魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/10 Das Wichtige -2

シャーリーに呼ばれてロビーへと移動した俺達は対面式のソファにランスター達を座らせ、シャーリーとシグナム、そして話を聞き付けたシャマルが反対側に腰掛けた。

俺は俺で近くの壁に寄り掛かって話を聞くつもりだ。

暫くの沈黙の後、漸くシャーリーが話を始めた。

 

「昔ね、一人の女の子が居たの。その子は本当に普通の女の子で、魔法なんて知らなかったし、戦いなんてするような子じゃなかった」

 

シャーリーが投影型のキーボードを叩くと、空間投影されたモニターに恐らく小さい頃の高町の姿が映し出された。

 

「友達と一緒に学校へ行って、家族と幸せに暮らして。そういう一生を送るはずの子だった」

 

訥々と語られる、高町の過去。

魔法とは一切関係が無かった九歳の少女が、たった数ヶ月で命掛けの戦いに身を投じた。

俺のように殺し合いが当たり前の世界で生きていた訳でも無いのに、だ。

ハラオウンの実母が犯人だった『プレシア・テスタロッサ事件』、八神やシグナム達が深く関わった『闇の書事件』、そして遥か異世界の者による地球への侵攻と、同じく異世界の者達と共にそれを止めた『フィル・マクスウェル事件』。

何れを取っても下手をすれば星一つが滅びかねないような事件だ。

それらを全て数年の内に経験し、解決に導いた。

当然、未成熟な肉体と精神にそれは過大な負荷を与えるだろう。

それでも高町は止まらなかった。

 

誰かを救うため、自分の思いを通すための無茶を高町は続けた。

 

最早異常とすら思える精神性。

見くびっていた、高町という人間を。

普通だったら折れるだろう、という所で折れず、逃げずに倒れても立ち上がるその姿勢は子供らしからぬ異様さだ。

 

だが、どんなに強靭な肉体や心でも限界がある。

フィル・マクスウェル事件から4ヶ月後、任務先の異世界で再びの重症。

度重なる負荷に肉体が悲鳴を上げ、リンカーコアが損傷。

二度と飛ぶことも歩くことも出来なくなる可能性すらあった。

今こうしてランスター達の教導に当たれているのは、過酷なリハビリを超えたからこその物だった。

 

「なのはさんはさ、皆に自分と同じ思いさせたくないんだよ。だから、皆が無茶しないように……絶対元気に帰って来られるように、ホントに一生懸命考えて丁寧に丁寧に教えてくれてるんだよ……」

 

シャーリーがそう言って話を締めると、場には沈黙が落ちた。

……話すなら、今か。

 

「ランスター」

 

「……?」

 

「さっきの話の続き、聞きたいか?」

 

俺の問いにランスターは暫く俯いた後、小さく頷いた。

シャーリー達も興味があるのか聞く姿勢に入っているが、まあいいだろう。

 

「高町にとって、才能は……環境だ」

 

「環境……?」

 

「ああ。アイツ曰く……どんな人間にも必ず才能(ちから)はある。でも、それを無闇矢鱈に振り回したり、それに傲ってしまっては意味がない。視野を狭めてしまうから」

 

「視野を……狭める」

 

「視野を狭めるってことは自分から選択肢を閉じてしまうって事。自分にはこれしかないと思い込むから。かつての自分がそうだったから」

 

きっと、この話をしていた時、高町は昔を思い出していたんだろう。

今ならそう思える。

 

「そうやって無茶して……振り向いた時に、自分が色んな人に支えられて、心配かけて、応援して貰ってたんだって改めて気付いた。自分はどれだけ恵まれていたのか。どれだけ良い環境にいたのか。それから色んな事を学んで、自分に出来ることを増やしていった」

 

俺とは違う、高町にとっての才能は。

きっと一人で見つけたモノじゃない。

 

「だから、自分は他の皆にもそんな恵まれた場所で、自分の選択肢を広げてもらいたい……だから、自分にとっての才能は環境……だ、そうだ」

 

それが、アイツの答え。

平和な世界のごく普通の少女だった、──高町の想い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

月が照らす夜空に煙を吐き出す。

時刻は夜の22時。

結局あの後は自然と解散となり、エリオとキャロは就寝。

ナカジマは自室に戻り、ランスターは一人になりたいと言って外に出ていった。

俺は俺でこうして初夏の月を眺めながらロビーのすぐ外で煙草をふかしている。

隣の自販機の小さな振動音が耳に響く。

煙草の火を揉み消して携帯灰皿に入れた所で、ロビーの自動扉が開く音が聞こえた。

 

「あれ、クレン君?」

 

「よお、おつかれさん」

 

出てきたのは少し慌てた様子の高町だった。

任務終わりのその足で来たのだろう、多少の疲労が伺える。

その目的は一つだろうことは誰にだってわかる。

その為に態々待ってたしな。

 

「もう、あの時の話みんなにしちゃったでしょ」

 

