鎮守府三十年戦争が終わった頃に、ヴェスタルさんが帰ってきた。
マッマ達はヴェスタルさんを見るとすぐに私を彼女の元へ運び、先日の吐血について診察をさせる。
ヴェスタルさんは私を診察すると、盛大なため息を吐いてあの怪奇現象の説明を始めた。
「お母さんがいなくなると、赤ちゃんが泣いたりしますよね?」
しますねえ。
「あれと同じです。」
……………はい?
「指揮官が吐血なされた際、周囲にお母さん達は居ませんでしたよね?」
ええ、まあ、居ませんでしたけど。
「慣れない環境になってしまったので、身体が拒否反応を起こしたのでしょう。」
……………はい?
「………指揮官、真面目に聞く気ありますか?」
マジすいません、私の脳が拒否反応起こしてるんです。
でも…つまりどうすれば良いんですか、私は。
「それはやはり…24時間365日片時もお母さんから離れない事でしょうね。指揮官は体も小さくなってしまったので、僅かな出血でも気を抜いてはいけません。」
「私達が坊やを抱き抱えている限りは、坊やが吐血で死ぬことはないのね?」
「はい、ティルピッツ。その通り。いつもやっているように、ちゃんと谷間で保持してあげてください。」
『ちゃんと』という言葉の意味………
ヴェスタルさんのご忠告をいただいた後、ルイスがまた壊れた。
自身の事をラッキー・ルーではなく『カンガ・ルー』だとか言い出したのだ。
「指揮官くん、私はカンガ・ルー。私に挟まれるってことは、指揮官くんもカンガルーだとは思わない?」
元のセリフがゲシュタルト崩壊してるよ、ルイスママ。
つまり、自分こそ私を挟むのに相応しいと言いたいのかな?
「ルー♪」
ルー♪じゃねえええよッ!!!
「私たちは親子♪親子のカンガ・ルー♪だから指揮官くんが私の胸に挟まってても何も問題はないの♪」
ルイスマッマ?
そろそろ正気に戻ろうか。
ピッピママが380mmにSHS弾込め始めたからさ。
ダンケもすぐ410mm撃てるし、ベルは当艦隊最強の磁気魚雷をクナイみたいに保持してるからさ。
「あらティルピッツ、撃ちたいなら撃てば良いわ。でもドーシマショー、私って軽巡だから戦艦の貴女に撃たれたりなんかしたら…ミニ・ルーも無事で済むかしらぁ〜」
「なぁっ!?セントルイスッ!!本当に貴女はッ!!!」
「Mon chouを盾にするなんてッ!」
ちょっと待って、ミニ・ルーって私のこと?
おい、なあ、おい、ルイスマッマ?
治って?
お願いだから、治って?
頼むから人を勝手にセントルイス級にしないで?
「皆様、ご安心ください。ここはこのベルファストが。」
気づけばベルマッマがフルマックス強化済み3連155mm砲T3でこちらを狙っている。
どうやら正確にルイスのみに命中させるつもりらしく、片目を軽く瞑って神経を集中させていた。
「あら、ベルファスト。かなりの自信があるのね。」
「自信がなければこのような真似は致しません。さあ、セントルイス。どうかご主人様を渡してください。」
「…ベルファスト、貴女の勇気は評価するわ。でも、物事を進める時は…ちゃんと腹案を持たないと…ねえ、ヘレナ?」
「!?」
「ベルファストさん、動かないでください。」
「ヘ、ヘレナ!?…くっ!この外道!」
「ヘレナの兵装は8レベルまで強化済みの155mmT3…元は貴女の装備。なら、ヘレナの兵装の威力も十分にご承知よね?」
「クッ…誰があの砲をヘレナに…ッ!」
※ごめんなさい、私です
「姉さん、これで指揮官は…」
「こら、ヘレナ。この子はもう"指揮官"じゃないの。」
「え…」
「"ミニ・ルー"よ?」
「"ミニ・ルー"!?とってもステキな名前!!」
助けてくれええええええええ!!!!
イカれ姉妹のイカれ縁談から私を助け出してくれえええええええ!!!!
ヘレナちゃん!!
なんて顔してんのよ、そんな顔しちゃダメでしょ、まだそのお年頃の女の子がしていい顔じゃねえよ!!
その"愉悦"が笑った、みたいな顔どこで覚えてきたのよ!?
純粋なヘレナちゃんはどこに行ったのよ!?
「フンッ!!!」
ぶへあっ!!
