魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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「ヘリの進路上に大型の魔力反応!!クラスは……計測不能!?聖遺物クラスです!!」

 

ディエチの砲撃の40秒前。

六課の管制室にオペレーターのアルト・クラエッタの悲鳴混じりの報告が響く。

管制室の空気が半ば恐慌する中、報告を聞いたはやては迷わず即座に指示を下した。

相手がイレギュラーならば、

 

 

「総隊長権限に於いてヴィーザルのリミッター解除を許可!クレンならそれだけでわかる!!」

 

「了解!」

 

 

──こちらも、『例外』をぶつけるまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、間に合うか……!」

 

遥か前方、点のようにしか見えないヘリへ向かって出せる全力で飛んでいるが、間に合うかどうかと言われれば間違いなくNOだろう。

 

突如として発生した、異常なまでの魔力反応。

しかも場所がヘリの進路上と来た。

どう考えたって穏やかではないし、これは勘だが……その異常な魔力反応は『撃たれる』だろう。

発生地点より遥かに遠いここまで感じられる程の魔力が、ヘリに向かって撃たれればどうなるかなんて考えるまでもない。

 

「クソが!」

 

悪態を吐いた所で何も変わらない事くらいわかっちゃいるが、それでも吐かずにいられない。

焦る心をそのままに飛んでいると、ヴィーザルがおもむろに声を発した。

 

指令を受理(Richtlinie akzeptieren)総隊長権限により(Nach Kapitänsgewalt)リミッターを限定解除します(Unbegrenzte Einschränkungen)

 

ガチャリ、と何かが外れる音がした。

それだけで八神が俺に何を求めているのかが理解できる。

ああ、そうだな。それなら間に合う(・・・・・・・・)

 

「行けるか、ヴィーザル!!」

 

貴方に応えます(Ich werde Ihnen antworten)

 

「ハッ、上等!」

 

『相棒』の景気の良い台詞に口端が吊り上がる。

既にヘリの向こうから見えるほど魔力の圧縮率が上がっている。

正直一か八かだろう。だがそれでも、不思議と『間に合わない何て結果は無い』と思えた。

 

「そんじゃあ行くか──形成(Yetzirah)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっふふのふ~♪どお?この完璧な計画」

 

「黙ってて。いま命中確認中」

 

「ええ~?確認する必要あるの?どうみても『消し飛んでる』でしょ」

 

ディエチの視線の先を眺めてクアットロは肩を竦める。

その光景はただ砲撃魔法が放たれたとは思えない様相だった。

着弾地点であるヘリは上空であったにも関わらず、爆発とその余波だけで真下にあった筈の廃ビル群は煙一つ立てず跡形もなく消え去り、その下にある地面さえもドーム状に抉れてしまっている。空にあった雲さえも不自然な形に切り取られ空間の異様さを際立たせている。

実にヘリの周囲半径10kmがこの有り様だ。

そんな、まるで天変地異でも起きたかのような光景に毛ほどの関心も見せず、ディエチは眼球にインプラントされたスコープでヘリがあった場所を睨む。

──そして、違和感に気付く。

 

「煙が立ってる……?」

 

そう、有り得ないのだ。

致命的な矛盾と言っていい。

着弾地点の真下は煙一つ立っていない(・・・・・・・・・)のに何故、着弾地点のヘリがあった場所に煙が立っている?(・・・・・・・・)

 

「よお、随分な挨拶してくれたじゃねえか」

 

着弾地点から拡声された声が聞こえる。

煙が晴れていき、視えたのは──。

 

「ファントム0からロングアーチへ。ヘリの防御に成功だ」

 

無傷のヘリと、こちらを睨む『逆十字架を持った男』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけだ。残念だったな」

 

遠くにある廃ビルの屋上から呆然とこっちを見ている妙ちくりんな格好をした女二人にそう告げる。

異常なまでの火力を放った奴らなので油断無くその姿を睨む。

……にしてもあの格好は無いだろ、全身タイツにファーコートとか、変態かよ。

 

センスを疑います(Ich bezweifle Ihren Sinn)

 

「お、ヴィーザルもそう思うか?」

 

