ゴファッ!!!
ああ、クソッタレ、ああ、本当にクソッタレ。
なんて日だ、なんて事だ、なんてザマなんだ。
血は止まらず、吐き気がして、頗る気分が悪い。
頭の中じゃエルサレムの鐘が鳴ってるし、軍医殿は私の症状に何の手立ても打てずにいる。
そりゃそうさ!
薬か何かで治るならとっくの昔に治ってら!
そこにいる長髪のメイドさんが私の拉致なんかしたもんだから、私は血塗れでベッドに横たわり、虚ろな目でメイドさんとそのご主人様の怒鳴り合いを眺めている。
どうやら、そのご主人様こそがフォースター大佐のようだ。
私が執務室で見た資料と、顔や体格が一致している。
私は向こうを知っていたが、しかし、残念ながら向こうは私を知らないようだった。
「あの赤ん坊がセントルイスファミリア少将!?そんなわけないだろカーリュー!!お前本当に大丈夫か!?」
「しかし、ご主人様…私はたしかに」
「まあ、この際それはどうでもいい!一番の問題は、お前が私に何の相談もなしに人の鎮守府から赤ん坊を連れ去った事なんだ!」
「そ、それは…」
「その赤ん坊が少将ってのは信じられないが…もしかすると少将のご子息かもしれない!」
「……………」
「どういう事か分かるな、カーリュー!?お前は人の赤ん坊を連れ去って来ちまったんだ!」
「私はただ…ご主人様の為に…」
「………カーリュー、気持ちは嬉しい。俺を想ってくれた上での行動だというのも分かってる。だけど…相談の一言もあってよかったじゃないか…」
「うっ…うっ…ご主人様…いいえ、アナタッ」
「ああ、カーリュー」
あのぅ、王道恋愛ドラマやってるところ恐縮なんですが、そろそろ連れ去った赤ん坊を見てやりましょうよ?
アンタら真昼間からチュッチュンマンマしとる場合じゃねえだろ、人の赤ん坊連れ去った挙句、その赤ん坊死にかけてんだぞコラ。
なあ、軍医殿、あなたからも何か仰ってあげてくださいよ。
持病があるのかもしれません、一度元の鎮守府へ戻さないと、とかさ。
「持病があるのかもしれません、一度元の鎮守府へ戻すべきでしょうな。」
そのままやないか〜い!
「ああ、この際仕方ない。セントルイスファミリア少将にはちゃんと謝って…」
「それではアナタが処罰を受けます!きっと酷い…酷すぎる処罰を!」
元はと言えばお前のせいやぞ、カーリュー。
こんな事あんまり言いたくないけど、なんで後先考えずに拉致とかしたんだゴファッ!!
「あぁ!ほら見ろ!また吐血した!このままでは死んでしまう!もういい!カーリュー!俺はお前さえ無事でいれば良いんだ!」
「やめてください、アナタ!」
「手立てがない以上、この子も危ないんだぞ!」
「…あります!手立てなら、あります!」
言ったな、カーリュー。
なら、はようしてもらおうか。
じゃないと僕ちんもうそろそろ限界やで。
またラッ●ル・クロウみたく小麦畑歩くで、なあ。
その手立てとやら………お願いしますからマジで早くやってください。
青クッサッ!!!
手立てってコレ!?
お前マジで頭どうかしてんじゃねえの、カーリュー!?
冷蔵庫からキャベツとネギ取り出してきたと思ったら、私の身体中に巻きやがってよぉ!
お前アレか?
今夜は私がお前らの夕ご飯かこの野郎!?
ロール赤ちゃんとか、いくらなんでもキチ入り過ぎじゃない!?
抱きしめてもムダだから!!
お前西洋医学なんだと思ってんのマジで!?
これで吐血治ったら、お前たぶん皇帝陛下のお気に入りになれるよ?
お気に入りになって、国の政治に関与できるよ?
日露戦争とかにも反対できるよ?
もうラスプーチンって呼んでやるからな、この野郎!!!
「…熱が上がっていますね。病原菌と戦っている証拠…偉い偉い♡」
偉い偉いじゃねえんだよ。
熱上がってんのに安心してるお前の頭がエライエライだわ。
もういいから黙ってウチの鎮守府に返してくれ!!
もうこの際無罪放免にしてやるから、マジで今すぐに返せ…………
………って、アレ?吐血、治ってない?
熱は上がってて、たしかにまだ気怠いけど、吐血自体は治ってるよね?
カーリュー?
ひょっとしてお前リアルにラスプーチンに近い家系だったりする?
もはやそのレベルだよ、これ。
キャベツとネギ巻いて抱きしめただけで吐血止まるとか本当に意味不明なんですが。
キャベツとネギの概念が変わってくると思うんですが。
青野菜を巻かれただけで、本当に吐血が治ってしまい、私の思考は物凄い混乱の最中へと投げ込まれた。
だって、意味分からんくない?
