魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
橙と青の光の筋が音を伴って初夏の空を切り裂く。
それを悠々と、まるで舞うように桃色の羽根が軌跡を描いて避けている。
模擬戦の始まりは緩やかだった。
ナカジマの出す魔力の足場──ウイングロードが空中に張り巡らされ、それを足場にランスターが援護射撃、ナカジマが前衛というこれまでのセオリー通りの動きだ。
とはいえ、それもこれまでの訓練や自主トレもあってか、精度が上がっているのが目に見えて分かる。
「へぇ、ちっとは出来るようになってるじゃねえか。お、クロスシフト」
隣で空中投影された中継を眺めてヴィータが鼻を鳴らす。
後ろで眺めているエリオ達も驚いているようだ。
遅れて来たハラオウンも映像に見入っている。
ここまでは順当、というかどうかこのまま何事もなく終わって欲しい。
だが、まあ大抵そう思っている時ほど無事に終わる事はないわけで。
模擬戦開始から二分、ランスター達の動きに違和感を感じはじめた。
「……マズイな」
見れば、どう考えてもこれまでの訓練で教わっていた動きから外れ出している。
ランスターの放った中距離誘導射撃魔法《クロスファイヤー》は本来の精度と速度を発揮せず高町を追い、それを挟むようにナカジマがウイングロードを滑走して突撃していく。
案の定、高町の放った魔力弾に迎撃されたが、それでも諦めた様子はない。
(ヴァイス……お前の言った通りになるかも知れねえぞ)
「ティアナが……砲撃……!?」
ハラオウンの驚いた声に、目を向けるとランスターが離れた位置から砲撃魔法用の魔方陣を展開しているのが見えたが……あれはフェイクだ。
感じる魔力の密度が違う。なら本物はおそらく……!
「ぉぉぉぉおりゃああああ!!」
烈帛の咆哮で大気を震わせ、ナカジマが再度高町に突撃する。
高町はそれを防御魔法で防ぐ。当然ながら高町の方が『上』だ。
ナカジマがあの防御魔法を抜けることはない。
だが、狙いはそれじゃない。本当の狙いは足止めだ。
その時、ランスターの幻影が消えた。
「あのバカ野郎……ッ!」
本命はランスターだ。
あのバカ、自分のポジション捨てて近接戦を挑もうとしてやがる。
ランスターの持つクロスミラージュが、その銃口から魔力刃を発生させる。
あれを提案したのは俺だが、元々は前衛が抜かれた時の緊急用だ。
はっきり言って無茶も良いところだ、何よりも
「でぇぇやぁぁぁぁ!!」
ランスターが叫びを上げ、ウイングロードから跳び降りながら高町へ向かって刃を振り下ろす。
「──レイジングハート。モード・リリース」
直前。俺は高町の声を聞いた気がした。
爆発。
吹き荒れた煙が視界を奪う。
そして薄らいでいく煙の中、高町の姿が見えた。
「おかしいな……二人とも、どうしちゃったのかな……?」
中継の映像から高町の声が聞こえる。
しかしその声音は何時もとは違う、なんの感情の起伏もない、平坦な物だった。
煙が完全に晴れ、状況が露になる。
「頑張ってるのは分かるけど模擬戦は喧嘩じゃないんだよ」
高町は無傷……では無かった。
ナカジマの拳とランスターの魔力刃。それぞれを素手で受け止めていた。
魔力刃を『握り止めた』右手から血がウイングロードに滴り落ちる。
「練習の時だけ言うこと聞いてるふりで、本番だけこんな危険な無茶するんなら、練習の意味ないじゃない」
静寂に包まれた空間で、高町のどこか辛そうな声が響く。
「ちゃんとさ……練習通りやろうよ。ねぇ、私の言っていること、私の訓練……そんなに間違ってる……?」
まるで何かを確かめるような問い掛けに、ランスターが出した答えは……銃口を向ける事だった。
魔力刃を解除し、距離を離すとその銃口を高町へと向けた。
そして展開される魔法陣は……砲撃用のものだった。
「もう誰も傷つけたくないから!誰もなくしたくないから! だから強くなりたいんです!」
「ティアナ……?」
錯乱しているのか、ナカジマが居るにも関わらず収束していく魔力。
それを眺めて高町はランスターを指差し──
「少し、頭冷やそうか」