上下を反転し、逆十字のような状態になったヴィーザルが珍しくそんな事を言った。

ヴィーザルのリミッター解除。それはつまり本来の異常なスペックを完全に解放し、聖遺物の内包(・・・・・・)すら可能ににした全力状態。

スライド展開された装甲の隙間から形成された《罪火・反逆の十字架(Verbrechen Rebellisch Das Kreuz)》が姿を覗かせ、黒い炎を噴き出している。

 

「調子はどうだ?」

 

問題ありません(Kein Problem)

 

返ってきたのは自信に溢れた言葉。

どうやら完全に安定しているようだ。

さて、それじゃあ……

 

「逃がさねえよ?」

 

「速っ……!?」

 

逃げようとしていた全身タイツ女達の前に『移動』して威嚇の為に銀鎖をその足元に叩きつける。

リミッターが外れている為、ヴィーザルの負担を気にすること無く振るわれたそれはコンクリートを容易く抉り、小規模のクレーターを生み出す。

 

「逃げんなよ?後が面倒なんだから」

 

具体的に言えば手足をへし折って無力化するのが面倒だ。

そうするくらいなら狙いやすい胴体をぶち抜いた方が早いんだが、当然ながら八神に止められてるしなぁ……。

等と考えつつ、拘束魔法で二人を縛り上げる。

 

「こんな美人捕まえて縛り上げるとか変態ですか~!?」

 

「うるせえよ、全身タイツファーコート眼鏡なんつー格好してるテメエが言うなよ。つか誰が美人だって?フッ」

 

「笑った!?いま鼻で笑った!?」

 

なんて眼鏡女と言い合いながらも予断無く二人の動きを注視していると、遠くから二つ、魔力反応が近づいてきているのを感じた。

この反応は……高町とハラオウンか。

 

「クレン君!」

 

「よお高町、ハラオウン。来たか」

 

「……この二人が?」

 

「ああ、ヘリに砲撃かました奴らだ」

 

近くに降り立った高町とハラオウンに事の説明をする。

 

「──ってワケだ」

 

「なるほど、それでヴィーザルがその姿に」

 

「んで高町、こいつらどうする?必要なら手足へし折るが」

 

拘束魔法で動けなくなっている変態二人を親指で指し提案するが、高町は慌てたように首を横に振った。

 

「いやいや、やっちゃダメだからね!?」

 

「そうか?どうせ片方は聖遺物持ってんだからそれくらいしといた方が良いんじゃねえか?」

 

「────ほ~んと、そうですよねぇ~♪」

 

と、話に割り込むように、沈黙していた二人の内、眼鏡の女が人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

そこで違和感に気付く。コイツ……『拘束魔法の制御権をハッキング』しやがった……!

 

「やるならさっさと殺せば良かったのに、のーんびりしてるからダメなんですよ~?だから管理局(アナタたち)は大事な獲物を逃しちゃうんですから♪」

 

一瞬だった。

拘束魔法が強制解除され、二人の身体が自由になると眼鏡女はもう一人を抱えると後ろへと……ビルの屋上から、跳んだ。

 

私の幸運は(Mein Glück ist)この指輪を見つけた事(Ich habe diesen Ring gefunden)そして貴方を愛した事(Und das, was ich liebte dich)ああ、愚かなる王よ(Oh, du dummer König)見えざる我が手が(Meine Hand kann ich nicht sehen)貴方を殺めれば(Wenn ich dich töte,)私は(Ich)王位を簒奪する者となる(werde derjenige sein, der den Thron besteigen wird)

 

「コイツも、聖遺物を……!?」

 

先程とは真逆の、まるで薄く拡がるような魔力の流れ。

その拡がりが大きくなるに連れて、二人の姿が『視認出来なくなっていく』。

 

無形(Tohu)──」

 

「まずい……!」

 

駆け出しながら放った拘束魔法はしかし、『二人の身体をすりぬけた』。

 

嘲笑え(Lachen Sie ihn an)ギュゲースの指輪(Der Ring der Gygès)

 

そして遂には完全にその姿も気配も目の前から消え失せた。目に映るのは廃れたビルの影だけだ。

姿を見えなくする?違う、そんなレベルの物じゃない。

完全に、一切の残滓無く、存在そのものが察知出来ないのだ。

これではまるで空気に溶けたような……

 

