魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/12 Sieben Hals

「は……?聖遺物ですって?これが全部?」

 

「ああ。力は弱いが聖遺物なのは間違いねぇ」

 

聖遺物と同化しているからか、そういった所が感覚的に解る。

墓標のように聳える数多のそれらは確かに聖遺物らしい魔力のようなものを持っている。

だが、見た目どおり風化しているからか、俺の持つ十字架ほどの力は感じられない。

まるで脱け殻のようだ。常人が触れてもなんら影響を及ぼすこともないだろう。

それくらいには弱々しい。

 

「で、こいつらはどうするんだ?」

 

「そうね……出来れば持って帰りたい所だけど」

 

「流石にこの数となると全部は無理そうですね」

 

「だろうな」

 

パッと見でも五十はある。大きさも形も様々だ。

それを全て地上に持って上がるのは飛行魔法を使っても厳しいだろう。

何回か往復するのもアリだが、流石に日が暮れる。

 

「となると、この中でもまだマシな奴を選別してから持ってくしかないか」

 

「ですね」

 

「賛成」

 

ユーリとイリスの賛同も得られたので、さっさと行動に入る。

ヴィーザルの検知機能と勘を頼りに俺は聖遺物の選別に。

二人は運搬用の厳重なケースを魔法らしき技術で作り上げていく。

 

それから一時間後。

 

「こんなもんか」

 

「結構あるわね……」

 

「でもこれなら何とか三人で運びきれそうですね」

 

目の前に積まれたケースを見る。

最終的に16個まで絞られた聖遺物はこうして過剰なまでに厳重なケースに納められた。

とはいえ、どれだけ弱まろうと聖遺物は聖遺物だ。慎重に運ぶに越したことはないだろう。

 

「長居は無用だし、ちゃっちゃと運んじゃいましょう」

 

「同感だ」

 

飛行魔法の応用で振動を与えないようにケースを何個か浮かせる。

流石に制御が難しいな……。

イリスとユーリも同じようにケースを浮かせると、それを引き連れそそくさと出ていく。

二人の背を追い、俺もまた墓所のような部屋を出る。

 

 

巨大な扉を締め切る直前。

 

「──────」

 

襤褸を纏ったナニかが見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃地上では──。

 

「しっかしまぁ……勢い込んで色々準備したはいいが、終わってみると暇だねぇ」

 

「それもう4回も言ってますよ、ヴァイス陸曹」

 

急拵えの観測所のコンテナの中、ヴァイスの愚痴にアルト・クラエッタが所狭しと並べられたモニターから目線を離さずにつっこむ。

 

「そうだっけか?」

 

「そうですよ。もう、ルキノも居ないんだからちゃんとして下さいよ」

 

「グリフィスも"あっち"だもんなぁ……」

 

あっち、というのはミッドチルダの機動六課のことだ。

流石に全てを本局に任せるわけにもいかないので、グリフィス他、選出された人員が残っている。

シャリオは技術スタッフと掛かりきり、ザフィーラは周辺哨戒、リインフォースははやての補佐。

結果としてロングアーチの中で観測所の担当はヴァイスとアルトになった。

 

「今、全体の目になれるのは私達だけなんですから」

 

「……」

 

ちら、と見たアルトの横顔は真剣そのものだ。

 

「仕方ねぇ、慣れてねぇが真面目にやるかねぇ」

 

愚痴を言った所で何が変わるでも無し、と気持ちを切り替えてモニターに向き合う。

 

「……」

 

「……」

 

長い沈黙。

唸るような低い機械音とキーボードを叩く音だけがコンテナ内に鳴る。

 

「…………ん?」

 

不意に、ヴァイスが声を上げる。

 

「どうしました?」

 

「いや、地震計が反応したんだが、妙だな」

 

モニターに映るグラフを見つめ、眉根を上げる。

気になったアルトが椅子ごと移動してモニターを見ると同じように疑問符を浮かべた。

 

「微弱な地震……にしては長いですね」

 

「だな。発生源は出せるか?」

 

「ええと、これですね」

 

