魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「■■■────」
凝固した油のような濁った十四の瞳がこちらを睥睨する。
生物的な反応のない無機質なそれに、通信越しにランスター達後方支援が息を呑むのが聞こえた。
「……砲撃準備!!」
緊迫した空気の中、八神の号令が響き渡る。
尚も進み続けるムシュマッヘへと一斉にデバイスの切っ先が向けられる。
「後方部隊、ヴィレの発射は!」
【い、何時でも撃てます!!】
「合図と同時に即時連続一斉射!砲撃前の足止め頼むで!」
【……了解!】
地上戦力である後方支援は、本戦力の俺達が空中に居るため射線を気にすることなくその火力を撃ち込むことが出来る。
その間にこちらはこちらで砲撃の用意を進めると言った算段だ。
「ヴィーザル」
《
砲撃形態のヴィーザルからの回答に、魔力の装填速度を上げる。
いつぞやの形成発動状態とは比肩するとまでも行かずとも、それなり以上の火力は出せる筈だ。
高町達の砲撃魔法のチャージも相まってか、周辺の魔力濃度が一気に上昇する。
空中に数多の魔法陣がさながら天蓋の如く拡がった様は異様とさえ思える。
「ヴィレ一斉射……
そうこうしていると後方支援からの一斉射撃が始まる。
一瞬、空気を引き裂く音がしたかと思えば次の瞬間には同じく地上にいた
その肉体にダメージらしい損傷こそないが、勢い込んで突っ込んできた最前線の動きが僅かに止まる。
《
それだけあれば、十分だ。
「スターライト・ブレイカー!!」
「プラズマザンバー・ブレイカー!!」
「響け終焉の笛、ラグナロク!!」
次々と放たれる殲滅魔法がムシュマッヘの躯に殺到する。
数多の色で形成された極彩の破壊。
いっそ美しいとさえ感じるそこに、『黒』を差し込む。
俺が持ち得る現状最大の砲撃魔法を。
「百の御手を以て、十二の化身を打ち砕かん──」
砲口の魔法陣が変形し、分裂し、五つの擬似的なバレルへと変貌する。
「ヘカトンケイル」
星の光すら消し去るような黒が、大蛇を呑み込んだ。
天まで届きそうな黒煙が立ち上る。
リミッターを解除された殲滅魔法の一斉攻撃は渓谷の底の形を変えてしまっていた。
谷の中にもう一つ谷が出来上がったと言えばその威力が解るだろう。
最前線で動きの止まっていたウリディンムとバシュムは、耐性も何も関係無くその姿を無くしていた。
端から見ればもう決着は着いたと考えるだろう。
だが、今この場に居る全員がそれは『否』、と感じている。
「──作戦第二段階開始!!王様、シュテルちゃん!!」
【チッ、そう簡単には行かんか!】
【チャージまでの時間稼ぎをお願いします】
当然、そこで止まる八神ではない。
側面に展開していたディアーチェとシュテルが即座に魔法のチャージに入る。
それと同時。黒煙をまるで意に介さず大蛇がその姿を現した。
「無傷かよ……」
「わかってはいたけど、これはちょっとショックやわ……」
その白い鱗に煤すら着けずに悠々とした様子は、砲撃魔法を四発も食らったとは思えない程に変わっていない。
何らかの防衛処置が取られた形跡も無い以上、純粋に硬いということだろう。
話に聞く、核シェルターとやらより硬いと想定できる時点でおかしいが。
「後方部隊、ヴィレの連続投射開始!ウリディンムとバシュムを前に進ませんようにな!!」
【了解!】
「両側面及び本隊近接戦魔導士は動きの止まったウリディンムとバシュムを迎撃!」
【承知しました、我が主】
「砲撃魔導士は継続してムシュマッヘに砲撃魔法を!少しでも動きを止める!!」
【了解!!】
八神の指示を受け、それぞれが動き出す。
そんな中俺は、ムシュマッヘを見ていた。
「……お目当ては俺ってか」
その眼が相も変わらずこちらを睨んでいる。
最初は偶然かと考えたが、どうもそうでは無いようだ。
蛇の知り合いなんざ居ないし、あんな奴に睨まれる筋合いも無いのだが。
実際問題狙われてしまった以上、やれることは決まっている。
「八神」
「わかってる。でも……」
「気にすんな。何となくこうなりそうな気はしてたしな」
招待状だの何だのと……奴らはどうにも俺を狙っている節がある。
であればムシュマッヘがこちらを目標と捉えるのは何らおかしくはない。
今、この状況に於いてはそれがプラスに働く。
「……わかった。無理はせんようにな」
「任せろ」
短い会話を終え、俺は改めてムシュマッヘを見る。
全くもって情熱的だな。微動だにしねぇ。
「期待に応えてやるよ」
動き出した戦場の先、白い大蛇の元へと。
魔法陣を蹴りつけて飛翔した。
多種多様な魔法が飛び交う中を突き進み、ムシュマッヘの前に到着する。
その眼は相変わらず俺を捉えて離さず、かと言って敵意も殺意も感じない。
注視はするがそこに何の意思も無い。人間ならいざ知らず、獣の類いの体でそれはあまりに不気味だ。
「視ているが、見ていない、か」
まあ、だから何だと言う話だが。
結局の所やることは変わらない。
「ヴィーザル」
《
(……そういや、正式な手順踏んで使うのはこれが始めてだな)
改めてハプニングだらけのこれまでに苦笑する。
とはいえ、何ら後ろめたさもないというのは中々どうして気分が軽い。
「
ヴィーザルの重々しい黒鉄の装甲が割れ開き、純黒の焔がその身を顕す。
スイッチが切り替わる感覚。
人でなしから化け物に。
戦闘から抹殺に。
生存から殺害に。
─────そして 因果には 応報を。
瞬き一つ。それだけでクレン・フォールティアと言う存在は同じ名前の兵器に成り果てる。
「■■■──」
そこで始めてムシュマッヘの眼に『揺らぎ』が生まれた。
どうやら俺を脅威と認識したらしい。
七つの首、十四の目が一斉に意思を持って殺さんと睨んでくる。
実に『好都合』だ。
「■■■■■──!!」
睨み合いに飽きたのか、或いは殺意が先走ったか。
七つ頸の一つが頭を振り下ろしてきた。
圧倒的大質量。その一振だけで恐らく戦略級魔法と同等の一撃。
当たれば容易く肉片一つ残らず消えるそれが墜ちてくる。
衝撃。
中空で炸裂したそれは渓谷の岩肌を削り飛ばし、同高度の雲を消し去った。
「──成る程な」
戦略級魔法と同等は強ち間違いでは無いようだ。
だが、それだけだ。
──────これでは足りない。これでは死ねない。
「■■■!!」
頭上の首が違和感に気付いたのか、鱗を軋ませる。
もう遅い。
その白い鱗に十字架を食い込ませ、無造作に
「返すぜ」
「────」
断末魔すらなく、白蛇の首が焼失した。
振り下ろされた質量……その威力をそのまま文字通り返した結果がこれだ。
──────脆いにも程がある。
残された六つの頭が警戒と殺意を込めてその顎を開く。
漸くその気になったらしい。
──────首が一つ飛んでそれとは随分とノロマのようだ。
それじゃ、一つ。
「往くぞ」
蛇狩りの始まりだ。
皆様、よいお年を