「存在の、希釈か」

 

自身の存在を空間に溶かす事で姿を見えなくする聖遺物と言うことか。

してやられた。流石にこれは想定していない。

だがまあ、やられっぱなしと言うのも癪だ。

それに……『これ』も返さないとな。

とりあえず巻き込まれたらかなわないので追撃しようとしている高町達を止める。

 

「高町、ハラオウン追わなくていい」

 

「え?」

 

「あの二人は聖遺物使いだ。お前らが追ってもダメージを与えられない」

 

《Kanone form》

 

カノンフォームに切り替え、ヴィーザルを脇に抱える。

十字架から溢れだす炎が身体を撫でるが、特に熱さを感じない。所有者故か。

 

「とりあえず範囲殲滅魔法でここいら一帯を吹き飛ばすからお前ら二人は上空に逃げとけ」

 

「え、えぇ!?」

 

「範囲殲滅魔法って、君使えたの?」

 

ハラオウンの問いに首肯する。

実際使ったのは隔離街に居た時に一回だけだが、使えないことは無い。

更に今回は向こうからわざわざリソース(・・・・)を、それも飛びきりのモノを寄越してくれたのだから威力についても問題ない。

一秒程こちらを見て、高町が頷いた。

 

「……わかった。私達は上空に待機、クレン君の魔法が終わり次第周辺の捜査で」

 

「了解だ」

 

「うん……行こう、フェイトちゃん」

 

二人が飛び去り、十分な距離を取ったのを確認して、俺はヴィーザルを構え……魔力を廻した。

 

「ヴィーザル、さっき受けた魔力リソースを変換。転用するぞ」

 

了解(ja)

 

瞬間、暴力的なまでの魔力の奔流が溢れ出す。

空間に物理的干渉を引き起こし、ビルの屋上を吹き飛ばす程のそれをヴィーザルがコントロールし、砲身へと圧縮を開始する。

ただそれだけで空気が軋みを上げ、プラズマが空を走る。

 

魔力圧縮40%(Magische Kompression 40%)

 

砲口に巨大な魔力の球が出来上がるが、まだ足りない。

先程受けたあの聖遺物クラスの砲撃の魔力を使い潰すにはまだ足りない。

……もっと、もっとだ。

 

魔力圧縮70%(Magische Kompression 70%)

 

砲口の魔力球が抑圧されるように小さくなっていく。

最初は俺を覆い隠すほどだったが、今では手に収まる程度までに小さい。

 

《──魔力圧縮100%《Magische Kompression 100%》》

 

そして遂に、圧縮が完了する。

空間の軋みもプラズマも消え、砲口には拳よりも小さな純黒の魔力球。

 

「さあ、返すぜ。テメエの魔力」

 

ヴィーザルの砲身を真下へ向け、獰猛に笑う。

どうせ廃都市なんだ、派手にやろう。

 

《schwarz brüllen》

 

「feuer」

 

銃爪を引く。

支えていた糸が切れたかのように魔力球が廃ビルの下へ下へと墜ちていく。

そして、遥か下。セメントで覆われた地上へ触れた瞬間。

 

「爆ぜろ」

 

──音が、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょちょちょちょ!?何あれ……何あれぇ!?」

 

偽典聖遺物を使いクレン達から離れたクアットロが膨大な魔力を感じて見たのはキチガイ染みたレベルまで圧縮された魔力球だった。

しかもどう見ても地面に向かって撃つつもりである。

あの超圧縮だ、あれが弾けたらどうなるかなど想像するまでもない。

 

「あー……あれ多分、私の砲撃で使った魔力だ」

 

「嘘でしょ……」

 

「マジ」

 

全速力で逃げていると、脇に抱えられたディエチが仏頂面のままそう分析した。

自分で使った魔力なのだからこそ、それが理解出来たのだろう。

確かに『ドクター』から彼の持つ聖遺物については聞いていた。しかし、偽典とは言え聖遺物の攻撃すらカウンターに転用できるとは流石に想定していない。

幾ら存在を希釈して物理干渉出来なくしても、空間ごと消し飛ばされれば意味がない。

 

