魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/05 Erster Kampf

ヴィーザルのフィッティングから2日程。

俺達は今、ヴァイスが操縦するヘリに乗ってある場所へ向かっていた。

 

「ほな、ブリーフィングを始めるで?」

 

スターズ、ライトニングの面々が座る中、八神が立ちながら投影された画面を見て説明を始める。

 

「以前話した通り、うちらの追ってる案件……レリックについてなんやけど、ガジェットドローンを使ってそれらを集めようとしている犯人として上がったのがこの画像の人、広域次元手配犯ジェイル・スカリエッティ。今後は彼が犯人だと仮定して捜査を進めてくつもりや。捜査の担当はフェイトちゃん。おねがいな?」

 

「うん、任せて」

 

ジェイル・スカリエッティ、ねぇ……。

画面に映った紫の髪に不気味な黄色の瞳の男を眺める。

隔離街の連中……その中でもとりわけ頭のイカれた科学者と似たような目をしている。

まあ管理局に目を付けられてる時点で相当なヤツなんだろう。

そんな風に考えていると画面が切り替わった。

 

「そんで今日行くとこなんやけど……名前はホテル・アグスタ。目的はそこで行われるオークションの警備や」

 

「オークションの内容は管理局の認可を受けたロストロギアとかも出るから、それをレリックと勘違いしてガジェットが現れる可能性を考えて、今回主催者から私たちに白羽の矢が立ったってわけ」

 

八神の説明に高町が補足を入れる。

なるほど、つまりは護衛か。守りはどうも性に合わないが、仕方ないか。

 

「昨日から先に着いたシグナムとヴィータが施設警備にあたってくれとる。現場の総合指揮はシャマル。前線指揮はその二人が。スターズとライトニングの皆はそれぞれ副隊長の指示に従うようにな?」

 

『はい!』

 

「俺はどうする?」

 

「クレンはホテルの裏手側の警備や。指揮はウチが直接執るから、よろしくな?」

 

「総隊長直々かよ……」

 

そうだろうとは思っていたから、そこまで驚きはしなかったが。

確かに、俺の力……というかポテンシャルは複数人が入り乱れる前線には投入しづらいだろう。

下手すりゃフレンドリーファイヤを連発しかねない。

だったら裏手に回って単独行動のほうがこちらも動きやすい。

 

「クレンの能力上、味方を巻き込みかねへんからなぁ。それに単独のが動きやすいやろ?」

 

「よくご存知で」

 

「ただ状況によっては前線投入も考えられるから、よろしくな」

 

「了解だ」

 

まあ、こいつの指揮がどんなもんか知る良い機会にもなるだろ。

話を終えて、俺は目を瞑る。

到着まであと一時間。少しは眠れるだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、こいつはどういうこった?」

 

ホテル到着から暫くして、ロビーに呼ばれた俺を待っていたのは見てからに高そうなドレスを纏った隊長陣三人だった。

 

「ふふん、どや?似合っとるやろ?」

 

代表してか八神がどや顔でそう聞いてくる。

 

「高町とハラオウンは似合ってるな」

 

「ちょっと!?」

 

「「あ、あはは……」」

 

いきなり呼びつけたかと思ったらこれだよ……。

ホントに総隊長かコイツ?……いや、こういう人柄だから出来るのかもな。

 

「んで?態々呼びつけて服の感想だけ聞きたかったのか?本題は?」

 

「…………」

 

「おい」

 

「あはは冗談や冗談!ちゃんと話あるって」

 

「てめぇ……」

 

前言撤回、こいつやっぱ腹立つわ。

若干の苛立ちを何とか抑えて、肩の力を抜く。

意識を切り替えてから再度問い直す。

 

「それで、本題は?」

 

「……一つは念押しや」

 

「はあ……分かってる、全力は出さねぇよ」

 

恐らく聖遺物の影響だろうが、俺の身体には八神たちがしているような能力リミッターが掛からない。

その代わりにヴィーザルにリミッターを掛け、それをボーダーラインとして負荷がかからない程度までしか力を出さない。

それがフィッティングの後に八神から告げられた契約だ。

当然な話だが、聖遺物の解放も厳禁だ。ガジェット相手じゃ過剰火力も甚だしい。

もし解放するなら八神に申請を通さないといけない。面倒ではあるが、リスクを最小限に抑える以上、仕方ない。

 

「もう一つは?」

 

「ん……初任務、がんばってな!」

 

「…………」

 

何を言われるかと思ったら、飛んできたのは激励だった。

久しく聞くことの無かったその言葉に一瞬、息が詰まる。

 

「ちょっと、無言は寂しいなぁ」

 

「あ、あぁ、悪い。言われ慣れてなくてな」

 

動揺した心を落ち着かせて苦笑する。

 

「ほんまに大丈夫?変に緊張しとらん?」

 

「心配しすぎだ……ったく、『シスター』に会ったみたいだ」

 

あの人とは性格も何も違うのに、何故かそう感じてしまう。

銀の髪に、金の瞳、いつも身体中に包帯を巻いた、あの人を。

 

「誰なん?」

 

「……何でもねぇ。そろそろ時間だ、持ち場に戻る」

 

「あ、ちょ──」

 

妙な居心地の悪さを感じて、踵を返す。

これ以上居ると、ボロが出てしまいそうだしな。

 

「仕事はちゃんとやる。任せろ」

 

引き止めの言葉を遮って、振り向かずにそう言って距離を離す。

ああそうだ、言い忘れてた。

 

「ああ、言い忘れてた」

 

「?」

 

「俺は服の事はよく分からねぇけど……それ、似合ってると思うぞ」

 

「んなっ……!」

 

よし、言うもんは言った。さっさと持ち場に行こう。

変な気恥ずかしさ的なアレは無視だ無視。

 

Sind Sie durch irgendeinen Zufall in Verlegenheit?(もしかして恥ずかしいのですか?)

