魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「こう見ると壮観やなぁ」
「この盤面を作った奴が何言ってやがる」
目の前に広がった光景を見て白々しく言う八神に苦笑する。
あれから一日。今日はマクスウェルが設定した『宿題』の提出日……という名の決戦だ。
場所は先日綺麗さっぱり平野になった渓谷の更に先。赫海の最前線間際の丘。
俺達は丘の上。赫海は下に位置している。
丘の斜面にはまるで絨毯のように敷き詰められたトラップと、自動化されたヴェレの数々、さらにはザフィーラによって築かれた剣山のような馬防柵(次元断層付き)が、赫海の侵食を食い止めるように丘の前面を囲っている。
さらにはイリスがありったけの資材を使って改良、量産していた『エクスカベータ』と『ヘクトール』と呼ばれる巨大兵器が馬鹿げた数の砲塔を前線に向けていた。
これを見た高町が「戦争みたいだね」と口にしていた。
「で、配置は変わらずか」
「うん」
隊長、副隊長、及びフローリアン姉妹達は前回同様、前線を張る。
違うのは、ナカジマ達隊員らも前線に出るということだ。
「いいのか?」
「前回はフォートレスの配備間に合わなかったのと、火力面を考えての事やったからね。今回は両方足りてるし、前線が広い。人数を考えるとこうもせんと」
「ヴァイスの奴、責任重大だな」
前線の崩壊が予想された段階で、ナカジマ達をヴァイスがランチで回収、撤退する手筈になっている。
アイツの腕ならまあ、やってくれるだろ。
「さて、そんじゃ俺も行くか」
ヴィーザルを担ぎ上げ、俺も前線で待っている高町達に合流しなければ。
そう思い一歩踏み出した所で、八神に呼び止められた。
「クレン」
「あ?」
「…………その、生きて帰ろうな」
なんつー顔してんだ。
「ハ……たりめぇだ、バァカ」
馬防柵の少し前。
そこには先程上がった、前線のメンバーが待っていた。
「よぉ」
「あ、クレン君。少し遅かったけど、どうしたの?」
「少し八神と喋ってただけ……なんだよ」
「ううん、なんか微笑ましいなぁ、って」
「?」
微笑ましい?
高町の言葉にいまいち要領を得ないでいると、他の連中も集まってきた。
全員が全員、デバイスをディバイダーにアップグレードし、(いつの間にか)小型化したフォートレスⅡを装備している。
「様変わりしないのは俺だけってか?」
「貴様が様変わりしたら余計に強くなって、我らの取り分がなくなるだろうが」
「さすがにそれはやだなー。せっかく新しくして貰ったのに」
「……これなら、全力を出せそうです」
俺の愚痴にディアーチェが呆れ、レヴィはデバイスを手繰り、シュテルは以前にも増して鋭利になった籠手を握り締めた。
「いよいよ、ですね!」
「あんまり突っ走らないでよ、お姉ちゃん。フォロー大変なんだから」
アミタは意気軒昂とばかりに拳を握り、キリエは頭を抑えた。
今回の作戦に細かい指示は無い。
元々、消耗戦には戦力的に向かない上、赫海を考えるとじり貧なのは目に見えている。
だが、ディバイダーでの攻撃であれば赫海を『削る』ことが出来るのを、事前の哨戒でディアーチェ達が証明している。
そうとなれば後は手当たり次第に赫海と敵を潰して回り、マクスウェルを引き摺り出すのみ。
マクスウェルの相手は俺だ。
赫海はまだしも、聖遺物使いとなれば高町達ではまだ厳しい。
未だに『進んでいない』俺だが、少なくとも足止めは出来る筈だ。
いや、違うな……。殺さなくてはいけない。
そう決意した所で、赫海が蠢動を始めた。
「来たな」
「そうだね」
「それじゃあ、動こうか」
大地を揺るがすようなそれを感じながら、ディアーチェ、高町、ハラオウンがそれぞれの仲間の背中を押して持ち場へと向かっていく。
それを見計らっていたかのように、赫海からウリディンム、蛇のようなバシュム、ムシュマッヘに加え、見たことの無い化け物が次々と湧き出てくる。
「ヴィーザル。加減は抜きだが、構わないな」
《
「……出来た奴だよ、お前は」
十字架を構え、気前のいい相棒に笑う。
これから死地だと言うのに、気分は心地好いとさえ思う。
敵の害意の籠った視線が温く感じる。
【全隊に通達、こちら総隊長 八神はやて】
オープンチャンネルでの通信が入る。
【これより作戦名 テン・コマンドメントを発動。最大戦力で赫海を『割る』──星を侵す赫き毒を我らが手で打ち払う!!】
天を震わすような八神の檄が響くと同時、赫海の空に浮かび上がるのは巨大な白の魔法陣。八神のモノだ。
【この一撃を以て開戦の合図とする──】
魔法陣から顕れるのは黒い旭日。
アイツ、のっけから広域殲滅魔法かよ──!!