「実体化するわ!」

 

「流石にヤバい?」

 

「死ぬ!流石にあれは死ぬ!」

 

聖遺物の展開を解除して、そこに回していた魔力を移動用へ回し、速度を上げる。

砲身が無くても元から機動力のないディエチを抱えながらクアットロは必死に浮遊魔法で駆ける。

もう後ろを気にしている暇は無い。とにかく遠くへと逃げなければ。

そうして逃げていると、不意にさっきまで感じていた魔力の波動が消えたことに気付く。

直感で、クアットロは理解する。

これは断じて攻撃を止めたのではない。『準備が終っただけだ』。

背骨に直接氷を突っ込まれたような、背筋が冷える感覚。

 

「……っ」

 

もしこの機械(・・)の身体に、本能などという機能があったのならば。

今日ほどそれを恨むことは無いだろう。

反射的に振り向いた、その視線の遥か先。

廃れたビル群の只中に、クアットロは『それ』を視た。

黒くて、暗くて、(くら)い、小さな球を。

それが地面へと堕ちるのを。

 

「っーーーーー!!」

 

 

闇が爆ぜる。

 

悲鳴にもならない声を叫びながら、クアットロはその圧倒的な死の感覚から逃れようと駆ける。

 

逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ───!!

 

背後から迫りくる破壊の波は、さも障害など無いかのように廃ビル群を一瞬で『消し』ながらその範囲を広げていく。

その様は先程、ディエチが撃った砲撃そのもの……否、それ以上だ。

星すら撃ち落とすと云われたかの一撃が、倍増して自分たちに返ってくるなど想像しろと言う方が無理な話だ。

もはや余裕などかなぐり捨てた。とにかく逃げろ。

泣き叫びたい欲求を歯を食い縛って耐えながら廃ビル群の外目掛け駆け抜ける。

元の効果範囲は知っている。そこにあの聖遺物の能力をプラスした効果範囲の外へと一直線で突き抜ける。

 

「~~~~~~~っ!!」

 

もう後一歩でも遅れれば波に呑まれる、極限のチキンレース。

想定外の自分たちの命をBETにしたギャンブルにクアットロは……

 

 

「ッハァ!!」

 

勝った。

ギリギリで。

ファーコートは中程まで消し飛び、余波による多少のダメージはあるが何とか生き延びた。

 

「ディエチちゃん……ハァ、生きてる?」

 

「……右足が吹っ飛んだけど、何とか」

 

「生きてるわね」

 

お互いに生存確認して無事を確かめる。

と、ディエチが振り向いて後ろを指差す。

 

「クアットロ、追って来てる」

 

見れば白と黒のバリアジャケットを纏った魔導士がこちらへ向かってきているのが見える。

 

「ディエチちゃん魔力を頂戴。もう一回偽典聖遺物を使って逃げるわ」

 

「え、うん」

 

この一瞬で心労がピークに達したのか、何振り構わなくなったクアットロに若干引きながらもディエチはその肩に触れ、残りの魔力を譲渡する。

渡された魔力と、自分のなけなしの魔力を使ってクアットロはもう一度偽典聖遺物を使い、存在を希釈すると、ディエチを抱えて空へと飛んだ。

 

「うっわあ……アレから逃げられたんだ、ワタシ達」

 

既に遠く離れた砲撃があった場所を眺めて、ディエチが言う。

つられて見てみれば、そこはまさに地獄だった。

いや、『無』だ。

まるで森のようだったビル群は消え去り、地面は抉れていた。

ここまではディエチの砲撃でも同じだった。

だが違う。

その範囲が違いすぎる。廃都市そのものが消え失せているのだ。さも最初からそうだったかのように。

紛れもない、虚無。

 

「……私、人を煽るの、もう止めようかな……」

 

「え」

 

小さくなっていくその光景を見て、クアットロはそう呟いた。

心に深い傷を負って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──斯くして、一人の少女を発端とする事件は一応の終わりをみせるのだった





今回の犠牲者:廃棄都市エリアさん

なお段々と規模が拡がっていく模様。
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