魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
マクスウェルの刻限まであと一日。
流石のラボもいよいよと言う雰囲気になり、皆が皆、慌ただしく動き回っている。
そんな中、スターズ、ライトニング分隊の隊員たちはと言うと……。
「負けました……」
「あ、ありがとうございました」
イリス、ユーリとの模擬戦に明け暮れていた。
地面にへたりこんだスバルに、ユーリが手を差しのばして立ち上がらせる。
小柄で儚げな印象とは裏腹な力強さに、スバルはやはり強いと感じた。
「前よりは動けてたわね、皆上達してきてる。特にティアナの指揮は格段に上がってるわ。頑張ってるのね」
「ぁ……ありがとうございます!」
イリスからの褒め言葉に、まさか褒められるとは思っていなかったのか、ティアナは一瞬呆けてから慌てて返礼した。
そもそも何故こうなったかといえば、端的に人手不足である。
隊長陣は一日のほとんどを各班への指揮や会議に費やさざるを得なくなっており、その忙しさはティアナ達から見ても大変なものだと理解できる。
なので割り振られた仕事を終えた後に、自主的に基礎訓練をやってはいたがやはり限界はあるもので。
どうしたモノかと頭を悩ませていたところ、偶々手透きだったイリスとユーリが模擬戦相手に手を上げたのだ。隊長二人には止められたが絶対に無理をしないことを条件に飲んでもらった。
違う環境故か、それからの成長は目覚ましく、イリスの言の通りティアナのそれは最も大きいものだった。
「私達も危ないとこが何回かありました」
「確かにね。ほぼ初見の攻撃を躱されたときはホントにびっくりしたわ」
戦術眼、或いは戦略眼、とでも言うのだろうか。
そういった面での成長度合いは凄まじいと呼べるものだった。
こちらの攻撃をまるで『分解』でもするような戦術は、圧倒的な力を持つユーリをして危ないと判断できる代物だ。
何より、それを信じて実行できるスバル達もまた驚異的なのは言うまでもない。
「さ、模擬戦はおしまいよ。私達はこれからラボに戻るけど、そっちは?」
「少し反省会をしてから戻ろうかと思ってます」
「了解よ、なのは達には伝えておくわ」
「皆さん、お疲れ様でした」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
ユーリの労いに四人揃って礼をし、その背中を見送る。
姿が見えなくなった所で頭を上げて、姿勢を崩した。
「さ、ストレッチしながら反省会よ」
パンっと手を叩き、ティアナが場の空気を切り換える。
それに伴ってそれぞれが身体をほぐし始めた。
「いやぁ、最後惜しかったね~」
「ユーリさんの鎧装に傷は付けられたんですけど」
「傷は傷でもかすり傷ね……被弾判定には入らないでしょ」
「残念でした……」
「キュー……」
ポキポキと小気味よく骨を鳴らしながら思い思いに口にしていく。
「けどさ、途中のエリオとの連携は良かったよね!」
「ウィングロードを檻に見立て、足場を確保しながら戦う……これなら陸戦の僕も空中で動ける……ティアナさんの作戦のおかげです」
「あそこは良い線行ったと思ったのよねぇ……」
ウィングロードは構造と術式がシンプル故に頑丈だ。
それをイリスを中心に包むように展開する事で、空中でありながらエリオのような陸戦魔導士も地上と同じように戦える。
これによって二対一を作り出しつつ相手の連携を切る作戦だったのだが……。
「鎧装のパンチ一発で粉砕されるとは思わなかったわ」
分断したはずのユーリが一撃でウィングロードの檻を粉砕した時は「ウソでしょ……」と声が漏れてしまった程である。
「私とキャロの二重バインドも悪くなかったわね」
「僕が間に合うのがあと一瞬速かったら、一撃入ってたかも……」
「想定より割られるのが速かったから、仕方ないわ。スバルのマッハキャリバーでも間に合わなかっただろうし」
「だね。あれは私でも無理だったかな」
動きを拘束して一撃。シンプルだが堅実なこれもまた攻撃を通すには至っていない。
その後も話題が尽きることはなく、あーでもないこーでもないと話していると通信が入った。
【皆聴こえる?】
「フェイト隊長?はい、全員聴こえてます」
唐突に入った通信の相手はフェイトだった。
【全体通しての作戦会議があるから、今から来てもらえるかな】
「みんな集まったみたいやし、始めよか」
哨戒班を除いて全員が集まったブリーフィングルームで、八神が会議を始める。
「リィン」
「はいです。先ずは現状について、改めて説明します」
大型モニターの画面が切り替わり、周辺地図などが一気に表示される。
「赫海の動きは依然として無く、散発的にウリディンムやバシュムが哨戒範囲に侵入するのみで、前回のような侵攻には至っていません。侵入した個体もディアーチェさんらによって殲滅されています」
あまり姿を見ないと思ったら、哨戒班に混ざってたのかアイツら。
横目でディアーチェを見たらドヤ顔していた。八神とそっくりだな。
「……うぅん」
そんな事をしていたら、横に座っていたランスターが小さく唸っていた。
「どうした?」
「赫海の動きがどうも納得いかないと言うか……」
「?」
「……ごめん、なんでも無いわ」
話を切り上げられてしまった。
そうこうしている内に会議は進み、開発班の番になった。
「はぃ、それでは……説明に……入ります……」
モニターの前に現れたのはゾンビだった。
間違えた、シャーリーだった。白衣は肩からずり落ちてるし、髪はボサボサ、眼鏡にはヒビが入っていた。
「しゃ、シャーリー?大丈夫なん?」
「えぇ、はい……ちょっと、開発に熱が入っちゃって」
「ちょっと……?」
にへらと笑うシャーリーに八神が若干引いていた。
誰だってそうなる。俺だってそうなる。
「ま、まぁ、兎に角。開発班の進捗について聞かせて貰える?」
「はい」
モニターが切り替わり、今度は見たことの無い武装の設計図や、俺とイリス、ユーリが持ち帰った聖遺物の画像が表示された。
「各デバイスとカレトヴルフ社のAEC武装の『融合』は、スターズ、ライトニングの隊員四名を除いて完了しています。その四名のデバイスについても、今日中にはフィッティングまで完了できます。この『融合』によって、フォートレスⅡに搭載した次元断層発生機構を攻撃に転用できます」
次元断層を攻撃に転用……?
「次元断層によって対象の防御性能の一切を無視して結合分断し、直接攻撃を叩き込む。これにより聖遺物ほどでは無いですが、ムシュマッヘクラスの敵にも攻勢に転じることが出来ます。武装名称は──『ディバイダー』」
ディバイダー。そう称されたデバイスの数々は、確かによく見れば高町達のデバイスに似ていたが、その姿はより攻撃的になっていた。
断固として敵を殲滅する。執念にも似た何かが込められているようにも見えた。
「次に回収した聖遺物ですが、どうやら個々に特定の人物が近付くと微力な反応を見せることが分かりました」
「特定の人物?」
「はい。炉心、金剛杵、折れた二剣、銀の弾丸、朽ちた長剣、黒い翼……それぞれ、なのは隊長、フェイト隊長、スバル隊員、ティアナ隊員、エリオ隊員、キャロ隊員に反応を示しました」
「影響は?」
「今のところ、双方に影響は確認されませんでした」
「ふむ……」
「開発班からの報告は以上です」
「了解や」
シャーリーが一礼して席に戻ると、再び画面が変わり、今度は……赫海が現れた。
八神が立ち上がり、笑った。
「さて、それじゃ……明日の予定について、話そうか」
次回、決戦開始。