【遠き地にて、闇に沈め】
ムシュマッヘ達が異変に気付き、空を見上げるが、もう遅い。
【デアボリック・エミッション】
浄化の黒光が、赤い毒を呑み込んだ。
戦いが始まった。
初動の広域殲滅魔法により削り取られた赫海の穴に、前線部隊が食らいつく。
更にはエクスカベータ、ヘクトール、ヴェレによる過密なまでの支援砲撃により赫海は虫食い状態となる。
丘を上がろうとした赫海と前線を抜けた獣達は、次元断層の馬防柵とユーリ、イリスによる攻撃で一瞬で塵すら残らず消滅した。
「スバル前に出すぎよ!キャロ、エリオに支援魔法お願い!フリードは二人を守って!」
「了解!」
「「はい!」」
「キュルー!」
有利に進んでいる戦況の中、前線で戦うティアナは仲間達に指示を出しながら、改良されたクロスミラージュ・ディバイダーの銃爪を引き続けていた。
(ホテル・アグスタの時の比じゃない、敵が多すぎる……!)
内心で歯噛みする。
休む間もなくやってくる敵達には辟易する。上空のなのはやシュテル、ディアーチェらによって大幅に数を削られてなお、これだ。
終わりが見えないなんてモノじゃない。蟻が泳いで大海を渡るような無謀ささえ感じてしまう。
「チッ」
スバルに肉薄しかけたバシュムの頭を舌打ち混じりに撃ち抜きながらも、一秒ごとに変わる戦況を絶えず分析する。
(大型の敵はなのはさん達が対処、中型は副隊長やアミタさん達。小型は私達……まだ始まって20分だけど、おかげで体力は温存出来てる。ありがたいわ)
前線という負担はあるが、それでも戦場を俯瞰的に見ることが出来る。
敵の動きは一見バラバラで、野性的だ。
連携なんてものは無いし、攻撃の巻き添えを気にすることもない。
だからこそ、これだけの少数で前線を維持出来ているのだが。
だが、それ故に気になることがある。
(ムシュマッヘとかの大型はまだしも、ラーム・ラハムが在るのになんでまだバシュムとか小型のを産み出しているの……?)
大型を除いて、残り全てがクレンをしてウリディンムの倍以上に強いと言ったラーム・ラハムだったとしたら、こうはなっていなかっただろう。
(生産に次回が掛かる?違う。だとしてもこれまでの時間で数は揃えられる筈。─────時間?)
マクスウェルの目的、それが何か気付き掛けた、その一瞬。
「どうやら貴女が今、一番危険なようですね」
声が聞こえた。
振り返る。
張り付けたような無表情な顔。女。振り上がった手には、銃剣。
「ぇ──」
凶刃が、振り下ろされた。
「ちっ、無駄に数が多いわね」
「相手はほぼ無尽蔵、ですからね!」
大剣と双銃のヴァリアント・ザッパーを悠々と振るいながら、キリエとアミタは地上の戦線を切り開いていく。
対大型の敵への有効打を持たない彼女らは、大型の敵をディアーチェらに任せ、主に中型の敵を相手にしていた。
とはいえそれなり以上の期間、戦ってきた存在。苦戦することなく屠っていた。
ウガルルム、と仮称された巨大な獅子を両断して、キリエは大剣を肩に担いだ。
「お姉ちゃん、気づいてる?」
「ええ、気づいてますよ」
キメラのような外観のムシュフシュを蜂の巣にしたアミタが、キリエの問い掛けに答える。
「数は多いですが、攻勢に出るというには些か勢いに掛けています」
「まるでこっちを足止めしてるみたいね」
「他地域の赫海が迂回して来ないのも気になる所で──っ」
アミタが言葉を切り上げる。
それを見て、キリエもまた、『何』が来たかを理解した。
二人の眼前には既に獣はいない。
──それとは比較にならない存在が立っているだけだ。
キリエは苦笑を浮かべた。
「あぁ、全く……」
アミタもまた同じく、自らを鼓舞するように笑った。
「これは……」
「厄介なことになりそうですね……!!」
「厄介なことになりそうね……!」