Fate/After Zero   作:トライアルドーパント

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そんな訳で、作者はガチャへのロマンと、FGOでZeroコラボの復刻イベしている事と、アンケートに3票入っていると言う理由から、一つ書いてみることにしたFateの世界ですが、内訳として「Zero」が一票と「FGO」が二票と言う結果に悩み、最終的に「ZeroをベースにFGOの要素を混ぜる」と言う案に落ち着きました。

個人的にはゴーストパを作りたい所ではあるのですが……やはりガチャは悪い文明。

9/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


Episode01

1994年。日本の地方都市である冬木市にて、四度目となる聖杯戦争の幕が上がろうとしていた。

 

聖杯戦争とは――7人の魔術師が霊長の守護者である英霊を、聖杯の力による補助を得る事で魔術世界における最上級の使い魔たる『サーヴァント』として召喚し、彼等が契約した7騎の英霊が覇権を競い合い、勝ち残った只一組にのみ、万能の願望器たる『聖杯』が勝利者の権利として与えられると言う、文字通りの戦争である。

 

そして、聖杯戦争にはこれまで、必ず『始まりの御三家』と呼ばれる「アインツベルン」、「遠坂」、「間桐」の魔術師が参加しており、この御三家の魔術師は聖杯戦争において、外部から聖杯戦争に参加する魔術師達に比べて、幾らかのアドバンテージを持っている。

 

そんな御三家の一つである間桐家の地下にて、一人の魔術師が第四次聖杯戦争に参加するべく、文字通り血反吐を吐きながら英霊召喚の呪文を唱えていた。

 

「素に銀と鉄。礎に意志と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ……」

 

魔術師の名は間桐雁夜。間桐家で魔術回路を持って生まれた次男坊であり、その才能は兄を上回っていたが、間桐家の支配者の人道をこれでもかと蹂躙する魔導師の生き様を否定し、普通の人間として生きるべく、かつて間桐家を出奔した男である。

 

そんな彼が、自身が心底忌み嫌う魔導師となったのは、一重に初恋の女性が産んだ二人の娘の内の一人が間桐家へ養子に出され、彼女が間桐家の支配者による蟲を用いた“調教”と言う名の凄惨な陵辱を受けていた事に他ならない。

 

雁夜を絶望に叩き落した間桐家の支配者の名は、間桐臓硯。500年の時を生きる魔術師であり、その肉体と思考回路はもはや人間のソレではない。

この怪物にとって、間桐家の女とは優秀な跡継ぎを生むための“胎盤”に過ぎず、その為に雁夜の思い人の娘は、幼くして臓硯の醜悪な野望の為の犠牲になってしまったのだ。

 

「――――告げる。何時の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ……」

 

本来、臓硯は今回の第四次聖杯戦争に参加するつもりは無かった。しかし、桜を地獄から助けるべく、雁夜は自分が第四次聖杯戦争に参加し、優勝することで手にした聖杯を臓硯に譲る代わりに桜を解放すると言う取引をした。

だが、間桐家を出た雁夜には、聖杯戦争に参加するだろう他の魔術師と違い、幼少期から行われる魔術師としての鍛錬を一切受けていない為、参加資格を得る為には邪道に手を染めるしか道は無かった。彼はその体に『刻印蟲』と呼ばれる蟲を埋め込み、それらが与える激痛と消耗による拷問に耐え、何とか急造の魔術師として令呪を得る事に成功した。

 

「されど汝は、その眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 

もっとも、刻印蟲はこの一年で雁夜の肉体を文字通り食い荒らし、もはや雁夜の命はおよそ一ヶ月程度しかない。それでも桜を助ける為ならばと、彼は残り少ない命の火を燃やしてサーヴァントの召喚に臨んでいた。

それは、一見すれば危険極まりない行為に思えるが、彼の心の中にある桜に対する贖罪と、その母親である遠坂葵に対する恋慕と、そして桜の父親である遠坂時臣に対する憎悪と、この地獄としか言いようのない間桐家の支配者である間桐臓覗に対する殺意が、モルヒネのように彼の半死半生の体から痛覚を麻痺させていた。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

かくして、雁夜はサーヴァントの召喚に成功した。しかし、桜を助ける為に雁夜が命がけで召喚したサーヴァントは、触媒の持ち主である『湖の騎士』ではなかった。

 

