魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「招待状は無事、受け取られたそうだよ、マクスウェル」
「そのようだね。先程、ドクターから連絡があったよ」
どことも知れぬ冷たい暗闇の中。
かつて『観測者』と呼ばれた紺髪蒼眼の男の言葉に、『マクスウェル』は肩を竦めてやれやれと苦笑を浮かべた。
「完璧なタイミングだ。流石、『無限の欲望』と称されるだけある。おかげで此方も色々と準備が整ったよ。一つの懸念材料を除いて、ね」
「ほう?何か面白いものでもあったのかな?」
困った様子のマクスウェルに対し、観測者は逆に面白いものを見つけたように問い掛ける。
「ハハッ、人の困りごとを面白いで片付けるなんて、酷いなぁ」
「私にとっては人間のそれこそが面白いのさ。困り、悩み、悔い、懊悩する。私には理解出来ないものだからこそ娯楽になるのだから」
「まあ、君のそれは今に始まったことでもないし、構わないけれどね……懸念材料とは他でもない、『生き残りの彼女達』さ」
「ああ、例の『予定外』か」
マクスウェルの台詞に心当たりがあったのか観測者は思い出したように口端を上げた。
「まさか彼女達が『特異点』だったとは、流石に予想していなかったよ。おかげて計画の進行に遅れが出てしまっている」
「世界の用意した『楔』たる特異点、か……」
「これもまた、君の言う
探るような物言いのマクスウェルに対し、観測者は「だろうな」と短く返した。
「だが問題ないだろう。今のお前なら呑み込む事は容易い筈だ」
「そうだね。管理局の戦力を加味しても勝ち目はあるさ」
自信に満ちた返答に観測者は小さく笑い、瞑目した。
どうやら話はここまでのようだ。
観測者の態度からそれを理解してマクスウェルは踵を返す。
「そうさ……勝ち目はある。なぁに、最後に笑えればいいのさ。例え途中にどんな困難があっても、ね」
──此処に来ることはもうない。
そう断じて暗い道を突き進むマクスウェルの独白は、底の見えない闇に吸い込まれて消えた。
──エルトリア調査計画発表から一週間。
それまでの間は随分と慌ただしかった。
先日の戦闘の事後処理に始まり、エルトリア出発に際して不足する人員を補う為、本局からの応援人員への業務の一時引き継ぎ等々……やることが山積みだった。
そんな諸々が無事に終わって、今。
「なんつーか、気味悪い色合いの空間だな」
「確かにそうね……」
「え?おいしそうじゃない?」
「「それはない」」
俺たちは次元航行部隊本局に来ていた。
窓の外を眺めていた俺とランスターの突っ込みを受けて轟沈したナカジマを初め、エリオとキャロ、高町ら隊長陣も総出だ。
理由は当然、エルトリアに行くためだ。
『次元の海』と称されるこの薄気味悪い広大な空間の中を漂うように本局は存在している。
円筒が何本も交差したような見た目をしているここに、今回の遠征で俺たちが乗艦する次元航行艦がある。
乗艦までの待ち時間が暇なので、こうして待機ロビーで暇を潰しているというわけだ。
「にしてもほぼ総出とはな」
「六課の半数近く、スターズ、ライトニングに至っては全員だものね」
「確か、シャーリーさんの他にもデバイス開発課の人たちとカレドブルッフ社の人達も乗るんだよね?」
「みたいだな。八神が手配したらしい」
「整備班のシャーリーさんはわかるけど、開発課とカレドブルッフ社の2つは何でかしら?」
「──何でも、我々の戦力向上に繋がるとの事らしい」
三人での会話に割り込んだ声に振り向くと、そこにはヴィータとザフィーラと言う名の狼?を連れたシグナムが立っていた。
敬礼するランスターとナカジマを尻目に、俺はシグナムに訊ねた。
「戦力向上?デバイスの改造でもするのか」
「さて、な。私もそこまでは聞かされていない」
「まあ、はやてが悪そうな顔してたからまた『裏技』でも思い付いたんじゃねぇかな」
「…………」
上から、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。
しれっと言ったが裏技ってなんだ裏技って。
アイツ見た目によらず腹黒いから、そう言った事は上手そうだが。
「ああ見えて主は策謀が得意だからな。とは言え、我々に理由を明かさないというのも珍しい」
「だとしても、整備班総出というだけで、今回の調査が大事だとわかりますね……」
ランスターの緊張気味な言葉にシグナムは頷くと窓の外を見た。
「ああ、そうだな……」
「ま、いざとなったら守ってやっから、安心しとけって。お前らだってこういう日の為に訓練してきたんだろ」
「「……はいっ」」
ニカッと歯を見せて笑うヴィータにランスターとナカジマがほっとしたように返事をしてみせた。
どうやら緊張は解れたらしい。
話も一段落ついたところで、壁のスピーカーからアナウンスが流れた。
「機動六課各員に通達。乗艦準備が完了しましたので第8ゲートより乗艦を開始してください。繰り返します──」
「……どうやら準備が終わったようだな。行くぞ」
「ああ」
シグナムに促され、俺達はぞろぞろと移動を始めた人並みに合流し、ロビーを抜けてゲートへと向かった。
無機質な白い廊下を抜け、無数の検査機らしき物を特に反応も無く通り抜けた先に、それはあった。
濃紺色と深青に染まった、巨大な
さながら剣のように艦首に行くにつれて鋭く尖った独特なフォルム、艦尾には鳥の翼のような三枚翼が折り畳まれている。
「こりゃ……デケェな」
そんな艦の様子を歩きながら眺めて、驚きが口をついて出る。
