それいけ、空ちゃん! 作:宇宙人A
直径百メートルはあろうかと思える巨大な穴。
見下ろせば垂直に数百メートル以上の深さはありそうだ。側面の至る処では灼熱の溶岩が流れ落ち周囲を照らしている。
流れるように底の方へ視線を向ければ太陽の表面を思わせる光と熱量を持ったマグマが激しく煮えたぎり時には噴き出している。
近付くだけで肉は焼かれ、離れていようとも噴き出した飛沫が襲ってくる、生物の生存に余りにも適さない。
もし落ちようものなら生還は絶望的。
そんな噴火口の淵で立ち見下ろす少女が一人、
躊躇なく飛び降りた。
ただし人ではない。
背には一対の濡羽色の大きな翼が広げられている。
付け根からは翼の半分を覆い隠せる純白のマントが靡き、その内側には一体どのような原理なのか、漆黒の宇宙が広がり星々が散りばめられ光り輝いて、あたかも奥行きがあるかの様に見える。
頭には腰まである黒茶色の髪に明るい緑色のリボン。
体は白色の衣服で胸元には赤銅色に怪しく光る大きな瞳。
腰はリボンと色を同じくしたスカート。
足は黒茶色のブーツと黒色のニーソックスに上からアンクレットを巻きつけている。
ただし右足には白い包帯を足首から太ももまで無造作に巻き付け、その上に黒色のアンクレット。
左足には包帯を巻かず、ニーソックスの上から青白く輝くアンクレット。
一体どのような原理か天体を意識しているアンクレットは2つの
そして右手には身長の半分以上を長さはある巨大な長身の銃、別名バスターライフル。
銃身が二つ横に並び全体が機械的な見た目をしている。
最深部、煮えたぎるマグマに近付くと上からは見えない黒く固まった溶岩が見えてくる。様々な大きさで浮遊しながら不規則に動き回っている。
壁面には一つの巨大な穴が横に続き同じく浮遊した溶岩が続いていた。
その横穴へ時折噴き出すマグマを避けながら進むと巨大な白金色の扉が見え、正面まで近付くと自動で開き招き入れた。
その先にはマグマが一切存在せず幾何学模様の通路が続き、非常に明るい空間が広がっている。床から壁に、天井へ幾何学模様が張り巡らされた空間の中央には漆黒のモノリスが一つ聳え立っている。
モノリスを一見しては通り過ぎて更に奥の扉へ向かう。
其処は彼女の生活空間兼工房で、視線の先には直立したNPCが一人。
「ただいま〜お燐〜」
「お帰りなさいませ、
何となく適当に手を振って横を通り過ぎようとしたら予想外の返事に硬直した。
「如何なされましたか?」
更なる追撃。
そう、彼女、
ユグドラシルというゲームはイベントNPC意外基本的に喋らないからだ、そのNPCが言葉を操り、お辞儀までした事が異常である。
仮に彼女以外の人が今の光景を目にしたとしても同じく異常と判断するだろう。
「お…お燐?私が居ない間に何かあったかしら?」
「いえ、何もありませんが…先程アルベドの伝言でモモンガ様から守護者全員第六階層に集合する様にとありましたね」
「守護者全員?」
「はい」
「ふーん…放って置いて良いわ。それより作業に集中したいから部屋には誰も入れないで頂戴」
「宜しいのですか?」
「構わないわ」
「畏まりました」
お燐は
話をそのまま受け取っているなら扉の前で門番をしているだろう。
そしてモモンガと言ったことからほぼ確実にモモンガはログインしているだろう。
ふと前々から噂されていた『ユグドラシルⅡ』が始まったのか考えたが、サービス終了間際で告知しない手はない。
もしかしてサービス終了間際のゲリライベント?