「!? な、何だ!?」

 

まず、魔方陣から現われたのは巨大なイナゴの群れであり、その数は見る見る内に召喚場所である蟲蔵を覆い尽くしていった。

 

「MUUUUUUUUUUUUUU……」

 

「!?」

 

それから雁夜が目にしたのは、緑色でグロテスクな悪魔の如き姿をしたバッタの怪人であり、炎の様に赤い複眼が此方を睨んだかと思えば、怪人が手をかざした次の瞬間、雁夜の後ろにいた臓覗が弾け飛んだ。

 

「な……!?」

 

「ひひひ……無駄じゃ、無駄じゃ。そんな事をしてもワシは――」

 

「NNNNNN……RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

如何なる理屈で臓覗の頭を吹っ飛ばしたのかは分からないが、それで500年を生きた人外を倒すことは出来ない。攻撃を仕掛けてきた怪人に対して、嘲笑しながら余裕を持って語りかける臓覗だったが、怪人が瞬時に銀色の鎧を身に纏い、その直後に発生した緑色の光を臓覗が無防備に受けた結果、その余裕はあっと言う間に崩れ去った。

 

「ガァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

「!?」

 

突如悲鳴を上げてのたうち回る臓覗だが、何故先程まで何とも無かった臓覗がいきなりそうなったのか。明確に攻撃した訳でも無く、ただ緑色の光が放たれただけで、あの妖怪がどうしてここまで苦しんでいるのか、雁夜にはまるで分からなかった。

 

「NNNNNN……HAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「か、雁夜ぁあああああああああッ!! 貴様、一体何を喚んだのじゃぁあああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「DRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぎにゃぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

そして、緑色の怪人が銀色の亜人に変化し、更に禍々しい真紅に身を染めた魔人に変貌すると、今度は手をかざして臓覗を宙に浮かべ、右手から照射された妖しげな光線によって、臓覗の肉体が老人の姿からおどろおどろしい怪人の姿へと変わっていく。

頭部に光線が照射され、白目を剥いて泡を吹きながら絶叫する臓覗の声が聞こえなくなった後、召喚したサーヴァントの双眸が雁夜を捕らえた瞬間、雁夜は遂に意識を手放した。

 

 

○○○

 

 

昨夜のサーヴァント召喚から、再び意識を取り戻した時。俺は蟲蔵ではなく自室のベッドに横たわっていた。

 

「………」

 

アレは……俺が召喚したサーヴァントは一体何者なのか?

 

確か、臓覗が「お前に相応しい触媒を用意した」と言って用意したのは、『湖の騎士』ことランスロットにまつわる品だった筈だ。だが、アレはどう見ても、間違ってもサー・ランスロットなどではない。

麻痺して碌に動かない左半身を、何とかまだ動かせる右半身で引きずるように動かしながら起き上がろうとした時、ふと俺は肉体の異変に気付いた。

 

「……アレ? 左足が動く……? ……!! 両目でちゃんと見えてる……!?」

 

俺の肉体は一年に及ぶ臓覗の刻印蟲による肉体改造の副作用で左半身が麻痺し、左足はまともに動かすことが出来ず、左目も白濁として物を見る事が出来なくなっていた。

しかし、今の俺は一年前と同様に体を動かす事が出来、両目の視界も良好。思わず部屋で埃を被っていた姿見を使って久し振りに顔を確認すると、毛髪こそ白くなっているものの、ゾンビの様だった俺の顔は、一年前のそれに戻っていた。

 

「一体何が……、何が起こってるんだ?」

 

自分の体に起きた異変の正体を探るべく、勢いよく部屋を出た瞬間、ソレは扉の影からニュッと俺の前に現われた。

 

「おおお……大神官ぁ……。お目覚めになられましたかぁ……」

 

「ファッ!?」

 

ソレは巨大な人型のゾウリムシの様な姿になった臓覗だった。それを見た瞬間、俺はサーヴァントを召喚した後で見た光景が夢でも幻でも無かった事に気付き、それと同時に召喚したサーヴァントの事が心配になった。

 

