「起きてください、ご主人様。」
私はベルファストに起こされて、重たくてどうしようもないまぶたを渋々開ける事にした。
時刻はちょうど6時半。
もうそろそろいい加減に起きて、働き始めてもう一週間になる新しい職場へと向かう準備をしなければならない。
「ティルピッツとダンケルク、それにセントルイスは既に出勤しています。ご主人様もご朝食を食べ終わりましたら、ご出立のご準備を。」
分かってます、分かってますよ、ベルマッマ。
私は相変わらずビス叔母さん寄贈の大きな家に住んでいて、マッマ達もそうだったが、この時間帯は私とベル以外、もう誰も家にいない。
誰もいないキッチンで一人食事を摂るのは少し寂しく感じたが、テーブルの上の朝食がそんな気分を吹き飛ばしてくれる。
お手製ソーセージにポテトサラダ、パン・デ・ベルデュとヨーグルトの朝食の、それぞれを用意してくれたマッマの顔が眼に浮かぶからだ。
なんだか、こう言われているような気がする。
"待ってるから、早くおいで?"
私は朝食を摂り終えると電動シェーバーでヒゲを剃り、新しい職場での新しい立場のせいで趣味の悪いテューダー朝様式の装飾が施されるようになった制服に着替える。
ああ、もう、重いったらありゃしない。
格式ばった、何の実用性もない装飾には辟易していたが、規則ゆえに仕方がなかろう。
だから私はもう黙って自分のブリーフケースを取りに行ったし、その後黙って鉄血28号に乗り込んだ。
『おはよう。いい朝ね?』
ああ、おはよう、プリン。
『こんな朝にはヴェ●ディのレクイエムが一番じゃないかしら?』
マジで勘弁。
朝っぱらから高血圧になっちまうだろうが。
『うふふ、冗談よ。』
「プリン、いつも通り安全にお願いしますね?」
『ベル?私が緊急時以外に危険な運転した事あったかしら?それじゃあ、出発するわね?』
鉄血28号は、本当に乗り心地の良い車両だった。
プリンも最高の人工知能だ。
たわいもないお喋りに付き合ってくれたり、ちょうどいい音楽を流してくれたりする。
ここだけの話、マッマ達にも相談できない事をプリンに相談したりもした。
まあ、なんつーか、マッマ達とは違う形態の、良い相談役って感じかな。
鉄血28号はやがて私の新しい職場の敷地内に入り、私の勤める建物の正面で停止する。
ベルが私のブリーフケース片手に先導して降りて、私が降りるまでそのまま保持してくれていた。
『たまにはボーナスが欲しいわ、ボス。』
ふははははッ!
オクタン価の高いガソリンとか?
『いいえ、ウォッシャー液の方。』
プリンのジョークに心底笑いながら鉄血28号を降り、私は建物の入り口へと向かう。
私のオフィスは四階にあるので、エレベーターを目指すのだ。
ベルが先にエレベーターへ入って、続いてエレベーターに乗った後、私はスイッチ類の上にある小型テレビに視線を向ける。
"雪解け"は本当に始まっていた。
ニュースがそれを伝えている。
ホルタ会談側も北連も、お互いに争っている場合ではなくなったのだ。
ま、これで元通りだな。
従兄弟ラインハルトの悲しい罪は清算された。
形は少々異なるが、人類は再びセイレーンと戦い始めたのである。
あ、ああ、ラインハルトだが、まだ鉄血情報部のトップにいる。
もっとも最近はセイレーンの出没場所、経路、時間帯の情報収集がもっぱらの仕事らしいが。
ビス叔母さんとも連絡を取り合っているし、まあまあ上手くやってはいるようだ。
エレベーターは四階に到着し、ベルが開ボタンを押してくれていたので、私はエレベーターから降りる。
目の前の廊下を100メートルほど歩けば、もうそこが私のオフィスで、私はベルが降りるのを待ってから歩き始めた。
セントルイスが、廊下で私を待っている。
彼女は私を見るなりこちらへ向き直り、とびきりの笑顔を向けた。
「指揮官くん、おはよう♪」
ああ、おはよう。
少々無愛想に見えるかもしれないが、朝イチってのはよほど面白いジョークでも聞かない限りテンションってのが上がらない。
私は右手を軽くあげ、ルイスマッマによる渾身のハグを未然に防ぐ。
いや、ありがたいんだけどね、ルイスマッマ。
朝っぱらからそんな血圧トップガンされたら私死ぬかもしれんから自重していただきたい。
ルイスが少し残念な顔をしつつも私の後ろに回り、反対にベルが先んじてオフィスのドアを開ける。
ここが、私のオフィスだ。
薄々勘付いてる人もいるかもしれないが、私のオフィスからは大海原を見る事ができる。
このオフィスでは、私の執務机の背後にその景色があり、何か思い詰めたりした時はそちらを向いて気分転換ができるのだ。
…大して思い詰めることなんてないが。
執務机の隣には、ピッピとダンケがいる。