分からないけど一応準備しておく。
まず倉庫へ向かいイベント用のアイテム、装備に切り替える。
倉庫と言ってもナザリックの宝物庫と何ら変わりはなく、大量の装備やアイテムが保管されているだけの場所。
ただしその場にある装備やアイテムは彼女が一人で暴れ集めたもの。
そこから最上級のポーション各種に使い捨てのマジックアイテムをアイテムボックスに入れていく。
十数分程かけて消費系アイテムを補充し終えて、次に装備を整える為に奥へと向かう。
装備を置く為の棚が何段も幾つもあるが集められた装備は其れよりも多く、床に乱雑に転がっている状態。足の踏み場すら無いが浮遊して移動する彼女は障害にならない。
其れ等を通り過ぎて突き当たった壁に手を触れて呟く。
すると壁が上にせりあがり、同じく装備が散乱している。
ただ先程まで見てきたものと違い、豪華な装飾に強大な力を感じさせている。
だが目的は更に奥、彼女の装備している物と瓜二つの装備。
「…ワールドアイテムは大丈夫そうね。全部装備してしまいましょう」
そう、其処に置かれているのは全てワールドアイテムである。
其れらを手に取っては交換して行く。
まずブーツ脱ぎアンクレットを外し、右足の包帯を解いた。
そして別の包帯を手に取り足に巻き直す。
正確には包帯ではなく【回復の羽衣】と呼ばれるワールドアイテム。羽衣を脚に巻くというぶっ飛びスタイルだが彼女には関係無い。
しかも効果はワールドアイテムに相応しく、ステータスの三割を毎秒回復させ三秒程あれば全快する。生命力のみならず魔力に気力、天力までも回復すると言う天使から仙人に妖怪までも回復させるぶっ飛び性能。
次にブーツを履き直して両足のアンクレットを装備する。
右足には【崩壊のアンクレット】他者が装備しているもの以外、魔法・魔術・妖術・無機物などを大体
左足には【創造のアンクレット】魔法・魔術・妖術・物質等を創造構築する事が出来る。しかしコマンドが細か過ぎて
次に頭の髪飾り【恒常のリボン】を交換する。効果は単純であらゆる状態異常系の効果を無効化するだけ。ただこれもワールドアイテムである為相応の能力を持っている。
続いて胸元にある第三の瞳【時限の瞳】を交換する。効果は世界の時間を遅らせ、その中を移動又は攻撃出来る…らしいが実際使ってみると単純で魔法詠唱速度や行動速度、リキャスト時間や硬直時間と凡ゆる速度を200%引き上げるもの。
十分強いが、彼女はただ見栄え的に良い感じになるので何となく装備している。
そして思う。
「ワールドマント…名前どうにかならなかったのかしら?」
手にしている装備の名前が残念だった。しかしその効果は最高峰二十のアイテムの中でも最上級の物である。
効果は
一つ、無制限転移(長距離連続転移可能)
一つ、即死無効(生命力一割以上で効果有効)
一つ、絶対障壁(八位階以下の攻撃を無効化し、全ダメージ八割軽減する)
一つ、全ステータス向上(二倍)
一つ、範囲超拡大化(あらゆるスキルや能力の影響範囲を二倍増加する)
そしてワールドアイテムの持つ不壊性能。
何故ここまで壊れた性能を持っているのか、それは彼女が手に入れたワールドアイテム【ウロボロス】に原因かがある。
元からワールドアイテムであり神器級のアイテムを五つ取り込みその効果を使用出来るものだった。しかし効果に不満のあった彼女はウロボロスを手に入れた瞬間に願い、叶ってしまった。
その効果は神器からワールドアイテムまでの装備を取り込みその能力の使用を可能にした。
それから彼女は我武者羅にワールドアイテムを集め選別しマントに取り込んで行った。
街を通り過ぎれば廃街が、ダンジョンを通り過ぎれば廃坑が、彼女の通り過ぎた後には何も残らず。
いつしか死告鳥と呼ばれ怖れられた。目を合わせると死ぬと言う謎のジンクスまで出来上がるほどに。
そんな彼女の努力があり、出来上がった【ワールドマント】の効果はユグドラシル最高峰となった。そんなこんなと色々あり最も愛着があり愛用している装備である。
名前は残念だが。
そして最後に【神滅砲】を交換する。能力は至って単純で八位階相当の火力を持つビーム状のエネルギーを乱射出来て、二丁合体させる事でチャージが可能になり、チャージすると超位階相当の破壊力を持つ極太ビームと弾着時に広域爆発というシンプルな物だ。
しかし膨大なMPを消費する為、連続で使い続けるにはMP回復ポーションのがぶ飲みが前提という、兵器系ワールドアイテムでは比較的大人しい性能だった。
大人しい性能だったが彼女が手にすると、それはワールドアイテムでも最上級の性能へと激変する。
其れには彼女の装備【ワールドマント】【回復の羽衣】【時限の瞳】が関わっている。
まず【ワールドマント】の全ステータス向上によりダメージを激増して、範囲超拡大化により最大射程とビーム径が二倍に。【時限の瞳】の効果で射撃後硬直が半減してビームの速度と連射速度が倍速に。【回復の羽衣】の効果で消費MPより回復が上回る状態に。
つまり纏めるとダメージ激増、ビームの太さ二倍、ビームの速度二倍、射程距離二倍、連射速度二倍、弾薬無限という頭の可笑しな性能に。
