魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

37 / 91
/29 Rückgabe

 

ぐしゃり

 

「…………あ?」

 

肉を潰す嫌な感覚に、意識が戻る。

ぼやけた視界を瞬きではっきりさせると、振り抜いた拳がラーム・ラハムの胴体を吹き飛ばしていた。

 

どれくらいトンでたんだ?

 

鬱陶しい声と衝動に意識が持っていかれた間の記憶は当然無い。

辺りを見れば死体の山。これを全て俺がやったんだろうか。

ラーム・ラハムの下半身を蹴り飛ばして山の一部にしてやると、視界の端にヤツを見た。

 

「で、どうだった?」

 

「笑うしか無いね、全く……こうも差を見せられては僕の立つ瀬がないよ」

 

俺の問い掛けに、肩を竦めたのはマクスウェルだった。

今のが最後だったのか、周りにはもう誰も居なかった。

 

衝動は、すっかり消えている。

 

「ともあれ、これで餌付けは終わり。気分はどうだい?」

 

「最高に最悪だな」

 

感覚で解る。今の俺は満たされている(・・・・・・・)

ここまで来れば嫌でも理解する。

聖遺物の燃料は魂で、今の俺はラーム・ラハムを殺し尽くしたことでその魂を吸収したという事に。

全くもって最悪の気分だ。

 

「テメェ、コイツら作んのに何れだけの命を使いやがった」

 

「一体辺り、人間10体だね」

 

「……クソ野郎が」

 

吐き捨てる。

そのせいなのか知らないが、囁き声が『内側』からも聞こえるようになってしまっている。

怨嗟……というよりは救済を求める声。

それが幾百、幾千と大合唱だ。衝動が無くなったというのに頭を抱えたくなる。

 

「んで、どうすんだよ。餌付けが終わったから、昼寝でもさせてくれんのか?」

 

「お望みならそうしようか?とはいえ、帰って貰っても構わないけどね」

 

「は?」

 

思わず間抜けな声が出る。

 

「言ったろう?目的はあくまで餌付け。君という器が満たされた以上、僕の目的は完遂された。後は君の自由さ」

 

肩を竦めて笑うマクスウェルには、他意は無いようだ。

先程まで感じていた威圧感も消えている。

帰ると言えば本当に帰してくれるだろう。

 

「まあ、戦うのならそれも構わないよ。あまりオススメはしないけど」

 

「…………」

 

……無理だな。今やりあっても勝負にすらならない(・・・・・・・・・)

殺さなくてはいけないと叫ぶ本能を、理性が抑えて結論を下す。

多少は食い付けるだろうが、そこが関の山だろう。

 

「チッ」

 

堪らず、舌を鳴らす。

つまりはコイツの言う通り、さっさと逃げ帰るべきということだ。

全く、忌々しい。

 

「帰る。ヴィーザル返してくれ」

 

「おや、気付いていたのかい?」

 

「バレてねぇとでも思ったか?」

 

手を出すと、マクスウェルがいつの間にか盗んでいたヴィーザルを投げ返して来る。

それをキャッチして踵を返す。

長居は無用だ。

 

「じゃあな。次は殺す」

 

「楽しみに待っているよ。蛇の尾を持つ虎よ」

 

ムカつくような言葉を最後に、俺は玉座の間を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレン・フォールティアの背中を見送り、その気配が消えたのを確認して、マクスウェルはため息混じりに苦笑した。

 

「……やれやれ、ラーム・ラハム50人が手も足も出ないとはね」

 

堆く積み上がった死体の山。

丹精込めて作り上げた愛娘達。その身体に宿るものは最早無い。

 

その山に手を翳し……握る。

 

途端、山はぱしゃり、とあっけなく水のように弾けて消えた。

特に感慨もなくそうして娘達を弔ってから、マクスウェルは改めて考える。

 

「ラーム・ラハム50人を殺す合間に、赫海からも魂を何割か持っていかれたか……全く、規格外にも程がある。本物とはこうも……」

 

違いすぎる。

あれが途上?不完全?冗談じゃない。あれが聖遺物の使徒?だったら我々は何なんだ。

あんな者が更に位階を上げる?

……無理だ。制御なんて出来る筈が無い。

 

目的の為とはいえ、恐怖せずには居られない。

あれは獣だ。今こそ檻に収まっているが、何れは我々を喰い殺す、怨讐の獣だ。

 

「だが、やらなくては……やらなきゃいけないんだ」

 

全ては理想の為に。

新世界の為に。

『本物』を超越する。

 

「大丈夫……僕にはこんなにも家族が居る。そうさ、最後に笑えればそれでいい」

 

不意に出た言葉。果たしてそれは覚悟か。或いは、虚しい励ましか──。

微かに震える彼の傍らには、誰も居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にあっけなく出れたな……」

 

来たときと同じように大きく開いた穴を通って赫海から出る。

道中何があった訳も無く、何故か肩透かしを食らった気分になった。

いや何もなくて良かっただろ、と虚しくセルフツッコミして気持ちを切り替える。

改めて周囲を見渡しても追撃が来る様子も無い。

 

「さて、と」

 

当初の目的であったマクスウェルの殺害は達成出来なかったが、ヤツのおかげ──と言うのも癪ではあるが──で殺人衝動は無くなった。

と同時に、何かに近付いているような、奇妙な感覚がある。

まあこれは後で良いだろう。兎に角、今はここから去るのが先決だ。

なのだが…………。

 

「どっち行けば良いんだ……?」

 

地図を起動しても、赫海のど真ん中なだけあって座標が滅茶苦茶だ。

これじゃ現在地すらわからない。

 

「ヴィーザル、何か方法は──」

 

【────クレン!!】

 

ヴィーザルに訊こうとした所で、割って入るように声が響く。

それはよく知っている声だった。

 

《クレン、聞こえるなら応答して!》

 

「ああ、聞こえてるよ。八神」

 

応えなかったら何度も繰り返しそうなくらい必死な声に、返事をすると、心底安心したように息を吐く音が聞こえる。

 

「……悪い、脱走しちまった」

 

【それは後でしっかり話するから覚悟しとき】

 

「…………おう」

 

これ帰ったら無事じゃ済まねえヤツだな……まあ、当然か。

しかし、どうやってこっちに通信を繋げられたんだろう。

 

【ヴィーザルがずっと信号を送り続けてくれたんよ】

 

「……お前」

 

必要と判断しました(Für notwendig befunden)

 

ナイス過ぎる。

 

【兎に角、今そっちにルート情報送ったからさっさと帰って来ぃ】

 

地図を見ればちょうど帰還ルートが小気味良い音と共に表示された。

これなら座標がイカれてても問題なく帰れるだろう。

 

「了解。追手も無さそうだ。さっさと帰るさ」

 

【──待ってるから】

 

八神の声が遠ざかる。それに妙な感覚を感じながらも、俺は帰還の途に着く。

 

 

 

 

 

──振り返って見た赫い海は、変わらず声が聞こえた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。