ビス叔母さんはラインハルトをビンタした。
いやいや、手じゃない。
胸で。
あの豊満な胸で、ビンタした。
きっとビス叔母さんは平手よりもクッション性のある胸の方がラインハルトを怪我させない為にも良いだろうとか考えたんじゃないかな?
ざ〜んねん!
結果は真逆。
ラインハルトはボロ人形のように一周回転して、ボービンド戦車博物館の冷たい床に転がった。
あのぉ、ビス叔母さん?
今度からそういう事を考える時は、質量を計算に入れましょうね?
そんな大胆な行動に出たくせに、ラインハルトが転がった瞬間「そんなつもりじゃなかったのに!」的な反応するくらいなら普通にビンタなさいな。
それにね、ヒッパーちゃんも鎮守府以来の仲間なんでしょ?
もうちょっと気を使ってあげても良くない?
すっげえ驚いた顔して、口をポカンと開けながらこっち見てんじゃん?
両手をその小さな胸に当てながら、見てんじゃん?
側から見てるこっちのメンタル、削れてくるじゃん?
転がったラインハルトがよろよろと立ち上がると、ビス叔母さんは我に返って従兄弟にハグをする。
可哀想なのか幸せそうなのか分からない従兄弟は、双丘ビンタと窒息プレイという、同情すべきか羨ましがるべきか分からない罰あるいはご褒美を受けることになる。
ラインハルトはその罰あるいはご褒美を受けながら、涙していた。
よく見ればラインハルトに罰あるいはご褒美を与えているビス叔母さんも泣いている。
「バカッ!ラインハルトのバカッ!ママに相談してくれてもいいじゃないっ!」
「ごめん!ごめんよ、ビスマッマ!でも…ビスマッマに心配かけたくなかったんだ!」
「何一人前みたいな事言ってんのよ!ラインハルト…あなたは私達の可愛い息子なのよ!……私達を頼ってよ…」
「ごめんッ!本当にごめんッ!ビスマッマ!」
「それに、あなたが死んでも…シュペーは喜ばないわ!そんな事も分からないの!?」
「………うっ、うっ、ぐすっ」
台詞だけ見りゃ、親子の会話として成り立つわな。
泣きじゃくる子供を、同じように泣きながら叱る母親でキャスティングすればいい絵になる。
でもキャメ●ン・ディアスみたいな金髪美女とトム・ク●ーズでやっていい絵面ではねえわ。
こんなナイト・アンド・●イはそれこそ見たくない。
需要あるの?この絵面?
トップ●ンのスーパーエースとチャー●ーズ・エンジェルのスーパーヒロインがスーパーバブリケーションしてる絵面ってどこに需要あんのよ!?
おい。
おいおいおい。
マッマ達、落ち着け。
いいかい?これはお願いじゃない。
もしお願いなら、"落ち着いて"って言う。
でもこれはお願いじゃない、命令。
だから、落ち着け。
抱き合うトム・ク●ーズとキャメ●ン・ディアスを見ながら「あー、マジ羨ましいわー」的な雰囲気丸出しにしてこっちににじり寄って来んな。
ピッピ。
まず、双丘を両手で抱えて、腰を回転させる動作をやめよう。
「なんとかいい感じにビンタできないかしら」的な試行錯誤をやめろ。
その双丘の質量じゃあ、何やっても無理だからさ。
ダンケ?
ハンカチは必要ないんだ、しまっとけ。
私は泣いてないし、泣く予定もない。
無理やりにでも泣かせようとするな。
ルイスとベル。
何話し合ってるかちゃと聞こえてるからな?
「罪状をでっち上げるのは私達アングロ=サクソンのお家芸」とか問題発言しないで?
色々と問題だから、そういうのはマジでやめて?