今回の聖杯戦争にあたって俺は、臓覗の指示で『狂戦士【バーサーカー】』のクラスのサーヴァントを召喚している。バーサーカーは総じて「狂化」と言うスキルによってステータス補正がもたらされるのだが、デメリットとしてマスターの魔力を馬鹿食いする上に理性を失ってしまうのだ。

 

「まさか……桜ちゃんッ!?」

 

召喚した直後に臓覗に襲いかかり、見た目だけは普通の老人だった臓覗を完全なる化物に変えてしまった事を考えると、意識を失っている間に桜ちゃんにその魔の手が及んでいるのではないかと思い至った俺は、桜ちゃんの安否を確かめるべく屋敷中を探し回った。

 

そして、自分の兄である鵺野の部屋を開けた時、部屋に転がっていたのは大量の酒の瓶でも、酔いつぶれた兄でも無かった。

 

「ガルルルルルルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

虎だ。それも仔牛並のサイズを誇る巨大な虎が、鎖に繋がれる形で鵺野の部屋に居座っていた。

 

「な、な、な……!」

 

「おお、起きたか。我がマスター『大神官カリヤ』よ」

 

「おはよう、雁夜おじさん」

 

「!? お、おはよう……桜ちゃん。あと、バーサーカー?」

 

「うむ。確かにこの度はバーサーカーのクラスで召喚に応じている。取り敢えず、私の事は『創世王シャドームーン』と呼ぶがいい」

 

呼びかけられて思わず振り返ると、血眼になって探していたサーヴァントである銀色の亜人が、桜ちゃんと手を繋いで歩いていた。色々と言いたい事と聞きたいことが山ほどあるが、取り敢えず俺の中にある一番聞きたい事から聞くことにした。

 

「こ、コイツは臓覗なんだよな? 何でこうなったんだ?」

 

「その三度の飯より昆虫姦が大好きな変態ジジイは、我がスキル『改造手術』によって『大怪人ゾォルケン』に生まれ変わったのだ」

 

「……は? 改造手術!?」

 

「仕方なかろう。何せ醜悪なジジイの劣悪な趣味によって、美少女とイケメンが蟲に犯されていたのだからなッ!! お前達を助ける為に改造手術を行ってしまうのも道理であろうッ!!」

 

「助ける為に改造手術をするってどう言う事だ!?」

 

「召喚の際のお前の望みはこの子の救済と、ソイツ等への復讐だろう? その為の手段が改造手術だったと言うだけの話だ。何も間違ってはいない」

 

バーサーカーの言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。500年の時を生きた妖怪魔術師を改造すると言うぶっ飛んだ思考と行動力は確かにバーサーカーと言えるだろうが、何か自分が想像していた事とはまるで違った方向に狂っていたのだから無理はないと思う。

 

しかし、俺は此処である事に気付いた。先程、このサーヴァントは「イケメンと美少女を助ける為に“改造手術を行った”」と言っていなかったかと。

 

「……チョット待て、もしかしてその改造手術って……」

 

「うむ。お前とこの子の体は既に私のスキルによって改造(なお)っている!」

 

「何か言葉がおかしくないか!?」

 

「何もおかしい所は無い。これでお前達は完全にこの変態ジジイの呪縛から解き放たれたのだぞ? その結果として、例え『大神官』に生まれ変わったとしても、そこは誤差の範囲内というヤツだろう?」

 

「大神官!? 大神官って何だ!?」

 

「大神官は大神官以外の何者でも無い! それ以上でもそれ以下でもない! 分かったか!」

 

「分かるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

意志の疎通が出来ている様で出来ていないバーサーカーに俺はキレた。もっとも、彼がこんな風になっているのは、ある意味で俺と臓覗の所為でもあるらしい。

 

元々、このサーヴァントは生前に自身の心の闇から生まれたとされる、思考回路と行動力がおかしい忠実な怪人を複数従えていたらしいのだが、それが今回の召喚の際に彼から分離・独立していた怪人達の意志や思考回路が、バーサーカーの狂化スキルと一緒に付与・還元される形となってしまったのだとか。

 

「ちなみにその場合は高確率でライダーかエクストラクラスのどれかになっていただろうな。アヴェンジャーとか。もっとも、お前がどのクラスで私を呼び出そうと、『改造手術』のスキルは失われないので安心して欲しい」

 

「……そ、それじゃあ、兄貴の部屋の虎は?」

 