「アアアア!!ファントムブレ──」
「クロスファイヤー。シュート」
魔法を、放った。
先に魔法を装填していたランスターよりも速く、その一撃は寸分違わず直撃する。
「ちっ……」
予想のついた結末に、俺は舌打ちする。
再び高町の手に魔法陣が紡がれる。ナカジマはバインドで拘束され、それを眺めるしかない。
俺もまた、止めようとは思わなかった。
これは、あの二人が選択した結末だ。
高町の教練から外れた事をしたという因果への、報いだ。
そして、第二撃がランスターを撃ち落とした。
「模擬戦はここまで。二人は撃墜されて終了」
高町のその言葉を最後に、ランスター達の模擬戦は終わりをむかえた。
「……で、随分ご機嫌斜めだな」
「…………」
模擬戦からそれなりに時間が経ち、時刻はすでに夜の9時になっていた。
俺は宿舎内にあるトレーニングルームで一人筋トレをしていたナカジマに声を掛けたが、結果はご覧の通り。
──あれから二人は医務室に運ばれ、俺達は予定通り模擬戦を済ませた。
ランスターは撃墜と、これまでの疲労の蓄積もあってそのまま医務室で休まされている。ナカジマの方は軽傷だったので、こうして筋トレをして気を紛らわせている。
「しかしまあ、お前らもとんだ無茶をする。あんなフォーメーション、自主トレでやってなかっただろ」
「……少しずつ、隠れてやってた」
「へぇ……それで結果はアレ、か。良かったな、相手したのが高町で」
「ッ!!」
俺の言葉が癪に障ったのか、ナカジマがキッと睨んでくるが俺にしちゃ怖くも何ともない。
むしろ睨みたいのはこっちだ。
「仮にあれが実戦だったら、お前ら死んでたぞ」
「……そんな、こと」
「俺だったら殺してる。あんな稚拙なフォーメーション、二人まとめて殺してくださいって頼んでるようなもんだぞ」
前衛に囮をさせて後衛が近接戦で一撃必殺なんてのは愚策だ。奇策と言い張れば聞こえはいいが、成功しない奇策なんてのは愚策以下だ。
「……でも、なのはさんなら」
ナカジマが呟いたその言葉に、少しムカついた。
「そうか。テメェ結局、高町にただ甘えてたんだな」
「なっ、そんなこと」
「無いなんて言い切れんのか?教練無視したフォーメーションやっても許される、受け止めて貰えるなんて思ってたんじゃねえか?」
「それ、は……」
「模擬戦だから、大丈夫。『なのはさん』なら大丈夫。許してくれるから大丈夫。そんな考え方してたんじゃないのか」
「……っ」
唇を噛んで拳を握り締めてナカジマは俺を見る。
「それが甘えだってんだよ」
「わたし、は……わたし達は」
「スバル……?」
ナカジマが呆然と呟いた所に、ランスターが現れた。
どうやら医務室から出て来たらしい。
「よお、ランスター」
「アンタ……スバルに何を」
「言いたいこと言っただけだ。それで──」
眦を吊り上げたランスターの言葉を遮ってランスターを見る。
「二回死んだ感想はどうだ?ランスター」
「……模擬戦の事ね」
「ああ」
あの時ランスターは二回、高町のクロスファイヤーをくらっている。それは実際の戦場であれば二度、ランスターはそれに撃ち抜かれ絶命していたということになる。
そんな不躾な俺の問いに、ランスターはナカジマを見やった後に息を吐くように答えた。
「正直、まだ考えがまとまらない。でもアンタの言うとおり、私は二回、スバルは一回、死んだも同然よ」
「こっぴどくやられて少しは冷静になったか」
「少しね……それでアンタ、スバルに何言ったの」
内容によっては許さないと態度で示しながらランスターが睨んでくる。
丁度いいので、こいつにも言っておくか。
「──ってわけだ。ナカジマに向かって言いはしたが、これはお前に対しても言ってる」
「甘え、か……そうかもしれないわね」
「胸を借りるのと、ただそいつの優しさに甘えるじゃ雲泥の差だろ」
「そうね……」
頷いてはいるが、ランスターはまだ心が追い付いていないのか考え込んでしまう。
ナカジマもナカジマで俯いてしまっている……俺がそうさせたんだが。
そこでふと、昨晩の事を思い出す。
「なあ、ランスター。お前この前俺に聞いた事があるよな」
「何を?」
