魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「……ここまでが茶番だってのか、テメェ」
「茶番も茶番だよ。この程度だと本気で思っていたのかい?」
気色の悪い笑みを浮かべてマクスウェルは嗤う。
状況は一瞬で最悪に持ち込まれた。
俺達が広げた戦線は波に呑まれ、丘の四方を赫海に囲まれた。
これではランチによる離脱も不可能、空からの離脱なんて悠長なマネなんて出来る筈もない。
「赫海を圧縮、遠方から射出することによる大質量攻撃……規模が大きすぎる。もう一発はこない筈よ」
「じゃなきゃ困るっての」
こんな状況だと言うのに、やけに冷静なランスターがクロスミラージュの銃口を方々に向けながら分析する。
「何にせよここからが本番よ。本命が出たんだから、アンタに任せるしか無いわ」
「……わかってる」
ヴィーザルを構える。
ランスターの言うとおりだ。ここからは俺が行くしかない。
「諦めない、か。そうだ、そうでなくちゃいけない。君たちは……君はそうあるべきだ。でなきゃ僕も意味がない」
「何をごちゃごちゃと──」
「だからこそ、僕は君たちを敵と認めよう。だからこそ──君たちを全力で叩き潰す」
空気が、変わった。
飄々としていたマクスウェルの語気が強まると同時、いいようの知れない悪寒が走る。
感じる。理解する。
これから始まるモノは、『波』など歯牙に掛けぬ、隔絶した驚異だと。
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どくん、と赫海が鼓動する。
[
世界が色を変える。吸い込む大気は重く。視界が歪み出す。
[
世界と言うテクスチャが塗り潰されていく。
聴こえる悲鳴はさながら世界の断末魔のように。
[
赤く、朱く、緋く、赭く、赫く。
総てが染まっていく。
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[
[
それは、腐肉の神殿である。
それは、焼鉄の墓場である。
それは、生誕の産湯である。
それは、厄災の神室である。
万象一切が赤赫に染まり、中天には黒い太陽が鎮座し、高らかに謳い上げた彼の背後にはおぞましき神殿が顕れていた。
「は──」
何だ、これは。
視界全てが赫海に埋め尽くされ、世界は変わってしまった。
否が応にも理解する。してしまう。
(違いすぎる)
力量がどうとか、そんなスケールじゃない。
文字通り、世界が違う。
恐怖が、身体を走る。
「ぇ──」
傍らで呻き声が上がる。
視界をずらすと、そこには
「な、にこれ……脚、が」
脚があらぬ方向に曲がったナカジマがいた。
「なんで、脚、痛くないの……?ぁ、あ」
「スバル!!」
悲鳴を上げかけたナカジマを、脇腹がドロリと溶けたランスターが一喝する。
振り返れば、他の奴らも同じだった。
キャロは片腕が捻れ、エリオは首が直角に折れ曲がり、シグナムは両腕が地面に延び落ちて、ヴィータは背中がくの字にひしゃげ、高町は顔の片方が溶け、ハラオウンは両足がぐちゃぐちゃに歪み、八神は右半身が関節とは逆方向に曲がっていた。
後方のザフィーラたちも姿が見えにくいが、似たようなものだろう。
「やはり、『本物』と『特異点』が居るとこんなものか」
それを見て、神殿の上に立つマクスウェルは、まるで予想した実験結果が出て呆れたような顔でそう言った。
「本来なら一秒と経たずに僕の家族に出来るのだけど……ままならないモノだね」
「テメェ……」
「この状況で悲鳴を上げないのは称賛に値するよ。全く度しがたい精神性だ」
マクスウェルは乾いた拍手をしながら酷薄に嗤う。
「結果は順当。とは言え、残った君たちを同時に相手取るのは少し手間かな」
「君『たち』?」
「……理由は解りませんが、私達は無事です」
隣に来たアミタが銃口をマクスウェルへ向けた。
確かに、コイツら……エルトリア組は姿が変化していない。
「特異点……世界が今際の際に定めた最後の楔。厄介だよ本当に。君たちさえ居なければ、目的はもっと早く果たせたのに」
「アンタの目的なんでどうでもいいけど、敢えていうなら御愁傷様ね」
挑発するように鼻で笑うキリエの身体は、言葉とは裏腹に震えていた。
「我らとていつ変質が始まるか解らん。小鴉達のこともある、さっさと終わらせるぞ」
「魔力はまだあります」
「援護は任せて!」
それを補うように上空からディアーチェ達がやってくる。
イリスとユーリも変質した奴らを守護するように立ち上がっていた。
……全くもって奇妙な話だが。
最初に感じた恐怖は、もう消えていた。
その変わりにあるのは──
──怒り。
この不条理をもたらしたヤツへの怒り。
この状況に陥らせてしまった自分自身への怒り。
この世界への怒り。
そして何よりも──ただマクスウェルという男がムカつく。
「ヴィーザル」
「
故に──。
「さあ君たちも家族にしてあげよう」
「──ぶっ殺す!!」
「────そろそろか」