魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/07 Aber ich

「アンデットにスカリエッティ本人からの接触、かあ……」

 

「アンデット……いえ、遺体の胴体にもスカリエッティの名が印字されていましたので彼の言っていた事は確かかと」

 

「早い段階で犯人が確定したのを喜ぶべきか、はたまたキナ臭くなったのを悲しむべきか……」

 

午前の日差しが差し込む部隊長室ではやては額を抑えて天井を仰ぐ。

それを見てグリフィスは滲み出る彼女の苦労を推し量り同情の念を抱いた。

 

ホテル・アグスタ防衛戦から一日が経った。

後処理も一段落着き、六課はいつもの穏やかさに戻っていた。

しかしそれは表の事。裏では防衛戦でクレンが接触したという本件の首謀者と疑われているジェイル・スカリエッティの調査で持ちきりだ。

ここに来て本人自らが接触、しかもクレンの報告によれば彼と同じ、或いは類似する力を持っていると言うではないか。

そんなこんなでスカリエッティの経歴や現在の行方の調査が諜報部で忙しなく行われている。

 

「リイン、諜報部からの報告は?」

 

「まだ上がって来てないです。ただ代わりに一言だけ」

 

「ん?」

 

「支援者が居るのは確実、だそうです」

 

「せやろなぁ」

 

ホテル・アグスタに出現したガジェットの総数は90。

大半はクレンが撃破したようなモノだが、それにしても個人で用意するには些か多すぎる。

AMFや程度こそ低いが自立型のAIを搭載した機体をまるで湯水のように湧かせてみせたということは、それをして余りある資金があるからこそ。

支援者が居ると考えて当然だ。

 

「引き続き調査をするよう伝えといて」

 

「はいです!」

 

「では、僕はこれからミーティングがあるのでこれで」

 

「ん、よろしくな」

 

グリフィスが部隊長室を去り、リインが端末に集中し始めた所ではやては小さく息を吐く。

事態が発展したかと思えば、出て来たのは新たな謎。

さらに言えばクレンと同じ、『聖遺物』使いかもしれないとなれば頭痛もすると言うもの。

溜め息の一つくらいは許して欲しい。

 

そう思いながらはやては振り返って窓を見やる。

窓の外はいっそ小憎たらしいほど晴れた晴天だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランスターの様子がおかしい?」

 

「いや、おかしいって程じゃないんだがな……」

 

ホテル・アグスタ防衛戦の翌日、午前の訓練前に寄ったヘリの駐機場で煙草を吸いながら俺はヴァイスの話を聞いていた。

 

「あの子が誤射しかけたって話は聞いてるか?」

 

「ああ、エリオから聞いた」

 

駐機所の壁に背中を預けた俺の隣にヴァイスが缶コーヒーを片手にやってくる。

そのまま俺と同じく壁に背中を預けて缶コーヒーを一口呷る。

 

「ふう…昨日帰ってきて直ぐに自主練やってたんだよ、四時間も。目端に入って気に掛かって見てたら夕方から夜までみっちりだ」

 

「そりゃまた随分な気の入りようだな」

 

「だろ?しかも休憩無しと来ちゃ流石に黙ってられなくてな。それとなく注意してみたんだが、聞く耳持ちゃしなかったんだわ」

 

「ふぅん……」

 

煙草を一息吸い、空に向かって吐き出す。

安物らしい味の薄い煙が薄らいで消えていく。

その様を眺めて思い出すのは昨日のランスターとの問答だ。

『才能とは何か』……まるでその言葉を恨むようなアイツのあの問いは何だったのか。

いや、恨むというのは少し違うな。言うなれば焦燥、か。

 

「焦ってるんじゃないか?」

 

「焦ってる?」

 

「ああ。どうしてそうなのかは分からないがな」

 

「まあ言われてみりゃ確かに焦ってるみたいだったな……」

 

缶コーヒーを飲み干してヴァイスはわざとらしく息を吐き出すと唐突に肩を組んできた。

 

「何だよ」

 

「そんじゃま、あの子が無茶しないよう見張りますか」

 

「どうしてそうなる、ってか俺もやんのか!?」

 

