魔法少女リリカルなのはStS -Ende der Rache, schlaf mit umarmender Liebe- 作:フォールティア
「マクスウェル……!」
「ハハッ──!」
十字架と銃剣がぶつかり合う。
その度に大気が軋み、悲鳴を上げる。
マクスウェルを守護する筈の化け物達すら、近付けば余波で消し飛んでいる。
その凡そ戦いと呼べぬ様相を地上から見上げながら、はやては苦悶の表情を浮かべた。
「クレン……」
足りない。そう、足りないのだ。
聖遺物について殆ど解っていない自分でも理解できる。
『
餌やりとしてマクスウェルから奪った魂だけでは、アミタ達を除く、エルトリアの人類の魂を保有するだろうマクスウェルには届かない。
位階についてもそうだろうが、それ以前の問題なのだ。
その差異があるからこそ、マクスウェルもあれだけ余裕なのだろう。相手の自滅を待つだけなのだから。
そこまで理解して尚、はやては思考を止めない。
(何か、何かある筈や。見落としているもの、この状況の穴が)
アミタ達が自分達を守るべく戦っている。この時間を無駄には出来ない。
痛みを感じない右半身を睨み付け、自らを奮い立たせる。
そして、身体が変質してなお狂うこと無く耐えている隊員達に声を掛ける。
「みんな!!」
ただの呼び掛け、それだけで隊員達の目に光が戻る。
たった一言で、はやてが何を言いたいのかを直感で理解する。
身体を使って戦えるような状態では無い。
だが、まだ生きている。考えられる。
ならば思考をもって戦うだけだ。死に絶えるその刹那まで、考え抜いて、動くだけだ。
「だと思って、先に……動きましたぜ、総隊長」
「え──」
声がした方向に振り向く。
そこには、ランチに寄りかかったヴァイスが立っていた。
「ヴァイス陸曹……!」
「よっ、皆さんお元気そうで」
右目が潰れ、左腕がケロイドのように溶けているにも関わらず、ヴァイスは何時ものように笑っていた。
「動いたっていうのは?」
はやての問いに対し、ヴァイスは右手で上を指差した。
「ラボとパラディオンとのパス、繋ぎましたぜ。フォートレスのエネルギー、切れてないでしょ?」
「確かに切れてない……でもどうやって」
この異界が出来た時、確かに一瞬、フォートレスのエネルギーは切れた。外界から隔離されたからだろう。
それがどうして今使えているのか。
「先遣隊の座標ズレが、聖遺物の影響じゃないかって考えた技術班の連中がアホみたいな対処法思いつきましてね」
「まさか……!」
「そのまさか。通信用ドローンに、クレンが回収した聖遺物の欠片をぶっ込んだんすよ」
やべぇっしょ?と苦笑するヴァイスに、はやては頭を抱えたくなった。
貴重かつ危険な代物を何に使ってるんだとか、せめて許可取れとか、それはそれとして現状助かってる事実に溜め息を吐いた。
つまり聖遺物による外界からの断絶を、聖遺物の抵抗力によって無理矢理抉じ開けているのだろう。
ぶっつけ本番でゴリ押しにも程がある。
「今さっき打ち上げたのを含め四機。こいつらが生きてる内は外と連絡が取れます」
「つまり勝負は、その四機が壊れるまでってことやな」
恐らく自分達の変質が止まっているのはマクスウェルの言う特異点の他に、フォートレスの次元断層による影響があるのだろう。
逆に言えば次元断層が無くなればこちらは緩やかに変質して、赫海の一部になる。
文字通り、時間との勝負だ。
「みんな、聞いての通りや。時間まで全力で道を探し出す!さあ、機動六課……動くで!!」
『了解!!』
「ッラァ!!」
「フッ──!」
もう何合目かのぶつかり合い。
先程から全力で十字架を叩き付けてはいるが、マクスウェルの野郎は未だに余裕綽々といった様子だ。くそったれ。
「あれだけ餌を上げたのに、君はまだ聖遺物の位階、いや、自らの本質に気付いていない」
「あぁ?」
ヴィーザルから取り出した魔力剣で銃剣を受け止めた所で、マクスウェルが軽薄な笑みを浮かべてそう言った。
「君は僕らと同じだ。だが違う。本来なら
「何を…ッ!」
魔法剣を弾かれた一瞬で、腹に脚がめり込み蹴り飛ばされる。
「カ──」
「渇望があるのに曝け出さない。何を躊躇ってる?生娘でもあるまいし、望みのまま動くことの何を恐れる?」
血反吐を吐き出しながらもマクスウェルの声を聞く。
「躊躇うな、恐れるな。その渇望を引き摺り出せば君は僕を殺せるんだ」
何だ、コイツは。
さっきから言ってる事が滅茶苦茶だ。
叩き潰すと言ったと思ったら、今度は殺しかたのレクチャーか?
