魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
すいませんでしたm(__)m
「おいおい、ご自慢の拳は飾りか?」
「っの、くそが……!」
やり合うこと早数分。
相手の禿げ頭の野郎は腹から中身を垂れ流し、身体中は傷だらけ。
対するこっちは精々一張羅の防刃防弾性のコートが汚れた程度だ。
そもそも相手は拳一つで戦い、俺には銀鎖(こいつ)がある。
最初の一発こそ防ぐことになったが、それ以外の攻撃は何一つ当たっていない。
「こっちに、来やがれ!!」
「態々テメェの得意距離に突っ込むとかアホのやることだろ、シャブキメすぎて知能低下してんのかオッサン」
拳をむやみやたらに振り回しながら距離を詰めてくるオッサンをわざとらしくスレスレで避けて、銀鎖で背中の肉を抉る。
何時だったか拾ったこれだが、取り回しも威力も申し分なく、使い続けたらこの通り、今じゃ身体の一部のように使いこなせる。
よろけながらこちらに向き直った男が剥き出しの殺意を向けてくるが、俺にしてみれば慣れたモノで、別段恐怖も感じない。
「くたばれ、ガキがぁ!!」
「おら気張れよドランカー。足がふらついてるぜ?」
「───」
「ん?」
銀鎖を弄りながら挑発した所で、ふと違和感を感じる。
視界に薄膜一枚を張られたような感じがした。
「オオオオァァァァ!!」
「やかましい」
もうそんな事を知覚する余裕もないのだろう男が絶叫にも似た咆哮を上げて突っ込んでくるのを、そこらにあったコンクリート塊を顔面にぶん投げて黙らせる。
何だ?他に誰かが居るのか?
ハイエナの連中か、はたまた流れの浮浪者か。
どうであれ、今ここに居られるのはマズイ。出来ればコンパクトにすませたいが、相手が無駄にタフなせいで攻撃も大振りのが増えている。
下手に巻き込みたくはないが……
──ザザッ
「ぐッ──!?」
また、あのノイズが走る。
赤い、紅い、緋い、アカい、世界。
血の川、臓物と肉の山、燃える空、絶叫、慟哭、救いを求める声、諦観の狂笑。
死んでいく、殺されていく。
老いも若いも、男も女も、人もそうでないモノも、有機も無機もなく皆殺される。
「ぁぐ──」
吐き気がする。
同時に、抑えようの無い怒りも。
「くそ、こんな時に──!」
見れば男の方は右目が潰れているにも関わらず、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
だがお構い無しに最悪な景色は止まることなく流れ続ける。
迎撃の為に銀鎖を振るおうとしても集中が途切れて上手く動かない。
死ぬ、殺される。
血が、赤、灼ける空。
貫かれる、斬られる、焼かれる、刺される、溶かされる、潰される、裂かれる、抉られる。
違う、こんなものは違う、これは、人の死に方じゃない!
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い──!!
「が、アアアアアアアアアアアアアアア──ッ!!」
振り切れた感情と幻痛がココロを苛み、叫びを上げる。
彼我の距離がゼロになり、男が拳を振り上げた。
その時──浮遊感が身体を襲った。
「ァ?」
ぶつ切りの意識で何とか下を見ると、そこにさっきまであった歪んだレールと砂利で埋め尽くされた地面は無く、代わりに、暗闇があった。
ああ、これは落ちるなと理解した時にはもう遅く、俺と男は足掻くことすら出来ずに足下の暗闇へと落ちていった。
その最中、襤褸を纏った男を見たような、そんな気がした。
「なのはさん、あの人たち!」
スバルの悲鳴にも似た声が廃道に響き渡る。
なのは達が黒衣の男と禿頭の大男が戦う此処に辿り着いてすぐの事である。
血みどろの光景を確認して、即座になのはが認識阻害魔法を展開して周辺の景色を『元の状態』に上書きした所で、それは起きた。
突如として黒衣の男が絶叫したかと思えば地面にヒビが入り、そのまま穴となって二人を呑み込んだのだ。
二人の落ちた先を予想して、なのはは苦い顔になる。
「マズイね……レイジングハート、この穴の深さを測れる?」
《yes.Master》
予想が正しければ彼らの落ちる場所は──。
《I agree with 20 meters of depth and the destination.》
「やっぱり、か」
パートナーであり、武器であるロッド型インテリジェントデバイス、レイジングハートからの回答に納得しながらもままならぬ事態に目を伏せる。
とはいえ、このまま手をこまねいているわけにはいかない。
気持ちを切り換えてなのはは隊員たちへと振り返る。
「みんな、さっきの人たちが転落した先が今回の目的地である聖遺物の居場所なの。そこで私たちはこのままこの穴を使って目的地までストレートに行きます。そして転落した二人の救助と聖遺物の回収を同時進行で行います」
『了解!!』
「まずは降下。状況を確認後、二手に別れて救助と回収。それじゃあ行くよ!」
先頭として両足に小さな桜色の魔力翼を展開したなのはが穴の中へ飛び込むと、次いでスバルがインラインスケート型インテリジェントデバイス、マッハキャリバーからウイングロードと呼ばれる足場となる道を穴へと繋ぎ、ティアナと共に螺旋状に展開したその上を駆け降りる。
エリオは体力の低いキャロをお姫様抱っこするとウイングロードに乗り、スバル達の後を追った。
《10 meters of rest》
「魔力濃度も濃くなってきてる……みんな、気をつけて」
『はい!』
レイジングハートからの通達と共に肌で魔力の濃さを感じる。
はっきり言って異常だ。なのは自身が経験した中でもこれは『闇の書』に匹敵……いや、並ぶ程だ。
一体、何が眠っているのか。
何より気がかりなのは落ちてしまった二人だ。
迅速に救助しなければ命に関わる。
(間に合わせてみせる──!)
不安と焦燥、そして決意を胸に、彼女は降下する速度を上げた。
「いっつつ……あぁ、ちくしょう」
どうやら少し気を失っていたらしい。痛む頭に触れながら瞼を開ける。
あの光景はまだ脳裏に流れているが、無理矢理無視して状況を確認する。
上を向けば薄暗くてよく見えないが何人かの人間が降りてくるのがぼんやり見えた。
「そこそこ深いとこまで落ちたか」
足にのし掛かった瓦礫を退かして立ち上がって埃を払い、少し深く息を吸おうとして……むせた。
「ゲホッ、ゴホッ!……なんだこの濃さ」
周囲をよく見れば、粒子状に視覚化するほどの魔力が漂っていた。
たまに隔離街で実験失敗した腐れサイエンティストのラボのまわりで見かけたが、ここまでのモノは初めてだ。
息苦しいような、それでいて落ち着くような。
不意に、風の流れる音が聞こえた。
「ちっ」
ガゴンッ!!
咄嗟に銀鎖を巻いた左腕で飛来したレールを弾き飛ばす。
飛来した方向を向くと、やはりあの禿げ頭が居た。
「クレン……フォールティアぁぁぁ……」
「野郎に、ラブコールされたかないね……ッ」
止まない頭痛にしつこいオッサン。
最悪の組み合わせじゃないか……取る依頼間違えただろ、これ。