そしてワールドアイテム特有の不壊能力を持つ為によく鈍器としても使われていた。基本的に銃器系の装備は殴ったりガードすると耐久がごっそり削れ最悪壊れるのだが、ワールドアイテムには関係無い。しかもビーム照射系兵器である神滅砲は弾幕が張れる連射系に比べて隙が大きい分武器による打撃に大きなダメージボーナスが掛けれられている。加えて装備するワールドアイテムの効果により倍速で殴ってきて、届かないはずの位置に謎の当たり判定が発生し、倍加したステータスが近接職もびっくりな高ダメージを叩き出してくるという、極まった理不尽が待ち受けている。
つまり隙を突いて接近するとバスターライフルで殴られ離れれば極太ビームを乱射してくると、しかもタンク役も驚きなHPと耐久力と自動回復能力で実質HP無限状態。
なんて理不尽な。
実際に餌食になった者は数知れず。
しかし何故こんな装備があるのか、バグでは無いのかと思われるが、それは急激な過疎化に慌てた運営がテコ入れで割り込ませた暴走古代兵器撃滅イベントに秘密がある。
しっかりとしたテストを行わなかっただけで無く【神滅砲】の性能は超ピーキーだから使いこなせる人居ないよね?という希望的観測により実装したのが原因だ。しかもワールドアイテムの修正を露骨に嫌がる運営は、彼女以外でぶっ壊れ性能を引き出すプレイヤーが存在しない事を確認してからバグではないと発表した。
尚、イベントは霊烏路空により開始一時間で攻略され報酬を吐き出していたのはギルメンだけの話。
また開始一時間で攻略された為にギルメン以外のプレイヤーには気付かないまま終了して、しばらく攻略者現れなかったのでは?と余りにも騒がれた。そして公式から異例の公式ニュースが挙げられた。
『イベント開始一時間で攻略されました』と。
そんなこんなで手に入れた古代兵器【神滅砲】は運営がちょっと強くし過ぎただけである。
「よし、装備は回収完了、ステータスも…問題なしっと」
交換で外した装備は全てアイテムボックスに収納。倉庫から出たら次に書斎でスキルの確認をする。攻撃系スキルは部屋がめちゃくちゃになるので室内で確認出来るスキルだけ。
…
……
………
「スキル…思考で発動するのね…」
スキルの発動方法が音声操作か指でのコマンド操作だっが、新たに思考での発動方法が追加されていた。
ただ思考するだけで任意のスキルが即座に発動して効果を現す。無論今迄と同じく音声やコマンドメニューからの発動も可能だった。
思考するだけで空中に
「まさか…思考を読み取っている?いえ、そんな…」
思考読み取りにおける電脳法は非常に厳しく、国の認可が必要なレベルである。その上技術もそこまで発達してなく正確な読み取りまでは可能にしていない。可能なのは簡単な行動読み取りまでで、昔にあったキーボードやマウスの操作に草が生えた程度である。
つまり、ユグドラシルを起動するのに使われている機材では思考の正確な読み取りは不可能であると。
「わからない…やはりイベントではない?…一旦ログアウトするべきね」
異常事態が予想外の異常事態になった為ログアウトする事を決めた。
しかし其れは叶わない。
「ログアウトボタン…無い…?」
視界に広がるコマンドメニューからログアウトの項目が消えていた。
「なんで…?」
なんか色々と異常だらけで一周回って落ち着いてくる。
とりあえずと仕方がないとスキルの確認を再開する。
…
……
………
そして検証すること小一時間、足首に装備している【創造のアンクレット】の能力がわけの分からない物となっている事に気づく。
コマンド操作から思考操作に変わった事で今まで以上にアンクレットを自由に使う事が可能になっていた。
其れに気付いた彼女は目の前に椅子を
天力や魔力を消費せず瞬時に創られた椅子は白く飾りのない無骨な物。
そうイメージは曖昧、曖昧なイメージだけで簡単に創り出すことが出来た。
もしかしてエンチャント系の武器も作れるのでは?と思い立ち、
出来た。
雷纏った長剣が出来てしまった。
「識別・装備」
モモンガであればオール・アプレイザル・マジックアイテムとの言葉で鑑定魔法を発動するが、彼女は魔法と違い別系統の力【天術】を使用する。その為、発音する言葉も魔法と別けられている。
そんな鑑定系の天術で武器の性能を確認し驚愕した。
…
神器級の装備が出来上がってしまった。
「嘘でしょ…」
その呟きに応えてくれる人は誰もない。
其れから更に小一時間様々な物を創り出し、能力を理解した。つまりはワールドアイテムだからそれ未満の武器、神器級、伝説級、聖遺物級、遺産級など創れると。ただしレア度関係無しに一度の創造で付与出来る能力やスキルは一つまでと。
少し考えればこの程度の神器であれば簡単に作れるから妥当なのか?と思えてくる。
だが使い方を凝らせば最上位の神器を作り出すことも可能だと。
一度に一つの能力しか付与出来ないが、出来上がった神器の
そして、もう一つ【崩壊のアンクレット】の能力を試してみる。
手始めに椅子、先程創った椅子に向けて
とてもあっさりと。
「……」
言葉にならない。そんな表現が妥当だろうか。
そんな簡単に消滅させていいのかと。
まさかと思い先程創った神器を手に装備して、その武器に崩壊するよう念じると。
光の粒子となり消えてしまった。
装備扱いの物は消せないはずが消せるようになっている。
しかも
便利なアイテム程度の性能が壊れ性能に変化していた。
「……どうしろと」
ユグドラシル最強のプレイヤー、霊烏路空は創造と破壊の力を手に入れた!
テンション上がってノリに乗ったらガチートに…