バブールレーン   作:ペニーボイス

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ライブ・ライク・ゾンビィ

 

 

 

 マニングトゥリー郊外

 海賊拠点基地

 

 

 

 

 

 酷く埃っぽい場所だなと、フォースター大佐は感じた。

 

 古びたCMB(高速魚雷艇)が二隻係留されていたが、これらの表面には錆が浮いている。

 武装のBESA重機関銃とヴィッカース重機関銃も見るからにボロボロだし、そして魚雷は搭載されていなかった。

 代わりにM9バズーカ砲一門とボーイズ対戦車ライフル一梃が搭載されてはいるものの、このボートで得られる戦果は極々限られたものだろう。

 

 

「そこのCMBの他に、ユニオン製のPTボートが2隻、古いイタレリ(史実のイタリア)製のMASボートが4隻あります。民生品のボートならもっと。」

 

 

 ボートを眺める大佐に、双子の内の少年が声をかける。

 まずはこちら側の戦力を知ってもらう事が大切だと思ったのだろう。

 大佐は軽く頷いて、頭の中を整理した。

 これだけの船があれば、海賊行為程度ならこなせる事だろう。

 

 たしかに、これしきの武装の小型艇の集団では不安を誘うものがありそうだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 民間の貨物船を狙うのに、確かに魚雷は必要ない。

 船の積載品を奪おうというのに、沈めてしまっては元も子もないのだ。

 海賊側の目的は船に乗り込んで積載品を奪う事。

 そして積載品を売り払い、より多くの人々の助けにするのだ。

 

 

 双子の兄妹は基地に到着するなり、フォースターの元へリストと海図を持ってきた。

 施設は全体として古びていたのに、海図はまるで新品のように見える。

 左上に交通省の紋様があり、どうやら政府発行の最新情報らしい。

 その海図には、幾つか上から赤鉛筆で航路が書かれていた。

 そしてその内の11本にバツ印がつけられている。

 

 フォースターが目を凝らし、このバツ印について尋ねようとした時、双子の内の少年の方が口を開く。

 

 

「これが僕らの標的です。交通省の人間の協力を得て、軍や政府高官の贅沢品を運ぶ貨物船に的を絞り優先しています。過去に11件成功させていますが、最近1件失敗してしまいました。」

 

「海軍の対応が、私達の予想より早かったのです。…軍も政府も、弱者には無関心のくせに…ッ!」

 

「対象が自分達の贅沢品に移った途端、非常に堅固な守備を構築しようとしているんです。」

 

「………」

 

「大佐、貴方の主観でも何でも構いません。より多くの弱き者を助けるためにも、何かお教えいただけませんか?今も多くの孤児たちが、僕らの帰りを待っています。」

 

「あの子達の頼りは大佐だけです!腐敗した軍幹部の贅沢品を転売できれば、何人もの孤児達が助かります!」

 

「………対応部隊の勢力は?」

 

「!」

 

「た、大佐!ありがとうございます!」

 

「俺も知らなかった……軍の幹部まで…軍人は国民の盾でなければならないというのに、今の上層部は高級な食事や贅沢な嗜好品で肥え太ってばかりというわけか…俺も黙って見てるわけにはいかないっ!例えカビたパンを齧ろうと、上層部の目を覚まさせてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うんめぇえええええwwwww

 

 

 あぁ、画面の前の皆様申し訳ありません。

 上半分の大佐の苦悩が吹っ飛ぶぐらいには、私は今かゆうましております。

 目の前には加賀マッマ特製のカニ雑炊があり、その右手に『セントルイスの以下略』、左手にはダンケマッマお手製のカスタード・プディングが並ぶ。

 

 もちろん、蟹の身の方はすでにお腹の中である。

 アヴマッマはわざわざ極東からタラバガニを生きたままお取り寄せしてくれたのだ。

 まあ、バカ高くついたろうなぁと思って最初は少し驚くと共に後ろめたさも感じたが、アヴマッマは笑顔でこう言ってくれた。

 

 

