魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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/13 ein enger Feind

「既にブリーフィングで話した通り、七つ首の大蛇『ムシュマッヘ』が率いる大群がこちらに向かって押し寄せてきとる。今回私達が行うのは迎撃戦や」

 

ムシュマッヘ発見の第一報から6時間。

荒野をかっ飛ばすランチの中で八神が揺れに微動だにせず作戦を説明する。

 

「このまま行けば会敵するのはここ……何もない平野になる」

 

八神が空間投影された地図に指差した先には傾斜もろくにないだだっ広い平原だ。

 

「相手戦力を考えると、マズイね」

 

高町の指摘に頷いて八神が次に指したのはそこから更に北東だ。

 

「ここは……渓谷だな」

 

同席したディアーチェが思い出したように呟く。

地図の見方はよくわからないが、等高線を見るに間違いないようだ。

 

「そう、渓谷や。平野では無く、ここで迎え撃つ」

 

そう言って地図を指で叩くと渓谷の中程に青い凸が現れる。

 

「敵の総数をここで集めて動きを制限。現時点の最大火力を以て敵の数を減らす。正面戦力としてスターズ、ライトニング、ファントムを置く。そして──」

 

「渓谷左右に我々が展開する、ということですね」

 

「その通りや、シュテルちゃん」

 

「……ちゃん付けは止めてください」

 

「ふふ……渓谷左右にアミタさんを始めとする方々を置き、渓谷出口にランチを待機させる」

 

渓谷の左右と出口付近に青い凸が増える。

これが今回のこちらの陣形ということだろう。

確か……鶴翼陣形、だったか。そんな形をしている。

 

「作戦の第一段階としてなのはちゃん、フェイトちゃん、クレン、そして私の砲撃魔法で敵の初動を乱す。足止めが出来れば上出来やな」

 

「足止め?」

 

「クレンはまだしも、私達の火力じゃそこがせいぜいなんだね」

 

疑問符を浮かべたエリオにハラオウンが補足を教える。

 

「口惜しいけどその通りや。幸い、衝撃などの物理干渉は与えられるから勢いを削ぐことは出来る筈や。そして第二段階は──」

 

そこから八神はつらつらと作戦を説明していった。

 

「──以上が作戦や」

 

作戦説明を終え、八神が口を閉じるとランチ内は沈黙に包まれる。

隊長陣は作戦内容を飲み込む為だとわかるが、ナカジマ達はどうやら違うようだ。

不安や恐れ──それとわかる表情を浮かべていた。

ああ、そういえばコイツらはこういうのは初めてなのか。

 

張り詰めたように冷たく、それでいて乾いた空気。

殺さなきゃ殺される、誰が死ぬとも知れない、戦場(殺し合い)の空気だ。

 

コイツらはそれに当てられちまってる。

 

「八神」

 

「わかってる。今回、各隊員には後方支援に回って貰うつもりや」

 

「え……」

 

「私達、ですか?」

 

八神の言葉に、ランスターが青ざめた顔を上げた。

 

「そや。そんでいざとなったら直ぐにランチまで後退して欲しいんや」

 

「それって」

 

「……後退から三分。連絡が無かったらランチでラボまで戻れ。そのままパラディオンとやらに回収してもらったらさっさと元の世界に帰るんだな」

 

ディアーチェの放った一言に、ランスター達が息を呑んだ。

……詰まるところ、俺達が全滅した時の最後の保険だ。

第一次探査隊と同じように、伝達役としてコイツらには生きて帰って貰わなきゃならない。

だからこその後方支援のポジションなんだろう。

 

「これは重要な役割なんや。お願い、な?」

 

「っ……は、はい」

 

自分たちに何が託されたのか理解し、納得して、ランスターは強く頷いた。

 

──渓谷は、目前に近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、八神」

 

「なんや?」

 

作戦ポイントである渓谷の中間地点。

俺達前衛組は即席のバリケードやトラップ郡の後ろで待機していた。

 

「奴さんらは本当に来るのか?」

 

奴さん……ムシュマッヘ達、ひいては赫海の能力を考えるとわざわざ此処を通らずとも良い筈だ。

ともすればここに戦力を展開すること自体が大きな隙になりかねない。

だと言うのに何故、自信を持って八神はここに陣を置いたのだろうか。

 

