バブールレーン   作:ペニーボイス

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問おう、貴女が私のメイドさん?

 

 

 

 恐らく、マッマ達の襲撃に対して適切に対応しようなどと考える方がどうかしてる。

 

 彼女達はフォースター鎮守府の警備状況、兵力、在籍KANSEN、地理的特徴など様々な情報を入手し、敵を圧倒できるだけの戦力を充実させ、そしてそれを前進させる事で彼の鎮守府をほぼ無血開城に追い込んだのだ。

 これこそ正に理想的な勝利の形の一つと言うことができるし、この鎮守府の警備隊の誰もが発砲を躊躇った原因でもある。

 

 今では彼の鎮守府のメインストリートはシュタールヘルムのヒヨコで溢れかえっていたし、港は私の艦隊で満ち、そして指揮官執務室にはマッマ臭が充満していた。

 

 少し前はクラクラする、なんて言ってたものだが、今では私もそのマッマ臭を嗅げる事に無上の喜びを感じていたし、そして何より安心していたのだった←まぁ、ご立派な変態になって。

 

 

 まずはピッピが私を抱き抱え、プリンツェフがすかさず私をサンドした。

 もう窒息しそうなんて言うもんか!

 マッマ大好き!スーハースーハー!←まぁ、ご立派な変態になって。

 

 

「ああ〜↑よちよち、私の可愛い坊や!プリンツ・オイゲンが来てくれまちたよぉ。痛いの痛いの、もう我慢しなくていいんでちゅよぉ?」

 

「ほら、アンタの待ち望んだマッマよ?しっかり味わいなさい♪」

 

「マジでテメェら許せんのぉ…Mon chouが流した血の倍数分は血ぃ流してもらうけえ」

 

「ミニ・ルーに私以外の体臭、嗅がせた?ねえ、嗅がせたの?…ふーん……死刑。」

 

「友人の矯正もメイドの仕事です、カーリュー」

 

 

 ピッピが私を抱きしめて、プリンツェフが治療という名の元にあやしている間にも、ダンケ、ルイス、ベルはそれぞれフォースター大佐とカーリューを粉微塵に出来るだけのフル装備を突きつけていた。

 ダンケは勇名馳せた鬼戦艦になってるし、ルイスはスペシアルサイコモードだし、ベルは失望メイドと化している。

 

 

 私の方は大して久々でもないのにピッピの谷間でおいおい泣いていた。

 マッマ、マッマぁ!

 本当に助けに来てくれてありがとう!

 とか何とか言いながら。

 

 

「お礼なんて必要ありまちぇん。坊やは私の大切な息子なんでちゅから。ほうら、マッマの匂いで落ち着くんでちゅよぉ〜?」

 

「…あ〜も〜!!ティルピッツばっかりずるい〜!!!」

 

「もうダメ!我慢できない!ほら、ミニ・ルー!!!嗅いで!!!私の腋の下、嗅いで!!!」

 

 

 ダンケとルイスは早々に痺れを切らして私の元へ駆け寄ってきたが、ベルは違った。

 155mm砲をカーリューに向けたまま、鋭い眼光を突き刺している。

 

 

「教えてください、カーリュー。なぜこのような真似を?」

 

「…貴女がアポイントメントを」

 

「いいえ、そうじゃない!そんな事が聞きたいのではありません!()()です!貴女のような立派なメイドが、"こうなって"しまった事に関する()()!!」

 

「きっと、理解していただけないでしょう。さあ、私を撃ってください、ベル。」

 

「卑怯者ッ!逃げるつもりですか!?カーリュー、貴女に何が起きたと言うのです!?何故、こんな…」

 

 

 ベルがカーリューを睨んだまま、目から涙を落としている。

 友人の信じられない変貌に、心から悲しんでいるようだった。

 その姿が見るに耐えなかったからか、フォースター大佐が口を開く。

 

 

「俺から説明させてくれ。」

 

「っ…!貴方を信じていた!ジョン・"ジャック"・フォースターなら、私の親友を幸せにできると、信じていた!なのに!」

 

「ベル!?アナタもっ!?やめてください!2人とも!」

 

「いいんだ、カーリュー。俺が話さなきゃいけない。」

 

「そんな…」

 

「もういいんだ、カーリュー!」

 

 

 フォースターは意を決しているようで、カーリューの言葉を遮った。

 そのままベルの方を向き、155mm砲の砲口を真っ直ぐ見つめている。

 撃ちたいならいつでも撃って構わない。

 そんな意思さえ伝わってきた。

 

 

「5年前の事だ。当時、人類はセイレーン相手に苦戦していた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 セイレーンの出現により、制海権の9割を失った人類。

 人類の通商は大きな損害を受け、そしてそれは流通の多くを海路で賄うロイヤルにとって深刻な問題だった。

 特に海外の植民地から食料を獲得していた事は、制海権を喪失する上ではこの上ない問題だったし、勿論、多くの人々がその影響を受ける。

 パン一つの値段は跳ね上がっていき、中間層ですら日々の暮らしに困る始末。

 しかし、それよりも下の階層にいる人々にとっては、深刻どころの話ではなかったのだ。

 

 

 海路の遮断を発端としたハイパーインフレーションの発生により、家を手放した人々も少なくない。

 そういった人々は都市部での仕事を求めてスラム街に住み着いていったのだが、人類が制海権を取り戻していく間に、その人数は桁違いに増えていく。

 

 

 一方、軍は当然、優先的に物資を割り当てられていて、そしてそれはスラム街の住人達にとっては周知の事実であった。

 