「ミーシャの為じゃないですかぁ!これぐらいどうってことありません!」

 

 

 ウラジオストクからシベリア特急バルト海経由でタラバ蟹運んでおいてコレである。

 一番重要なのは"生きたまま"運んだという事だろう。

 聞けば北方連合のベニヤも一枚噛んでいるらしい。

 私を味方につけておきたいらしく、内部人民委員部が最優先貨物として指定してくれたそうだ。

 蟹の他に新作の対戦車火器(RPG2っぽい何か)とか新作の自動小銃(AKっぽい何か)も金メッキして送ってきてくれたのだが、赤ん坊の私にどう使えとおっしゃるのか。

 ま、まあ、お気持ちは嬉しく思う次第であるので、私は北方連合からロイヤルへ向かう航路の内、海賊行為の恐れがあり避けた方が良い海域の最新情報をお知らせする事でお返しをする事にした。

 ちなみに()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 なんというか、こういうやり取りする時点で順調に腐ってるといいますか…

 いや、いいや、いやいや、誰も困る事なんてないじゃないか!

 まだ腐ってない、腐ってないぞぉ!

 ゾンビになんかなってないぞぉ!

 

 届いたタラバ蟹が加賀マッマによって美味しく調理されている間、私は10人のルイス風呂という天国か地獄かよく分からないようなレクリエーションに参加し、その後「最近坊やをあやせてなくて欲求不満!」とか言い出したピッピマッマにツークシュピッツェされ、現在に至るわけである。

 

 

 

 カスタード・プディングの最後の一欠片を口に入れた時、私を死ぬほどあやしてもあやしたりないのであろうピッピが、「今夜は私がベッドだからね!ね!ね!ね!!」とか言い出した。

 

 地獄耳の権化となったダンケとルイス×10とベルがそのワードを聞きつけて食堂に突っ込んできたタイミングで、食堂備え付けの電話が鳴る。

 

 マッマ達の素晴らしいところは、いつ何時も私の執務自体の妨害になるようなことをしない事だろう。

 例えば…今のように、いくら赤ん坊の帰属権を巡る論争を繰り広げたくても、その赤ん坊が通話する時は自重してくれるのだ。

 まあ、その後ストップしてた分溜まった言い分が弾けるんだけど。

 

 

 私は受話器を取り、相手を確認した。

 ついこの間も電話した相手だったのだが、声色が凄く疲れている。

 あぁ、彼も彼で大変なんだろう。

 

 

『ブロ。』

 

「あーーーー、兄弟?」

 

『うん。』

 

「………赤ん坊になっちゃった?」

 

『いや、()()()()()。』

 

 うん、なるほど、近くにビス叔母さんがいるのね?

 

『うん。代わるね?』

 

 

 かけてきたのは従兄弟ラインハルトだったが、実際に用件のあるのはビス叔母さんの方らしい。

 電話口にビス叔母さんが来ると、彼女は底抜けに明るい声で通話を始めた。

 

 

『やっほー♪私の可愛い甥っ子♪』

 

 ど、どうも、ビス叔母さん。

 

『聞いたわよ?ロイヤル北東部の沿岸の海賊行為の対策に悩んでるとか。』

 

なんで知ってんの!?

 

『最初にベニヤを利用したの、だ〜れだ?』

 

ラインハルトめ…

 ま、まあ、そうですね。

 これから国内の業者に注意文書を送付しようかと思ってるんですが…海軍上層部の許可が降りなくて…

 

『あら、それはどうして?』

 

 ………ふはぁぁぁ(ため息)

 海軍の管轄じゃないそうです。

 

『ははははッ!…あぁ、ごめんなさい。実にロイヤルらしい縦割り行政ね。』

 

 交通書の人間、一体いつになったら注意文書を送付することやら…

 ところで、本日のご用件は?

 

『そう焦らないで、甥っ子。来週、ハンブルクからノーフォークへ向けて貨物船が出発する。』

 

 ノーフォークへ?

 護衛の随伴をお勧めしますよ?