キャベツとネギで血ぃ止まるんだよ?
しかし、カーリューが吐血の停止を確認した後放った一言により、私は吐血が治った本当の理由を知った。
…まぁ、もう、ここまで来たらいつも通りなんだけどね。
「吐血が…止まった…?…………あぁ、良かった!さすがあの人の息子!さすが私の息子!とっても強い子ね!本当に良かった!」
…………。
父親まで決めんじゃねえええ!!!
カーリュー!お前モノホンのサイコパスだろ!?
赤ん坊掻っ攫い、キャベツとネギでロール赤ちゃんして、挙句の果てに我が子認定かよ!!
今すぐ精神病院にでも行って治してもらってこい!!!
「アナタッ!アナタッ!この子の吐血が止まったの!」
「おぉ!本当か、カーリュー!」
「流石はアナタの子!きっと、とっても強い子に育つわ!」
「え?カーリュー?」
「私とアナタの間には中々子供が出来なかったけど、私は今こうして強い我が子を抱いている…あぁ、神様は本当にいらっしゃるのね…」
「カ、カーリュー?」
もはや原型を留めていないカーリューのキャラ崩壊と、数々のサイコパス発言にフォースター大佐はドン引きしてる。
そりゃそうだろうなぁ!
他人の赤ん坊掻っ攫ったワイフが「この子は私達の子供でしょ?でしょ?でーしょ?」とか言い出してんだからなぁ!!!
そりゃドン引きするわなぁ!!!!
「カーリュー、おい、しっかりしろ」
「うふふふふ!長い間待った甲斐があったわ!私とアナタの愛の結晶は、病気にすら打ち勝つの!」
「カーリュー?カーリュー?」
「ねえ、アナタもそう思うでしょう?」
フォースター大佐が口をあんぐり開けたまま微動だにしない。
きっと衝撃が過ぎるのだろう。
次の瞬間、彼が発した言葉が、その衝撃の大きさを物語っていた。
「不妊治療の甲斐があったなぁ!!カーリュー!!!」
あーあ、壊れちまったよ。
カーリューたんがあまりにサイコ押しするもんだから大佐まで壊れちゃったじゃんか。
そら壊れるわ。
「アレ?でもおかしい….私、不妊治療は受けてないはず…」
「ん?それもそうか?ん?ん?」
頭がショートし始めた2人組。
そのまま眠ってくれ頼むから。
そしたらその隙に脱出…出来ねえなあ、吐血して死んじまう。
とにかく、私も貧血気味なのかクラクラしてきたから、この辺でダンケシェンするわ。
おやすみぃ……………………
「起きてください、朝ですよ」
翌朝、私はカーリューに起こされた。
まだ言葉を発することができないくらいに疲弊してはいたが、どうにか目を覚まして彼女を見やる。
目がボヤけているのか、カーリューがベルマッマに見えた。
でも目の前にいるのはベルマッマじゃない。
年甲斐もなく…いや、年相応に悲しくなってきた。
もしベラベラと喋れるのなら、今すぐにでも騒ぎ立てたい。
マッマはどこ?
ベルは?ルイスは?ダンケは?ピッピは?
お家に帰してよ、マッマに会いたい。
そんな言葉を並べ立てたいのだ。
いやぁ、いかんな。
本格的に赤ちゃんと化してきてるわ。
カーリューは私に哺乳瓶を咥えさせ、恐らく朝食を取らせる気でいるようだ。
私も昨日の吐血で栄養を必要としているためか、グビグビと中身を飲み込む。
うっっっすッ!!!
何これ粉ミルク!?
それにしても薄くない!?
普段マッマ達が用意してくれるアイリス直輸入ミルクとかとは、全くもって違う。
あちらの方はもっと味が良くて、本当に美味しいし飲みやすい。
ああ、本当にマッマ達が恋しくてしょうがなくなってきた。
本来のマッマ達の胸元で、健やかぁに暮らしたい。
もう、とにかく帰りてえよお。
ふと、純粋な疑問が湧いてきた。
仮にも大佐の男が、なんでこんな質素な生活をしてるのか。
部屋の中にある家具は皆、良く言えば質実剛健、悪く言えば品のない物ばかりだったし、フォースター大佐が朝食に食べているのは安っぽいシリアルだ。
MI5に入る以前の生活でさえ、私は彼よりも良い食事をしていたと断言できる。
この不可解な真実の真相を知るのはもう少し後のこと。
なぜなら、私が疑問を浮かべた次の瞬間、フォースター大佐とカーリューの愛の巣がマッマ達による襲撃を受けたからだ。
ああぁ、マッマぁ。
もう、今すぐにでもバブりたい。