魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
クレンが倒れて一日が経った。
当人は未だに目を覚まさず、時折うなされながらも医務室のベッドで眠っている。
「…………」
ガラス越しに彼のバイタルを見つつ、シャマルは濃い目に淹れたコーヒーに口を付ける。
あれから一晩。彼女はこうなった原因を探るべく過去のデータを洗っていた。
戦闘時のバイタル、定期検診のデータ、その他諸々……。
「結果として解ったのは、生命体としての矛盾した状態である。か……」
シャウカステンに貼られた幾つもの画像を眺めて溜め息を吐く。
稼働時間こそ短いものの、それなりに生きてきたつもりだが、こんな状況は初めてだ。
以前、シャマルは彼の身体を診て『人間をやめている』と言ったが、今回のこれはその具現とも言えるだろう。
「……どう報告したものかしらね、これは」
苦笑混じりに呟いた声は、心電図の音に呑まれて消えた。
一方、フローリアン・ラボでは。
「む?むむむむ?」
シャリオがモニターとにらめっこをしていた。
フローリアン姉妹達の協力で作られた臨時のデバイス研究室では他にも職員が慌ただしく歩き回っているが、彼女に近付こうとする者は居ない。
というのも、昨日から人にお見せ出来ないような顔で聖遺物のデータを可能な限り調べては唸っていたからである。
触らぬシャリオに祟りなし。それがここでの暗黙のルールだった。
とは言え、渡すべきデータなどはちゃんと渡すのだが。
「形状は様々、質量兵器っぽいのから剣、槍の武器状の物、さらには儀式道具めいた物までバラバラ……それぞれ特定の人物が近付くと共振のような振る舞いを取る」
キーボードを叩く指は止まらず、むしろ加速していく。
「電気による反応は無し。魔力による反応は微弱ながら有り。魔力を吸収するような動きは有ったけど、それで活性化するようなことは無かった……動力源が魔力である事が多いロストロギアとはまた違う動力源ってことかな」
検証結果を口にしながら頭の中を整理していく。
「魔力の性質に近くて、かつ、動力源になるような物か……ん?」
ふと、引っ掛かりを覚える。
「共振、吸収……動力源の違い……魔力ではない何か……」
モニターに映るデータが切り替わり、クレンのバイタルが映し出される。それに付随する幾つものグラフがある事実を浮き彫りにする。
「嘘でしょ、まさか──」
そして気付く。気付いてしまった。
聖遺物の動力源。クレンの『魔法』の大元。矛盾した肉体と倒れた原因が何なのかを。
「……それで、何かわかったんかな」
それから数時間後。ブリーフィングルームに集まった面々を代表して、はやてがシャマルとシャリオの二人に問う。
「はい」
「ええ」
対して二人はただ首肯で応える。
最初に口火を切ったのはシャリオだった。
「結論から言います。彼の──いいえ、聖遺物の動力源は…………命です」
その一言に、ブリーフィングルーム内がざわめき出す。
それをはやては手を挙げることで抑えて、続きを促す。
「……それで」
「えぇと……これまでも似たような性質を持つロストロギアは確認されて来ましたが、殆どがシステム的な暴走──つまり後天的に発現したものです。そしてそのプロセスはリンカーコアの魔力精製量を上回るスピードでの魔力吸収に肉体が追い付かず、結果として命を落とす、と言うものです」
ですが、と前置きしてシャリオは大型モニターに聖遺物のデータを映し出す。
「聖遺物は違います。最初から
「……まるで、闇の書やな」
重苦しい沈黙の中、誰にも聞こえない程小さくはやては呟く。
「……聖遺物の力は皆さんも知っている通りでしょう。そして、その力はどう見積もっても人ひとりの命では賄えない。恐らくですが、聖遺物は命……魂をその内部にストックしている」
「魂のストック……フォールティアの元居た場所……まさか」
「そうです──聖遺物は殺した人間の魂をメインの燃料にしている可能性がある」
シグナムの問いにシャリオは努めて冷静に回答する。
「つまり、聖遺物を継続的に使うには人を殺し、魂を奪う必要がある……という事です。魂のストックが無くなった場合、自身の魂を消費する事になり、最後は」
「聖遺物に魂を吸い付くされて死ぬ……ってことかよ」
胸糞が悪いと言わんばかりにヴィータはデスクに拳を叩き付ける。
はやてに仕える騎士達にとって、この事実はあまりにも重かった。
