魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「クレン・フォールティア、帰還した」
「……おかえり」
フローリアン・ラボの入り口で待っていた八神が安堵した表情で笑った。
結局あの後も特に問題も無く、こうして無事に戻ってこれた。
行きとは違い、今は意識もハッキリしている。
「色々聞きたいこと、言いたいことはあるけど……先ずはシャマルのとこで診てもらい」
「……ああ」
堪えるような八神の顔に何と返せばいいか分からず、頷くことしか出来なかった。
その後、シャマルの居るランチまで向かう道中では、高町達実働部隊、フローリアン姉妹とその家族に全力で心配された。
別に無用だと言ったら高町の雰囲気が『OHANASHI』モードになったので全力で謝った…………死ぬかと思ったぞ。
で。
「なんで最後がお前なんだよ」
「心配して来た友人に対して酷くね?普通喜ぶとこだろ」
残念がりながらも、あっけらかんと肩を竦めるヴァイスがランチの前に居た。
「ま、お前さんなら無事だとは思っちゃいたが、前よりも元気になってねぇか?」
「……まあな」
あったことがあったこと故に正直に伝える訳にもいかないので曖昧に返す。
それで察したのか、ヴァイスは「そうかい」とだけ口にしてから小さな箱を投げてきた。
「これは……」
「忘れ物だ。ラボに落ちてた」
見ればそれは、俺の煙草だった。
「今から診察だってのに渡すか普通?」
「吸ってないんだからノーカウントだ、ノーカウント」
いたずらっぽくニシシ、と笑って俺の肩を叩くとヴァイスは歩き出した。
「今度は落とすなよ~」
と呑気な声を残して。
おかげでこっちはすっかり肩の力が抜けてしまった。
……気を遣われたか。全く、お人好しが。
「……行くか」
何とも言えないむず痒さを誤魔化すように、俺はランチの扉を開いた。
「………………完全回復ね」
唖然といった体でそう言ったのは、俺の前に座る白衣姿のシャマルだ。
悩ましいと言わんばかりに額に当てられた手に、金糸の髪がかかる。
「何があったか……は、あとで聞くとして。肉体面は特に問題無しね。むしろ以前の状態より良くなってるわ」
「確かに、前と比べても身体が軽い感じがあるな」
「本当、どうなってるのかしら」
「俺が聞きたいくらいだ」
十字架を握ってからこっち、包帯だの薬だのと無縁になっている。怪我をしようが速く再生するから不用なのだ。
それを当たり前に受け入れている俺も俺なんだが。
「とりあえず、診察は終わりよ。本当なら安静にして欲しいけれど、それも言ってられないし……」
「わかってる。大人しくしてるさ」
ここまで言われてまた脱走を考えるほど俺もバカじゃない。どうしようもない理由があったからああなっただけだ。
その理由も解決したんだし、医者の言うことくらいは聞く。
さて、用事も済んだことだし、八神のとこに行くとするか──。
そう思っていた時期も、俺にはありました。
「リンカーコアの損傷はやっぱり無し、ヴィーザルの魔法使役履歴にも魔力使用の形跡は極少量!!つまり魔法の起点につかっただけ……ってコト!?そうなるとやっぱりあの火力は投入した魂の量で決まる、場合に依っては使用者の命を削る諸刃の剣なのね!シミュレーションで魔力や電力置換じゃ勝てない筈よね、となるとリンカーコアの外部装置による調整補強じゃなく増幅を前提とした設計が必要になる!フォートレスに増幅機能を追加しながら攻撃兵装に次元断層を発生させる機能を付けられればウリディンム達だって倒せる!!ね!!」
「ね!じゃねぇよ!!」
ランチを出て直ぐに
連行→ヴィーザル奪取→データ取り→解説。
ここまでで1分。隔離街のマッドでもこんなに速くねぇぞ……。
「ふぅ……すっきりした」
なに果てたような顔してんだこいつ……。
どうにかしてくれと回りの研究員連中を見ると、サッと全員視線を反らしやがった。
ああ……うん、こいつらも被害者か。
「いやぁ、ごめんなさい!君とヴィーザルのお蔭で今回の対抗策が色々出て来ちゃって、つい♪」
「おいこいつ殴っていいか?」
普段まとも……まとも?な筈なのにデバイスが絡むとなんでこんな酷くなるのか。
心配された俺が言うのも何だが、こいつの頭が心配だ。
「さっと見たけどヴィーザルにも異常は無し、外装の傷もそこまで酷くないから、こっちで治しておくね?」
そしてこの落差。
こいつのスイッチは一体どこにあるんだ……。
「ああ、うん。頼んだ」
「時間取らせちゃってごめんね?総隊長のとこ行くんでしょ?」
「一応な。何があったかも話さねぇとだし」
内容が内容だからあまり話したくは無いが……こればかりは仕方ない。
「そっか、それじゃあ気を付けてね?」
「?……ああ」
ヴィーザルをシャーリーに預け、研究室を後にする。
気を付ける……って何をだ?