「シベリアトラだ。猫科最強最大の生物にして、全長4.7メートル、体重490キロを誇る同種の中でも最大級の代物だ。言ってみれば地球最強の獣だな」

 

「そうじゃなくて、なんで虎がこの家にいるんだって話だ!」

 

「私がシベリアから持ってきたに決まっているだろう。間も無くあのシベリアトラを元にしたミュータントが生まれる」

 

「はあ!?」

 

「ちなみに部屋の主のアル中だが、その息子が桜をいじめるので『貴様ら親子をワカメ怪人に改造して、大怪人ゾォルケンの餌にするぞ!!』と軽く脅してやったら、こっちが申し訳なくなる程の命乞いをした後で、いつの間にか屋敷から逃げ出していたぞ。何故だろうな?」

 

俺はますます混乱した。虎を元にしたミュータントと言うのもよく分からないが、間桐家では誰も逆らう事が出来ない臓覗を容易く改造したサーヴァントの脅しは、ハッキリ言って洒落にならない。

絶大な力を持つ者の脅迫は、相手にとって確定した未来であると言う事を、臓覗の所行によって間桐家の人間ならば誰もが心の奥底でその事を理解しているからだ。

 

もっとも、鵺野親子を脅した本人は、「悪い事するとナマハゲが来るぞ」位の気持ちだったのか、鵺野親子が逃げ出した理由が本気で分かっていないようで首をかしげている。

 

「まあ、そういう訳で虎をアル中の部屋に拘束してある訳だが……」

 

「お、おい! 危ないぞ!」

 

「大丈夫だ。そろそろ……ほら見ろ、虎は立派な繭を作っている」

 

「何でだぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「決まっているだろう。幼虫が成虫になる様に、虎がサナギになったのだ」

 

「虫かぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

やけに部屋が静かだと思っていたら、先程俺を襲おうとした悪魔の様な面をした凶暴な虎が、何故かモスラの如く巨大な繭を作っていた。すると、間も無くしてチーンと言う音が繭から聞こえてきた。

 

「おっ、鳴ったな。成虫になったようだ」

 

「電子レンジかぁああああああああああああああああああああッ!!」

 

想定外の事態の連続に、俺の精神はもはや色んな意味でついて行けない。しかし、バーサーカーが作りだしたミュータントがどんな生物かを見極めなければ、安心して眠ることは出来ない。

そうこうする内に繭に大きな亀裂が走り、一体どんな恐ろしい生物が出るのかと身構える雁夜だったが、中から出てきたのは俺が想像する様なグロテスクな怪物ではなかった。それどころか――。

 

「ム~ガ~」

 

繭の中から出てきたのは、全体的にぬいぐるみの様な見た目をした、二頭身の虎の様なゆるキャラ的生物だった。

 

「カワイイ……ねえ、バーサーカー。なでなでしていい?」

 

「ああ、存分に撫で回すが良い」

 

「うん……」

 

「ムガ? ガムム。ゴロゴロ……」

 

「……はは、確かに可愛いな」

 

中から出てきたのが想像していた様な怪物では無かった事に、俺は心底ホッとした。虎の様な謎生物は、元となった虎と違って性格も大人しい上に人懐っこいのか、桜ちゃんに頭を撫でられて目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らしている。

 

これなら別に問題はないか……と思ったのも束の間、現実は俺の安堵を嘲笑うかのように、想定外の形で俺の精神に攻撃を仕掛けてきた。

 

「ガムガム」

 

「ムーガ」

 

「ガムムムム」

 

「ム~ガ、ム~~~~ガ」

 

「……えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

何故か、一匹の虎が作った繭の中からゾロゾロと出てくる大量の謎生物。別に怖くはないし、桜ちゃんも心なしか喜んでいるようなのだが、コレだけ大量にいると別の意味で大変である。

 

「ふわぁ~~。もふもふだぁ~~~」

 

「はっはっは。桜が嬉しそうで何よりだ。さあ、皆の者! 朝飯の時間だ!!」

 

「はい」

 

「「「「「「「「「「ム~ガ~!!」」」」」」」」」」

 

「………」

 

「おお……、大神官様ぁ、お気を確かにぃ……」

 