 タイミングが良かったのか悪かったのか、スラム街から海軍の将校に上り詰めた男が、出生地の近くの鎮守府に配属されると、スラム街の住人達は団体で鎮守府に押し寄せ、食料の供給を要求した。

 住人達は彼を知っていて、きっと助けてもらえると思ったらしい。

 

 その海軍将校…フォースターは住人達に同情的だったが、海軍の方は住人達を拒絶した。

 彼は住人達を追い返せざるを得なくなり、住人達は彼への思い込みとヘイトを一方的に募らせていく。

 

 

 

 ある日ヘイトが爆発し、住人達の要求は、暴力をも厭わない、暴発寸前の状態になっていた。

 彼らは海軍が物資を不当に独占していると主張し、スラム街出身のフォースターに圧力をかけ始めたのである。

 元々スラム街の住人達に同情的だったフォースターは、警備隊に臨戦態勢を取らせつつも、しかし食糧庫を開放するつもりでいた。

 住人達の悲惨な暮らしぶりをまさしく身をもって知っていたが為に、彼はついに海軍上層部の命令を切り裂こうとしたのだ。

 

 

 ところが、食糧庫を開放する直前に、警備隊が発砲を始めてしまう。

 もちろん海軍将校は発砲の命令なぞ出してはいなかった。

 なのに、手持ちのKANSENの内の1人が勝手に射撃命令を出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「大勢が死んだ。老いも若きも、そして幼き者まで…」

 

「確かに、彼らの中には武装している者もいました。でも、"あの娘"があんなことしなければ…」

 

 

 フォースターが全てを語り、カーリューが後を引き継ぐ。

 ベルマッマは衝撃的な事実を教えられ、困惑気味ではあるものの、どういうことか察したようだった。

 

 

「…つまり、フォースター大佐があのような資金要求をしたもの…カーリュー、貴女が執拗にアポイントメントを取ろうとしたのも…」

 

「ええ、ベル。せめてもの償いにと、スラム街の人々へ寄付を行なっていたのです。」

 

「君の事はカーリューからも聞いている。あの無茶な予算要請を、通してくれるように頼んでくれたらしいね。本当にありがとう。」

 

「………はぁ。カーリューとフォースター大佐の事ですから、何か事情があるのではと思ったまでです。そういう事だったのですか。………ご主人様」

 

「え?ご主人様?」

 

「ベ、ベル?ひょっとして、その子…」

 

「ええ、この方こそ私のご主人様。ロバート・フォン・ピッピベルケルク=セントルイスファミリア1世少将です。」

 

 

 

 ベルマッマは、フォースターとカーリューの話を聞いて、安心したような顔をしていた。

 私用で浪費したりしたのではないと、安心しているのだ。

 可哀想なスラム街の住人達のため、彼らは寄付をしていた。

 彼らの悲惨な暮らしぶりが、少しでも改善されるように。

 だから、ベルマッマもこう思ったのだろう。

『ご主人様も彼らのお話を聞いていただければ、事情をわかってくださるでしょう。』と。

 

 

 

 

 悪いが、そんなわけはない。

 

 

 

 

 

 私は真っ青な顔をして、しかし恐らく怒りの表情を浮かべているに違いなかった。

 こちらの方を向いたベルマッマが『え?』って感じの顔をしていたし、フォースターとカーリューは直ぐに頭を下げたのだから。

 

 

 

「申し訳ありません、少将!この度のご無礼の罰は、どうかこのフォースターのみに…」

 

 とんでもない勘違いですよ、大佐。

 私はそんな事に怒っているのではない。

 

「………海軍規則を破ったのは私です!」

 

 規則云々の問題でもありません。

 

「KANSENには出来るだけ良い生活を送れるように最善を尽くしましたが、確かに制約も」

 

 違う、全くもって分かっていらっしゃらない。

 

「では…申し訳ありません、少将。私には何故閣下が」

 

 ()()()()()()()()()()()()()、大佐?

 

「…………え?」

 

 ですから、誰に渡したのですか?

 

「じ、地元の慈善活動組織です。双子の孤児が切り盛りをしていて…スラム街に希望をもたらしています」

 

 いつから?

 

「3年前から」

 

 月ペースで?年ペースで?

 

「月ごとに」

 

 いくら?

 

「5万ドルほど………おおよそ、小型KANSENの建造費分を……スラム街の規模から考えれば大した支援にはなりませんが、それでも双子は"助かってる"と言ってくれます…」

 

 

 

 本当に腹が立つ。

 胃がキリキリと鳴り、その痛みと不快感が、猛烈なストレスを感じている証拠に他ならない。

 コイツは何をしたと思っているのだろうか?

 慈善活動?スラム街への寄付?

 本当に、お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 戦時下において軍の資金を横流しした事や私を拉致した事も、問題ではないとは言わないが、ここまで怒りを感じる理由にはならないだろう。

 

 

 

 私は怒鳴りたくなる衝動を抑え、震える指でフォースターを指差した。

 

 

「……ダンケ、この野郎を拘束してくれないかな?」

 

「ええ、分かったわ、Mon chou」

 

「なっ!ご主人様!?確かに大佐は海軍規則に反したかもしれませんが…」

 

 黙っててくれ!!ベル!!

 …すまない、でも、今は少しばかり口を閉じててくれ。

 棘のある言い方ですまんが、今は余裕がない。

 

「そ、そんなっ…何故……」

 

 

 

 私にとって幸いな事に、ピッピとダンケとルイスは私の意図を察してくれていたようだった。

 ベルも落ち着けば、きっと気づいてくれるだろう。

 

 何故、善行を働いたかに見える大佐殿に、私がここまで厳しく望んだのか。

 

 答えは簡単だ。

 

 

 まったく…勘違いも甚だしい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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