魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe-   作:フォールティア

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「間一髪、と言った所か」

 

「──シグナム、副隊長?」

 

ティアナに振り下ろされた凶刃が動きを止める。

寸前で間に合ったシグナムがそれをレヴァンティンで受けたからだ。

攻撃が失敗したと悟ったのか、長髪の人形めいた女……ラーム・ラハムが一足飛びで距離を取る。

 

「無事か?ランスター」

 

「は、はい!ありがとうございます、シグナム副隊長!」

 

「なら良い。さて、あれが報告にあったヤツか」

 

油断なく剣を構え、シグナムはラーム・ラハムの姿を見る。

報告と寸分違わぬ姿と武装。そして膂力。

長らく戦場に身を置いたが故の勘が告げる。

強い、と。

 

「ランスター」

 

「はい!」

 

「すまんが、周りを頼めるか?」

 

「……っ、はい!!」

 

何を言わんとしているか察したティアナは、すぐさま踵を返して駆け出した。

 

「逃がしませ」

 

「いいや、逃がさせてもらう」

 

その背を追撃せんとしたラーム・ラハムの左腕が滑り落ちる。

振り向けば、2メートルはあった距離を一息に詰めたシグナムが真横に立っていた。

 

「悪いが、ここから先は通行止めだ」

 

「その様ですね」

 

銃剣が翻る。

人外の剣速で振るわれたそれは、しかし空を切る。

半歩、たったそれだけ後ろに下がっただけで避けられたからだ。

そこでラーム・ラハムは判断を下した。

 

「先ずは貴方を殺さなければならない様ですね」

 

言葉とは裏腹に、明確な敵意も敵意も無く、機械的に銃口が向けられる。

爛、とシグナムの目が鋭く光る。

 

「フ──」

 

まるで烈火のように魔力が吹き上がる。

 

「来い」

 

戦端を切る言葉は、それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーム・ラハムだぁ?ちっ、こっちはデカブツだけでも面倒くせぇってのに、なぁッ!!」

 

四体目となるムシュマッヘの頭を、巨大な鉄槌たるグラーフアイゼンで叩き潰しながら、報告を受けたヴィータはごちる。

 

「でもでも、それだけ向こうも余裕が無くなって来てるって事じゃない?」

 

そこに、ウシュムガルと呼称された、四本脚の竜を蒼い雷光で消滅させたレヴィが合流する。

 

「そう思いてぇのは山々だが、こういう時は大抵、もっとヤバいモンが出てくんだよ」

 

「なにそれ、フラグ?」

 

「経験談だ!」

 

「貴様ら!口を動かす暇があるなら手を動かさんかぁ!」

 

二人の会話を割るように、ディアーチェからお叱りの言葉が飛んでくる。

開戦からここまで、出し惜しみなく高火力の魔法を打ち続けている彼女だが、その勢いは未だ衰えない。

 

「わかってるっての!」

 

「ところでクレンって何処に居るの?姿見えないけど」

 

言われた通り、敵を手に持った大剣、バルニフィカスの雷を纏った一振りで灰に変えながら、レヴィが疑問を口にする。

 

「アイツなら、なのはとシュテルとフェイトの四人で最前線だよ」

 

ほら、とヴィータが指差す方をレヴィが見ると、戦線のさらに先、最前線に戦いの光が見える。

その輝きたるや、殲滅魔法のバーゲンセールの様相である。

 

「うわぁ……」

 

「加減抜きでやってこい、なんてはやてが言うもんだからあれだよ……」

 

「シュテルがウッキウキだったのはアレが原因かぁ」

 

能天気が取り柄のレヴィでも、流石に引く。

とはいえ、負けん気が起きるのも無理もなく。

 

「つーわけで、こっちも負けてらんねーぞ」

 

「……だね!よし、ジャンジャン掛かってこーい!!」

 

「いや限度考えろよ!?」

 

テンションの上がったレヴィが敵陣に突っ込むのを諌めるべく、ヴィータもまた突っ込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【情報連絡、ラーム・ラハムが出現!現在、シグナム副隊長、フローリアン姉妹が応戦中!】

 

「了解や。ヴァイス陸曹、他に情報は?」

 

ランチにて連絡役をしているヴァイスからの通信に、はやては戦場を俯瞰しつつ応答する。

 

【今は特に……いや、ちょっと待ってくださいランスターから】

 

「ティアナが?」

 

前線に居る者からという前置きに、殲滅魔法に回していた意識を向ける。

リアルタイムの前線からの意見は何よりも重要だ。予想であれなんであれ、軽く見ていいモノではない。

 

「聞かせて」

 

【……赫海の全体像を見て欲しい。時間稼ぎの可能性有り、とのことです】

 

「赫海の全体像……?」

 

要領を得ない意見だが、時間稼ぎというワードが引っ掛かったはやては、即座に判断を下す。

 

「データ、今こっちに出せる?」

 

【了解……ラボとのデータリンクなんで一分前のモンですが、出します】

 

「これは……」

 

空間投影された画像を見て、はやては迷わず全体チャンネルの通信に叫んだ。

 

「総員後退!!丘の上まで退避急げ!!空戦魔導士は陸戦魔導士を可能な限り引っ張って!!」

 

【総隊長、一体なにが】

 

 

 

「──『波』が、来る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後退命令だと?」

 

