魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「次から次へと厄介事たぁ、面倒だな」
クロノ・ハラオウンからの連絡から暫く後。
ミッドチルダの海上上空に俺は居た。
清々しい快晴だ。冷えた風が心地好い。
「それで、俺はこの下のハエども全部壊せば良いんだな?」
【ええ、聖遺物の解放は出来ないけど、貴方の殲滅能力なら問題ないはず。お願いね】
「
指令室のシャーリーと通信を終え、深く息を吐き出す。
事の発端は先にミッド市街地で休暇を楽しんでいたエリオ達が何やらことありげな子供を発見、それを報告したのが始まりだ。同タイミングでレリックらしき反応が地下から検出。
調査のため現場へ急行した高町、ハラオウン、シャマル、リインが子供を保護すると同時、地下と海上に大量のガジェットの反応が発生。
流石に量が量だけに俺も駆り出されたのだ。
しかも俺の足下にはレーダーを埋め尽くす幻影と実体で混成されたガジェットの群れと来た。
「っつーワケだ。行くぞ、ヴィーザル」
《
デバイスを展開。
そのまま自然落下しながら魔法陣を展開。雲を突き抜けると同時に、ヴィーザルの引き金を引いた。
《schwarzer Regen》
瞬間、ヴィーザルの砲口からその名に違わない広範囲に魔力弾の雨が鬱陶しく飛ぶガジェットへと降り注ぎ、破壊していく。
どうやら俺の魔法は単純火力でAMFをぶち抜いてガジェットを破壊出来るようなモノらしく、今の魔法だって対AMF用の魔法を付与した訳でも無いのにこの有り様だ。
「今のでざっと100くらいか?」
《
「おー、結構行ったなぁ」
撃破数を確認してから、先に戦闘していた高町とハラオウンの所へと向かう。
「よお、お二人さん」
「え、クレン君!?」
「どうしてここに?」
「どうしてって、交代しに来たんだが」
八神曰く、本人含めて隊長格の面々はかなりのリミッターを自らに掛け魔導士ランクを下げることで部隊の上限ラインギリギリまで人員を増やしているらしい。
つまり今の高町たちは実力の半分も出しきれていないし、さらに言えばおいそれと殲滅力の高い魔法も行使出来ない状態だ。
そんな状態でこの数を相手取れば時間が掛かりすぎる。
そこで俺の出番と言うわけだ。
俺の魔法はヴィーザルにリミッターを掛けた今でさえあの火力だ。現状の殲滅力なら俺の方が二人より上。
なら俺がここを預り、二人にはランスター達と合流してもらった方が得策だろう。
と言うのが八神の考えだ。
「ここは俺に任せて、お前らはランスター達と合流してくれだとよ」
「大丈夫なの?」
「任せろ。ほらさっさと行ってこい、ついでにヴィータもな」
【了解だ。そんじゃ先行くぞなのは、フェイト】
通信先のヴィータは八神の指令の意図を理解したのか短く答えて通信を切った。
恐らくもう地上に向かっているのだろう。
「そういうワケだ。アイツらに任せたいところだが状況が状況だ。早めに行ってやれ」
「わかった、じゃあお願いするね?」
「おう」
状況を飲み込んだハラオウンの言葉に頷くと、ハラオウンは高町を連れて地上へと飛び立った。
その姿が見えなくなるまで高町はこっちを心配そうに見ていたが、そこまで俺の力量って不安になるか?
《
「そっちかよ……」
まあ気持ちはわからないでもないが、同時にそれは杞憂だろう。
何せただの殲滅だ。ゴミを消し飛ばすのにやりすぎも何もない。
さて、高町たちも戦闘領域から外れた事だし、始めるか。
「ヴィーザル、
《
ガゴン、と俺の言葉に反応して、ヴィーザルの上端装甲がスライドして巨大な空薬莢が排出される。
瞬間、ヴィーザルから爆発的な魔力が溢れ出す。
カートリッジシステム。本来ならベルカ式、限定的にミッドチルダ式にしか使用できない『蓄積魔力装填技術』。
それをシャーリーの方でヴィーザルに組み込んでいたのだ。そしてヴィーザルはヴィーザルでそれを俺の魔法に適応するようにしていた。
これによりヴィーザルの火力は一時的に増加する。
「さて、やるか」
《
ヴィーザルをカノンモードで構えると、足元と砲口に黒い魔法陣が展開され、魔力が収縮を始める。
その間にもガジェットからミサイルが撃ち込まれるが、俺とヴィーザルの頑強性からしてみればダメージにすらならない。
そうこうしている内に砲口側の魔法陣が高速回転を始め、耳鳴りのような音を出す。
《
「feuer」
《schwarzer Blitz》
トリガー。
小さな発射音を立てて砲口からは一筋の黒い光線。
極限まで圧縮された魔法の線はAMFすら容易く切り裂く刃となって射線上のガジェットの躯体を溶断する。
それだけに止まらず黒い光線は戦闘区域の端まで長く延びる。
【なに、これ、ふざけてるの……?砲撃魔法、なの?この射程距離は……】
通信から驚いた様子のシャーリーの声が聞こえるが、敢えて答えずに次の行動に移る。
そう、この魔法は何もただ細い光線を射つだけの侘しい魔法ではない。
じゃなかったら態々カートリッジを使う必要さえない。これの真価はここからだ。