「……ここからは、私が話すわ」
沈黙を振り払うように、シャリオの後を継いでシャマルが前へ出る。
モニターが切り替わり、今度はクレンのバイタルデータが並べられた。
「聞いた通り、聖遺物が魂を燃料に動くものだとして……彼の状態を報告するわね。……外的、内的損傷無し。内臓運動異常無し。血液検査異常無し。至って健康のように見えるけれど、実際には違うわ」
データの一部を抜き出し、拡大して表示されたそれに一同は首を傾げる。
グラフのようだが、それが何を示しているのかまでは分からない。
「これは彼の脳を検査した際のデータを纏めたもので、左から右に向かって新しい物になるわ」
「……下がり幅は狭いけど、右肩下がりになってる」
「その通りよ、キリエちゃん。……これはね、彼の脳から筋肉に送られる信号の強さなの。そしてそれは日を追うごとに弱くなっていて、弱くなるスピードも上がっている。状態としてはALSのそれに近いけど、筋肉の衰弱は起こっていない。まるで脳を介さず動いているように、ね。……とはいえ、脳波が弱まっているのは確かよ」
「結論は?」
「……このスピードで行けば、あと二日」
「…………そっ、か」
二日。シャマルの告げたたった二文字がはやてにのし掛かる。
それは、マクスウェルが宣告したタイムリミットでもある。
…………。
沈黙がブリーフィングルームを満たす。
はやては考える。
彼の力は強力だ。こと、今回の作戦はその力があったからこそ成立し、死者0名という奇跡めいた結果に導いてくれた。
今後の作戦においても同様に、戦力として隊長陣と共に主軸となるのは間違いないだろう。
部隊を率いる者として考えるならば、1人の犠牲で多大な戦果を得られるなら迷わずそれを選択するべきだ。
だが……
(……冷酷には、なれんなぁ)
八神はやては、選べなかった。
そしてそれは此処に居る全員も同じだった。
「……クレンは今回の作戦から離脱──」
「おい」
はやてが言い切る直前、ここに居ない筈の声が響いた。
「…………」
ブリーフィングルームの入り口に、クレンが立っていた。
そのまま荒々しく歩みを進め、はやての前に立つ。
その表情は歩き様とは真逆に、全くの無表情だった。
はやてもまた、無表情を繕ってその視線を受け止める。
「俺を今回の作戦から外すってのは、本当か」
「本当や。理由は……クレンのが解ってるんちゃう?」
「ああそうだな。もうすぐ死ぬらしい」
「だったら」
「だが。それだとアンタらが今度は死ぬぞ」
「死なんよ」
「死ぬな。解ってんだろ、リスクが高過ぎるって。全員仲良くくたばるよりも、俺一人死ぬほうがマシって事に」
「──クレン!!」
「…………」
悲鳴にも似た一喝が、クレンの口を止めた。互いの視線が交錯する。
「……チッ、分かったよ」
暫くの沈黙の後、諦めたように舌打ちしてクレンは踵を返した。
「…………状況が悪くなったら、好きにやらせてもらう」
去り際に一言残して。
ブリーフィングルームのドアが閉じきると、はやては強張っていた肩の力を抜いた。
そして改めて告げる。
「作戦に変更無し。クレンは今回の作戦から離脱や」
「────ぐ」
視界が赤い。歪む。
ラボからランチへと戻る道を歩きながら、奇妙な……いや、不愉快な感覚に襲われる。
眠りから覚めて、離脱を告げられてすぐこれだ。八神にあんな啖呵切ったのにこの体たらく。
そりゃアイツも離脱しろと言うか。
「ああ、クソっ、動きにくい」
眩暈までしてきやがった……。
たまらずラボの壁に手をついて倒れるのを防ぐ。
明滅と歪曲を繰り返す視界が現実感を薄れさせ、幻聴にも似た声が頭の中を壊れたジュークボックスのように反芻する。
【コロセ、コロセ、コロセ】
『ウバエ、ウバエ、ウバエ』
「うる……せぇ」
このまま意識を失うのはマズイ。失ったらただ倒れるだけじゃないと勘が警告してくる。
足に力を込め、耐える。
幻聴が遠ざかっていく。その代わりに今度は脳髄に剣が刺さった。
「か、ぁ」
違う、頭痛だ。
麻酔無しで神経を焼き切るような痛みが思考を散らせる。
痛い、痛い、痛い痛い痛い──。
【コロセ】
「……っ」
ダメだ。此処に居たら俺は。
「ヴィー、ザ、ル……!」
離れなくては。はやく、はやく。
ヴぃーザルがなにか言ってるきがするが、ムシ。
セッとアップを済ませて加速魔ホウ、展開。
「い……け……!!」
遠クへ、とにかく、遠く────。
オレが|アい「つらを
コ[ロサナ/イために