、ロイヤルにはビスマッマの妹から輸血を受けた人間がいて、そいつがMI5に勤めている事を知った。

 

そう。お前だよ、ブロ。

 

スタルノフをトップに飾り立てるのは簡単だったが、引きずり降ろすのは困難を極めそうだった。

だからロイヤルもユニオンも巻き込みたかったんだよ。

 

コィバにKANSEN解体施設もどきを作って、ユニオンの注意を引こうとした。

まさかお前が嗅ぎつけて、先に潰してしまうとは思いもしなかったけどな。

 

後はお前の知っての通りさ。

 

つまり、まとめるとこういう事。

 

ある1人の馬鹿が、大切な誰かを失い、他の大切な誰かを守ろうとして…

不器用なくせに歴史を弄り…

頭は良くないのに高慢になり…

そしてとんでもない事をやらかして、その尻拭いを従兄弟に手伝ってもらったって事。

 

 

さっき、お前には死んでもらうって言ったよな?

 

あれは嘘だ、安心しな。

 

死ぬべきなのは…俺の方なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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物理的従兄弟ラインハルトが、サプレッサ付きHscの銃口を自身の頭に密着させるまでの動作は、私が瞬きをするよりも速いものだった。

 

よって、私には止める暇もない。

 

どうやら、従兄弟は覚悟を決めてしまっていたようだ。

 

 

お、おい、落ち着けよ

 

「落ち着いてられるかよ。なあ、ブロ。俺が余計な事をしたせいで21人のKANSENがレクタスキーに解体された。内14名は生きたまま。その内の4名なんて一日中犯された上で解体されてる。」

 

思い詰めるなよ、お前のせいじゃない!

イカレた医師と、イカレた独裁者のせいなんだ!

 

「そのイカレた独裁者を押し立てたのは俺なんだ!」

 

な、なあ、兄弟、諜報活動がそんなに簡単なら、誰も苦労しないんだ。

いいから落ち着けよ!

 

「………すまなかった、ブロ。」

 

お、落ち着いた?

 

「俺のせいで、お前は死にかけた。本当にすまない」

 

覚悟を決めた清らかな顔でフラグ立てんじゃねえ!

やめろぉぉぉおおおお!!!!

 

 

 

 

 

 

 

バキンッ!!!!

 

 

従兄弟のHscが粉砕される。

いつのまにか、背後にはビス叔母さんがいた。

 

あの、あまりこういうの言いたくないんだけどさ。

ビス叔母さんが巨大な巨大な双丘でHscを挟んで粉砕したせいで、すっげえ鋭利な金属片が私めがけてすっ飛んでくる。

 

まじかぁ〜。

私死ぬ気ないんだけどなぁ〜。

 

 

金属片が私に突き刺さるかと思われたその瞬間、今度は私の前に1人の掃除のおばちゃんが立ちはだかって、手にする箒で金属片をはじく。

 

いや、あんた誰や?…シェフィールドマジ感謝溢れ出る感謝がマジでやばいマジでサンキュー。

 

気づけば背後にはマッマ達。

 

 

あ、あのさぁ。

貴方がた、いままでどこにいらっしゃったの?

戦車の中?

あのクッソ狭いゴチャゴチャした機械の中で7〜8人くらいこもって盗み聞きしてたわけ?

ほんとよぉ、おまえらよぉ。

 

…いっぱいちゅき。

 

 

 

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