魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
法事が片付いたので更新再開します
「得てして、孤独とはそれほどに苦痛かと疑問に思うのだが」
ほの暗い空間の中、一人座した『観測者』は虚空へと問いを投げた。
「さて、ね。私はそもそも孤独を苦痛とは感じては居ないから、貴方の納得出来る解を提示できるわけではないが……」
答える者など居ない筈の空間に声が響く。
観測者が目線を滑らせると、そこには白衣の男が立っていた。
「致命的な価値観のズレというのは、なまじ会話が出来る人間ほど辛いものなのだろうね。言葉は通じるのに意味が通じないのではそれは他者と隔絶しているのとそう変わらないさ」
「ジェイルか……ふむ、そういうものか」
対して驚いた様子もなく、観測者は現れたスカリエッティの言葉を飲み込む。
「とは言え、貴方には関係がないだろう?貴方に取っては全てが平等、総てが貴方の『愛』の対象なのだから」
仰々しく宣うスカリエッティに観測者はただ視線を元に戻した。
確かに関係ない。
彼にとって全てはただ愛すべき……否、
否定も拒絶も関係なく。それすら飲み干し抱擁し愛しつくす。
──狂った世界を壊すために
狂い、殺し、愛する。
ただそれだけだ。それだけしかないのだ。
「しかし珍しいね、貴方がそんな疑問を口にするとは」
「何……見世物の説明が欲しくなっただけさ。それで、何か用か
な」
「いいや、ただ顔を見に来ただけさ。観測者──否、滅びに微睡む最後の蛇よ」
スカリエッティの言葉に彼は……嗤った。
凄い、という他無かった。
いや単純に俺の語彙力がないのが問題なんだろうが。
それ位しか言葉が思い付かない程に、ランチから降りて見た光景は雄大だった。
ディアーチェ曰く、こんな環境再生を数年の内にたった五人でエルトリアの各所で行ったというのだから驚きだ。
隔離街が奈落の底のように思える。実際そうなんだが。
そんな光景に目を奪われていると、遠くから走ってくる人影が見えた。
「お~い!!」
「ちょっと待ってよお姉ちゃん速すぎるから!!」
赤と桃というめちゃくちゃ目立つ髪色の二人がこちらへと駆け寄ってくる……ってかマジで速いな。
2~3キロ離れてたのにもう目の前に居やが……
「あ、止まれない!」
赤髪の方が土煙を上げながら通り過ぎていった……。
ブレーキ掛けるタイミングをミスったなありゃ。
桃髪の方はきっちり俺達の手前で停止していた。
「もう、はしゃぎ過ぎでしょお姉ちゃん……」
「いやぁ、つい勢いつけすぎましたね!」
諌める桃髪に対して即座に戻ってきた赤髪がカラリと笑う。
元気いいなオイ。
「お待ちしていました、皆さん」
「お久しぶりです、アミタさん」
快活に笑うアミタと呼んだ赤髪と八神が握手するのを見て、ナカジマ達が目を瞬かせる。
それに気付いたのか、赤髪はこちらを見るとにこりと笑顔を浮かべた。
「そちらの方々は初めてお会いしますね、私はアミティエ。アミティエ・フローリアンと言います。気軽にアミタって呼んでください」
そういうアミティエ──アミタで良いか。に続いて傍らの桃髪が名乗る。
「私はキリエ・フローリアン。名前の通りお姉──アミタの妹よ。よろしくね?」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「……よろしく」
元気に一礼するナカジマ達に続いて適当に挨拶を交わしておく。
こういうのは余り慣れてないんだ。だからそんな目でこっちを見んな八神。別に照れてねぇ。
「さ、こんな所で立ち話もなんですから、案内がてら中でお話ししましょうか」
それから一通り自己紹介を軽く済ませるとアミタがそう提案してきた。