「間が良かったからな。俺はまだしも、アイツらにはいい薬だろ。どうするかはアイツら次第だがな」

 

あくまで俺はただ忌憚なく話しただけだ。

それをどう捉えるかまでは流石に管轄外。

組んでいた腕をほどいて自販機から適当にコーヒーを『二本』買う。

そしてそのまま高町に投げ渡した。

 

「ほらよ」

 

「え?」

 

「ランスターの所、行くんだろ。アイツならこの先だ」

 

混乱している高町を促して、俺はその背中を押す。

 

「あんまり長話はすんなよ。身体冷えるからな」

 

何か詮索されるのも面倒なので、何か言われる前にロビーの中へ立ち去る。

自動ドアが閉まりきる直前、

 

「ありがとう」

 

なんて聞こえたが、きっと気のせいだろう。

足音が遠ざかり、ロビーの中に入りきった所で、俺は半身身体を反らした。

 

「隙あ……あらぁ!?」

 

「……何やってんだ、お前」

 

手刀でもしようと思っていたのか、空振ってたたらを踏んだ八神を冷たい目で見る。

俺の視線に気付いたのか、八神は気まずそうに頭を掻いた。

 

「何の用だ?つか事後処理はどうした」

 

「そこら辺は今はリインとグリフィス君がやっとる。ウチの出番はまだ後やから、こうして休憩に来たんよ」

 

「休憩と俺に手刀かますのに一体なんの関係が……」

 

「そこにクレンがおったから」

 

「理由になってねぇ……」

 

俺の呆れ顔に「冗談、冗談」とカラカラと笑ってから、窓の外を眺めた。

 

「ありがとうな」

 

「あん?」

 

いきなり何を言い出すんだ?

 

「ティアナ達の事、見守ってくれてたんやろ?」

 

「……ヴァイスに付き合わされてな」

 

「それでも、よ」

 

淡く射し込む月光に照らされて、八神の笑顔がいつもと違って見える。

 

「叱ったんやろ?ティアナ達」

 

「我ながら、らしく無いこと言っただけだ」

 

そう、らしく無い。

かつての俺ならあんな風に言うことなく、ただ無言で切り捨てていただろう。

だが、そうはならなかった……。俺も、少し変わってきているのだろうか。

 

「きっとな。でもそれを悪いとは思ってないんやろ?」

 

「……まあな」

 

確かに変化に対して俺自身、悪感情は無い。

ロクデナシの、人殺し。それは変わらないが、それを含めても俺はこの変化を受け入れている。

だが、変わっていない部分もある。

 

「渇望、やったっけ。確かクレンは──」

 

「復讐」

 

そう、それは……それだけは変わらない。

否、変えられない。

この世のあらゆる理不尽、不条理に対する復讐心。

その由来すら相変わらずわからないままだが、だからと言ってその火が弱まるわけでも、ましてや消えることはない。

 

「馬鹿馬鹿しいって思うか?」

 

少し自嘲混じりに問うと、八神は小さく首を横に振った。

 

「復讐自体は否定せんよ。その理由も、少なからず共感できるし。誰だって理不尽や不条理を押し付けられるんはイヤやからね」

 

驚いた……コイツがこんな事言うとは。

 

「清濁併呑せんと、総部隊長は務まらんのよ」

 

したり顔でニヤリと笑う八神に、俺は苦笑する。

懐が深い、なんてものじゃない。

受け入れてかつそれすら利用するだけの狡猾さがコイツには、有る。

敵に回らなくてつくづく良かった……。

 

「ふふふ、どや?少しは見直した?」

 

「これさえなければなぁ……」

 

「ちょっと!?」

 

まあそれでも、コイツはこうであり続けて欲しい。

六課の面々を思い出して、要らぬ心配だと断じる。

 

「何やその笑い~」

 

「別に。ただお前となら退屈しなさそうだなと思っただけだ」

 

「そら勿論、退屈なんてさせんよ!仕事いっぱいあるから!」

 

「それはそれでどうなんだ……」

 

きっとコイツなら、何があっても皆を引っ張って行けるだろう。

 

と……まったく、らしく無いことを考えながら八神と与太話を続け、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、いつのように駐機場に行くと、ヴァイスともう二人が先に居た。

 

「お、ようクレン」

 

「よお……それで、意外な面子が来てるじゃねえか。どうした?」

 

ヴァイスと軽く挨拶を交わしてからその隣を見る。

来ていたのはランスターとナカジマだった。

二人は少し気まずそうにしてから、ガバッと頭を下げた。

 

「「ありがとうございました!!」」

 

いきなり言われた感謝の言葉に俺とヴァイスは揃って面食らう。

お互いに顔を見合わせるがなんの事かさっぱりわからん。

頭を下げたままの二人に気付き、慌ててヴァイスが声を掛ける。

 

「おいおい、頭を上げてくれ。いきなりお礼言われてこっちもびっくりしてんだ」

 

「あ、言うの忘れちゃってました……てへへ」

 

頭を上げ、誤魔化すように笑いながらナカジマは頭を掻いた。

さっきは突然な事に混乱したが、この二人が揃って来たという事はきっと自主練の事なのだろう。

 

「自主練、ずっと見て貰ったりアドバイス貰ったりしたので……その、ティアと話して二人でお礼をと思いまして。あ、言い出したのはティアなんですけd」

 

「余計な事は言わないでいい!」

 

全部言いかけたナカジマにランスターの拳骨が炸裂するが、止めるのが一足遅かったな。

見ろこのヴァイスのにやけ面。凄まじくイラッとするだろう?