「なっ!私のミニ・ルーがっ!返しなさい、ティルピッツ!」
「フハハハハハッ!!手元がお留守よ、手元がぁぁぁあああッ!!」
おい、おい、お前ら、一回落ち着け。
段々ゲス顔披露宴みたくなってきてるから、一回落ち着け。
「Mon chou〜〜〜!!!」
「させんっ!!!」
私を手に入れようと突っ込んできたダンケと、それを阻止せんとするピッピが衝突し、戦艦の力勝負が始まってしまう。
私は両者の圧倒的にバカデカいウォーターメルォンに挟まれて、頭蓋骨を押し潰されるんじゃないかと思えてきた。
こうなったら仕方ない、逃げ出そう。
そして、生きねば。
私はピッピがダンケと揉み合ってるあいだに隙を見て
そのまま高速這い這いで離脱を試みる。
「坊や!坊や!戻ってきて、坊や!」
「Mon chou〜、私の胸じゃダメなの〜!?」
「ヘレナ!ミニ・ルーを追いかけて!」
「うん、姉さ」
「このベルファストを差し置いて、そのような真似はさせません!」
マッマ達はスモウ・レスリングやメキシカンスタンドオフに夢中!
よって私の脱出は限りなく成功に近い!
つまり今こそが好機!!!
さあ、自由への道は開かれた!
今こそこの手にじゆゴファッ!!!!
「ミニ・ルーの為に、コレを作ってみたの。」
ルイスマッマがガスマスクのような物を持ち、私をあやす母親達の集団に入ってきた。
母親達(ヘレナ叔母さん含む)は私が2度目の吐血をしたせいでゲンナリしていたし、今はちゃんと仲直りしている。
皆で私を囲んで仲良くあやしているし、とりあえずあやす事に集中して今日の事は反省しましょうチックな雰囲気になっているのだ。
だが、それでもルイスだけはブレない。
もう、このあたり狂気すら感じるが、まったくもってブレないのである。
流石にこの期に及んで市場における独占を考えてはいなさそうだが、彼女の手にあるガスマスクが何を意味するのかはわからない。
作ってみたって、何?
つーかガスマスクに『U.S. MILITARY』って書いてあるのは気のせい?
「それは何?セントルイス?」
ティルピッツが興味深そうにガスマスクを眺める。
見た目は赤ちゃん用のガスマスクで、ルイスの手にはちゃんと収納袋もあった。
「これはね、ユニオンの技術の粋を集めて作られたモノなの。『歩けるくん1号』」
ルイスマッマ?
「なぁに?」
ネーミングセ…ンス良いよね、うん。
ルイスマッマとっても良いセンス。
肯定しなきゃ泣きそうだったとか、そんなんじゃないから。
「Mon chouの為に作ったの?」
「どういう機能が?」
「えっとね、ミニ・ルーが1人になっちゃう時って、どうしてもあると思うの。」
「確かに…今後を見据えると…そういうこともあるでしょうね。」
「でもそれで吐血しちゃったら…ぐすっ、今度こそミニ・ルー死んじゃうかもしれない。」
「ご主人様…」
「はい、そこでこの『歩けるくん1号』の出番です♪」
悲しみの底からの這い上がり速度がサイコ。
「このマスクを被れば、ミニ・ルーが1人で歩いても吐血する事はありません!」
「「「「おおおーーー」」」」
「試しに被ってみて、ミニ・ルー?」
ルイスマッマが有無を言わさぬ笑顔でそう言ってきたので、私は不承不承それを被る事にしtうわもんすっげえ臭いやべえ呼吸出来ないそしてルイスお前無理やり着けさせんじゃねえ無理矢理笑顔のまますげえ力で装着してくんじゃねえ!!!!
何なのこの匂い!
嗅いだことあるぞこれ!
そーじゃん、これアレじゃん!
ルイスマッマの腋の下じゃん!!!
お前、ルイス、お前、人を変な趣味に誘うのやめろぉ!!
イラストリアスかお前はッ!!
リスペクトし過ぎだしインスパイアされ過ぎって何べん言ったらわかんのよ!!!
ルイスマッマはそのまま私にマスクを装着させると、地面に降ろして這い這いさせる。
「ミニ・ルー?さっき吐血したのは3mの距離だったでしょう?ゆっくりで良いから、ママから3m離れていって。途中で気分が悪くなったら止まっていいから。」
すでにえげつない濃さのルイス腋の下臭で若干クラクラするが、私はなんとか這い這いで前進を試みる。
段々と匂いにも慣れてきて、そして私は普通に3mマッマ達と離れる事が出来た。
すっげえ、このマスク。
目標に到達したので、ルイスマッマの方を見る事にした。
新しい指示があるかもしれないし、帰ってこいと言われるかもしれない。
だが私は見てしまった…
マッマ達プラスヘレナ叔母さんが、腋の下丸出しにしてスタンバッているのを。
はい、逃げルーゥゥゥウウウ。
「あっ、こら!ミニ・ルー!戻ってきなさいっ!」
誰が戻るかこのやろう!!
お前らどんだけ特殊性癖突き進せれば気が済むんだよ!!
もうやだ、もう逃げる!!
このマスクがあればどこまでもいけるさ、なあ、相棒!!!
今こそこの手にじゆゴファッ!!!!
5m以上はダメらしい。
まあ、それはともかく、今夜は逃げ出したせいでプンプン丸と化したマッマ達の腋の下に囲まれて寝るという、特殊性癖包囲戦を戦う事になってしまった。
おしおき、らしい。
これね。
すっげえ効果あるおしおきだわ。