「ありがとう、ロブ君。」
唐突にビス叔母さんから話しかけられて、私は彼女の方を見る。
完璧母親顔のビス叔母さんが従兄弟を抱きしめながら、こちらを向いていた。
「ロブ君が何をしてくれたか、私にはよく分かるわ。この子は………」
そう、背負っていかねばなりません。
「ええ、犠牲にした21人のKANSENを。」
例えそれがどれほど苦痛であっても、当人は背負って生き続けるべきなんです。
自死で償えるなんてとんでもない、逃げてはならないんです。
「それこそが、この子の受ける罰…ロブ君?叔母として言うけれど、この罰は、この子と私が背負うべきなの。あなたが背負っちゃダメ。」
いいえ、ビス叔母さん。
私も充分に噛んでいる。
それに、私達は家族なんです。
重荷の分担ぐらいしますよ。
「ダメ。ダメよ、ロブ君。気持ちは嬉しいけれど、やっぱりそれはダメ。結局、コレを招いてしまったのはこの子なんだから。」
いや、でも…
「ティル、ホールド!」
「ピッピィ!!」
ぶへあッ
なあ、ピッピママ。
お前いつからポケ●ンか何かになったんだ?
ホールドって、なに?
そんな『体当たり』感覚で人を馬鹿みたいにデッカいウォーターメルォンの谷間に挟まないでもらえません?
ビス叔母さんもビス叔母さんで、妹相手にポケ●ントレーナーみたいな事してんじゃねえよ。
あんたら姉妹でしょ?
変な『ひでんわざ』仕込むの可哀想だなとか思わなかったの?ねえ?
「…とにかく、ロブ君。この子はあなたのおかげで"溜め込んでいたものを吐き出せた"。これで充分よ。後は私達に任せて?」
ビス叔母さんはそう言って、ラインハルトを谷間に挟んだまま立ち去った。
え?あの状態で空港まで行く気かあいつら。
まあ、こっちも人の事は言えんか。
「坊や。私の坊や。私の可愛い可愛い坊や。全て聞いてたわ。ちょっと信じられないけど、あなた…別の世界から来たのね。」
ぶふぉぉ。
やっぱバレてたかぁ。
まあ、あの会話聞かれてりゃ仕方ねえ。
「でも、そんなの何にも関係ないわ。あなたは私達の可愛い可愛い息子。今までも。そしてこれからも。」
「大切なのは…Mon chou、あなたが無事でいる事。愛情を注げる対象である限り、私達にとって大切な事はそれだけ。」
「結局、どこから来ようと指揮官くんは指揮官くん。私とヘレナの可愛い息子なのよ?」
「ご主人様がどうであろうと、私どもはご主人様をあやし続けます。ご安心ください。」
あぁ〜、マッマ達…本当の本当にマッマだわ。
ピッピの谷間に挟まれてると、嗅ぎ慣れた彼女の匂いと暖かな体温のおかげで段々と眠くなってきた。
まだ昼の前だけど、もう充分に疲れたよ。
少し眠くらいならいいよね?
従兄弟の危機を救ったんだ。
それくらいは許されるさ。
ボービンドから帰る途中、鉄血28号の中で目が覚めて、私はテレビニュースを見た。
セイレーンが大規模攻勢に出て、我々人類は取り戻したはずの海域を幾ばくか失ったらしい。
レクタスキーの件は既に全世界に広まっていて、ホルタ会談側は北連との戦争に向けた準備を進めていたが、このセイレーンの大規模攻勢とスタルノフの死によって、北連は危機を避けられたようだった。
いずれ、近いうちにプーシロフは"ダーティハリー"と会談する事だろう。
まあ、まさに季節外れの雪解けが始まる。
これを見る限りは、ベニヤは本当に有能な人物らしいな。
従兄弟も何らかの援護をして、セイレーンを焚きつけたに違いない。
まあ、何はともあれこれで一件落着。
レクタスキーのトンデモ企画は阻止され、20年後の核戦争危機は予防され、第三次世界大戦も起きなかった。
ただ……毎度そうであるように……問題がないわけではない。
セイレーンの脅威の再燃により、どの国もまた海軍に予算を回すようになる。
そうなれば一番に煽りを食うのは我々諜報組織だ。
セイレーン相手に戦争をするのに、人類同士で諜報戦をやりあう余裕なんてない。
だから諜報組織は規模を最小限にされるはず。
特に、対外諜報顧問だとかいう訳の分からん役職は真っ先にデリートされるだろう。
あ〜あ。
また失職かよぉ〜。