で、漸くブリーフィングルームに来たわけで。
「改めて、クレン・フォールティア嘱託魔導士、帰還した」
「はい、ご苦労様」
二人しか居ないそこで形式ばかりの挨拶を交わす。
ちょっとした間の後、お互いに肩の力を抜く。堅苦しいのはここまでだ。
手近な椅子に腰掛けた所で八神が口を開いた。
「ホントに無事でよかったぁ……」
「……悪かったな。あんなこと言って直ぐにその、脱走しちまって」
「なんか理由があったんやろ?それを聞かんと、怒るもんも怒れんわ」
「違いない」
顔の前で手を組んで、話を聞く姿勢になった八神に、俺は脱走してからの事を話す。
意識も無く森に逃げ込み、ラーム・ラハム達に襲われたこと。
捕まってマクスウェルの本拠地に連れていかれ、『餌付け』と称した戦闘があったこと。
時間にして三時間程の事を包み隠さず話した。
「──以上が、俺が脱走してからの顛末だ」
「……成る程」
話を頭の中で整理しているのか、八神は目を瞑り「んー」と小さく唸った。
そしてたっぷり二分後、ぱっと瞼を開いた。
「とりあえず、状況は解った。今回は聖遺物の暴走……というよりは捕食本能の作用って事で処理しとくわ。やけど、流石にお咎め無しってワケにはいかんし」
「まあ、そうだろうな」
敵前逃亡ならぬ敵陣特攻、それも上官命令無視ともなれば謝ってハイおしまいとは出来ないだろう。
罰は甘んじて受けるとしよう。
「ちなみにクレン、体調は大丈夫なん?」
「あ?ああ、問題ない」
シャマルには安静にして欲しいとは言われたが、聖遺物を使わない限りはさして身体に影響はないだろう。
なのでそう答えた。答えてしまった。
「そっかぁ、それは良かったわぁ」
見れば八神の大変いい笑顔。
おかしいな、笑顔なのに寒気がするぞ?
そのままパチン、と八神が指を鳴らすと勢いよく入り口の扉が開かれ、シャーリーがこれまた素晴らしい笑顔で入ってきた。
「罰としてクレンには、シャーリーのデバイス開発の手伝い他、ラボの仕事の補佐をやってもらうわ」
「総隊長、いいんですか?いいんですね?持ってきますよ!?」
「ちょ、ま、八神テメッ……!?」
急転直下の事態に混乱しているとシャーリーに右腕を掴まれた。
いや力強ぇよ、デバイス絡むと肉体のリミッター外れんのかコイツ……!?
次いで左腕も掴まれたとそちらを見れば、アミタがニッコリとしていた。
「ア、アミタ?これは一体どういう……」
「はい!クレンさんとはまだ戦闘連携について話してなかったので!あと色々と手伝って貰います!!」
ああ、うん。大変元気な事で。
なんかもうツッコミ入れる気力が削がれた……。
「じゃ、頑張ってな~」
「…………ぉ~」
八神の白々しい応援を聞きながら俺はブリーフィングルームから引きずられていくのだった。
……これがドナドナってヤツかい、シスター…………。