耳をつんざくような大音声に、疑問が過る。

戦況は僅かながらこっちが優勢だ。多少の疲弊はあるが、今後退する理由には足りないだろう。

最前線で共に殲滅魔法を撃ちまくっている高町も小さく首を傾げていたが……続く八神の言葉に顔色が変わった。

 

【──『波』が、来る!!】

 

「……っ!急いで陸戦部隊と合流しないと!」

 

「チッ、流暢に聞いてる暇はねえってか」

 

ムシュマッヘの首を丸ごと消し飛ばした高町が、勢いをそのままに踵を返して飛んで行く。

八神といい、この慌てようは普通じゃない。

理由はともあれ、シュテルと共に高町を追おうとした所で、俺は見た。

 

「────は?」

 

最前線の更に先。赤く染まった水平線の先から来る、『波』と呼ばれたモノを。

波がどういったモノかは知らないが……アレはもはや壁だ。

海という大質量の壁が、何もかも呑み込まんと馬鹿げた速さで迫って来ている。

本能が叫ぶ。『アレはマズイ』と。

 

「クソッタレが──!」

 

あんなものがこちらに到達したら壊滅どころの話じゃない。跡形も無く消え去るだろう。

そんなことは到底許せるわけがない。

ウシュムガルを蹴り飛ばした反動で一気に加速して地上へと駆ける。

道中の敵はこの際無視だ。そんな余裕は無い。

 

「え、クレ──」

 

「うわっ」

 

「黙って捕まれ!!」

 

視界に足止めを食らっていたランスターとナカジマを見つけたので襟を引っ掴んで肩に抱えると、そのまま丘まで一直線に飛翔する。

回りを見れば他の陸戦部隊も先行した高町やハラオウンに回収され、丘に避難を開始していた。

とは言え、そんながら空きの背中を連中が見逃すはずもない。

 

「■■■■──!」

 

「るっせんだよ死ね!!」

 

飛びかかってきたウリディンムの顔面を蹴り潰し、地面に叩き落とす。

足止めついでに死なば諸ともってか?勝手に死んでろド畜生が。

 

背後から迫る獣達。

丘に陣取る八神、ユーリ、イリス。そしてエクスカベータとヘクトールの援護射撃のお蔭でなんとかそれらは問題無いが、丘までが遠い──!

 

「波がもうこんな近く……!」

 

ランスターが悲鳴にも似た声を上げる。

肩に担いでしまったから後ろの状況が見えてしまったんだろう。

ナカジマも同様で、息を呑んでいる。

 

「クレン、私だけでも」

 

「下ろせなんて言ったら後で思い切りぶん殴るぞテメェ」

 

「っでも」

 

「うるせぇ黙ってろ……!」

 

感覚でわかる。波がもう直ぐそこまで迫って来ている。でも今のままじゃスピードが足りない。

使いたくは無かったけど仕方ねぇよな……!

 

「やるぞヴィーザル!」

 

了解!!(ja)

 

形成(Yetzirah)!!」

 

瞬間、景色が伸びる。

爆ぜるような音を背後に置き去りにして加速する。

 

丘に到着して二人を投げ下ろす。

波の到達まであと五秒。

 

即座にヴィーザルを地面へと突き立て、魔法を構築。

あと三秒。

 

冷脈の楯(Svalinn)!!」

 

波に対抗する障壁が丘の前に立つ。

そして──

 

 

 

濠──────!!!!

 

波が到達した。

 

 

「っ、お────」

 

重い。重すぎる。

ムシュマッヘの頭突きが貧弱に感じる程の大衝撃。その反動がヴィーザルを握る手を震わせる。

ザフィーラ、高町、ユーリ、八神が展開していた要塞級防御魔法も、一枚、また一枚と砕けていっている。

 

「ぐ、く──!」

 

さながら意志を持ったかと錯覚するほど、重圧が増していく。

障壁が軋み上げるのを聞きながら、タイミングを待つ。

 

(あと少し、ほんの少し、耐えろ……!)

 

一秒か、或いは一分か。

時間は定かでは無いが、その瞬間がやってきた。

 

(衝撃が弱まる……今!!)

 

「ヴィーザル!!」

 

突き立てた相棒を引き抜き、十字架の先端を今なお向かってくる波へと向ける。

聖遺物(コイツ)の力、とくと見せてやる──!!

 

「熨斗つけて……返すぜぇ────!!」

 

────漠ッ!

 

波による衝撃。それを倍にしたカウンターが炸裂する。

放射状に放たれた衝撃は、こちらを呑もうとした波を逆に消し飛ばし、大地を露出させた。

 

海が、割れた。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでもアリね、アイツ」

 

目の前の馬鹿げた光景に、イリスはもはや笑うしかなかった。

丘を襲った波はその存在が嘘だったかのように消滅し、切り取られた場所には抉りとられた地面。

これを馬鹿げていると言わずしてなんと言うのだろう。

あまりの状況に、戦場が静まり返る。

 

だからだろう。

薄ら寒い拍手が余計に耳に響くのは。

 

「ユーリ」

 

「うん……」

 

隣に立つユーリが、眼光鋭く正面を睨む。

聞こえているし、見えている。

そしてそれが何を意味するかも、理解した。

 

「……全く、素晴らしい。本物はこうじゃないと」

 

これまでが、彼にとって茶番であった事を。

そして、ここからこそが、

 

「それじゃあ、初めようか────戦いを」

 

本番であると。

 

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