「来る。確実に」

 

即答だった。

 

「前回の一戦が挨拶だとするなら、今回は顔合わせって所やな。こちらとあちらの戦力の、な」

 

「その為に態々会敵するってか?随分回りくどいな」

 

『そういう人ですよ、彼は』

 

会話に割り込むように、オープンチャンネルで通信が入った。

アミタだ。

 

『慎重に慎重を重ね、相手戦力を見定め、削り、そして最後に全力で蹂躙する……彼の戦い方です』

 

『そう考えると、今回ここに来るのは当然ってことなのよね。何せ全戦力が集まってるわけだし』

 

『ここで戦力を見定めるもよし、あわよくば全滅してくれれば良い。そんな所だろうな。何にせよそういう性格だ。小鴉の言うとおり、こちらがここに居ると解れば来るだろうさ、確実にな』

 

イリスとディアーチェも通信に参加し、八神の意見に賛同した。

 

「そういう訳や」

 

「……成る程ね。で、もう一つ気になってたんだが」

 

「なんや?」

 

「随分ゴテゴテしてんな、それ」

 

「ああ、これ?」

 

八神が自身に取り付けられたゴテゴテした装備を指差す。

騎士甲冑の上に装着された漆黒のそれは、鎧のようにも見える。

高町やハラオウン、アミタ達も色と細部が違った似たような物を装備している。

 

「シャーリー達技術班とカレトヴルフの方達の共同開発の新装備や。名付けて」

 

『名付けて"全環境対応型疑似次元断層生成特殊外殻装甲 フォートレスⅡ"!!』

 

「うおっ!?」

 

通信に割り込んで大声で長ったらしい名前を自信満々に叫んだのはシャーリーだ。

 

『クレン君のトンデモ防御力を見て着想を得たこの武装は、なんと!!次元航行艦が持つ次元断層生成防御装甲を人のサイズまでダウンサイジングした一品!!既存のフォートレスより重量こそ上がってますけどそれを補って余りある防御力!!他の武装との互換性もバッチリで頭の先からデバイスの先までカバーしてくれる優れものなんですよ!!凄いですよね!!』

 

「お、おう……」

 

とてつもない勢いで捲し立てられ、気の抜けた返事しか返せない。

いやこいつのこの情熱は一体どこから来るんだ……。

 

「シャーリー、パラディオンとの座標差異の修正は?」

 

『バッチリ修正完了してます!超長距離エネルギー送受信システムも問題なく使用できます、何時でもフォートレスⅡは起動出来ます』

 

「流石、仕事がはやくて助かるわ」

 

『いえ、では……御武運を!』

 

シャーリーが通信から抜ける。

嵐みたいだったな……。

 

「それがブリーフィングで言ってた試作品ってことか」

 

「せや。ただバッテリーだと直ぐ電池切れになってまうからパラディオンからエネルギーを直接受け取らないと戦闘機動には使えないのが欠点やな」

 

「座標差異を気にしてたのはそれでか……」

 

しかし次元断層を使うとは……俺や今回の連中ならまだしも、普通の魔導師にとっちゃ難攻不落もイイとこだろうな。

まさに城塞(フォートレス)ってか。

 

 

『レーダーに反応あり!来ましたぜ、隊長!!』

 

沈黙を切り裂くようなヴァイスの報告に空気が切り替わる。

 

「来たな」

 

「……せやな」

 

それと同時に足元から振動を感じ始める。

揺れは徐々に大きくなり始め、そして

 

『目視可能域に到達……オイオイオイ、なんだよこれ……』

 

俺達の遥か前方。渓谷の影から。

 

 

 

「■■■■■■■■■──」

 

赤黒い水と哀れな獣の群れを連れてそれは現れた。

 

嗚咽のような唸りが渓谷に響く。

嘆きのような音を立てながら大地を進む。

慟哭のように上げられた頭は天を突く。

落涙のように身体中から黒い何かを溢れさせ。

 

黒きそれは現れた。

 

「■■■■■■■■■■■────!!!!」

 

名をムシュマッヘ。

 

即ち七岐の大蛇。始源の毒蛇である。

 

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