何時の間にかエプロンを着けているバーサーカーに、元気よく答える桜ちゃんと謎生物の大群。想定外の事態の連続によって疲労困憊となり、それどころでは無い俺。

そんな俺に甲斐甲斐しく世話を焼くのは、改造手術によってバーサーカーの忠実な僕と化した大怪人ゾォルケンだけなのは皮肉としか言い様がなかった。

 

 

○○○

 

 

元気よく朝ご飯を食べて、元気よくバーサ-カーことシャドームーンと謎生物(ムガトラと言うらしい)達と遊んだ桜ちゃんは、昼ご飯を食べた後でムガトラ達と一緒にスヤスヤとお昼寝していた。

この間に、シャドームーンと情報交換を行い、今後の方針を決めようと思った俺は、シャドームーンを自室に招いた。

 

「さて、これで漸く話が出来る訳だが……」

 

「うむ、桜には到底聞かせられない内容の話だからな。まず、大神官よ。お前の体内で魔術回路の役割をしていた刻印蟲は、お前が眠っている間に全て改造し、無害な疑似生体魔術回路と化している。ちなみに桜の方は、体内の淫蟲を摘出した後に再生させると言う改造を行った。おっと、桜の名誉の為に何を再生させたかは聞くなよ?」

 

「……ああ、分かった。それと、ジジイは今どうなってるんだ?」

 

「あの時、お前の後ろにいた変態ジジイは分身で、本体が別の場所にある事はこのマイティアイで確認していた。そこで俺はまず本体を『その時、不思議なことが起こった』といった感じで自分の手元に引きずり出し、それを核にして改造手術を施したのだ。つまり、殺されれば普通に死ぬ」

 

「なるほど。でも、そうなると後は臓覗を殺せば、俺が聖杯戦争に参加する理由は無くなるんだが……」

 

「しかし、聖杯戦争に不参加。或いは勝ち残らなかった場合、俺から生命エネルギーを供給されているお前は間違いなく近いうちに死ぬから、結局桜が悲しむ事になるぞ?」

 

「……え?」

 

「体は一通り治したが、削られた寿命までは元に戻っていないからな。そして、サーヴァントである私は大神官から魔力を供給されなければ現界出来ないが、逆に言えば少しでも魔力を貰えば私は現界できる。

そこで私は『エナジーコントロール』のスキルによって自然エネルギーを取り込み、それに大神官から供給される微量の魔力を足す形で現界しているのだが、それと同時に私は自然エネルギーを生命エネルギーに変えてお前に与えているのだ。そして、この循環が切れた場合、お前が遠坂葵とか言う人妻を娶り、桜と凜とか言う娘からお父さんと呼ばれる夢を実現させる事は不可能だろう」

 

「……えッ!?」

 

俺は肛門から魂が出てくるほど仰天した! 何故なら自分の秘中の秘と言える願望を、昨日召喚したばかりのサーヴァントにあっさりと暴露されたからだ!

 

「理由は簡単だ。大神官であるお前が私の生前の歴史を見ることが出来る様に、私もまたお前の歴史を見る事が出来るのだ」

 

「そ、そそそ、そう……なのか……」

 

「そして、遠坂時臣とか言う恋敵に関してだが、少なくともお前が憎しみのままに時臣を殺す展開は非常に不味い。妻が夫を殺した相手に憎しみを抱くのは明白だからな。

幸いな事に時臣が聖杯戦争の参加者ならば、我々と相手を除いて他に5組も居るのだから、その5組のどれかに時臣を殺して貰った後にソイツを我々が殺す『敵討ち』の形に持ち込めば、未亡人となった葵を慰める感じで上手いこと寝取る事も可能だろう」

 

「………」

 

思いの外、シャドームーンは俺に協力的だった。しかも、具体的に人妻である葵さんをモノにする算段を考えていて、本当にコイツがバーサーカーなのか疑いたくなる。

 

「なあ、シャドームーン。何でそんなに俺に協力的なんだ?」

 

「生前は私もお前の様に、醜悪な大人の欲望に利用される幼女を助けた事があってな。だからお前の願いが決して他人事の様には思えなかったのだ。そこで私は召喚されそうになっていた黒い鎧を着たロボなすびを後ろから突き刺し、焼きなすにしてからお前の召喚に応じたのだ」

 

「………」

 

そのロボなすびって、もしかしてサー・ランスロットか? 