ピッピは書類と簿冊、ダンケはマカロンと紅茶を持っている。
今週はベルが私を自宅からここまでエスコートする係なので、紅茶はダンケが淹れることになっていた。
ベルの紅茶も美味しいけど、ダンケのもなかなか美味しい。
私はまたも右手を軽くあげ、ピッピとダンケによるハグハグしい挨拶をまたも自重してもらうことにした。
このポーズを最初にやり出したのはイタリア人らしいが、使った人物としてはオーストリア人の方が有名だろう。
私はこれを"敬礼省略"の意味で使っている。
そして、"敬礼省略"とは、"うんうん、マッマありがとう。その気持だけでお腹いっぱいだから頼むから大人しくしてて?"という意味である。
そうでもしないと、朝のウォーミングアップをする間も無く血圧トップガンになる。
私は大海原を景色を見やり、ダンケの紅茶を一口啜った。
こんな朝っぱらにもかかわらず、本日演習予定のチーム・ユニオンfeatアヴマッマの面々と、重桜マッマズfeat天城さんが艤装装着してウォーミングアップをしている。
勝利報酬は……はぁぁぁ。
私をあやしホーダイ1時間。
そんなもののために、彼女達はオリンピック本番直前の代表団かってくらい準備運動をしていた。
皆さん、もうお気づきかもしれないが、私は海軍に復帰した。
まあとんでもない振り回しだね。
「お前海軍にいると迷惑するから諜報員でもやってろ」か〜ら〜の〜「セイレーン来たわ、お前元海軍だろ戻ってこい」である。
ホンマど突いたろうかと思ったのは仕方がない事だと同情してほしいレヴェル。
ただし、勿論タダでという話ではない。
私は中佐から少将に昇進したのだ。
えぇ〜、大佐と准将すっ飛ばして少将とかめっさ無駄に期待されて大変な奴やんとか思ったりしたけど、私の艦隊は予備部隊として温存される事になっていた。
まあ、セイレーンが上陸でもしてこん限りは私の出番はない。
それまでは私は暇人だし、マッマ達はKANSENとして復帰してもマッマ&ママ商会改めM&M社の業務を継続できる。
はい、私こそが税金泥棒です。
そんなことを考えながら紅茶を飲み干すと、ダンケの暗褐色の瞳と目があった。
もう、瞳で語りかけられるのには慣れてしまっている。
(お味はいかが?Mon chou?)
(今日もばっちし!)
瞳に瞳で返事を返すと、私は深く、深く息を吸って、そして吐き出した。
さあ、今日という日を始めよう。
私自身のウォーミングアップは済んでいる。
後は、毎朝恒例となってしまったアレをやるだけだ。
まあ、何で始まったのかっていうと、先週の初再出勤日に、ピッピが「やらないとやる気しないわ」とか言い出したのがそもそもの原因なんだけどさ。
もう、やるしかない。
もう、これは伝統になってしまったんだ仕方ない。
さあ、始めよう。
さあ、やろう。
ばー、ぶぅ。
マッマ達によるバルバロッサ作戦顔負けのスピーディダイナミックあやしんぐプレイを受けながら。
私はこの先の事を考えていた。
世界線は形を多少は変えたにせよ、元に戻った。
セイレーンとの戦いに戻り、この先は私にも分からない。
だけど、そんなに怖くはない。
何故なら、一人で歩んでいくわけではないからだ。
「はぁい、坊や♪私にたっぷり甘えなさいっ♪」
「Mon chou〜Mon chou〜、私のMon chou〜♪」
「指揮官くん、あとでヘレナと牛さんのお世話しましょ♪」
「ご主人様♪私達みんな、ご主人様とずぅぅぅっと一緒ですからね♪」
そう。マッマ達がいる。
今までマッマ達がいて、これからもマッマ達がいる。
私は守られ、あやされ、助けられ、あやされ、楽しみ、あやされ、悲しみ、あやされ。
時に喜び、あやされ。
時に苦しみ、あやされ。
富めるときも病めるときもあやされ。
どんな時でもあやされながらあやされてあやされるのである。
何も恐れることはない。
マッマ達と歩んでいこう。
いつか本当に"時"が来て、小麦畑をラッ●ル・クロウのように歩く…その時まで。
それまではただ自分の人生を楽しめばいい。
たっっっぷりと、あやされながら。
第1編は三ヶ月かかったのに、こっちが1ヶ月ちょいで終わった理由は、やりたい事をやりたい放題したからです、すいませんついカッとなってやった反省はしていない。
第1編より原作崩しに崩しまくったけど、反省はしていない。
もうワールドワイドに崩壊させたけど、反省はしていない。
5ヶ月近くこの駄文に付き合ってくださった方々、本当にありがとうございました。
もし、お楽しみいただけたなら、本当に嬉しく思います。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
皆様にも、マッマのご加護があらんことを。