「──weitverstreut」
《Zumutung》
トリガーを再度引く。
雷が、空を引き裂いた。
「は……?」
その光景を見て、口をついて出たのはそんな間抜けな声だった。
状況をモニターしていた指令室の面々は総じて一瞬、呆然としてしまった。
(ヴィーザルにリミッターかけてこの威力……ホント、規格外やなぁ)
そんな中、唯一はやてだけが呆れたような苦笑いを浮かべていた。
空を切り裂くような一条の黒い光線は、一転して『戦場に在るガジェット全てを撃ち抜いた』。幻影、実体を問わず。
クレンが引いた二度目のトリガーが起爆剤となり、光線が分岐したのだ。
……否、枝分かれしたと言うべきか。
それは正しく稲妻のような速度でガジェットに殺到し、一機一機を確実に貫いた。
回避すら許さない、絶対の一撃。
「シャーリー、戦況報告」
「あ……は、はい!戦闘領域内全てのガジェット反応が消滅しました!」
「ん……撃破時の実体と幻影のモーションパターンを解析しといて、それから周辺エリアの反応を調査。クレンにはヘリの護衛に行ってもらおか」
「はい!」
はやての指示に慌ただしく動き出すオペレーター達を見て、隣に立つグリフィスが訊ねた。
「あの魔法の威力……評議会はよく彼の嘱託魔導士入りを認めましたね」
「まあ、そこは色々と……な?」
その問いにはやてははぐらかすように笑う。
評議会……ひいては管理局自体、近年は人員不足に悩まされている現状、例えイレギュラーな存在でもこちらに協力的ならば受け入れざるおえない。それぐらいには人手が足りないのだ。
そこにはやてがもつコネクションと口八丁手八丁を合わせて隙をついて強引に認めさせたのだ。クレンの嘱託魔導士と六課配属を。
当然ながら色々制約はあるが、それでも彼をここに置くという戦力向上を考えれば些細なものだ。
「グリフィス君も、今のうちにいろんなトコとコネ作っといた方がええよ?後で『色々』お世話になるからなあ」
「は、はい」
はやてのそんな『イイ』笑顔を浮かべた助言にグリフィスはぎこちなく返す。
齢十九にしてこの貫禄、伊達に権謀術数渦巻く管理局のしがらみを生きてはいない。
「さて……ティアナ達はどうやろな。無事だとええんやけど……」
そんなグリフィスの内心を露知らず、はやてはモニターを睨みそう呟くのだった。
「ねえ、ディエチちゃん、ほんとにだいじょーぶ?」
「大丈夫だよクアットロ。障害物は無いし空気も澄んでる。よく『視える』よ」
廃棄都市区画──『隔離街』に程近い廃ビル群の内の一つ。
その屋上に二つの人影があった。
片や白いファーコートの下に体に張り付くような機械的な意匠の戦闘衣。
片や襤褸布を纏い、その下に同じような戦闘衣を身に付け、更に身の丈を優に超える襤褸布で被われた長物を担いだ女性達。
奇特にさえ見える格好を自然と着こなした二人はまるで日常会話のような気楽さで話を続ける。
「にしてもホントに撃っていいの?レリックはともかく、『マテリアル』の方は……」
どこも見ていないような目である一点を、常人には見えない程の遠い場所を見つめてディエチと呼ばれた少女は声音一つ変えずに
少し後ろに立つクアットロへ何かを確かめるように聞いた。
聞かれたクアットロはディエチが一瞥もしていないのにも関わらず大仰にリアクションをしてみせた。
「問題ない問題な~い♪ドクターとウーノ姉さま曰く『
「へぇ……確かにそれじゃあ死なないね。自我を持った『聖遺物』じゃ、今の私じゃ撃ち抜けない」
クアットロの言葉に懸念を払拭出来たのか、ディエチは自らの外套と長物の襤褸布を引き剥がす。
その傍らでクアットロが『長姉』と通信しているが、自身には関係無いと断じてディエチは『長物』を構えた。
それはあまりにも長大な『砲』だった。
少女の細い身体に不釣り合いな程のそれを容易く両腕に構え、ボソリと呟く。
「スタンバイ」
直後、展開されたのは既存の魔法陣とは似て非なる物。彼女達がISテンプレートと呼ぶそれは展開と同時に強く輝きだす。
そこで更にディエチが呟く。
「──
呟きに呼応するようにISテンプレートがさらに輝きを増し、構えられた砲口に魔力が収束し始める。
加速度的な収束で景色さえ歪んで見えだすが、ディエチの目は尚一点を見つめて動かない。
そしてそのまままるで囁くように言葉を紡ぎ出す。
「
過剰なまでに圧縮されていく魔力が空間にすら作用し、大気を震わせねじ曲げる。
もはや一種の災害だ。
そんな異常に異常を塗り重ねたような光景に、クアットロは歪な笑みを浮かべただ眺める。
まるでギャンブルの結果を楽しむ賭博者のように。
「
圧縮が臨界に達し、遂に『矢』が象られる。
狙いは遥か先。120km前方。
そこにはティアナ達が救助した少女が乗せられたヘリが飛んでいた。
急激な魔力反応の上昇に向こうも気付いたのだろうが、もう遅い。
「──
そして、何の感慨も感情も無く、無慈悲に銃爪が引かれた。
星をも撃ち落とす極光が、ヘリを呑み込んだ。