 

まあ、サー・ランスロットがバーサーカーとして召喚されていたら、俺も桜ちゃんもこんな風にはならなかっただろうから、ある意味助かったと言えるだろう。

 

「まあ、個人的には寝取りは気にくわないのだが、聖杯戦争では多かれ少なかれ死人が出るのは必然だからな。葵とやらが未亡人になる可能性もゼロではあるまいよ。そして、お前としては時臣には可能な限り苦しんで貰いたいと言うのが本心なのだろう?」

 

「ま、まあな……」

 

「そこでだ。私に良い考えがある」

 

シャドームーンの邪悪な笑み(多分)を浮かべながら、自信満々に右手の親指を立てるその姿に、俺は何故か猛烈な不安を覚えていた。

 

 

○○○

 

 

アーチャーとアサシンが遠坂邸で戦闘とも言えぬ一方的な戦闘を行い、アーチャーのマスターである遠坂時臣が一息ついた直後、遠坂邸の結界を破って大量の蟲が津波の様に押し寄せる悪夢のような光景が時臣の眼前に広がり、その首謀者は時臣の全く知らない姿で時臣を睨んでいた。

 

「間桐臓覗!? その姿は……いや、何故此処に!?」

 

「フォッフォッフォ……何、儂も此度の聖杯戦争に参加させて貰うのじゃよ」

 

笑いながら遠坂邸を襲撃する目的を語る臓覗だが、その右手に令呪は無いし、それ以外の体の何処にも令呪らしきモノは見当たらない。

つまり、サーヴァントのマスターではなく、今回の聖杯戦争に参加する間桐雁夜の協力者として参戦すると言う事だろうが、間桐の当主自らが敵陣に単身で飛び込むとは如何なる作戦なのか? その理由を考える時臣の体に緊張が走った。

 

「しかし、お主には感謝しても感謝しきれぬわ。お主の娘は間桐の胎盤として、実に優れた才能の持ち主じゃったからのぉ……」

 

「? 間桐の胎盤?」

 

「何じゃ、知らなかったのか? 儂が桜をお主から引き取ったのはな、桜に間桐の跡継ぎを産ませ、優れた間桐の魔術師を作る為だったんじゃよ。桜を儂の可愛い蟲達に犯させ、その体を改造する事でのぉ!」

 

「な……ッ!」

 

「桜が間桐の家に来た最初の三日は助けを求めて泣き叫んでおったが、四日目にもなれば大層大人しくなりおったわ。この間なんぞ、朝から半日以上頭の先からつま先まで蟲共に犯されておったのじゃが、ずっと意識を保っておった。まあ、心が壊れようとも体が無事なら儂はそれで良いのじゃがなぁ」

 

「臓覗……ッ!!」

 

「くかかかか。人を顧みぬ魔導の世界にドップリ浸かったお主も、流石に自分の娘は可愛いか? しかし、もう何もかも手遅れじゃ。まあ、安易に儂のような化物を信用したお主が間抜けだったと言う話じゃな。

所で……儂も何も手札が無い状態で此処に来た訳では無い。こうした局面の為にとっておいた、秘蔵の品を使うとしよう」

 

時臣を心底馬鹿にした様な笑顔で、臓覗はどこからともなく男性器の様な形をした、オゾマシイ見た目の蟲を取り出し、それを時臣に対してこれ見よがしに見せつけた。

 

「この淫蟲はなぁ、桜の純潔を最初に奪った蟲なのじゃ。一年に渡って桜のエキスを吸い続けたこの淫蟲には、桜の極上の魔力が宿っておるのよ。んふぅううううううううううう!!」

 

そして、手にした淫蟲をジュルジュルと音を立てて吸い込み、喉を鳴らして飲み込む臓覗。すると、その異形の体から無数の血管が浮き出し、その目は血に飢えた獣の様に血走っている。

 

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 桜のピッチピチの処女魔力は最高じゃあああああああああああああ!! まるで身体の奥から若さが溢れ出すようじゃぁあああああああああああああああ!! んほぉおおおおおおおお堪らんのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「……令呪を以って命ずる」

 