軽く小突いて顔を引き締めさせると、ヴァイスは肩を竦めた。

 

「礼なんていい……って言うところ何だろうけど、お前さん達の熱意とかはちゃんと見てきたしな。きっちり受け取るよ」

 

「柄にもない事に付き合わされたが……まあ、悪い気はしなかったしな」

 

「色々根回ししてtいっでぇ!?」

 

「余計な事は言わんでいい」

 

頭を抱えてヴァイスが悶絶するがそんな事はどうでもいい、重要な事じゃない。

改めてランスターとナカジマの顔を見る。

その目には焦りや迷い何てものは見えず、真っ直ぐだった。

 

「吹っ切れたか」

 

「ええ、お陰さまで」

 

「もう大丈夫!」

 

自信あり、と態度で示すように笑うランスターとナカジマに釣られ俺も笑う。

ああきっとコイツらはもう、大丈夫なんだろう。

 

「ところでお前さん達、そろそろ訓練の時間じゃねえか?」

 

痛みから復帰したヴァイスがそんな事を言い、時計を見やるともう訓練の十分前だった。

 

「「「……やっば」」」

 

「変なとこで息合うな……。あーダッシュで行きゃ間に合うんじゃね?」

 

「シミュレーターまで走り込みだぁぁ!!」

 

言うが早いかナカジマは勢いよく走りだした。いや速っ。

 

「ちょっとスバル待ちなさい!てか速過ぎ!!」

 

「てめえナカジマ、一人先駆けとかやらせねえからな!」

 

「気ぃ付けてけよ~~……ったく、元気だねぇ」

 

遅れて走り出す俺とランスターの背中にヴァイスの気の抜けた声が掛かる。

 

 

 

 

青い空に初夏の日差し。昨日までと少し違う今日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、準備は出来たのかな。賢者さま?」

 

【よしてくれ、僕はそんな柄じゃないよ】

 

淡い照明で照らされた洞窟の奥底。

白衣を着た男、スカリエッティは投影された画面に映る男の謙遜に笑った。

 

「ハハハ、これはまた異なことを。貴方の兵器開発技術はまさに賢者のようではないですか。同じ科学者として尊敬しますよ。おかげでこちらの研究も当初より進みましたから」

 

【それはお互い様だよスカリエッティ君。君との技術交流のおかげでこちらも予定より早く計画を進められた】

 

「ほう?ではもう準備は済んだと」

 

スカリエッティが眉根を上げると、画面の男はさも嬉しそうに笑う。

 

【既にこちらの星の一部を『支配下』に置いた。ついでに目障りな鉄の棺桶もね】

 

「成る程……早ければ明後日にでも彼女達に気づかれるでしょうね」

 

【ちょうどそちらに置いてきた(・・・・・・・・・)ダミーも期限切れになる。招待状としては十分じゃないかな】

 

楽しそうに語り終えた男にスカリエッティは頷く。

 

「十分でしょう。丁度こちらも『門の器』が完成した所です。だが肝心の『精練』がここでは出来かねる……時間が必要だ」

 

【……となると、君は敵に塩を送る(・・・・・・)のかい?】

 

「まさか。子守りを任せるだけですよ、暫くね」

 

言って、スカリエッティは笑う。静かに、狂ったように。

彼のそんな様子を見て男はやれやれと首を振る。

 

【場合によってはその子守りが無駄になるかも知れないよ】

 

「それならそれで構いませんよ。我々の目的はあくまで──」

 

 

 

【「彼の者(・・・)の再誕」】

 

 

【だろう?】

 

スカリエッティと言葉を合わせた男が茶化すように言うと、スカリエッティはにやけた顔を戻そうともせずに首肯した。

 

「然り。その為に我々がそれぞれ計画していますから」

 

【どちらかが失敗してもいいように、ね……さて、情報交換も済んだことだし、僕は失礼するよ。忙しくなるからね】

 

「ええ、ではまた……」

 

プツリと映像が切れ、辺りには静寂が漂う。

耳鳴りがするほど静まり返ったその場所で、スカリエッティは小さく呟いた。

それには確たる恐怖と確たる畏怖。

──そして確たる『狂気』があった。

 

 

 

 

「無機質で広漠な宇宙においては人類の価値観や希望などは何の価値もなく。人はただ盲目的な運命に翻弄されるのみである」

 

 

 

 

 

 


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