「そこはほら、年長者としてな?」

 

「いや俺も訓練とかあるんだが……」

 

「え?訓練いんの?お前が?」

 

「はっ倒すぞこの三枚目」

 

この野郎、人の気も知らずにズケズケと……。

しかしランスターのことも気掛かりなのは事実だ。あんな事を言った手前、それで無茶されたらたまったもんじゃないしな。

そこら辺を見透かしてこいつは俺を誘ったんだろう。

 

「はぁ……わかった、何も予定入ってない時は付き合ってやるよ」

 

「よっし、言質確保!これで共犯だな」

 

そう言った後ヴァイスは急に小声になると、

 

「……訓練の時もそれとなく目を配ってやってくれ。なのはちゃんも分かっちゃいるだろうが、最近余裕無さげだしな」

 

「……了解」

 

いきなり押し付けられた役目に心底辟易としながらもそれを了承する。

それを聞いたヴァイスが組んでいた腕を離すのと、ヴィーザルが訓練の時間を知らせるのは同時だった。

 

Es ist fast Zeit, Herr(そろそろ時間です、主)

 

「ああ」

 

「お、もうそんな時間か。そんじゃ頼んだぜクレン」

 

「はいはい、わかったっての」

 

煙草を握り潰して携帯灰皿に突っ込んで、見送りがてら念押ししてくるヴァイスに軽く手を振って俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、いざ訓練の時間となったワケだが。

 

(あー……確かに無茶な挙動が多いわ)

 

高町による連携訓練を、ビル群になったシミュレーターフィールドで眺めているとヴァイスの言っていた通り、無茶な動きが以前より増していた。

しかもナカジマのヤツも一緒になってやっていやがる。

とは言っても高町が注意すればすぐに止めているので、特に問題は無さそうだ。

 

「ほい、俺の勝ち」

 

「あっ……参りました」

 

パチリと小気味良い音をならして白が黒に変わる。

今やっているのは八神が暇な時にと渡してきた『オセロ』なるボードゲームだ。対戦相手はエリオ。

この手のモノはやったことが無かったが、これが意外にも面白いもんで先程からエリオと対局していたのだ。

というのも、コイツらの保護者たるハラオウンに頼まれたからだが。

 

「エリオは直線的過ぎるな。序盤の勢いは良いが、後半の組み立てが疎かになりがちだ」

 

「確かに、後半はどこに石を置こうか分からなくなっちゃいました」

 

「とは言え、序盤の組み立ては凄かったな。危うく負けそうだったし」

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ。こりゃ直ぐに抜かれるかもな」

 

褒めて頭を撫でるとエリオは照れくさそうに笑った。

懐かしいな、こういうの。シスターの所居た時は毎日こんな感じだったなぁ……。

 

「次はキャロがやってみるか?」

 

「え?いいんですか?」

 

「構わねぇさ。それにやりたくてウズウズしてたろ?」

 

「あぅ……」

 

盤に所狭しと置かれた石を片付けて再度セッティングしてキャロを誘う。

エリオが退いた場所に図星を突かれて顔を赤くしたキャロが座る。

 

「ルールはさっき教えたし、エリオのを見たからもう分かるよな?」

 

「は、はい、大丈夫です」

 

「よし、じゃあ先攻か後攻選んでいいぞ」

 

「じゃあ……後攻で」

 

「了解、そんじゃ始めっか」

 

そうして俺は再び黒の石を盤に置いた。

 

 

──凡そ20分後。

 

「参りました……」

 

「ふぃ~……何とか勝ったわ」

 

ゲームは俺の勝利となったが、辛勝と言うべきだろう。

流石、ポジションオールバック。盤面の見方が広い。

今回が初めてだってのにストーナーだの偶数理論狙って使って来やがったぞ……。

 

「すげぇなキャロ、負けるかと思ったわ」

 

「そ、そうですか?」

 

「うんうん、凄かったよキャロ!」

 

支援系魔導士なだけあって、先読みには目を見張るものがある。

常に相手の先を読むような動きで的確にこちらの手を潰してくる。

いやはや、これは将来有望だな。

 

