魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「何よ、あれ……」
上空で繰り広げられる光景に、ティアナは思わずそう溢した。
あの威容を誇る大蛇の一撃一撃が大気を震わせ、クレンに殺到する。
自分ならまず間違いなく瞬殺だと確信できるそれを彼は容易く受け止め、挙げ句に頸を十字架を叩きつけて消し飛ばしている。
普段から模擬戦ではあるが戦っている隊長陣も大概規格外だが、あれは違う。
凡そ人間の戦いではない。
凡そ人間の持ち得る力ではない。
……文字通りの、化け物だ。
「ティア!こっちはもうバッテリー切れそう!」
停滞しかけていた思考を、スバルの声が引っ張り上げる。
「……っ、予備バッテリーにリロード!!ローテーションで弾幕を途切れさせないようにして!エリオ、キャロ!」
「「了解です!」」
即座に指示を出し、ヴィレの銃爪を引く。
「……ああ、もうっ」
小さく息を吐く。
その声は微かに震えていた。
それは戦場への恐怖、或いは──。
「ちくしょう、キリが無ぇな」
もう何度目か忘れたが、ムシュマッヘの頸を殴り飛ばしながら悪態を吐く。
コイツの頸、消した先から再生しやがる。
それが七つ。
デカい上に超速再生とか面倒にも程があるだろ……。
「本体もろとも纏めて消し飛ばすしかねぇか……?」
周囲への被害を考えると普段ならやるのを躊躇うが、流石にそう悠長に構えてもいられない。
こうしている間にもコイツはジリジリと進んでいるし、下も徐々にだが押されてきている。
もとより物量と言う点において圧倒的なまでに差がある以上、こうなるのは分かっていた。
なので、ここいらで足止めだ。
「八神!!」
【作戦第三段階!!王様、シュテルちゃん!!】
【任せるが良い!】
【命令を受諾。崩落させます……!】
【前線魔導士は指定位置まで後退!ド派手に行くでぇ!!】
騒がしい通信を聞きながらもう一度頸を蹴り潰す。今度は少し手加減をして衝撃を全体に通すように。
「■■■■──!?」
芯まで通った衝撃が大蛇の身体をよろめかせる。
タイミングは、今。
【ルシフェリオン・ブレイカー!!】
【ジャガーノート!!】
見計らったかのように両サイドの
バランスが崩れた状態だ、ダメージは無くともその衝撃でもう立て直しは不可能だ。
──天を衝くような威容が、渓谷の底に頭を垂れた。
当然、これだけで終わりじゃない。
衝撃を与えるだけなら元より断崖越しに撃つ必要は無い。
あくまでこれは副産物。
本命は、撃ち抜かれて自重を支えられなくなった断崖、渓谷の一部だ。
腹に響くような地鳴りと共に、巨大な岩石の塊となった渓谷が大蛇を押し潰さんと崩落する。
「■■■■──!!」
絶叫とも取れる悲鳴を上げながらムシュマッヘが抵抗しようとするが、その頭一つの数十倍もある大質量に為す術なく地面に叩き付けられ土煙に沈む。
付近にいたウリディンムやバシュムも例外では無く、瓦礫に押し潰されていく。
「……酷ぇな、こりゃ」
上空からそんな様を眺めて、苦笑してしまう。
半月状に抉れた渓谷……元渓谷と、谷底に出来た瓦礫の山。地形破壊にも程がある。
環境活動家が見たら卒倒しそうだな、これ。
【こちら八神。全員生きとる?】
【近接魔導士組、全員無事です】
【側面組、同じく】
【後方支援組、大丈夫です】
「こっちも問題ない」
八神からの通信に答えながら地上に降り立つ。
目の前には渓谷の中程まで崩して出来た瓦礫の壁。この中にムシュマッヘが居る。
【クレン、どう?】
「……ま、そりゃ生きてるわな」
魔法を使わなくても、地響きだけで分かる。
元より超常の類い、この程度で死ぬ筈もないだろう。
「…………退がれ!」
叫んで、十字架の力を使って大規模防御魔法を構築する。
死ぬ筈が無い。死ぬ筈が無いのなら──
「■■■■■■■■■■■■──!!!!」
──反撃してくるのは、当たり前の話だ。
──────────。
閃光、衝撃。
さながら嵐の中に居るような感覚。
破滅的なまでの力の濁流。災害そのもの。
「───ッ」
それを防御魔法で受け止める。
一瞬か、はたまた何十分とそうしていたのかは分からない。
閃光が消える。
明滅する視界が徐々に彩りを取り戻し……
そして、現実を顕にする。
「おいおい……マジかよ」
後ろを振り向いた瞬間、思わず乾いた笑いが漏れた。
───渓谷が、消えていた。
俺を起点として、その左右。
存在していた筈の渓谷の岩肌が、無い。
有るのは硝子化し、赤熱した地表だけだ。
そして正面には……
「■■■■──────」
七つ頸。その大きく開いたそれぞれの口からは白煙が立ち上っている。
【──ちら、────るか────こちらランチ!!おい、何があった!?】
「ヴァイスか、生きてやがったか」
【勝手に殺すなよ……八神総隊長は】
【生きとるよ、なんとかね】
「残りは?」
【みんな私の近くに居る。無事よ。ありがとうな、クレン】
「…………で、どうするよ」
口からどころか、全身で廃熱し始めたムシュマッヘを警戒しながら八神に問う。
足止めは意味を為さず、赫海を塞き止める渓谷は消えた。現にあの赤黒い水が徐々にだが流れだしている。
状況的には、詰みに近い。
手はあるにはあるが──。
「──いやはや、素晴らしい」
と、不意に声が聞こえた。
「予想では既に君たちは敗走、或いは何人かは僕の家族になっていたんだが……」
ムシュマッヘの身体、その上から。
「それを覆した。素晴らしい、改めて称賛させて欲しい」
奴は、現れた。
「───久しぶり、そして初めまして」
張り付けた笑顔を浮かべて。
「僕の名はフィル・マクスウェル──君たちの、敵だ」
久々な上に短くて申し訳ありませんm(__)m