「さあ、イクぞ小僧ッ!! お主が儂に与えた桜の才能の素晴らしさを、お主はその身を以って知る事になるのじゃぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「王の中の王。英雄王ギルガメッシュよ。その力を以って、敵を殲滅せよッ!!」

 

数分後、遠坂邸は先程のアサシンの戦いとは比べ物にならない程に破壊され、大挙していた蟲達もまたこの世から姿を消した。

 

それと同時に、人外となって500年の時を生きた魔術師は、今までに自分が他人にやってきた事を返される形で、その生涯の幕を閉じた。




キャラクタァ~紹介&解説

創世王シャドームーン
 バーサーカークラスで召還されたバッタ怪人。弱点はロリで原動力もロリ。バーサーカーとして召喚されたせいで、心の闇から生まれた「俺の中の俺」と言える存在の魂が「狂化」のスキルと共に付加・還元されてしまい、何か色々とバグってしまった。人格を統合してしまった『百貌のハサン』は、多分こんな感じになる……訳無いか。

間桐雁夜
 みんな大好き雁夜おじさん。シャドームーンによって何時の間にか改造手術を施されて大神官になるわ、心の内に秘めた欲望を看破されるわと、ツッコミ役兼苦労人ポジのマスター。ボドボドだった体は治ったけれど、どうしても人並みの寿命を得る必要があるので、聖杯戦争を続行する事に。

間桐桜
 バーサーカー陣営のキーパーソンと言えるロリ。生前のバーサーカーは悪党に利用されていた角の生えたロリにミュータントな虎と触れ合わせて精神的な治療を施した経験がある為、桜に対しても同じように対処しようとしていた。ちなみに、桜はミュータントな虎に関しては「生きたぬいぐるみ」位に考えている。

間桐臓覗
 大怪人に改造された挙げ句、脳改造を施された事で下僕に成り下がった変態妖怪ジジイ。ドジっ子スキルを持つ顎髭おじさんと戦わせられた結果、予定調和と言わんばかりにAUOにぬっ殺された。前書きにも書いたとおり、本来ならシンさんの即死技である『脊髄引っこ抜き』で死ぬ予定だった。
 念願の聖杯戦争に参加できて、彼はさぞ幸せな最期を遂げた事だろうが、チ○コ蟲を飲み込む様はとてもオゾマシイ絵面だったことは間違いない。変態ジジイのフ○ラ顔なんて、一体誰が得するって言うんだ。

ムガトラ
 シャドームーンが造り出したミュータント。生前に強力なトラの怪人を作り出すつもりが、何故か二頭身でプリチーな見た目をした謎生物が生まれ、保護したロリが大分可愛がっていたのを思い出し、この世界では桜の為に狙って造りだした。人語を解する高い知能を持ち、次第に語尾に「ムガ」とつけて人語を話す事も出来るようになる。
 元ネタは『ダイナマ伊藤!』に登場する「ムガトラ」。元ネタでは、通常種の他に「モコモコタイガー」、「ほろ酔いタイガー」、「大人タイガー」等、ポケモンのイーブィみたいに変種と言える個体が多数存在する。



創世王シャドームーン(仮称)

マスター:間桐雁夜
クラス:バーサーカー

ステータス
筋力:A
耐久:A
敏捷:B
魔力:なし
幸運:E
宝具:EX

ランク別スキル:狂化(EX)
 狂化と書いてリヨ化と読む。言葉による意思疎通は出来るし、基本的には温厚。但し、マスターに良かれと思って色々勝手に行動するし、ロリに手を出した瞬間ムッコロと化して襲いかかる。青髯の旦那は今すぐ自害した方が良いだろう。

固有スキル:改造手術(A+)
 人体理解や外科手術などの複合スキルで、あらゆる生物を意のままに改造する事が出来る。治療にも応用できるが、あくまで改造なので『治す』ではなく『改造す』になるのがネック。もっとも、桜の場合は変態ジジイに色々と改造されていたので、元に戻す改造で何とかなっている。

固有スキル:エナジーコントロール(EX)
 自然界のあらゆるエネルギーを意のままに操るスキル。このスキルによって雁夜おじさんの少ない魔力でもシャドームーンは十全に活動し、死にかけている雁夜おじさんを生き存えさせる事も出来る。そして、この能力にはまだ出来る事があって……。

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