 

『ええ、分かってるわ。でも鉄血公国海軍も手一杯でね。だから、貴方の艦隊に守ってもらえれば安心かなぁって。』

 

 ………え?

 

『ティルピッピの可愛い可愛い坊やなら、きっと引き受けてくれるでしょう?ねえ、ティルピッピ?』

 

「もちろんよ、姉さん」

 

 うおっ、ピッピ!

 聞いてたんかい!?

 

『経費は勿論私達が持つし、貴方への贈り物も送っておくわ♪それじゃあよろしくね、甥っ子♡』

 

 

 

 電話は一方的に切られてしまった。

 

 いやあ。

 困るなぁ。

 そんな長年付き合ったカノジョみたく「安心かなぁ」とか言われても困るなぁ。

 私も私で、もうMI5の職員でもなんでもない。

 海軍上層部の許可なくポンポン動けるわけではないし、何をするにも許可を得なければならないのだ。

 

 

 軍の命令というのは、肩に五つ星をつけた将軍が気まぐれに発する物ではない。

 どの世界でもそうであるように、命令というものには規則という根拠があるのだ。

 

 だから間違っても「昨日悪夢にうなされた、アレは凶兆の証」とかいう理由で攻勢を止めることはできないし、「茶柱が立った!今が好機!」とかいう理由で攻勢に出る事も出来ないのである。

 そりゃそうだろう。

 いくらなんでも50超えたおっさんの夢(信●の野望感覚)なんかで軍事組織が左右されればたまったもんじゃない。

 

 つまり、私が鉄血公国船籍の商船を護衛するには相応の理由が必要なのだ。

 ロイヤル船籍の貨物船なら『自国民の生命と財産保護』という理由が大手を振って使えるわけだが、外国船籍の商船を、それも母港からヤーマスまで護衛するとなれば話が違う。

 規則にも則った、こじつけでもなんでもいい、とにかく理由が必要になる。

 

 そう考えるとMI5にいた頃が懐かしく思えた。

 あの時、私は対外諜報顧問とかいうよくわからない、組織から少々独立性を持たされたポジションだった。

 おかげで長官に直接許可を要請できたし、そもそも長官の判断なしに色々と進める事ができたのだ。

 重桜のKANSENを東煌の港湾都市に派遣したり、北方連合の装甲列車を空路襲撃したり。

 

 その時に比べれば、今の立場はまるで雁字搦めである。

 

 

 

「坊やぁ〜、坊やぁ〜。もちろん引き受けてくれるでしょぉ〜〜〜?」

 

 ちょっと待ってピッピママ。

 引き受けるにも、理由がいるんだ。

 どの艦隊を割りてるかも考えないと。

 

「確かにそうね。……何かいい方法はないかしら……」

 

「…セントルイス?Mon chouに来週の各艦隊の予定を教えてあげたら?」

 

「勿論よ、ダンケルク。ええッと、第1艦隊『ハプスブルク』は母港の守備、第2艦隊『イシュトヴァン』は待機、第3艦隊『オタカル』も待機ね。」

 

「第4艦隊『フジヤマ』は私の指揮下で長距離移動演習に…」

 

 待って、ベル。

 

「はい?」

 

 長距離移動演習………これだ。

 

「ご、ご主人様?いくら長距離とはいえ命令から逸脱するのはどうかと思いますが。」

 

 ベル、ベル、君は命令から逸脱するわけじゃない。

 当初の見積もりが甘くて、ついうっかり鉄血船籍の商船に遭遇するんだ。

 

「ええっ!?」

 

 航路計器系統が故障して、母港の帰還まで商船に着いていくほかなくなってしまう。

 すまんベル!

 苦労をかけるね。

 

「………ご主人様ぁ。」

 

 

 

 ベルが呆れ顔をしていたが。流石に叔母からの要請を無下にするわけにもいかん。

 これまで鉄血公国の協力をいただいてきたし、これからもきっとそうであるなら尚の事。

 

 職権濫用の気しかしないが、解決策はこれしかない。

 ……やっぱり、ちょっとずつゾンビになってってんじゃねえかな、私。

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