「私もこのタイプは見たことがないな……ヴィータはどうだ?」
「いんや、あたしも見たことがねぇな。こんな型のやつ今まであったか?」
シグナムとヴィータもどうやら初めて見るタイプの艦らしい。
隣ではナカジマとランスターがしきりに「すごい」だの「かっこいい」だのと驚いた様子だ。
まわりも似たようなもんで、誰も彼も艦に見入っている。
とは言え立ち止まる事はせず、通路にそって俺達はその艦の中へと入っていった。
そして。
「──ようこそ、機動六課の諸君。次元潜航艦『パラディオン』へ」
ブリッジに集められた俺達を待っていたのは随分と貫禄のある、無精髭を生やした初老の男だった。
その横には八神をはじめとする各隊隊長陣。
「私はこの艦の艦長であるロディック・トルクスだ。よろしく頼む」
ロディック、と名乗った男はそう言って目礼すると改めて今回の作戦について話し始めた。
「諸君らの目的は惑星エルトリアの調査及び異変の原因の排除となる。我々パラディオンの目的は君たちを安全かつ確実にエルトリアに運び、そして『必ず』無事に君たちをここに帰すことだ……例え何があってもだ」
「……」
なんつー目力だよコイツ……。
目深に被った軍帽から覗く瞳の強さに思わず息を呑む。
「クロノ提督に託された以上、我々にはそうする義務がある。意志もな……今回、君たちが向かうエルトリアは既に知っての通り、魔境と化している。だが、敢えて言わせて貰う」
そこで区切り、ロディックは一呼吸置いた後に、言った。
「──必ずこの艦に帰ってこい。以上だ」
『はっ!!』
その言葉で挨拶は終わりだと、敬礼する部隊員達から視線を移し、ロディックは八神に目配せをすると俺達に背を向け艦長席へと登って行った。
代わりに出てきた八神が空気を切り替えるように手を叩く。
「よし、それじゃ発艦準備に入るから各員持ち場に着くように!到着は発艦から12時間後やから、それまでに各種準備や整備を行うように!解散!」
テキパキと指示を出されると、ぞろぞろと隊員たちが持ち場に着くべく方々に動き出す。
かく言う俺達戦闘要員もデバイスの整備などがあるのでブリッジから出ようと踵を返した所で、八神に呼び止められた。
「あ、スターズとライトニング、クレンはちょっと残ってくれる?」
「何かな?はやてちゃん」
高町が代表して理由を聞くと、八神は俺やランスター達を見た。
「わたしらと違って、クレンやティアナ達はこれが初めての航海やろ?せやから良い機会やし、ここで船の発進を見てもらおうかなぁ、と」
「確かに私達、次元航行艦の発進シーケンスは見たことないですけど……宜しいんですか?」
「大丈夫!ロディック艦長には許可貰っとるし」
「いつの間に……」
今さっき!とかしれっと付け足してドヤ顔する八神にハラオウンが頭を抑える。
右を見ればランスター、ナカジマ、キャロが苦笑いをしていて、左ではエリオが…………
「わぁぁ……」
なんかスゲェ目を輝かせていた。
「エリオ、こういうの興味あったのか」
「あ、えっと……はい」
年相応の反応をしていたのが恥ずかしいのか、エリオは赤面して目を反らした。
それを無理に追求せずに、俺は正面に広がる風景を眺めた。
二層に別れたコントロールシートの数々と、それを迷いなく操作するオペレータ達。
それらに迷いなく指示を下す艦長たるロディック。
「……まあ、気持ちはわかる」
「え?……ふふ、そうですね」
何というべきか……上手くは言葉に出来ないが、格好いいんじゃないか?
そうして暫く待っていると、前準備が整ったのか俄にブリッジが騒がしくなる。
いよいよか……。
「ジェネレータ出力安定、グリーン」
「メイン及びサブブースター正常ライン維持!」
「高速潜航用フィールド起動、波長安定確認」
「複合レーダー並びにソナーに影無し!」
「艦内重力制御をアクティブ、航行用に切り替え!」
「航路設定完了しました!」
「パラディオン、全システムオールグリーン。……行けます」
オペレータ席からの最後の言葉に、ロディックが立ち上がる。
そして高らかに出航の宣言を上げた。
「では行こう──次元潜航艦パラディオン、発進!」
──惑星エルトリア 西部 荒野地帯 森林境界線
「……ふぅ、なんとか今日も乗りきれましたね」
ボロボロになった青い服を纏った赤髪の女性が生い茂った木々の1つに背を預け、疲れ混じりにそう言葉を吐き出した。
「なんとかって……這う這うの体じゃない」
「そっちもじゃないですか」
赤髪の女性は右隣に座る、同じように木に寄りかかる桃色の髪の女性を見る。
その髪色と同じ桃色の服はこれもまた赤髪の女性と似てボロボロになっていた。
「私はいいの!」
「理屈になってないですよ……」
「細かいことは気にしない!……はあ、疲れたなぁ」
桃髪の女性はそう言って黄昏に染まる空を見上げた。
つられて赤髪の女性も空を眺める。
雲の無い澄んだ空には弱々しく輝く一番星が見えた。
徐々に暗くなっていく世界に、桃髪の女性は不安げに呟いた。
「あの通信、届いたのかな」
「届いた筈です、きっと」
不安を払拭するように赤髪の女性がそう返した。
世界が、夜に落ちる。
月はまだ姿を見せない。
そんな暗闇の中、赤髪の女性は立ち上がると桃髪の女性に手を差し出した。
「帰りましょう──みんなが待っています」
「……うん」
その手を掴んで桃髪の女性は小さく頷いた。
やがて歩きだした二人の女性は、顔を覗かせ始めた月の方角へと歩き始めるのだった。
長らく更新を空けてしまい申し訳ありませんm(__)m
少し私生活の方で環境の変化があったため遅れてしまいました。重ねて謝罪申し上げます