「エリオ、その辺にしとけ」

 

「え?」

 

「キャロが茹でタコになっちまう」

 

見れば俺が考えている間にもエリオが褒めに褒めるものだからキャロが恥ずかしがって顔を真っ赤にしていた。

 

「わぁ!?ご、ごめん!」

 

「あぅ~~」

 

「ダメだこりゃ」

 

「キュルゥ……」

 

完全にショートしてら……。傍らに立つフリードも首を横に振った。

と、そんなやりとりをしていると高町から映像通信が入った。

 

【エリオ、キャロ、そろそろ出番だから準備……どうしたの?】

 

うん、まあその反応だよな。

 

「エリオがキャロをたらしこんだもんでな、今キャロはオーバーヒートだ」

 

【えぇ……ってオセロしてたの?】

 

「ああ、ハラオウンに頼まれてな。何でも『二人の戦術眼を確かめるのにうってつけ!』なんて言われてな」

 

【にゃはは、フェイトちゃんらしいや。それで、クレン君から見て二人はどう?】

 

俺から見て、か……。

考えて、先程得た所感をそのまま伝える事にした。

 

「──ってとこだな」

 

【成る程ね……フェイトちゃんの言うとおり、戦術眼を確かめるのにはうってつけかも】

 

「?」

 

【ねぇクレン君、今からティアナとスバルが休憩入るから、休みがてらオセロやって貰ってもいいかな?】

 

「あ?……あー、別に構わねぇけど」

 

二人の様子見ろってヴァイスにも言われてるし、丁度いいっちゃいいか。

どうせ俺の訓練は午後だし、暇潰しがてらやるのも悪くない。

 

【うん、ありがと。それじゃあよろしくね?】

 

「そういうこった、エリオ、キャロ、フリード。行ってきな」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

通信が終わり、二人に高町の所へ行くよう催促すると、エリオはフリードを連れ未だにオーバーヒート中のキャロをお姫様抱っこで抱えてビルの屋上から飛び降りて行った……。

……ありゃまたオーバーヒートすんな、絶対。

三度目となる盤の整理をしてから、ふと空を見上げる。

雲がちらほらあるが、それでも快晴と言えるくらいには晴れ渡った青い、青い空。

かつて疎ましいとすら思っていたそれを、今は美しいとさえ思える。

 

「……」

 

穏やかな陽光に右手を翳す。

思い返すのはあの男──スカリエッティだ。

ヤツと対峙してわかった事がある。それは……今のままじゃ俺はヤツに『届かない』という事だ。

力?技量?違う。もっと単純に、生物としての『位』に圧倒的な差があるのだ。

聖遺物によって人外の膂力を持った俺の一撃を容易く受け止め、傷の一つさえ無かった。

きっとあのまま戦いを続けたのなら俺は間違いなく死んでいただろう。それくらいには差があった。

 

「……肚を括るしかねぇか」

 

目には目を、歯には歯を。

ヤツが聖遺物持ちであれそうで無かれ、あの『位』に到達しない限り戦う事すら儘ならないだろう。その先にあるのは死だけだ。

ならばどうにかしてヤツの『位』に至らなければ……具体的な方法は分からないが。

それでもやらなければならないだろう。

無為に死を待つよりも、足掻いて死んだ方がマシと言うものだ。

 

「後で八神にも聞いてみるか……」

 

とは言え今の俺は嘱託魔導士の身。個人で好き勝手出来ないのも事実なワケで。

何はともあれ相談くらいはしておかないと後が恐い。あれで八神は怒ると恐いからなぁ……。

 

「あ、クレン居た!」

 

「ホントにオセロやってたのね……」

 

そうこうしてる内にナカジマとランスターが騒がしくやって来た。

俺は思考の海から意識を引き戻して振り返る。

 

「よお、やんちゃコンビ」

 

「やんちゃなのはスバルだけよ、一緒にしないで」

 

「えぇ~!?」

 

「まあ座れよ、高町直々のお願いだ。どっちからやる?」

 

そう誘って、結局俺はナカジマ、ティアナを相手に小一時間オセロをするのだった。

……流石に、頭が痛いわ。

 

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