「才能とは何か」
「……確かに聞いたわね」
「あの問いが妙に引っ掛かってな……昨日、高町に同じ事を聞いてみた」
「……え?」
俺の言った事にランスターは目を見開き、ナカジマは俯いていた顔をガバッと上げた。
……食い付いたな。
「アイツに取っての才能は……」
そうして話を始めようとした所で、突然けたたましい音が六課内に響き渡った。
ちっ、間の悪い……。
「これって、緊急出動のアラート!?」
「……はぁ、仕方ねえ。話は後だ、とにかく行くぞ」
頭をガシガシと掻いて二人に呼び掛けると、目付きを変えて頷いてきた。
流石に切り替えは出来てるか。
アラートの中に混じるアナウンスを聞いて俺達は踵を返してヘリポートへと向かった。
「小型の飛行タイプの群体飛行か……」
「うん」
「……どうみても、こっちを試してるよなぁ」
ヘリポートに着いて早々、アラートの原因たる対象の情報を高町から聞いて溜め息を吐く。
場所は六課からかなり離れた海上、小型の飛行タイプガジェットが12機、レリック──六課が追っているロストロギア──の反応も無いのに飛んでいるらしい。
何もない海上で態々同じところをぐるぐる回っているなんて、誘い方が露骨すぎる。
「そんな訳で、今回は空戦になるから行くのは私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」
「みんなはロビーで出動待機ね」
「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ」
高町の言葉尻を継いでハラオウンとヴィータがこちらに声を掛けてくる。
一応俺も空戦は可能だが、八神から『迂闊に君の情報を取らせられない』との事で、俺も居残り組だ。
仕方ないと納得しつつ視線を巡らせていると、高町がランスターをじっと見ているのに気付いた。
「それと……ティアナ」
「はい……?」
「ティアナは出動待機から外れておこうか」
その言葉に、空気が変わった。
これは不味いな……このタイミングで『その言葉は』不味い。
「今日は体調も魔力も調子でないだろうし──」
「高町、ストップだ」
「え?」
言葉を続ける高町にストップを掛ける。
「それとランスター、お前もだ」
「ッ……」
何かしら言おうとしていたランスターにも釘を刺す。
目付きからして反発する気が丸見えだっての。
このまま言いたいように言わせてもお互いに良くは無いだろう。
シグナムに目配せすると、察してくれたのかヘリに乗っているヴァイスに声を掛けた。
「ヴァイス、ヘリは出せるか?」
「皆さんが乗ってくれりゃ直ぐにでも!」
「そういう訳だ高町。さっさと行ってこい、こちらは任せろ」
確認が取れるとシグナムはそう言って高町の肩を叩くとヘリへと促した。
それを見てハラオウンも理解したのか高町の背中を押してヘリに入っていった。
「あー……ホントに大丈夫か?」
「何とかなんだろ」
「テキトーなことすんなよ」
「わかってるっての」
最後に残ったヴィータと軽口を交わして見送ると、三人を乗せたヘリは真暗な海へと飛び立っていった。
ヘリが完全に見えなくなり、ローター音も聞こえなくなって漸く肩の力を抜いた。
「少しは冷静になったんじゃないのか?高町が言っていたことは何も間違っちゃいなかった」
「分かってるわよ……分かってるけど……っ!」
「ティア……」
俯いて肩を震わすランスターにスバルが寄り添う。
[どうするよ、シグナム]
[バカに付ける薬はない]
[バッサリいくなぁ……]
念話でシグナムに意見を求めるも、俺以上にバッサリ切る始末。
今のこいつの状態で『あの話』しても意味ないだろうしな……何かもう一つ欲しい所だが……。
そうしてどうするか考えていると、誰かがヘリポートに繋がる階段を昇ってくる音が聞こえた。
「全くもう、見てらんない。みんな揃って不器用すぎで」
カツカツとヒールで床を叩いて現れたのは──
「みんな、ロビーに来て。私が説明するから。──なのはさんの事と、なのはさんの、教導の意味を」
六課の技術顧問、シャリオだった。
Das Wichtige -2 へ続く