特に断る理由も無いので八神はそれを了承する。
「それはありがたいんですけど、結構な大人数ですけど大丈夫ですか?」
「心配ご無用ですっ!空き部屋なら一杯あるんで!」
「無駄に拡張したからでしょうが!!」
「こ、こんな時の為にですよ!……多分」
なるほど、姉がボケで妹がツッコミか。
そんな姉妹漫才を見ているとキリエが視線に気付いて恥ずかしそうに顔を逸らしてしまった。
「ふふ……それではお言葉に甘えさせて貰います」
「はい、それじゃ行きましょうか!──と、そうだ一つ言い忘れてました」
前を歩きだしたアミタだが、急に立ち止まるとこちらを振り替えって、言った。
「ようこそ、フローリアン・ラボへ!!」
フローリアン姉妹に引き連れられ、厩屋を抜けて生活スペースであろう木造の古民家へと入る。
予想より大きく広い家の中を進み、地下への階段を降りていくとそこには上とは真逆の光景が拡がっていた。
「ラボって名前に偽り無し、か」
白い床に白い壁、そして白い天井の廊下は広く、長い。
無駄に拡張したってのは嘘ではないらしい。
幾つもある扉と、窓から見える部屋の中からして様々な研究がなされているのが分かる。
まあ分かるだけで学のあまりない俺からしたらちんぷんかんぷんなんだが。
それらを眺めながらさらに進んで行くと他とは違う両開きの扉の前に着いた。
「こちらがミーティングルームになります……我々に、いえ、この星に起こったことをお話ししましょう」
アミタの言葉に続き、扉が開く。
さて一体、何を聞かされるやら……。
「改めて、今回呼び掛けに応じて頂き、本当にありがとうございます」
薄暗く、正面の空間投影された画面以外照明の落とされたミーティングルームでアミタが俺達に一礼する。
それを前置きとして説明が始まった。
「概要は既にディアーチェ達から聞いたそうですが、改めてこの星の状況についておさらいを。1ヶ月程前に突如として東の孤島を中心に赤黒い物質、仮称シャドウマターが発生しました。これの調査の為、ディアーチェ達に向かってもらったのですがシャドウマターから現れた『姉妹達』と自称する複数の人型存在に妨害を受けて撤退した……ここまでは宜しいですか?」
先程と寸分違わぬ情報に全員が頷く。
「では続きを。調査失敗を受け、私達のみでは対処が不可能と判断し管理局へと通信を試みました。それと同時期に定期連絡を取っていたコロニー・フロンティアロックからの連絡が取れなくなりました。調査も考えたのですが宇宙に上がる術が無くこちらは断念し、地上の調査を優先しました」
コロニー・フロンティアロック、か……確か、あそこはもう既に『終わっていた』筈だ。
「その様子を見るに……ダメ、でしたか」
こちらの様子から察したのか、アミタは沈痛な面持ちで目を伏せる。
少しの沈黙の後、アミタは説明の続きを語りだした。
「──暫くして管理局の方々が来たのを察知したので連絡を試みたのですが、失敗。何度か試しても繋がらず、到着地点に赴いた時にはもう……。それから暫くは積極的調査はせず、散発的に現れる
「そして、その結果わかったことが一つ」
アミタからキリエが引き継ぎ、画面が切り替わる。
様々な数式や魔法陣のような図式がならべられた画面を背に、告げた。
「あのシャドウマターの海……『赫海』の性質は」
「自然摂理を書き換える……いやそれよりも厄介な、大規模な現実改編よ」
現実改編。その言葉に八神達隊長陣が息を呑む。
「……なあ、現実改編ってなんだ?」
隣に座るナカジマに聞くが黙って首を横に振られた。ナカジマ達にも解らないらしい。
キリエ達の様子を見るに相当ヤバイのは解るが、どうヤバイのかが解らない。
そんな頭に疑問符を浮かべる俺達に気付いたのか、八神が声を上げる。