「仮にテメェの言う通りやったとして、テメェに何のメリットがあんだよ」
「前にも言っただろう?今の君では意味が無いんだ。成り損ないでは、強度が足りないからね」
「……まるで俺がネジか歯車みたいな言い方だな」
「そう、その通り。君の魂は貴重な歯車なんだ。だが今はすっかり錆び付いている。これじゃあ使い物にならないんだ」
やれやれと肩を竦め、嘆息する様が神経を逆撫でする。
「だから早く目覚めてくれないかい?ああ、それとも──」
不意に、銃口が向けられる。
その先は──
「
「────ッ」
思考する前に身体が動く。
後の事なんて考えない無鉄砲さで、射線上に身を投げ出した。
タンッ
呆気の無い、間抜けな音が耳朶を叩いた。
滲み出した視界に、目を見開いたマクスウェルの顔が見える。
悲鳴のような声が遠退く。
五体から力が抜け落ちる。
世界から、遠ざかる。
眉間に空いた孔から、
落ちて、墜ちて。
俺は
ぱしゃん
「……これは、驚いたな」
今まで薄ら笑いをしていた顔が強張るのを、マクスウェルは感じていた。
──八神はやてを狙った銃撃。それをクレン・フォールティアが庇い、結果、頭を撃ち抜いた。
調べのついている彼の経歴を考えれば、見捨てると踏んで撃ったのだが。
こうなるとは予想していなかった。
つまらない幕引きだと、心底思う。
この程度で死ぬほど、『本物』は脆いのか。
眼下の赫海に出来た小さな波紋が消えていくのを眺め、失望する。
「成り損ないは成り損ない、か。仕方ない。残念な結果だけど、計画を少し引き延ばさないといけないかな」
そう言い切った直後、衝撃が身体に伝わった。
轟──!
視界は白く染まり、押し流すような感覚が続く。
それが魔法──それも殲滅魔法に分類されるものと分析すると、虫を払うように手を振った。
たったそれだけの所作で魔法は跡形も無く消え失せた。
下手人は誰か、探すまでも無かった。
「マクスウェル」
淡々とした呼び声。
無感情とも取れる声音はしかし、マクスウェルには違って聞こえた。
それは『怒り』。
魔法を撃った張本人──八神はやての怒りだ。
否。
この戦場に居る全ての『人間』の怒りを感じる。
久しく忘れていた感覚に、マクスウェルは笑う。喜びではなく、苛立ちを込めて。
「君たちは……全く、諦めを知らないようだね。最大戦力を喪い、物量差で負け、肉体を変質して尚、何故諦めない?」
彼にとっては当然の疑問だった。
これまで『家族』にしてきた人間は皆、最後は抗うことを諦めていた。
だと言うのに何故、彼女達の目はまだ死んでいない?
「諦める必要が何処にあるん」
「何?」
マクスウェルの問いに対し、返ってきたのは、まるで馬鹿でも見るかのような視線と言葉だった。
「身体は動く、頭も回る。武器は握れる、魔法は使える。ならまだやれる事がある筈やろ。諦める必要は無いやろ」
「彼が死んだと言うのに?」
「帰ってくる」
「は?」
「クレンは必ず帰ってくる」
気でも狂ったのかと、衝動的に言いそうになる。
眉間を撃ち抜かれ、抗うこと無く赫海に沈んだ男が帰ってくると、八神はやては本気で思っているのか?
「せやから今、私らがやるべき事は一つ」
呆気に取られたマクスウェルに指が突き付けられる。
それは明確な抗戦意思の表明。そして──
「──時間稼ぎや」
座標指定だ。
「な─────
光が、マクスウェルを呑み込んだ。