 

「……うっせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル・アグスタの裏側。

ここが俺の持ち場だ。万年日陰らしい、湿った空気が頬を撫でる。

目と鼻の先にある柵を越えれば、その向こうには鬱蒼と繁る森と遠くに見える山嶺。

なるほど、たしかに景観の良さはある。

 

「────」

 

そんな風景を眺めながら、銀色のカバーが掛けられた配水管に腰かけて、隠し持っていた煙草をふかす。

背中を預けた給水塔の冷たさが心地いい。

 

Kein Rauchen in der Halle(場内は禁煙ですよ)

 

「一本だけだ。すぐに消す」

 

ヴィーザルからの注意をそう適当に誤魔化して煙を吐く。

漂う紫煙はそよ風に消えて、安物らしい雑な風味だけが口に残る。

作戦自体はすでに開始しているが、今のところ動きが無いためこうして暇を潰している。

当然な話だが、別に何もしていないわけじゃない。

 

「変化無し、か」

 

ジャラジャラと音を立てて銀鎖が巻き戻り、その蛇のようなチェーンヘッドを袖口に引っ込める。

先ほどからこんな感じで魔法を使ってチェーンヘッドに俺の視覚を共有させて周辺を走査している。

まあ反応は無いのだが。

 

「しかしまあ……俺が管理局に属すとはなぁ」

 

再度煙を吐いて空を眺める。

白い雲がちらほら漂うだけの青空が頭上に広がっていた。

隔離街に居たころはただ疎ましいと思っていた光景だが、何故か今は違って見えた。

ただ、それでも。

 

「……消えないか」

 

この胸の……いや、魂の渇きは癒えない。

隔離街の外に出ても変わらず、俺の中の渇きはまるで餓えのように疼いている。

十字架を手に入れて以来、むしろ以前よりも増している。

 

──不条の理を砕け。

 

──理不尽など許さぬ。

 

──報いを。絶対なる報復を。

 

明確な相手の居ない、燃え盛る復讐心。

果たしてそれが俺の心に起因するものか、あるいは──。

 

別の誰かか(・・・・・)

 

Was ist los?(どうかしましたか?)

 

「いや、何でもない」

 

突拍子もないことを考えついて、頭を振ってかき消す。

我ながらおかしな事を思い付く。

 

『この渇望が誰かに植え付けられたモノかもしれない』

 

なんて、幾らなんでも飛躍しすぎだ。

安物の煙草で変な方向に頭が飛んだんじゃないか?

中程まで残っている煙草を握り潰して、深呼吸する。

多少湿気ってはいるが、清涼な空気が喉を通る感覚に意識がすっと切り替わる。

 

「ったく、無い頭を回したって意味ねぇだろうが──っ?」

 

自戒するように愚痴を吐いたところで、俺の耳が『音』を捉えた。

同時に、慌ただしい様子のシャマルから通信が入る。

 

【クレン君、聞こえる?】

 

「ああ、聞こえてる。来たんだろ?ガジェット」

 

【え、ええそうなの。ホテルを全周囲を囲うように──ってどうしてわかったの!?】

 

「どうやら耳もやけに良くなったらしいからな。それで?俺はどうする?」

 

俺を動かすかどうかは八神の管理だ。俺やシャマルの一念で動けない以上、八神にどうするか聞くしかない。

シャマルが一度通信を切ると、今度は八神から通信が入る。

 

【話はシャマルから聞いたよ。完全に囲まれとるみたいやね】

 

「ああ。数もそこそこって所か。やおら五月蝿くなってきたな」

 

【一番数の多いホテル正面はスターズとライトニングが担当。左右側面をザフィーラに任せる。後方は……クレン、やってくれるか?】

 

「──了解(ヤー)。やってやるさ」

 

俺が答えるとヴィーザルがリミッターの解除が完了したと伝えてきた。

 

【正面に比べて少ないとはいえ、それでも相当な数や……気をつけてな】

 

最後にそう言い残して八神からの通信が切れる。

全く、心配性が過ぎるな。

 

「ま、言われた以上、期待には答えないとな。ヴィーザル」

 

Jawohl(了解)

 

バリアジャケット展開。

ヴィーザル、戦闘モード起動。

認識可能領域内で確認できた敵性体数37。

ホテルとの相対距離残り10.1km。

オープンチャンネルになった通信からはシャマルやシグナム達の声が慌ただしく流れている。

どうやら向こうは始まっているようだ。

 

「ま、こっちも騒がしくなるかもな」

 

Gehen wir mit dem ersten(初陣と行きましょう)

 

「フ……だな」

 

俺もヴィーザルもこれが初仕事だ。敵には悪いが俺たちの試金石になって貰うとしようか。

さあて、行くか──!

 

 

 

 

 

「こちらファントム0、クレン・フォールティア。出るぞ!」

 

 

 




復讐の知能、人間が今までに一番頭をはたらかしたのは、この部分である。


──フリードリヒ・ニーチェ

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