ヴァイスの代わりにアルトがキーボードを操作してモニターを切り替えるとエルトリアの地球儀が現れ、その中の一転が淡く明滅していた。

 

「赫海の中か?」

 

「そうみたいですね」

 

「あん中じゃこっちの常識が通用しねぇ、って話だ。こういうこともあるのかねぇ?」

 

「どうなんでしょう、一応報告をあげたほうが」

 

アルトの提案に「そうだな」と答えようとした時、他のモニターを見たヴァイスはあることに気付いた。

 

「おい、待て」

 

「え?」

 

「一時間……いや、五分前のでいい。この発生源の画面出せるか?」

 

「は、はい」

 

ヴァイスの指示に従い、五分前の発生源が画面に映される。

その画面と現在の画面を重ねると──。

 

「ウソ……震源が」

 

「ああ、動いてる。しかも──こっちに向かってな」

 

一筋、ヴァイスの頬を冷や汗が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。ヴァイスからの報告を受けた六課メンバー達は俄に慌ただしく動き始めた。

ラボ内に臨時に設置されたブリーフィングルームでは、はやてを始めとした面々とフローリアン姉妹、ディアーチェ達が大型モニタを前に話し合っていた。

 

「状況はどうなってる?」

 

「探査用ドローンから観測情報が来ました。画面に出します」

 

リインフォースが投影キーボードをタッチすると、多少ボヤけてはいるが画像が映し出される。

 

「七つ首の白い蛇……アミタさん達は」

 

「いえ、見たことがないですね」

 

「我らも同様だ。あんなものは一度も見かけておらん」

 

はやての問いにアミタとディアーチェが口々に答える。

 

「てことは向こうが早速仕掛けて来たってことやろな……」

 

「というと?」

 

「こっちの土台が固まる前に潰すか、あるいは勢いを削ぐつもりでしょう。牽制、みたいなものです。リイン、詳細を」

 

「ハイです」

 

再度、リインフォースがキーボードを操作すると、蛇の外観上の情報が現れる。

 

「体長凡そ700m、首を上げた際の高さは300m弱。重量は約29,000tと推測されます」

 

「デカすぎんだろ……」

 

あまりの大きさにヴィータが引きつった笑いを溢す。

もはやそこらの山と変わらない巨大さだ。

 

「今後、対象をムシュマッヘと呼称します。ムシュマッヘは現在、赫海東側からこちらへ向かって進行中。ウリディンムやバシュムも呼応するように群れを作ってムシュマッヘに追従しています」

 

「総数は?」

 

「現在確認出来るだけで300ほど」

 

「多いな。これが増えることも有り得るか」

 

「赫海の性質上、その可能性もありますね」

 

シグナムのぼやきにアミタが返す。

戦力差は絶望的。そんな事実が実感として染み込んでくるような感覚がブリーフィングルームを満たした。

それを意に介さず、はやては話を続ける。

 

「リイン、ムシュマッヘがここまで到達するまでの時間は?」

 

「は、はい。現在の速度のままと仮定すると、到達まで2日かかります」

 

「相手はまだ赫海を出ていない……赫海ギリギリのラインで考えると半日くらいかな」

 

「そうですね。前線構築の時間を考えるとそうなりますです」

 

モニタに映る地図に防衛ラインの線と、時間が書き込まれる。

それを一瞥したあと、はやては通信回線を開いた。

 

「シャーリー、例の研究はどう?」

 

《正直芳しくはないです。あと一歩が足りない感じで》

 

「それじゃあもう一つの方は?」

 

《そっちはバッチリです!何個か試作品は出来てるんであとはテストだけです》

 

「ん、ありがとう。……クレン」

 

《聞こえてる》

 

「あとどれくらい?」

 

《40分、いや20分で到着する》

 

「重畳や、頼むよ」

 

《おう》

 

通信を終え、はやては瞑目する。

タイムリミット、資源、武器、環境……あらゆる情報をかき集め、作戦を構築する。

限られた条件で、最大限の効果を求め、そして……。

 

「……よし」

 

瞼を開き、立ち上がる。

 

「私にいい考えがある」

 

 

 


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