「現実改編……私らの常識や自然摂理では考えられない『自己摂理』を世界というテクスチャに上書きする、いや押し付ける、禁忌とされる大規模魔法や。歴史上でもベルカ戦争以前に一度だけ使われたって断片的な情報しかない代物や」
「わたしもはやてちゃんから教えて貰ったんだけど、とても魔法とは呼べないようなものなの。だってそれはもう……」
「ただの『人』の所業じゃない。『魔人』や『魔神』の領域」
高町の言葉尻をハラオウンが補足する。
「例えるなら、既に絵を描かれたキャンバスの上から更に新しい絵を描くようなものか」
「概ねその解釈で間違ってないわ。それがどれだけ馬鹿馬鹿しいことか解るでしょ?」
「ああ……全く馬鹿馬鹿しいな」
それはもう戦うとかそういう次元じゃない。
摂理という、本来人間には不可侵な領域を自分に都合よく塗り替えて押し付けてくるなんてワケが解らない。
「だからこっちの魔法を侵食出来たわけか。そもそもが摂理の外側だから」
「そういうことです。さらに厄介なことに赫海の持つ摂理が最悪なんです」
「……と、言うと?」
「──同化と増殖」
もう一度画面が切り替わり、赫海の映像が流れ出す。
「先ず第一の同化ですが、これは魔法も物質も関係ありません。命も。赫海の眷属であるウリディンムやバシュムの放つ攻撃はあらゆる防御を侵食し同化する。致命傷を負えばその命ごと溶解して赫海の一部となる」
「……第一次調査隊か」
該当する事例を思い出し、頭が痛くなる。
つまり彼らは肉体を変質させられ死なず、死ねぬままあの赤黒い海に溶けてしまったと言うことか。
……クソが。
「第二の増殖。これは第一の同化を元にウリディンムやバシュム。或いは私達もまだ観測していない『何か』を赫海から生成します。そしてそれらもまた破壊されるか致命傷を負うと同化の摂理に呑まれ赫海に還る……」
「最悪だな。敵は死兵まがいのことを無尽蔵に出来、なおかつこちらがやられれば相手の便利なリソースになる、と」
シグナムの呆れ混じりの声にキリエが肩を竦める。
「最悪も最悪よ。こっちの資源と体力は限られてるのにあっちはそんなのないもの」
「けど、だからハイわかりましたと退くわけにはいかんなぁ」
八神はそういうとパンっと手を叩いた。
「事情はわかりました。どれだけ最悪な状況かも。だからこそ、私達は協力を惜しむつもりはありません。共にこの状況を打開しましょう」
そう言って差し出された手をアミタが握る。
「ありがとうございます!こちらこそどうか、どうかお願いします!!」
「……契約、か」
その様子を眺めて小さく呟く。
これでもう俺達は退けなくなった。
置かれた状況はあまりに悪く、容易く死ぬ綱渡りのよう。
それでもああも笑ってみせたのだ。
(何を考えているやら……)
孤独とは、不意に、衝動的に訪れる。
一人で居るときはもちろんのこと、人混みを歩くとき、誰かと話している時。
それを感じたのは何時だったか。
……そう、物心ついて直ぐだ。
最初は同年代の子供たちと。次は親、その次はまわりの大人。
噛み合わない。ズレた感覚。
親曰く、聡明だったらしい自分の会話はどうやら話のレベルが誰よりも一つ、上だったようだ。
いや違う。一つ、ハズレていた。
価値観の相違、倫理観の相違、死生観の相違……枚挙にいとまがない程に、ハズレていた。
死ぬべきを生かし、壊さざるを壊し、廃絶を生存させ、排他を共存へ。
故にこそ。自分が疎外されるのは当然の帰結だった。
周りからも、親からも。
不意に訪れた孤独は、地獄だ。
何もない、無味無臭、虚構、虚無、無為、無力。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──
だから──
「ああ、お前の孤独を埋められるのはお前だけだ」
『僕』はその声に