魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
──夢を、見ている。
「ああ、僕はきっとこの世界で幸せ者だよ■■■■■」
「ふふ、おかしな人。これからもずっとに決まっているでしょう?■■■■」
陽気な日差しと、穏やかな潮風。
花が舞い、多くの人が祝福する、一生で最も大事な日。
隣に座り、クスリと笑う愛しの君。
これからの未来に思い馳せれば、確かに彼女の言うとおり、ずっと幸せな時が続くのだろう。
ずっと弱っていた父も、漸く安心させられる。
妻を愛し、子を抱き、年を取り、そして穏やかに……。
どこにでもある日常のような生活が待っている。
海の陽射しに"浅黒く"なった掌を握る。
「そうだね。ずっと……ずっとさ」
──夢を視ている。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
僕は、ここに居る。
暗い。寒い。冷たい。
僕は罪人じゃない。なのにどうして。
こんな岩室のような監獄に囚われなければならないのか。
逃げなければ。帰らなければ。
彼女が待っている。父は心労が酷いだろう。きっと皆だって──。
「…………ッ」
監獄の床を削る。掘る。
大丈夫だ。僕なら……行ける。
「──もし。誰か居るのかね」
「……!?」
ぐらついた床の底石の向こうから、声が聞こえた。
──夢を、観ている。
「──良いかね。■■■■君」
あの日からずっと僕を導き、照らしてくれた■■■■神父が、腕の中で弱っていく。
その声はご老体の筈なのに若く、そして強かった。
「何度も、何度も伝えたが……あの島に行きたまえ。君にならば、託せる。私には、もはやたどり着くことは叶わん」
「そんな……神父!僕には……!」
戸惑う僕の腕を掴み、神父はこの暗闇の中ですら輝いて見える翡翠に似た眼で見据えた。
それは何処までも力強く、何処までもか弱かった。
「総てを君に託そう……■■■■・■■■■君。私の死を使って、この監獄から出たまえ。君の"望み"の為に、あれを使うのだ」
瞳から、光が失われていく。
「──元より、私には──渇望など──」
──夢をみている。
「──何故、あいつが……!」
「ハハ……嘘だ。お前、お前が……?」
「あ、ああ……■■■■、■■■■!!どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてお前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
世界は、理不尽に溢れている。
三人。"私"を陥れた存在に復讐を果たして、その思考に至った。
なぜ正しき行いをした者が報われず、悪しき行いをした者が甘い汁を啜るのか。
私にはそれが許せなかった。
だからこそ復讐を果たし、その過程で救えるものは全て救ったつもりだ。
私を慕う者、嘗ての恩師、罪なき子供、苦しめられた者達……。
かつて囚われていたあの監獄島の上から、最後に救った二人が手を振っている。
「…………」
進む船の上からそれを眺め、思う。
私の復讐は終わったと。同時に、これからが始まりだと。
「……世界は、理不尽に溢れている」
自然と、声が溢れる。
「これから私は……その理に抗おうと思う」
長かった監獄生活ですっかり白くなった掌を握る。
「きっと、穏やかな日々では無いだろう……それでも、着いてきてくれるか?」
傍らに立つ少女に問い掛ける。
答えなんて解りきっているのに。
長い髪を風に遊ばせながら、少女は笑って見せた。
黄昏に染まるその笑顔はどこまでも輝いていた。
「ええ。きっと、穏やかでは無いのでしょう。─────それでも■■は、貴方を命を掛けてお慕いしております」
「そうか──」
それだけで、十分だった。
少女の手を握る。
船は、風に乗った。
「では往こうか──"世界"と戦いに」
──夢が、終わる。